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赤い悪魔と呼ばれる竜殺し  作者: ビーグル犬のぽん太
赤い悪魔と魔王の子
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ファンディ

 城塞都市ファンディ。


 もともとは、西方大陸の開拓民が鉄鉱山の開発をしようとこの地に住みついたのが始まりと聞く。


 それから住民たちの中で貧富の差が生まれ、支配する者とされる者に別れ、支配層が貴族化し、最も力ある家が王家を名乗り……ファンディとその周辺を支配する都市国家を形成するに至った。


 このファンディの成り立ちは、西方大陸北部に点在する都市国家たちとそう違うものではない。いくつもの都市国家は、それぞれに支配地を定め、お互いに協力する時もあれば争ったが、激しい戦乱というものではなかったそうだ。しかし、これを変えたのはゴート共和国による西方大陸進出と、それに対抗すべく行われたギュレンシュタイン皇国の西方大陸への干渉だ。


 そして現在、ファンディはゴート共和国の支援を失ったうえに、ギュレンシュタインの支援を受ける複数の都市国家と対立中で非常にピリピリとした雰囲気だ。


 竜の巣まで鉱山を掘り進めていたのも、戦いのために鉄を得ようと頑張ったんだろうなと思うと、嘆かわしいというよりも気の毒に感じたのは、弱者が強者に対抗する姿を俺は立派だと思うからだ。


 だからファンディに、恨みや怒りはない。


 竜を解放しやがって、なんてことも思わない。彼らとて、竜がそこにいたなら、掘り進めることはしなかっただろう。昔の人は、竜がいたことを知っていたかもしれないが、俺たち人間は、語り継がれていたとしても、それは神話やおとぎ話と理解して事実ではないと思い込み、信じて語り継ぐことを忘れる。


 いくつもの農場に囲まれた城壁都市を前方に眺めながら歩く俺は、こんなことを考えながらのんびりと歩く。


 ここで疲れても仕方ないと思う。


 皆も、それぞれに楽な速度で歩くので、俺たちの隊列は長く伸びてダラダラとしたものだけど、最後尾の俺が慌てないし、先頭のジュウベエが急いでいないので問題はなかった。


「エリオット!」


 前方で、ゼミロが俺を呼ぶ。


 手をあげて、聞こえているぞと応えると彼が大きな声を出す。


「都市に入る前に! 検問がある! 前に来て傭兵だと説明してくれ!」

「わかった!」


 傭兵なら、戦争中だし歓迎されるだろう。


 俺は歩みを速めた。




 -Elliott-




「で、全員が傭兵なんか?」

「俺、イングリッド、レイミアはイシュクロン王国で傭兵登録をしている。確認をしてもらえば、時間はかかるが間違いないとわかるだろう。他は荷物持ち、測量、食事係、通訳などなど支援員だ」


 城門の前で、兵士たちを前に俺たちは堂々と整列するも、兵士長は信用ならんという目で俺の頭から足までを舐めるように見ながら口を開く。


「ま、間諜なら堂々としてないだろうし、お前みたいな若造には務まらんだろう」


 ……見た目は若いが、人格はとっても大人なんだぞ、俺は!


 兵士長は、俺たちに行けという身振りをしながら言う。


「傭兵組合はないが、城に行けば募集はしているからな」


 会釈をして進み、城門をくぐったところで異国の風情たっぷりな市街地に新鮮さを覚えた。家々は青一色で、中央の城らしく巨大な建物だけが白い。そして俺たちが進む道路は全て石材の舗装がされており道路中央には排水用の溝が走っている。


 道行く人々は移民の末裔らしく、血が混じり合っているせいで美男美女が多い。これが原因で、西方大陸人の奴隷は愛妾として高く取引されると聞いたが、無理もないだろうと思ってしまった。


