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第15話 人形の襲撃

 御堂君と合流して、彼の運転する車で茅野町に向かう。


 でも行く途中で聞いたんだけど、昔住んでいたとはいえ、町を訪れるのは二十年ぶりくらいなんだとか。

 おいこら。それじゃあ町の様子も、変わってるかもしれないじゃないか。土地勘があるって言ってなかったっけ?


 だいたい車で行ける距離なら、里帰りくらいしとけばよかったのに。

 だけど彼は。


「何となく、帰る気になれなかったんです。別に嫌な思い出があるわけではないですけど、何故か躊躇ってしまうことってありませんか?」


 えー、ないなー。

 あたしは東へ風吹きゃ東に行き、西に風吹きゃ西に行く、自由な女なのだ。

 ま、御堂君が行く気になれなかったっていうのなら仕方がないけど。


 と言うわけで、御堂君にとっては二十年ぶりの里帰り。だけどどこかに寄り道する事も無く、やって来た茅野中学校。

 既に前園ちゃんが連絡を入れてくれていたから、訪ねると校長先生と教頭先生が迎えてくれた。


「お待ちしておりました。私は校長の苗村です。校内で事件を起こす犯行予告があったそうで」


 校長先生は、五十代くらいの小太りの男性で、教頭先生はそれより少し若い女の先生。

 へえー、前園ちゃんはあの動画を、事件を起こす犯行予告と伝えたのか。

 どうやら呪いに関しては伏せて言ってあるみたいだけど、正解だね。言ったところで、本気にしてもらえそうにないものね。


 ちなみにあたし達は、この件に関して派遣された調査員だとだけ説明している。

 嘘は言ってない。祓い屋だの雑誌編集者だのを、伏せているだけだ。


「それで、最近学校で、何か変わったことはありませんでしたか?」

「それなんですけど。実は今日、学校に差出人不明の小包が届きましてね。もしかしたらそれが、関係しているのかもしれません」

「小包? それで、中身は何だったんです?」

「それは……」


 何だか言いづらそうな校長先生。すると変わって、教頭先生が口を開いた。


「人形ですよ。フランス人形って言うんですかね。ゴシックな服を着た、ブロンドヘアーの女の子の人形が、箱の中に入っていました。ただ……」

「何かあったんですか?」 

「それが、その人形のお腹の所が、赤く汚れていたのですよ。それがまるで、血でも垂らしたような真っ赤な汚れで、気味が悪いって話していたんです。ですよね、校長先生」

「うむ、あれは質の悪いイタズラだ。さすがに本物の血ってことはないだろうけど、最初見た時は驚きましたよ」


 先生二人は頷きあって、話を聞いたあたしと御堂君も顔を見合わせる。

 血のついたフランス人形って、いかにもホラーな贈り物じゃない。これをあの動画と無関係と思っていいかって言われたら、断じて否! そんなの怪しすぎるでしょう!


 当然御堂君も、同じことを思ったみたい。


「その人形、見せてもらっても構いませんか?」

「それが……。私達も連絡を受けた後で、念のため人形に何かないかを確認しようとしたんです。ですが不思議なことに、人形が消えてたんです」

「消えていた? 人形は、どこに保管してたんですか?」

「保管と言うか。送られてきた箱の中に入れて、職員室の棚に置いといたんです。ですが箱を開けてみたら、しまっていたはずの人形がなくなってて、困惑しているんです。あんな人形、好きで持っていく人がいるとも思えませんし」


