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第9話 新たな事件?

 御堂君とホテルに行ってから数日後……って、これじゃあ誤解を招くね。そういえば前園ちゃんにも、「紛らわしいメッセージ送らないでください!」って、たっぷり叱られたっけ。


 まあいいや。とにかくあの日から数日が経った今日。あたしは事務所の一室で、中断していた書類の作成を行っていた。


 元々やる予定だったものに加えて、あの日遭遇したトンネルの女。さらには廃ホテルの、調査報告書も作らなきゃいけないんだよね。

 ホテルの方は何も出なかったわけだけど、それもキチンと書類に残さないといけないから面倒くさいわ。


「昔の陰陽師もどうして、えいって念じたらパッて文章が書かれるような術を、開発してくれなかったかなあ」

「そう言うことは陰陽師じゃなくて、未来のネコ型ロボットにでも頼んでください。バカなこと言ってないで手を動かさないと、いつまで経っても終わりませんよ」


 まるで子供の夏休みの宿題を急かす母親のように、きびしい声を出す前園ちゃん。しょうがない、真面目にやるしかないか。

 ホテルの中には幽霊どころか、ネズミ一匹いませんでした、と。ふう、やっと終わった。


 出来上がった書類を前園ちゃんに渡すと、彼女が淹れてくれたコーヒーをゴクリ。ふう、美味しい。


「お疲れ様です。そういえばこの時一緒に行った彼、御堂さんでしたっけ。あの人とは、あれからどうなったんですか?」

「どうって、別に。ああ、でも気になるネタが入ったら、連絡するって言われたよ。向こうも仕事柄、あたし達と繋がり持ってた方が何かと便利だろうし、こっちにしたって掴みきれてない情報をもらえるだろうからね」


 お互いに損の無い、Win-Winの関係。それに色々あったけど、一緒にお酒飲んでて楽しかったし。

 って、前園ちゃん。君はどうしてそんなにニマニマ笑ってるかなあ?


「ひょっとして御堂さんって、火村さんに気があるんじゃないですか? 飲みに行って話したのは、主に恋バナだったんですよね」

「むう、たしかに恋バナばっかしになっちゃったけど、それはあたしが話をふったせいだって。だいたい本当に気があるって言うなら、いったいあたしのどこを気に入ったって言うのさ?」

「そうですねえ。最初の出会いは酔ってフラフラになっていた時ですし、普通に考えたら火村さんに惹かれる要素はほとんど皆無です」

「そうそう皆無……ってオイ!」


 間違ってはいないけどさ、もうちょいオブラートに包んでくれないかな?


「しかしですよ。注目すべきは彼の目の前で、女性の霊を祓ったことです。生まれてはじめて遭遇した怪異。なす術もない絶望的な状況。そこに颯爽と現れた火村さんが、格好よく霊を祓ったのなら、キュンとしてもおかしくないじゃないですか。漫画では大抵、そんな感じで恋が始まるんですよ!」

