第八話:噂通り
「快さん、お帰りなさい」
「ああ、おつかれさん」
社長室に向かう廊下で快は咲とあった。
いつもは無臭の彼女から今日はシャンプーの香がする。どうやら咲も今回は影としてではなく、表の部隊として参加するようだ。
「今回の任務のことは聞いてるか?」
「ええ、霧澤美咲さんの娘、美夏さんの護衛と掃除屋『闇』を叩くことのようですね」
さすがは影の部隊長、任務を言い渡される前に任務を知っている。
「で、彼女の情報は掴んでるのか?」
「ええ、快さんが知らされてる程度ですけど。ただ、社長が今回の任務にあまり乗り気でないことは確かです。
出来ることなら闇とは戦わずに終わらせたいのでしょう」
「まっ、そうだろうな。相手が禁術使い集団だ。面倒事も多い」
快はあえてそう答えた。義臣が心配しているのはもっと別のところにあると分かっていたから。
「快さんは優しいんですね」
「部隊長殿に言われると変な気分だな」
二人は微笑んだ。しかし、それを気に食わない奴は当然いる。
「快! 翡翠がいながら何人の婚約者に手ェ出してんだ!!」
瀬野龍二である。独占欲もここまで素直に出せると怒る気すら起きない。
「お前は相変わらずだな…咲を信用してないのか?」
「してるからお前と一緒にいさせるなんて勿体ない」
「さいですか」
咲が少し赤くなる。彼女が歳相応の少女としていられるのは龍二との日常なんだろう。
「…とりあえず馬鹿はそこまでにしとけよ。霧澤美夏って奴は俺と咲と互角に戦えるレベルみたいだな。霧澤美咲さんとうり二つで性格もきつめだって噂だし」
「TEAMの女子なんだ、ある程度の強さはあるさ。何より咲以外は全員男まさりな奴ばかりだから今更じゃじゃ馬が一人増えても問題ないさ!」
龍二は爆笑した。それを渇いた笑い声で女子バスター達は真似をする。
「げっ!!」
「じゃないわよ! 確かに咲よりおしとやかじゃないのは認めてあげるわ。だけど!」
紫織の上段回し蹴りが龍二を襲う。
「言い方には気をつけなさいよ、龍二」
それが女らしさを欠いていると快と龍二は突っ込めなかった。言えば間違いなく殺される。
「おい、さっさと入れ」
喧騒の中に冷静な声が入る。修だ。
「そうだな」
「はい」
ギャアギャア言ってる友人達は我関せず、快と咲は部屋の中に進んだ。そして対峙したのである、霧澤美夏と!
『さすがに強いか』
『確かに副社長レベルの護衛は必要なだけありますね』
紅みの髪色に宇宙を連想させるような目の色、何より隙のないオーラが彼女を取り巻いている。身長は百六十センチぐらい、影の所属とあってやはり体は引き締まっていた。
「すまない、遅れた」
翔は駆け込んでくるなり数秒止まった。それを見た友人達は心の中でそれぞれが思う。
『あれ? 翔ちゃん止まった?』
『翔の好みだ』
『翔のタイプだ』
『惚れたな』
間違いなく翔の心には衝撃が走っていた。ただ、それは見惚れたというよりも引き付けられていた。
そんな翔が止めた時間を翡翠が動かす。
「私は風野翡翠! よろしくね、美夏ちゃん!」
ニッコリ笑って翡翠が差し出した手を美夏は払いのけた。
「あれっ?」
誰もがその行動に驚かされる。
「弱いバスターは私に近づくな。目の前で死なれてもいい迷惑だ」
普通ならありえない言動だが、噂通りだと快は確信したのである。
でわ、今回はこの子です☆
霧澤 美夏
紅をイメージさせるような少女。性格がきついのは(というよりツンデレにも取られる)母親の霧澤美咲譲りらしい。
赤ん坊の頃から掃除屋『闇』に潜伏していたジャック・ハリソンの弟子として様々な禁術を叩き込まれている。
翔とは潜伏先の牢獄の中で出会っているようだ。