第十一話:翔の部屋
翔の性質の悪い呪いによって美夏は翔の部屋に入っていた。呪いを跳ね返してやろうかと思ったが、跳ね返すのには時間がかかるという面倒がある。
それならば相手にさっさと解除しろといったほうがマシだ。敵ではないのだから…
「…秋からこたつか」
翔の部屋は和洋折衷という言葉がよく似合っていた。
翔の部屋にはこたつ、テレビ、机、クローゼット、本棚、そして食器棚まで揃っている。その中にはコーヒーカップと湯飲みがやけに多い。しかも日本茶と烏龍茶の他にコーヒーがかなりの種類取り揃えられていた。
「コーヒー好きかあの男は…」
「俺の隣人がな。俺の部屋には何かと人が出入りするからコーヒーの種類とカップの数は多いんだ。快の奴が何にも持たないから俺の部屋は物置みたいなもんだ」
みかん箱とお菓子の数々を持って翔は現れた。その量は間違いなく彼の部屋が出入りが多い事を表していた。
「とりあえず暖房とこたつぐらいつけろ。それと食堂からみかんも調達して来たから食おう」
「そのまえに呪いを解け。不愉快だ」
「話が終わったら解いてやるよ。ほら、さっさと入れ」
こたつとエアコンを付けてテキパキとコーヒーを作り上げる。
「お前ブラック派か?」
翔の問いに美夏は無言だ。彼女のイメージは明らかにブラックだが…
「…まあ、俺は牛乳に砂糖三つだが」
「…それでいい」
どうやらかなりの甘党らしい。もしかしたらコーヒー自体があまり好きじゃないのかも知れない。
「ほら。今度はアップルティーにしてやるよ」
カフェオレとなったコーヒーを美夏の前にコトンと置いた。しかし、翔のコーヒーは明らかに牛乳少しと砂糖一つというところだ。明らかに気を遣ってくれたのだ。
「…変わった奴だな」
美夏はコクリとコーヒーを飲んだ。
「お前ほどじゃない。もとはあんなにツンケンした性格じゃない癖に自分に誰も関わらせないようにしてる。どう考えたっておかしいとしか思えないさ」
翔はみかんをむきながら言う。彼女を知ってるからこそ出る言葉だ。
「言っただろう? 目の前で死なれては」
「堪えられないよな、スナイパー出身のガキじゃ…」
幼い頃の記憶が蘇る。あの惨い数々の事件…
「…お前はどうして平然としていられる?
奴らを潰せる組織など皆無だろう?」
「ああ、あいつらはTEAMでも手を妬いてる。だが、指令は下る」
翔は向き終わった皮を器用にごみ箱に投げ入れた。
「うちの社長はお前を守るためなら総力を挙げてスナイパーを潰しにかかる。確かに乗り気とは言えないかもしれないが多少の犠牲を覚悟しなければあいつらには勝てない」
「…あの『ドラッグ』が分裂して出来た掃除屋だぞ…多少の犠牲ですむものか」
「分裂したからさ。チャンスは今しかないんだ」
コーヒーは少し冷たくなった。