第039話 罪と罰
「神様ー、全然わからないんですけど、僕らが何をしたんです？」
「ひどいな……これが現代の子供達か……」
子供っていう歳ではないが、神様から見たら子供なのかもしれない。
「本当に覚えがないんですが……」
「お前らは昔、私の社に小便をかけた」
ん？
「はい？ それだけ？」
「それだけ……？ お前、自分が寝ている時に小便かけられたら嫌だろ。キレるだろ」
「相手によるでしょ。僕らはかわいい氏子なんでしょ？ 僕はカナちゃんにおしっこをかけられても怒らないですよ」
むしろ……
あ、いや、何でもない。
「…………こ、これが現代っ子」
神様がドン引きしている。
「あのー、タマ達はこの変態とは違うにゃ」
「ああ。普通にキレる」
「ありえないっすよ」
またいい子ちゃんぶってる。
「そ、そうだよな！ 普通はそうだよな！ よかった…………いや、よくない！ お前ら、神を何だと思っているんだ！？ いたずらをするのは良い！ ぼろいってバカにするのもいい！ 肝試しするのもいい！ 子供のすることだし、我慢しよう！ だが、小便はない！ 特にそこのタマ！ 貴様に至っては野糞までしたな！？」
えー……
「漏れそうだったにゃ。ここなら人気もないし、見つからないと思ったにゃ」
「いや、学校でしてから帰れ！」
「学校でうんこをすると、いじめられるにゃ」
まあ、そんな風潮がなかったわけでもない。
「いや！ おかしいから！ 普通にトイレでしろよ！ せめてその辺でしろ！ 犬じゃないんだから社に小便をかけるな！」
ごめーん。
「すみませんでした」
「反省にゃ」
「ごめんなさい」
3人が謝る。
「ようやく反省したか…………」
「反省してまーす」
「うむ！ ちゃんと敬意を払えよ。あと、賽銭箱に何とは言わんが入れるんだぞ」
さっき入れたじゃん。
「本当にごめんなさい。そういうわけで元に戻して」
「ああ……それな。うん、元に戻してやってもいい」
神様がうんうんと頷く。
「早くしてよ」
「それなんだがな、ちょっとマズいことが起きている」
はい？
「え？ 戻せないの？」
「いや、戻せる。というか、私もそろそろ元に戻してやろうと思ってお前らを呼んだ」
「呼んだ？」
呼ばれてないけど？
「まあ、思考誘導的なことだな。お前らがここに来るように思考をいじって誘導したんだ」
マジ？
すごくない？
「そんなことができるんだ」
「まあな。私は恋愛の神様だ。だからこの思考誘導を使って、1万円でお前の背中を押してやった」
「どういうこと？」
「小心者のお前がいくら酒を飲んでいるからといって、後輩に告白できるわけないだろ。お前はフラれた場合のその後の関係を気にして告白できない。だから思考を操作し、踏ん切りをつかせた」
すごくない？
「神様は僕とカナちゃんが両想いなことを知っていたんですか？」
「いや、知らん。カナちゃんは氏子じゃないし…………あと、お前がカナちゃんに対して思っていたことはほぼ性欲だろ」
いや、まあ、あんなに大きいし……
今はちゃんと好きだけど。
「カナちゃんのことがわからないってことはフラれる可能性もあったんです？」
「そりゃそうだろ。氏子じゃないカナちゃんの思考は変えられないし、それはしてはいけないことだ。でも、大丈夫！ 女は星の数ほどいる。フラれたら次にいけばいい！ 問題なのはくだらないことを気にして、動けなくなることだ！ 積極的に！ それが恋愛の基本！」
恋愛の神様らしいけど、アドバイスがその辺の雑誌に書いてありそうなことだ。
「1万円は？」
1万円を賽銭箱に入れようと思ったのは告白が成功した後だ。
「それくらいの報酬だなって思って、思考を誘導した。なのにお前は忘れた。鳥頭か」
いや、その後の事件のせいだよ。
女になったインパクトが大きすぎる。
「なんとなくわかりました……とりあえず、ありがとうございます」
