第二話:コーヒー
黒髪、サングラス、黒のトレンチコート。翔より二十センチ近く高い身長というだけでも圧力がかかるというのに、格好が黒だとさらに威圧されてしまう。
TEAM鬼の副社長、副島英成の御帰還である。
「ふっ、副社長、帰って来たんですか?」
「ああ、たった今な。ほら、お前達高校生にだけ土産だ」
白いサンタクロースの袋を翔の腕にドンとのせた。中身は見えないが、間違いなく値の張りそうな重みがある。
「ありがとうございます……」
翔は礼を述べた。そして副島の視線は新に向けられた。
「で、その子がSHINか」
「ええ、小学一年生の篠原新。私の愛息子です」
夢乃はニッコリして答えた。その笑顔で副島は全てを理解した。彼女が二児の母になることを選んだなら文句はない。
「……そうか。で、あのグウタラは社長室で大人しく仕事してるのか?」
「まさか。今日はどこの美人をはべらして来てるのかしら」
予測通りの答えである。自分がいないのをいいことに、相変わらず仕事をサボっているようだ。
「苦労してるようだな。だが、しばらく俺はこっちにいるからな、少しぐらい縛り付けてやるよ」
「あら、みんなが喜ぶわね」
本人がいればまさに青くなる会話である。鬼の副社長とは名だけではないのだから。
「それと翔、高校生バスター全員を夕食後社長室に集めとけ。俺が連れ帰って来た子がいてな、紹介しておきたい」
「新しいバスターですか?」
「ああ、お前達と同い年のな。まぁ、未だに初恋も済ませてないお前のタイプであればいいんだがな」
「……うちの女子より可愛ければ靡きますよ」
あまり期待してない答えは翔らしい。その答えに副島は微笑を浮かべた。
「なら安心だ。今回の依頼者はその娘の身の安全を守ることを第一にしてるからな。誰かが惚れてくれないと困る」
「……関係あるんですか」
「やる気の問題だ」
冗談混じりの会話だが、夢乃には通用しなかった。
「……翔ちゃん、新を運んでくれてありがとう。皆に副社長が戻って来たって伝えていらっしゃい」
「……わかりました」
翔は瞬身でその場から消えた。ここからの会話に自分が席を外さなければならないと察知したからだ。
そして、気配が消えると副島は椅子に腰を下ろした。
「さて、とりあえずTEAMも見ないうちに随分戦力を上げたみたいだな」
「ええ、皆鍛練を怠ってないから。だけど連れて帰って来た子って美夏ちゃんでしょ? どうしてそこまで狙われるようになったのかしら」
直球である。自分に余計な隠し事など無用と言わんばかりだ。
「……霧澤美咲の血を継いでるだけなら危険因子としてでしかとられなかっただろうな。だが、美咲があの子をあいつのもとに弟子入りさせたから狙われるようになったんだ」
「……禁術を知る唯一の存在か」
「ああ。だが、俺もシュバルツもそろそろ奴らを潰したいところだったからな。だから戻って来たんだ」
やかんに残っていた湯を使い、夢乃はコーヒーを作り始めた。
「シュバルツはどうしてるの?」
「あいつはチェロ奏者だからな。各地のオーケストラに引っ張りだこだ。だから今回の任務には参加しない」
「娘の危機なのに……」
「だからこそ各地をまわるんだろう。奴は航生と同じ変装の天才だからな」
夢乃からコーヒーカップを受け取り、近くにあったミルクを一つ、角砂糖を二つ入れる。意外と甘党である。
「確かに素顔を見せてくれたことはないわね」
「ああ。俺達が知ってるのはチェロ奏者のシュバルツとバスターとしてのシュバルツだからな」
そして夢乃は一度コーヒーを作る手を止めた。気になることは一つではない。
「それともう一つ聞きたいんだけど」
「片岡航生か」
「ええ」
片岡航生、長期間不在のバスターであり夢乃とは幼なじみだ。
「あいつはまだTEAMに戻る気はないだろう。闇が動かなければどうにもならないからな」
コーヒーを作る手がゆっくり動き出す。
「航生ちゃんもあんな危険な場所に潜入せずに戻ってくればいいのに……」
「そうはいかねぇよ。あいつは闇を潰すために闘ってきたんだ。誰よりもあいつが一番闇を憎んでることは知ってるだろう」
秋風がTEAMを駆け抜けていた。
では、続きましてはこのお嬢様!
和泉 咲
大和撫子とはまさに彼女というぐらいのはかない系お嬢様。
だが、TEAM特殊部隊『影』の部隊長を務めてしまうほどの時空系バスターである。
龍二とは婚約している間柄だが、本人は恥ずかしいらしくオープンにしていない。部活は弓道部だ。