第14話 散策へ
なぜかまた取り残されてしまった。
今日は湖畔に散策に行くのに、客人たちは馬車に乗り合わせた。アナイスとジュリーも今度は出遅れなかったのだが、馬車に乗る順番の譲り合いをしているうち、馬車がなくなってしまった。
二人は顔を見合わせた。湖畔までは道もあり、歩けない距離でもなった。
「歩きましょうか」
「そうね」
アナイスは帽子のリボンを首元で結び直し、ジュリーは日傘を開いた。
山荘の門を出たところで、向こうからやって来た一台の軽装馬車が止まった。屋根のない座席にはセドリックとエヴァンが座っていた。二人は自分たちで扉を開けて馬車から飛び降りた。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
出会ったもの同士、挨拶を交わした。
「どちらまで?」
セドリックは明らかにジュリーに話しかけていた。
「湖畔までお散歩に」
ジュリーは微笑んで答えた。
「よかった、私たちもこれから向かうところなんです」
セドリックは言ってからエヴァンの方を振り返った。
「君のせいですっかり遅くなったけど」
「悪かったな。でも、そのせいで美しい方々にお会いできたんだから、いいじゃないか」
エヴァンは悪びれずに答えた。
「ごきげんよう、セドリック様」
アナイスが勇気を振り絞って声をかけると、セドリックは笑顔でそれに答えた。
「あなたでしたか」
セドリックはアナイスの手を取ると儀礼にのっとって口づけた。
アナイスが腑に落ちない顔をしていると、セドリックはジュリーとアナイスを交互に見ながら言った。
「ジュリーのお友達とうかがってます」
「親友のアナイスよ」ジュリーが言った。
「存じております。私のことはセドリックとお呼びください。それから彼はエヴァン」
そっぽを向いていたエヴァンだが、セドリックに呼ばれて向き直った。彼も儀礼にのっとってアナイスの手に口づけた。セドリックに劣らない優美な仕草だった。
「アナイス、先日の舞踏会ではお探ししたのですが……お約束を違えてすみませんでした」
セドリックは言った。アナイスは驚いた。彼は、彼女とワルツを踊る口約束をしたことを覚えていてくれたのだった。さらに彼は言った。
「先に帰られたとも聞いて心配していたのですが……」
アナイスは目をみはってセドリックを見つめ、それから目を伏せた。
そうだ、彼は誰にでも誠実で親切なのだ。
アナイスはぎこちなく微笑んんだ。
「わたくしも舞踏会を楽しみました。ご心配いただいてありがとうございます」
「それならばよかったです」
エヴァンは相変わらず余計な口をきかなかった。
「さあ、どうぞ」
その軽装馬車は、二人ずつ向かい合わせに四人が乗れるのだった。
セドリックが手を貸してまずジュリーが座った。続いてジュリーの隣にアナイスが座った。セドリックは乗り込むとジュリーの向かいに座った。そこでエヴァンが扉を閉めた。
「窮屈だろうから、僕は馭者台にのるよ」
セドリックが何か言うよりも先にさっさと前面に回り、馭者の隣に腰かけた。
馬車は走り出した。




