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赤い悪魔と呼ばれる竜殺し  作者: ビーグル犬のぽん太
赤い悪魔と魔王の子
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対炎魔人

 炎魔人ヴァルラグを倒せる人間なんて、おそらく世界で五本の指で足りるほどいないだろう。


 俺も、現世では会ったことがない。


 前世で、三度、戦った。


 一度目は思い出したくもない内容で、二度目はイングリッドと一緒だから勝てた。そして三度目は、ムナクソ悪い連中が現れたせいで印象が悪い。


 俺たちは、化け物が俺たちをまだ認識していないことを信じて、慎重に進む。こちらから相手の姿をまだ見ることはできないが、あちらもきっとそれは同じだろう。


「ジュウベエ、エジル、後ろに。レイミア、二人を守るように」

「……わかりました」

「不満か? 大事な役目だぞ」

「頑張ります!」

「イングリッド」

「おう」


 彼女が、俺の左腕をその手でチョンと触った。


 竜の肉体がいたはずの巨大な空間は、右に、ゆるやかに曲がっている。


 俺とイングリッドは、武器をかまえながら走った。


 いた。


 デカいのがいた!


 炎魔人ヴァルラグ


 身体は岩石か溶岩かわからないが、岩でできた巨体は人の身体に似ている。頭部には目と口らしき穴があき、身体にも岩と岩のつなぎ目、隙間があいているが、全ての穴から蒸気をふき出し、炎をちらちらとのぞかせていた。


 でかい。


 身の丈、四メートル以上はあるはずだ。


 炎魔人ヴァルラグは、俺たちを見ていた。


「ΣΔΞ! ΑΑΦΣζΦβ!」


 化け物は何か奇怪な音を裂けた口から吐きだして、俺たちを威嚇するように前のめりになると両腕を広げてみせる。そして地面を蹴り、床の石板を砕いたと同時に跳躍……天井に頭から突っ込み、床に落ちる。


「ゲホホ!」

「うわ! エリオット、大丈夫か?」

「ああ!」


 化け物が落ちたせいであっという間に空間が埃だらけで真っ白になった!


 そして、崩れた天井の岩と土がドドドド! と落ちてきて、炎魔人ヴァルラグはその瓦礫の下に埋まる……。


 俺は、口の中に入った埃なのか土なのか何なのかを地面に吐き捨て、間抜けな化け物が埋もれている瓦礫の山を眺める。今もその天頂へと天井の穴からさらさらと砂が落ちていた。


 埃が支配した空間も、白一色からいくらか和らいできて、間抜けが作ったお山を前にイングリッドに尋ねる。


炎魔人ヴァルラグ、いろんな奴がいるな」

「……バカなのだ」


 たしかに!


 直後、瓦礫と土と砂の山が内側から爆発した!


 俺はイングリッドを庇うように前に出た。ここで、無意識に長剣を動かすことで、飛んで来た石を弾いていた。


 それは、俺の頭に直撃していたコースだったとわかる。


 剣に動かされたような感覚。


 サリウド、ありがとう。


「イングリッド、バカが出てきた」

「おお……怒っているけど、わたし達は悪くないのだ!」


 炎魔人ヴァルラグは、憤怒の形相とも言えるほどに頭部の穴を歪ませている。目らしき穴はつり上がり、ふき出す炎は感情の荒々しさをぶつけてきているようだ。そして裂けた口からは絶え間なく熱風を吐き出し、火の粉が周囲に飛び散っていた。


「ヴォオオオオオ! ヴォオオオオオ!」


 雄叫びをあげた馬鹿が、俺たちへと突進する。


 左右に散って躱した俺たちは、それぞれに剣を構える。


 炎魔人ヴァルラグの右手から、俺へと向かった火球が迫る。奴の左手からは、イングリッドへと火球が吐き出された。


 俺は右に跳び、地面を蹴って馬鹿に突っ込む。


 イングリッドは氷の壁をつくり火球を防ぐと、俺に防御魔法ディフェンシォをかけてくれた。


氷姫剣舞ジェリアンヴィル!」


 彼女の魔法が、馬鹿を包む。氷の槍が幾本も空中に現れ、炎魔人ヴァルラグを攻撃した!


