片11……カケル2分の1。─それから─
「みつけた」
「え?」
学校帰りの駅の改札口を出てすぐのファッションモールを行き交う雑踏の中に、ただ一人だけ僕の目を見つめて動かない知らない女の子が寒そうに目の前に立っていた。
吐く息が白い。
けれど、バスターミナルへの連絡通路からなるエスカレーターと透明の四角い強化ガラスで出来たエレベーターが、ビルの谷間で反射した3月初旬の夕日をさらに反射させていて、僕の足もとを止める。
違う学校の制服に黒いマフラーを首もとに巻いていた彼女は口もともマフラーで覆い隠していた。
黒くて長い髪の毛で、瞳の色は僕と変わらないはずなのに、何故かその子とは視線が合ったまま目を離せなくて、まるで非現実的な歪んだ空間の中をそのまま泳ぐようにして息継ぎして、しばらくジッとその場に僕は立ち尽くしていたんだと想う──。
──胸の鼓動。
43番乗り場の僕の乗るはずだったバスが出発予定時刻5分前を切ったまま動かないでいるのを遠目に見た。
電光掲示板のテロップの中をオレンジ色に光らせて、家の近所のバス停留所を経由する終点の目的地の名称が流れている。
その子が、ゆっくりと近づいて来た。
「え? えと、人違いですよね──?」
「──んーん。違う」
そんなはずは無いと想う。
そんなはずが無いとも想う。
んな、馬鹿なと。
今日も学校で陰キャですよと言わんばかりに寡黙に女子たちとはほとんど会話らしい会話をせずに放課後を乗り越えて、スクールバック片手に俯きながら電車から降りて改札口を出て来て今に至るばかりだと言うのに。
知らないこの子──、目の前の彼女の僕を見る真っ直ぐな上目遣いな目線が、あり得ないことに、この地球の歪んだ重力から僕を解放しつつある。
未来都市計画21のこの街のテーマソングが、やたら駅の構内に流れるのが聞こえる。
僕の足もと近くの点字盤のタイルが盲目者用の横断歩道へと伸びて、鳥の鳴き声が機械音声で『パッポゥ』と、繰り返し響く。
どうやら、信号は赤から青に変わったと言うのに。
僕はまだ躊躇ったまま一歩を踏み出せずに、目の前の彼女のモトへと渡れないでいる。
しかし、相変わらず、彼女は寒そうに立ち尽くしている。
タイミングが良いのか悪いのか、ちょうど17時を告げる時計仕掛けの人形たちが視界の上の方で、音を立ててクルクルと踊りながら祝福のような鐘の音を鳴らし始めた。
「スタバとか行きます?」
「……うん」
僕は首もとに巻いてある紺のマフラーを口もとに片手でより一層深く覆い隠しながら、そう言ってみた。
彼女も口もとを黒いマフラーで覆い隠しながら、視線を落としてそう言った。
勇気を出すとか、そう言う以前に口もとから言の葉がついて出てたというか、そういった感じで、不思議と言うよりかは舞い上がっていたのかも知れない。
けれども、夕日が僕と彼女の半身を照らしていて、改修工事の済んだ新しいこの駅の大理石のような白い柱の影とともに、僕ら二人の伸びた影の先端を静かにくっつけていた。
まるで、時間を止めたように。