「うんうん。感謝しろよ」
神様が賽銭箱を叩く。
「それでマズいこととは？」
「お前ら、一向に財布を開こうとせんな…………まあいい。マズいことっていうのはそのカナちゃんだ」
「カナちゃん？」
「そうだ。お前らの言うところの常識改変だな。これがカナちゃんに効いているようで効いていない」
矛盾が多すぎるからね。
「この前もパニックになっていましたよ」
「そうだな……私がお前らを許そうと思ったのはカナちゃんのことを考えてだ。お前らは確かに罰当たりのクズ共だ。だが、カナちゃんは私の氏子でもないし、普通に生きている無関係な子だ。この子を巻き込むのは私の思うところではない。ましてや、せっかく私がくっつけたのだからな」
神様が良いことを言ったぞという顔でうんうんと頷く。
「さっき氏子じゃないカナちゃんの思考は変えられないし、それはしてはいけないことだって言ってませんでした？ でも、先週、明らかにいじってましたよね？」
せっかく話したのにカナちゃんが記憶を失ったことだ。
「う、うむ……それがマズかった。ルール違反じゃな。めっちゃ怒られた……」
神様がしょぼんと項垂れた。
「誰に怒られるんです？」
「私よりもっと上の神だな。私なんてこんなしょぼい神社の神だし、下っ端だ」
世知辛いなー。
「それでどうするんです？」
「エロミ、カナちゃんを呼べ。カナちゃんにかけた常識改変と封印した記憶を呼び戻す」
「わかりました」
僕は頷くと、カナちゃんに電話してみる。
すると、すぐにカナちゃんが電話に出た。
「もしもし、カナちゃん？」
『どうしました？』
「ごめんけど、木更津まで来てくれない？」
『はい？ 今からですか？ 別にいいですけど、何ですか？』
まあ、急すぎるもんね。
「会ってほしい人がいる」
『会ってほしい……すぐに行きます！』
「あ、うん……駅に迎えにいくから」
『わかりました！』
カナちゃんはそう返事をして、電話を切った。
「まさかと思うけど、僕の親と勘違いしてないよね？」
僕はスマホをしまうと、皆を見る。
「絶対にしてるだろ」
「してるにゃ」
「それ以外に考えられないでしょ」
「氏子が増えるなー！」
まあ、親に会わせるのはいいんだけど……
「それで結局、タマ達はどうなるにゃ？ 元に戻るにゃ？」
「それな。実は最初から戻れるようになっている」
は？
「ど、どういうことにゃ！？」
「お前らは全員が男に戻りたいと強く願えば元に戻れる。逆に一人でも女になりたいと願えば全員が女になる。私がかけた呪いはそういうものだ」
いや、氏子に呪いをかけるな。
「え？ じゃあ、最初から元に戻れたのかにゃ？」
「そうだ。それなのにお前らはファミレスでくだらないことをくっちゃべるばかりで一向に戻ろうとせんかった。しかも、そうこうしているうちにその姿に馴染みおった。一番ひどいのはエロミな。元に戻りたいと願うのはいつもカナちゃんのおっぱいを触っている時かカナちゃんに攻められている時だけ。お前の頭の中はエロばっかりか？ この前も…………私は氏子の情けない姿を見たくなかったわ」
神様が呆れながら首を横に振る。
「じゃあ、僕らって戻れるんです？」
無視無視。
「戻れるぞ。ただし、戻るならカナちゃんにかけた常識改変と封印した記憶を呼び戻してからにしろ。今の状況ではカナちゃんの負担になるからな」
それもそうだ。
「どうする？」
3人に確認する。
「とりあえず、駅に行こう。俺達が遠慮した方が良さそうだし、そこで解散だな。まあ、お前とカナさんをここまで送るくらいはしてやる」
「それがいいにゃ」
「そうっすね。また、明日にでも話しましょう」
「わかった」
僕達は神社をあとにすると、車に乗り込み、駅に向かった。
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