 だが、奴はそれを避けない。


 イングリッドの魔法は、奴の身体に触れた直後、存在しなかったかのように消えてしまったのだ。


 直後、俺は至近距離から斬撃を見舞うも、奴の右腕に阻まれる。巨体のくせに動作が素早い。


 しかも蹴りの反撃カウンターをあててきた!


 俺は蹴りを足の裏で蹴ることで距離を取るが、靴の底が焦げたとわかる。厚底で、鉄が入った戦闘用の靴でよかった!


 着地した時、化け物が俺を見て、ニタリと笑うようにその顔を歪めた。


 その背後から、イングリッドが氷槍バラスで攻撃するも、奴は背で受けながらこちらへと歩いてくる。


「ΣΦθΞΦζΩΔΑΓΔ」


 炎魔人ヴァルラグは、自分の身体の隙間から吐き出される炎を掴むと、それは剣となって奴の右手に収まる。そして、ひと振りして、俺へと加速してきた!


「ヴォオオオオオ!」


 炎魔人ヴァルラグが叫ぶ。


 強い……。


 こいつは、これまでの三体とは格が違う。


「サリウド、いくぞ」


 俺は、俺の剣を強く握った。


 護る者サリウド、助けてくれよ!


 奴の間合いに入る前に、俺は自ら突っ込むと決めていた。しかし、奴はまだ距離がある場所で、腕を鞭のように伸ばせてしならせると、斬撃を見舞ってきた!


 卑怯! それはナシ!


 間合いがはかれないじゃないかよ!


 横に跳び、躱して走り加速した直後に長剣を一閃する。奴の左腕に入った剣だが、岩のような身体に亀裂が入っただけでダメージがあるのかないのかわからない。


 馬鹿はそのまま俺に体当たりをかましてきて、巨体にぶつかってこられたせいで吹っ飛ばされる。壁に身体を強打する前に、姿勢を整えて受け身をとるも剣を落としていた。


 くそ!


 壁を蹴り、勢いをつけて化け物の追撃を逃れ、奴の口から吐き出された火球の三連打を転がって躱したところで、護る者サリウドを見ると、彼は地面に転がっていたが、なんと俺の方向に地面を滑るようにして接近してきてくれた!


 俺は炎魔人ヴァルラグの斬撃を躱し、姿勢を低くして前に一回転しながら剣をつかみ、奴の伸びた腕をかいくぐりながら斬撃を見舞う!


「ヴォオオオ!」


 炎魔人ヴァルラグの右腕を、肘のあたりで切断できた!


 一瞬後、俺は衝撃で吹っ飛ばされる。


 何が起きたかわからなかったが、地面を転がり、壁に背を強打して止まった時に理解した。


 蹴られた……。


 左腕……折れた。


「ぐぅ!」


 遅れて痛みが!


 汗がふきでて、呼吸が荒くなる。脳が危険だという信号を全身に送り、俺は立ち上がりながら片手で剣を構えた。


 炎魔人ヴァルラグが、俺との距離を一気に詰めてくる!


 イングリッド! まだか!?


凍王降臨アイスキュロスファブレガス!」


 化け物の巨体が、イングリッドの魔法で動きを止める。そして、炎が消え、身体からの蒸気が薄れ、色が白くなっていった。


「エリオット!」


 イングリッドが俺へと駆け寄り、左腕を見た。


「エリオット! 大丈夫か? 腕だけか?」

「腕だけだ」

「治す! 今、治すから」


 彼女が俺の左腕に触れる。


 鋭い痛みが走って、俺は声をあげそうになったけど耐えた。


 腕が折れても戦うって、あれは嘘だな。


 人間、怪我した瞬間、戦闘力はガタ落ちだ。だから、強い敵とは戦いたくないんだ……。


 俺の腕を治してくれるイングリッドは、患部に意識を集中している。その後頭部を眺めながら、温まる患部の感覚に懐かしさを感じながら、こんな時なのに少し嬉しい。


 だけど、それは炎魔人ヴァルラグが氷を内側から砕こうとする光景を見るまでだった。


「イングリッド……やばい」

「痛いか?」

「違う、馬鹿が生きてる」


 彼女はそれでも、化け物を一瞥もしない。


 わかった。


 俺は、今の状態で放てる最高の魔法発動へと意識を集中させる。


 でかい魔法は無理だ。


 慣れ親しんだものがいい。


 火炎弾フレイム


 炎魔人ヴァルラグに効くか?


