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赤い悪魔と呼ばれる竜殺し  作者: ビーグル犬のぽん太
赤い悪魔と魔王の子
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坑道の奥に

 洞窟、遺跡、坑道……どいつにも確実にいえることは、神聖魔法の助けがなければ暗いってことだ……光るコケなんてものが壁にびっしり生えていて松明がなくても暗くないぞ! ていう洞窟に入りたいところだけど、恒星から届く光に頼る世界……地球もここもそんな明るい地下なんてなかった……いや、こっちの世界にはまだあるかもしれないな……なんてことはどうでもいい!


 ファンディの坑道に入り、黒皮狩人ハンターの群れを蹴散らしたところで、さらに奥へと続く道を進むと、分岐点がいくつもあった。斥候のジェズゥとジュウベエが懸命に役目を果たしてくれて、道に迷わなくて済んでいる。


 ただ、彼らはいくつもの側道の奥に隠れていた生存者を見捨てていた。


「とても助からない」

「そんな余裕はない」


 二人の意見に怒ったのは、レイミアだ。


「わたしは智神ガリアンヌの前で、そのようなことを口にはできません!」

「ここには智神ガリアンヌはいない。よかったじゃねぇか?」


 ジェズゥの言いように口を尖らせたレイミアが俺を見る。


 それは、自分の主張を指示してくれという意味でのものだとわかったけど、俺は溜息をついた。


 言葉を発したのは、イングリッドだ。


「レイミア、お前の生き方、信仰をわたしは尊重するが、だからこそわたし達の判断も尊重してもらいたい。そして今は、決定権はエリオットにある」


 お! 俺!?


 見れば、全員が狭い坑道にならんで、俺を見ていた。


「あんたがこの隊のボスだ」


 オーモンドの言葉に、元海賊……いや現役だけど海賊業は休憩中の奴らがコクコクと頷いている。


 俺は、レイミア対多数に挟まれるなかで、ジェズゥに命じた。


「お前の目で見て、助かりそうにないと思うほどの怪我だったのか?」

「……少し前の左手にあった側道の奥……おっさんは脚の怪我で歩けない。俺たちの状況では無理だ。右斜め後方に伸びていた側道の奥には、休憩用の空間があってそこに二人いたが、一人は脈が弱すぎて、もう一人は呼吸だけまだしている。以上」

「おっさんを助ける。イングリッド来い」

「治癒か?」


 彼女の問いに、俺が頷きを返すと相棒はレイミアを見て口を開く。


「一人は助ける。二人は見捨てる。お前が望むことはこれか?」

「……」

「一人を助けるために、わたし達全員の危険度が増す。それでもレイミアは、助けたいか?」


 レイミアは全員の視線を浴びたことで表情を厳しくしたが、ひるむことなく言う。


「助けたい……わたしはそれでも助けたいです」

「わかった。他はここで待機。わたしとエリオットだけでいい」


 待機を受諾した海賊たちは、前方を警戒する隊列を組む。


 二人で来た道を戻りながら、分岐を選び、脚を怪我したというおっさんのところへと向かう。道中、イングリッドが俺に言った。


「エリオット、変わったな?」

「変わった?」

「前世のお前なら、見捨てていた」

「……」

「不思議だ。前のお前も大好きだったけど、今のお前も大好きだぞ」


 ……照れて戦いどころじゃなくなるからやめてくれ。


 坑道の奥、行き止まりの手前にそのおっさんはいた。


 白髪で浅黒い肌に見えたのは、埃と汚れのせいだった。近づけばおっさんではなく若者だとわかる。


「生きているか?」


 俺の問いかけに、その男は顔をあげた。


「歩けない。助けてくれるなら、出口まで連れて行ってくれ」

「出口まで連れていく暇はない。治してやるから、自分で行け」

「……冗談なら言う相手を間違えてる」


 彼の言葉に、イングリッドが苦笑すると俺の前に立ち、男の脚を診た。


「医者じゃないからわからん……血をとめて、肉を繋ぐことはできそうだ。神経はわからないけど、出血はひどいが大きく抉れた傷で骨まで達してない。大腿部の外側だし……」


 彼女はそう言うと、膝をついて男の右太ももに手で触れる。その痛みで男が呻いたが、イングリッドはかまわず傷口に手の平をあてて意識を集中させた。


 男に尋ねる。


「化け物にやられたのか?」

「噛まれた。部下を助けようとしたが……」

「部下? 坑道の警備か?」

「化け物が街に出てくる恐れがあったので、部隊を率いて坑道に押し込んで入り口を封鎖させた」

「……あの程度の封鎖じゃ、いずれ破壊されていたな」

「あんたは?」

「中央大陸から五か国半島ファイブペニンシュラに向かう途中、難破してこの大陸の魔族支配地域に漂着した……それで北に再び行きたいが、船が出てない。竜退治をしないと俺たちは目的地に向かえない」

