第十八話:義臣潜入
「咲、すまないな」
「ご心配いりません。スナイパーがここまで気配を消す力を持っていたのは社長達も誤算だったのでしょう?」
義臣、副島、咲は互いの背中を合わせながら相手の出方を伺っていた。
TEAM本社に奇襲を仕掛けてくるとは義臣も考えてはいなかったからこそ、防衛の方に力は注いでいなかったのだ。
「仕事を怠けていた結果だな」
副島の厳しい一言が入る。結果は結果なのだ。だが、不測の事態はTEAMといえども起こるものである。副島は溜息をついて提案した。
「義臣、お前は一度咲を連れて離れろ。社長室に攻めて来た奴以外にも数はいるだろう」
気配が分からない以上、それが一番の手段だと判断できるが、義臣は逆を考えていた。
「ああ、それも考えたんだがこいつらうちの社員達にも危害を加えてるからさ、俺も相手に大損害与えてやろうと思って」
ニッと笑う意味は簡単だ。
「義臣! お前まさか!!」
「そういうこと。まずこいつらは血祭り決定」
義臣の空気が変わった。咲がぞっとしてしまうほどの威圧感を放ち始める。
「咲!」
「…はい!」
副島は咲の腕を取り、瞬身で社長室から離れた。
「最近戦場に出て来てないが腕は鈍ってないのか?」
「多分な。まだ息子の百倍は強いだろ」
義臣は上着を脱ぎ、一瞬にして黒ずくめの服にチェンジした。それは久しぶりに袖を通したバスターの戦闘服だった。
「格好を変えただけでも感じが出るだろ?」
義臣は笑った。だが、明らかにさっきよりも殺気が立ち始めている。
「気を抜くなよ、この男の覇気だけは本物だからな」
スナイパーの隊長格は部下達に命じた。やはりTEAMに潜入して来ただけの技量はあるのか、相手をなめきっていないようだ。
「さて、お前らを一気に戦場へ戻してやる」
「なっ!!」
空間が歪む。そして周りにはいつも自分達がいたスナイパーの演習場が現れた。
闇の特殊部隊といえども、これほどの時空魔法を使えるものはいない。
「空間転移って術だ。自分が指定したものをまるごと指定した場所に連れていく時空魔法の一つだが、今回はお前達の気配がわからなかった。
だからうちの社員を外した者をまるごと転移させた。普通ならこれでかなりの力を使うが…」
暴風がスナイパー達に叩き付けられる!
「俺の力を解放する。命があると思うな!」
義臣は本気だった。
そして、その演習場を屋敷の中から眺めている者達はいた。
「佐一様、篠原義臣が一人で乗り込んで来たようですが…」
白衣を羽織った年若い女が郷原に話し掛ける。闇の研究チーフの一人だ。
「南田、風野博士はどうしてる?」
「…相変わらずです」
南田は溜息をついた。
「そうか、だったら博士を義臣のところへ戻してやれ」
「えっ!?」
「義臣に好き勝手に暴れられると闇がバランスを崩すからな。それと片岡航生が真実を掴みつつある。まずは奴を止めることに全力を注げ。義臣はそのあとにでも闇の戦力を総動員して片付ければいい」
郷原らしくない意外な言葉に南田は返答した。
「随分篠原義臣を警戒してるようですね」
「当たり前だ」
郷原はそばに置いてあったグラスにワインを注ぐ。
「当時、この掃除屋界の闇を壊滅寸前まで追い込んだのは和泉元二率いる掃除屋ギャンブラーだ。だが、事実暗躍していたのがTEAMの篠原義臣率いる部隊。
医療部隊の夢乃が重傷を負わなければ今頃闇の存在はない」
南田はゴクリと唾を飲み込んだ。
「その一員だった片岡航生は義臣以上の策士だ。仕掛けてくる前に始末しろ」
グラスの中に入った赤ワインを郷原は一気に飲み干した。