「漫画と現実をごっちゃにしすぎ。だいたいそれって、男女逆なんじゃないの? あとあたしは颯爽と現れてなんかいないから。元々車に乗ってたんだから!」


 怒涛のツッコミを入れて、ため息をつく。

 実はこんな感じのやり取り、もう何回もやってるんだよね。

 前園ちゃん、普段は真面目なんだけど、とょっと少女漫画脳なところがあって。人の事をやたらと恋バナに結びつけたがるのだ。


 まああたしもそういう話は大好物だから、よく一緒になって騒いではいるんだけどね。けど自分がターゲットとなると、どうにもやりにくいなあ。


「とにかく、彼とはそういうんじゃないから。だいたいあれ以来、連絡だって……」


 取っていない。そう言おうとしたその時、不意にスマホが鳴り出した。


 この音は通話着信。

 すぐに会話を中断して画面を見たけど、そしたらビックリ。電話を掛けてきたのは、今の今話に上っていた御堂君じゃないか。


 なんつータイミングの良さ。

 未だ恋愛脳に浸っている前園ちゃんは画面を見て、キラキラと目を輝かせている。


「ひょっとして、デートのお誘いとか?」


 違うから。

 あたしは「お願いだから余計な事は言わないでよ」と頼んだ後に、電話に出る。


「もしもし御堂君。まさかとは思うけど、どこかで見張ってないよね? いや、ごめん、こっちの話。それより、何かあったの?」

『実は少し気になることがあって。今日編集部に、読者から相談の電話がありましてね。前に話した怪談チャンネルのこと、覚えていますか?』


 ああ、そういえばこの前の騒動の発端って、怪談語りの動画であのホテルの事が紹介されたからだっけ。


「実は同じ動画を見て、今度は男子高校生が肝試しに行ったんですよ。そしたら以前の大学生と同じように、毎晩悪夢を見てうなされるようになったと言うんです』

「え、ちょっと待って。あそこには何もいなかったはずだよ」


 ホテルの中は一通り見て回ったけど、少しの霊気も感じなかった。まさか幽霊があの時だけ、散歩に出ていたとも思えないし。

 すると御堂君は、意外なことを口にした。


『それがですね。今回被害に遭った高校生が行ったのは、僕達が行ったのとは別の廃墟だったみたいなんです』

「へ? どういうこと。あたし達、間違って別のホテルに行ってたってこと?」

『いいえ。僕もそう思って確認してみたのですが、前に被害に遭った大学生が行ったのは、間違いなくこの前のホテルでした。ですが今回の高校生は、場所を間違えてしまったみたいで。全く関係ない山の中の建物を、例のホテルと勘違いして行ってしまったみたいなのです』


 それはなんとも間抜けな話。場所くらいちゃんと調べて行けっての。

 あれ、でもそれじゃあ。


「それっておかしくない? 場所間違えてたのに、この前の大学生と同じ症状が現れたって事だよね」

『はい、その通りです』

「それじゃあ何。本当なら霊がいるはずのホテルには何もいなくて、間違えて全く別の廃墟に行った高校生の方が、呪いにかかったってこと? そんなことってある?」


 こんなケース、聞いたこと無いんだけど。

 隣で会話を聞いていた前園ちゃんに目を向けてみたけど、彼女も首を横に振る。電話の向こうにいる御堂君も、『僕もそれなりに長い間この仕事をしていますけど、こんなの初めてです』だって。


『悪夢を見るようになった高校生は相当疲弊しているようで、専門家なら何かわかるだろうと思って、うちに相談の電話を掛けてたそうです。僕が直接話をしましたけど、嘘を言っているようには思えませんでした』

「何だか妙な話ね。今回被害に遭った高校生は、まだ除霊されてないんだよね。だったらあたしが直接会って、お祓いしてみるよ。話も色々聞きたいしね」

『だったら僕が、話をつけておきます。それと、僕も一緒に行ってもいいですか? 僕としても真相を明らかにしないことには、どうにもスッキリしませんもの』


 うーん、本当なら除霊の現場には、なるべく他人を入れたくないんだけどなあ。けど御堂君も気になっているだろうし、ダメとは言いづらい。


「仕方がない、今回は特別だからね。ただし、危なくなりそうなら席を外すこと。それじゃあ、被害者の家の住所を教えてくれるかなあ」


 相手の住所、それに合流場所を決めてから、電話を切る。

 それにしても、何だか変なことになってきたねえ。


「今の話、本当なのでしょうか? 火村さん達が行ったホテルには、何もいなかったんですよね? もしかして問題の霊はホテルから新たな廃墟に引っ越していて、そこに今回の高校生が肝試しにやって来たとか?」 

「もしも本当にそうなら、地縛霊の特性を見直さなくちゃいけなくなるね。とにかく、会って色々聞いてみるよ」


 かくしてあたしは御堂君と合流すべく、事務所を飛び出して行くのだった。




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