第十四話:父親の話
昼休憩になると美夏は教室から姿を消していた。
「美夏ちゃんどこに行ったんだろう?」
「そうね、一緒にご飯食べようと思ってたのに」
翡翠と陽子の会話に修が入った。
「あいつなら屋上だろ。気配が上にあるからな」
「上にあるって修、あくまでも美夏は護衛対象なんだからちゃんと一緒にいないといけないでしょ」
陽子の言うことは尤もだが、修はインスタントコーヒーを飲みながらだるそうに答えた。
「そう付き纏ってやるな。あいつは快と同じタイプだからな、たまには屋上に上がってゆっくり空を眺めたくなるんだろ」
「…いまいちその感覚が掴めないのよね」
「そりゃそうだろ。一人でボーッとしたい時なんて誰にも予測がつかないからな」
修の言う通りだった。
秋の日差しが温かい日は非常に心地よかった。美夏は壁に寄り掛かって街の景色を見下ろす。TEAM本社のでかさは屋上からでもよく分かった。
「いい場所だろ」
「篠原…」
頭上に突如現れた少年を美夏は見上げた。給水タンクの上に快はいたのである。
「どうせならこの上に来い。そんな影より気持ちいいぞ」
「影の方が落ち着くんだが…」
「お前はそうだろうな。だが、日なたの良さもたまには知っとけ」
そして言われるまま美夏は快のいる場所へと上った。
「…どうだ?」
「悪くはない」
「素直に楽な場所だと言え」
快はゴロンと寝転がった。秋空が非常に気持ち良かった。
「ここさ、任務の戦略を立てるときもただのんびりしたいときもすごく楽なんだ。
親父に教えてもらった場所にしては悪くない」
ふわりと風が二人に当たる。
「篠原義臣か…昨日会ったが噂で聞いたのと少し違うな」
「どんな噂だ?」
「あの男と対峙しただけで立てなくなる、クールで誰も近づけないと聞いていた」
それを聞いた途端快は暫く思考が停止したが、堰を切ったかのように爆笑した。
「く、クール?? あの馬鹿が…!! ハッハッハッハ!! 苦しい…!!」
快は涙を浮かべながら笑い続けた。その様子に美夏は呆然とする。
「美夏! そのイメージは死んでも捨てろ! あの馬鹿親父がクールならもう少しTEAMはまともだ!」
「…だが、伝説のバスターだと」
「ああ、確かに強いな! だが馬鹿だ!」
快はさらに笑い続けた。普段の義臣はバスターの恰好もスーツ着ないちゃらんぽらん親父である。
おそらく今日は肌着に腹巻に股引き、寒ければ半纏ぐらい着てるだろう。クールとは程遠い男である。
「まっ、今日は副社長に絞られてまともに仕事してるだろうが、普段はサボってばかりだ。男前のイメージだけは持つなよ」
「…自分の親だろう?」
「美夏の親父さんと違って自慢にもならねぇよ」
快は涙を拭いた。しかし、美夏は一つ溜息を付く。
「私も自慢は出来ない。親の素顔を見たことがないんだから…」
「…変装の名人だもんな。だが、娘のために世界を飛び回る親は少ないぞ?」
快は美夏に資料を渡した。
「お前の親父さんはお前とはなれてから二週間で闇の支部を五つも潰した。
全てはお前を救うためだ。カッコイイに違いないな」
快は微笑を浮かべた。