 岩石を破壊することはできるはずだ。


 そして、その穴に剣を突き刺す。


 高い部位は無理だ。


 腹。


 腹を狙う。


 その奇怪な言葉が、聞こえ始めた。


「ΑΔζΣΛΛΩΔζΑΕΨΓΞΑΔ……」


 イングリッドが、俺の身体から離れ、へたり込んだ。


「治したぁ」

「ありがとう! くらえ!」


 俺は、火炎弾フレイムを放つ!


 火炎弾フレイムを放つことを、ここまで意識して集中したのはひさしぶりだ!


 おかげで、その火炎弾フレイムは凄まじかった!


「エリオット!」


 火球の巨大さに、イングリッドもさすがに声を出した。


 炎魔人ヴァルラグの腹部へ、俺の魔法がぶつかる。


 氷の支配から逃れようとしていた化け物は、復活する前に火炎弾フレイムをくらった。


「ヴォオオオオオ!」


 爆発音と衝撃音、そして奴の咆哮!


 炎魔人ヴァルラグは、腹部に大きな穴を開けた。


 イングリッドの魔法は効果を維持していて、奴の体内にある溶岩流やら炎はふき出してこない。


 俺は渾身の力で、剣を突き刺す。


 手応えがない!?


 あっさりと深くまで、吸い込まれるように刺さった剣。


 いや、ひきずりこまれる!


 剣から手を放した!


 俺はへたりこんでいるイングリッドを抱える。


「逃げるぞ」

「トドメは!?」

「勝てない!」


 彼女を抱える腕に力を込めて、後ろを振り返りながら走ると、化け物は氷の支配から脱出し、俺を見て叫ぶ。


「ヴォオオオオオ!」


 この距離だと、すぐに追いつかれる! レイミア!


「レイミア! 逃げろ!」


 俺が叫んだ直後だった。


 俺たちを追おうとしていた化け物が、数歩、駆けたところで止まり、崩れ落ちる!


 俺は立ち止まり、イングリッドを抱えたまま奴を見る。


「逃げろって言われただろうが!」

「逃げるわけにはいきません! 助けます!」

「馬鹿! 命令に! あ……」


 エジル、ジェズゥ、レイミアが降り立った場所から駆け付けて来ていた。


「大丈夫ですか!?」


 レイミアの問いに、ジェズゥが抗議の声をあげる。


「命令は逃げろ! だ! あんたはもういい加減にしろよ!」

「逃げろと言われたら! わたしは助けます!」

「エリオット、なんとか言って……あれ?」


 エジルが、前方の化け物を指さした。


 そいつはもう、動かない。


 地面に仰向けに倒れて、動かなくなっていた。


 俺は、イングリッドを抱えたまま炎魔人ヴァルラグに近づく。


 炎はなく、蒸気もない。熱を感じないし、硫黄の匂いもまったくしない。


 腹部の穴に、それはあった。


「サリウド……」


 俺の護る者サリウドは、その輝きを失い、剣の形をしたただの石になっていた。だけど、彫られた文字を見れば、それが彼であったのはわかる。


「エリオット、助けてくれたんだよ、剣が」

「ああ」


 俺はそこで初めて、イングリッドを抱えたままだと思い、彼女を立たせた。そして、奴の腹部の中から剣を拾い上げる。


「どうするんです?」


 レイミアの問いに、俺は剣の形をした石を撫でながら答える。


「お守りに……作り直すんだ。こいつは、仲間なんだ」

「わたしにも、分けてぇ……限界」


 イングリッドがそこで再びへたり込み、そのお腹を盛大に鳴らせることで空腹を訴えた。


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