「エリオット、城に行くのか?」


 イングリッドの問いに、俺は苦笑を返して後ろの皆へ言う。


「鉱山には明日の朝、入ろう。今は午前だが、食料や装備を整えていると日暮れになる」

「でも、資金がありませんよ」


 レイミアの指摘に、俺は腕輪を左手から外す。それを見て、イングリッドもイヤリングを耳から外す。


「この腕輪は古代ラーグ時代の逸品だ。高く売れる」


 こういう時のために、高価な装飾品をつける。旅に出る前、ゴートで得た竜退治の報酬を装飾品に変えて船に乗り込んだのだが、大正解だった。


「わたしもこれを売ろう。昔、エリオットに買ってもらったのだ」

「お前、それを売るな」

「こういう時のために貴金属があるのだ」

「……」


 複雑だ……。


 そのイヤリング、前世の俺がプレゼントしたものだ……。


「オーモンド、現金化してほしい」


 イングリッドは容赦なくイヤリングをオーモンドに手渡す……俺も、腕輪を差し出した。


「確かに預かる。現金化して食料と装備を手分けして手配するが、装備は何を用意する? みたところ、武器はあるだろ?」

「鉱山の中に入る。お前ら、武器は剣より弩がいいだろ……あと、火薬もいる。食料最優先。イングリッドがガンガンに戦うと、食料と水がすぐになくなるからな」

「おう、いっぱい頼む」


 イングリッドが目を輝かる横で、レイミアが遠慮がちに口を開く。


「あの……わたしに少し現金をもらえませんか?」

「現金? どうして?」


 俺の問いに、彼女は俯く。


 オーモンドや船員たちが、首をかしげる中でイングリッドが「ああ!」と大きな声を出した。


「そうか。生理用品ほしいよな!」

「ちょ! そういうことを大きな声で!」

「オーモンド、現金を分けてやってくれ。買ってもらうのは抵抗があるのだ」


 レイミアが顔を真っ赤にして恥ずかしがっている……。


 イングリッド……旅慣れしているお前と彼女は違うんだよ……。


 俺たちは宿をとり、準備をオーモンド達に任せた俺にレイミアが尋ねる。


「彼らを信用するのはいいと思いますが、全て預けて大丈夫ですか?」

「お釣りは彼らの報酬でいいさ。彼らもタダ働きは嫌だろ」

「……なるほど。でも、あれだけではいくらにもならないのでは?」

「俺の腕輪、竜退治の報酬を装飾品にしたものだから結構な額になるだろう。オーモンドたちなら、ちゃんとした額で取引するだろうし大丈夫だ。それにイングリッドのイヤリング、本物のエメラルドで大粒だから高かった……」

「……オシャレでしてたわけじゃないんですね?」

「まだベルトにもある」


 俺がベルトにはめこんだ宝石をレイミアに見せると、目を丸くさせていた。


「イングリッドもまだ持っているのですか?」

「ああ、イヤリングよりも高いものは多分、隠してる。あいつは旅に慣れていて、俺と出会う前は一人でとても長い旅をしていた……万が一の時に現金化できるものを身につけるのは彼女にとっては旅に出る準備のひとつだし、俺だってそうだ」

「わたしは何も考えてなくて……」

「当然だ。これまで神殿にいたんだから……誰だって初めてのことを完璧にはできないよ」

「……それで、ちょっと相談が……イングリッドが言ってくれたので思い切って言います……」

「月のものが近いのか?」

「……そうです」

「影響でるか?」

「わからないので不安です。これまで、月のものが始まっているのに旅や戦いをしたことがないので……」


 俺は受付を見て、鍵を受け取って俺たちへと振り返ったイングリッドを手招く。


「どうしたぁ?」

「イングリッド、レイミアが月のものが近いそうだ。影響が出るかどうか、これまで経験したことないそうでわからない。どうするべきだと思う?」


 彼女は頷くと、レイミアの肩をポンと叩く。


「一度、経験してみればいい。それで次からはどうするか、判断がつくだろう。大丈夫、わたしやエリオット、オーモンドやトレント、皆がいるから何かあっても助けられる。任せるのだ」


 レイミアが、安堵の表情となり、微笑んだ。


「そうですね。ありがとう、イングリッド」

「大丈夫、わたしもエリオットも、二度と仲間を失いたくないから、無茶はしないのだ。な? エリオット」


 俺にそう言ったイングリッドの目は、真剣だった。


「ああ、その通りだ。レイミア、任せてくれ」


 俺も、二度と仲間を失いたくないと思う。




 -Elliott-




 ファンディに到着した日の翌朝。


 西方大陸に上陸をしてから十日後の今日。


 俺たちはファンディの市街地西側にある鉱山入り口を前に、最後の確認をおこなう。


 オーモンドたちが用意してくれた荷物は、欲しいものが全てそろっていた。食料もたっぷりと!


