第十五話:餌
「美夏、帰るぞ」
「ああ」
そのやりとりにカレカノいない同盟の面々が叫んだ!
「なにぃ〜〜〜〜!!!」
生まれてこのかた平々凡々を代名詞に背負う翔が美少女である美夏と二人で帰るとなれば大騒ぎである。
「翔! お前いつから美人と二人で帰れるようになったんだ!」
「この裏切り者! 美夏ちゃんと付き合ってるならそう言え!」
口々に翔に非難の声が上がる。だが、それを不敏に思った快の一言が入るのだ。
「…お前らやめてやれ。翔が不敏になるから」
カレカノいない同盟全員がそれを聞いて納得するわけである。
「そうだよな、平々凡々が美少女と付き合うなんて天変地異の前触れだよな」
「すまない、翔。元気出せよ」
「がんばって! 翔君!」
「そこまで言うか…」
慰められてるのか、けなされてるのかと聞かれれば間違いなくその両方である。
だが、それを打ち破ったのが美夏だった。
「片岡」
「ああ、すぐに行く」
たった一言で二人は帰っていった。そして視線は快に注がれる。
「で、実際のところは?」
「さあな、幼なじみらしいが俺にもまだそこまでの情報は回って来てない」
「そうか、TEAMに分からないことが俺達に分かる訳無いか」
クラスメイトの西岡が肩を竦めて微笑を浮かべると快は謝罪した。
「すまないな、このクラスにまで危険が及ぶ可能性がある任務でさ」
「気にするな、俺達は全員バスターなんだからよ」
実にいいクラスである。危険が及ぼうとも理解してくれるのだから。
「だけどさ、だったらお前達も一緒に帰るべきじゃないか?」
もっともな言い分だが、そこにはそれなりの考えがある。
「まあ、普通ならな。だが、釣りをするには餌が必要だろ?」
翔と美夏はテクテクと歩きながらたわいもない話をしていた。
「学校も面白いもんだろ」
「つまらん。…だが、屋上は気持ち良かった」
「貯水タンクの上か。確かにあそこは気持ちいいな」
「何故知ってる?」
「快は作戦を練る場所があそこだから」
こんな感じだ。だが、けっして不快でもなくむしろ楽だ。言葉を交わすだけで楽だというのは実は貴重な相手だったりする。
「片岡」
「翔と呼べ。なんか親父と同じであまり好きじゃない」
「そうか、ならば翔」
「分かってる。そこかぁ!!」
短刀が相手に投げ付けられる! そして二人を尾行していた人物が現れた。
「おやおや、これはこれは片岡航生の息子殿ではないですか。随分大きくなりましたねぇ」
翔は顔をしかめた。餌にかかったのはどうやら面倒な魚だった。