 先生達は首をかしげているけど、あたしは話を聞きながら、胸騒ぎを覚えた。

 人の形をした人形には魂や念が宿りやすく、祓い屋の術の中には人形を自在に操る術もあるのだ。


 そして仮死魔霊子も、祓い屋の術を使っていた。もしも人形を送ったのが彼女で、何らかの術を施していたら。

 何をするつもりなのかは分からないけれど、先生達が言っていたフランス人形こそが騒動の手がかりになると、女の勘がビンビン告げているのだ。


 問題は、肝心の人形が無いことなんだけどね。

 しょうがない、しらみ潰しに探すしかないか。校内のどこかにあったらいいんだけど——


「キャーーーーッ!」


 話を切り出そうとしたその時、不意に女子生徒のものと思われる悲鳴が耳をついた。


 先生達は「何?」、「どうした?」とキョロキョロと辺り見て、そしてあたしは、ゾクゾクとした何かを感じた。

 霊が、しかも悪い霊が現れた時などに感じる、特有の寒気だ。


「今の悲鳴は……って、火村さんどちらへ?」

「その悲鳴を確かめに行くに決まってるでしょうが! 急がないとヤバイかも」


 悲鳴が聞こえてきた方へと、一目散に駆け出す。

 廊下を走っちゃいけないって? 知るかそんなもん。今は緊急事態なんだ。


 すると御堂君、それに校長先生と教頭先生も、走って後ろをついてくる。

 もし本当にヤバいやつが出たら危ないから、来てほしくないんだけど、生憎話をしている時間も惜しい。


 悲鳴が聞こえてきたのは、たしか二階から。

 勢いよく階段を上った先にあったのは、三年生の教室が並んでいる廊下。放課後でもう残っている生徒も少ないけど、さっきの悲鳴はどこかの教室から聞こえてきたのか。


 すると追ってきた御堂君が、手でメガホンを作って叫んだ。


「さっきの悲鳴は何ですかー! どなたかいませんかー!?」

「タ、タスケテ~」


 すぐに弱々しい声が返ってくる。

 見ると三年一組と書かれた教室の入り口から、一人の女子生徒が這うようにして頭を出してきた。


「どうした、何があった?」

「あ、あれ……」


 女子生徒の元に駆けつけると、彼女は震える指で教室の中を指す。

 目をやると、中には三人の女子生徒がペタンと床に座り、くっつきあいながら震えているじゃないか。

 そして彼女達の視線の先には、おそらくさっき校長先生が話してくれたのと同じ物と思われる、フランス人形があった。


 ウェーブのかかったブロンドヘアーに、青い目。白いゴシックな服を着たフランス人形。

 大きさは、人間の赤ちゃんと同じくらいで、想像していたよりも大きい。そしてその胸には先生が言っていた通り、血のような赤いシミができていた。


 確かにあれは、不気味なシミだねえ。けど、シミ以上に問題なのが——


「人形が、浮いている?」


 唖然とした様子で固まりながら、人形を凝視する御堂君。

 彼の言う通りフランス人形はプカプカと、宙に浮いてたのだ。


 天井から糸で吊るしているのかって? バカ言っちゃいけない。

 普通の人形が宙に浮くわけがないから、当然仕掛けがあるのだけど、問題はその仕掛けと言うのが、霊力由来の術だと言うこと!


 目の当たりにして分かったけど、あの人形からは禍々しい霊力をビンビンと感じる。

 どうやら人形に魂を込める術を使って、操っているみたいだね。ひょっとしてあれが、動画で言っていたマカリちゃんなのかもしれない。


 しかし重力を無視して宙に浮かせるなんて、ずいぶん強い術じゃないか。この間のショボい呪いとは大違いだよ。

 けどいったい、なんのためにこんなことを? そもそもこの人形は、ここで何をしていたの?


「あんた達、いったい何があったの?」


 座り込んでいる女子生徒達に問いかけると、震える声で答える。


「わ、分からない。人形がいきなり現れて、玲美れみが……」


 玲美?

 言われてよく見ると、座っていると思っていた女子生徒のうち一人が、眠ったみたいにぐったりしていた。

 いや、眠ったみたいにじゃなくて、眠らされたのかも。彼女にはこの前見たのと同じ……いや、この前見たのよりも大きくて黒い、呪いの証となるモヤが、まとわりついていた。


「人形の目が光ったって思ったら、黒い光が飛んできて。それを浴びた玲美が、倒れちゃったの」


 つまり、あの人形に襲われたってことね。

 人形が出した光ってのは、おそらく呪いの光。浴びた者を眠らせるなんて、相当強力な呪いだよ。

 ああ、もう! こんな危険な術使って人を襲うだなんて、術者はいったい何を考えているんだ!


 とにかく、被害者が増える前に人形をとっちめないと。


「悪い人形には、お仕置きが必要ね。心に風、空に唄、響きたまえーー滅!」


 右手でピストルを作って撃ち出した、光の弾丸。だけどそれに反応するように、人形の目がギラリと光った。


 ガアアアアァァァァッ!


 不気味なシミができているとはいえ、元は可愛い女の子の人形のはずなのに、似つかわしくない叫び声。

 もちろん人形は喋ったりしないから、これは人形に取り憑いている魂の叫びだ。

 そして光った目からは黒い光が放たれて、あたしの撃った光の弾とぶつかり、打ち消しあった。


 ちいっ、なかなかやるじゃないの。


 女子生徒達は震える声で、「また目が光った」って言っている。

 どうやらあたしの術は見えなくても、人形の放つ光は見えたらしい。

 人形に術をかけたやつめ、霊力が無い人にも光が見えるように設定したのかな。


 おかげで彼女達、すっかり怖がっちゃってる。これは本格的にパニック起こされる前にケリをつけて……。


「な、なんだあれは!? 人形が空を飛んで、目が光った!?」

「そ、そんなわけありません。何か仕掛けがあるはずです!」


 再攻撃を繰り出そうとしたその時、教室の入り口にいた校長と教頭が、急に声を上げだした。

 どうやら信じられない光景に驚いて固まっていたのが、正気を取り戻してしまったらしい。


 けど、タイミング悪い! 教頭先生はアレが危険だって分かっていないのか、調べる気満々で人形に近づいて行く。

 けどヤバいよ。早く離れて!


「ここはあたしに任せて、先生達は下がって! 危ないんだから!」

「だったら、早いとこ止めないと。浮いてるけど、いったいどういう仕掛け?」


 あたしの制止を聞かずに、ずかずかと歩み寄る教頭先生。

 こらー、行くなー! あたしの指示を聞け―!


 だけどそんな彼女に反応するように、人形が向きを変える。


 ガアアアアァァァァッ!


 さっきと同じ荒々しい声をあげて、人形の目が再び光った。

 ヤバイ! だから下がれって言ったじゃないか!


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