「……そりゃ壮大な物語だな?」

「クソみたいなどうでもいい壮大さだよ、こんなもん、神話を読むだけで楽しみたいね」

「ははは……嘘だろ」


 彼の視線は、自分の右脚に注がれていた。


 イングリッドが離れた直後、俺が彼女を支える。疲労でふらついた彼女は、自分の力で立ち上がった男に言う。


「大丈夫か?」

「ありがとう……俺より今は君のほうがやばそうだ」


 イングリッドの顔は蒼白で、冷や汗をかきながらも笑顔だった。


「わたしたちは先に進む。一人で帰ることはできるか?」

「時間をかけてゆっくり帰るさ……あんたらがここにいるってことは、帰路は安全なんだろ?」

「ああ」


 俺が答えると、彼は俺とイングリッドの肩を叩く。


「恩にきる」

「じゃ、出口に食い物をたくさん、用意して俺たちが出てくるのを待っていてくれ」


 男は笑顔になった。


 イングリッドを支えて、仲間が待つ場所まで歩く。


 途中、彼女がポツリと言った。


「笑顔、ひとつ助けた。彼の家族、友人たちも、あの笑顔をまた見ることができる。エリオット、二人を見捨てたけど、一人を助けたんだ。顔には出さないし、何も言わないけど、わたしにはわかる。気にするな」

「お前こそ、気にするなよ。お前は俺と違って、一人、救ったんだ」


 イングリッドも、笑顔を見せてくれた。




 -Elliott-




 坑道はゴート共和国の時よりも道が広く、奥が大きい。


 巨大な鉱山を、地下へと降っていくとまず湿気にやられる。


 汗まみれで気持ち悪いが、続々と黒皮狩人ハンターが群れをなして現れるので油断できない。彼らは個体として見れば怖くないが、集団で現れるので厄介なのだ。それに武器を使うし、だまし討ちをしてくる智恵もある。


 ジェズゥとジュウベエが下手な斥候なら、こっちに怪我人が出ていてもおかしくなかった。


「大穴!」


 ジュウベエの報告に、俺は急ぐ。


 イングリッドはパンと水筒を抱えて補給しながら歩いているので、俺とレイミアが斥候の二人へと駆け寄った。


 見れば、坑道は途中から崩落していて、それは巨大な穴のせいだとわかった。


 足場が崩落したような大穴が地面に空いていて、穴の反対側には坑道が続いているが跳んでも届く距離じゃない。魔法で吹き飛ばされるならあるいはと思うが、直径十メートル以上はなかなか厳しい。


 ロープをはり、下へと降りることにした。


 斥候のジュウベエ、俺が先に降りたところで、松明を地面に落とす。それを目印に、レイミアが神聖魔法で光を灯した。


「すごい」


 彼女が、照らされた光景に目を見開く。


 俺も、ここがどういうところかをすぐに理解できた。


「竜の神殿」


 俺の言葉に、ジュウベエが視線を周囲に散らしながら上の連中へ手を振る。


 ロープをつたって、イングリッド、ジェズゥと降りてきたところで、オーモンドが上から声をかけてきた。


「ロープを守る。ジュウベエを戻してくれ! エジルと荷を降ろす」

「わかった」


 こうして二手に別れたところで、イングリッドが改めて周囲を眺めて口を開く。


「西方大陸に神殿……わたし達エルフじゃない。だから、これはドワーフ達によるものだろう」

「……結局、竜がいるのは同じだな?」

「ああ、魂の間は必ず最深部だ。そこに行こう」


 石板が敷かれた地面、補強された壁、高い天井を支える巨大な柱、そういう人工的なものが多く存在するこの空間はとても広く、さらに坑道とは別方向から光が差し込んでいる。


 坑道に入って、随分と経つがまだ陽は落ちていないようだ。


「竜、ここにいたな。それで、この穴を開けて外に出た」


 イングリッドが、天井部分に開いた大穴を指さす。俺たちが降りてきた穴とは違う、大きさも方角も全く違うその穴は、まっすぐに地上へと向かっているようだ。


「竜の身体が、ここにあったということか」


 俺の独り言に、イングリッドが周囲を眺めながら頷く。


 ジェズゥが、警戒を口にした。


「嫌な臭いがする……なにかいるぞ」


 空間の奥から、その臭いは漂ってきている。


 俺は、相手が何かわかった。


 空間は右に曲がりながら続いていて、まだ見えない先にそいつはいるのだろう。


 姿は見えないが、存在はわかる。


 これまで会ってきた同種よりも、大きくて危険なんだろうと想像がつく……。


 焦げた臭い、硫黄……そして徐々に空間の温度があがっているような感覚。


 イングリッドが、忌まわしいその種を口にする。


炎魔人ヴァルラグだ」


 そう。


 炎魔人ヴァルラグがいる。


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