 彼らはお釣りを返してくれたが、そのままつき返すと笑顔で受け取ってくれた。けっこうな額だったけど、それをケチって彼らの信頼を失うのは馬鹿なことだ。彼らはきっと、お釣りを返すことで俺を試したのだと思う。


 なんせ、現役の海賊だ……たまたま連絡船の仕事を請けていただけで、それはこの時期、儲かるからだ。その彼らは万が一の時、金払いの悪い奴はさっさと見捨てるだろう。


 俺とイングリッド、レイミアの三人は戦えば彼らに勝つだろうが、彼らがいないと旅に支障がでる。


 荷物を抱えて戦うこともできない……。


「エリオット、斥候は俺とジュウベエがする。あんたらはいざという時のために体調万全で頼むぜ」


 ジェズゥがそう言うと、ジュウベエと共に鉱山へと入る。


 竜が出たということで、すでに閉鎖されているが、入り口の封鎖柵をぶっ壊して中に入った。


 鉱山入り口は広いが、奥へと進む一本道は次第に細くなり、天井も低くなっていく。それでも大きな鉱山だけあり、トロッコの線路が中央を走る通路は、人二人が横に並ぶだけの幅はあった。


 岩壁には天井を支える柱がいくつも立てられて、水を捨てる穴が通路の端にいくつか空いている。


 通路はふくらんだり細まったりしながら、奥まで続いていた。なだらかな下り坂で、左方向にゆるやかに曲がっている。途中、側道がいくつもあるが、俺もイングリッドも本道を進むことに迷いがない。


 レイミアの魔法が、かなり前方まで闇を払ってくれていた。


 エジルとゼミロが荷物持ちを担当し、俺たち三人が進むすぐ後ろを歩く。そして最後尾には、オーモンドとトレントがつく。この二人は帰り道がわからなくならないように、印をつけて、地図を作ってと重要な任務を担当してくれている。


「準備をしながら、街の中で聞き込みをしたんです」


 ゼミロがそう言い、エジルも頷く。


「竜が出た後、鉱山から脱出できた鉱員はその前の半数程度で……生存者がまだ内部に取り残されているかもしれないそうですが、竜の眷属も出ているらしく、彼らが生きていると考える者はファンディにはいないそうですよ」

「化け物退治はお手の物だから任せろ」


 俺の言葉に、二人が笑う。


 レイミアがここで、前方からジュウベエが後退してくる様子を見て声をあげた。


「異変があったのかもしれません」


 イングリッドが、俺の左手にちょいと触れた。


 さあ、行こうという意味だとわかっている。


 護る者サリウドの柄に触れると、指先にかかる感触から自分の調子がいいとわかった。


「前方、化け物、群れ、多数」


 ジュウベエの報告に、俺たちは加速する。


 俺、イングリッド、レイミアが前に出て、先頭で前方に弩をかまえて待機するジェズゥに声をかけた。


「後退しろ」

「了解」


 彼が慣れた所作で後退する横を、疾走して先頭に出た俺は、黒皮狩人ハンターの群れを正面にとらえる。


 俺たちの後方から、ジェズゥとジュウベエが放った弩の矢が、俺たちを追い越して黒皮狩人ハンターたちの先頭に立っていた一体に突き刺さる!


「ギャ!」


 化け物の悲鳴。


「突っ込む!」


 俺は叫んだ!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 挿絵があるとイメージが一気につかめますね。 かっけーしかわええ!
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