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赤い悪魔と呼ばれる竜殺し  作者: ビーグル犬のぽん太
赤い悪魔と魔王の子
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隧道での出会いと再会

 俺はこれまで、けっこうな冒険というか、探検というか、危険なことにも臆せず挑戦してきたと思っている。前世も含めると、世界でも五指に入る自信がある。だから、ミューレゲイトからディランタルのことを聞かされ、その縄張りを通らないと港町がある大陸北部へ行くことができないとわかった時、その隧道でたくさんの戦いが待っているんだろうと思っていた。


 現在。


 その隧道の中にいるが……戦いなど、まったく起きる気配がない。


 幅十ノートほど、高さ五ノートほどの隧道はまっすぐに伸びているのが、先の先までわかるほど明るいのだ。


 ……魔法の光が、闇を払っている。


「エリオット! 見てみろ! ミケだぞぉ」

「イングリッド、駄目だ。連れていけないんだから」

「見てください! あちらには子犬がいます! 可愛い!」

「レイミア、駄目だ。飼えないんだから」


 女性二人がメロメロになるのも無理はない……隧道内には、犬、猫たちがたくさんいたのである! それもかなり人馴れしており、愛嬌をふりまいてくる!


 俺もやばい! 嫌いなわけじゃないんだ! どっちかっていうと好きなんだ!


「っはくしょい! っはくしょっい!」

「オーモンド、大丈夫か?」


 俺の問いに答えたのは、くしゃみを連発する船長ではなく、航海士のトレントだ。


「船長、猫が駄目なんですよ。猫好きなのに、猫に近づくと鼻水とくしゃみがとまらなくなるそうです」


 知ってる!


 アレルギーだ! それは猫アレルギーというやつだ!


 気の毒に……。


「っくしょい! しかし、っくしょい! こいつらはどうして? っくしょ! っくしょい! 毛の艶もいいし世話をされてますっしょい!」

「イングリッド、ハンカチある?」

「ある」


 イングリッドからハンカチを受け取ったオーモンドが、鼻と口をハンカチで覆う。


 俺たちは犬や猫にまとわりつかれながら、隧道の中を先へと歩いている……。


 トレントが言う。


「ディランタルのペットなのでは? ほら……犬や猫が好きだとか」

「……ありえる」


 ここで、レイミアが尻尾を振る黒茶の毛並が可愛らしい犬を抱き上げた時、その声が隧道の奥から聞こえてきた。


「その子は甘噛みするから気をつけろ」

「え?」


 レイミアが硬直し、俺は武器をかまえようとしたが飛びついてきた大きな犬のせいで武器を持つことができない!


 オーモンドもトレントも、他の船員たちも慌てて戦う準備を始めるが、猫、猫、犬、犬、鳥、犬、猫……たくさんの動物に囲まれて思うように動けなかった!


 戦えるか!


「驚かせたのなら謝る。僕に戦う意思はないんだ」


「ディランタルか!?」


 俺が問うた時、相手はいつの間にか、俺たちから十ノートほど前方に立っていた。


 ……女? 声は男だったから、こいつではない?


「僕がディランタルだ」


 美女はそう答えた……。


 黒く長い髪は手入れがいき届いていて艶がある。そして雪のように白い肌……大きな二重の目と長い睫、整った鼻筋、細い顎……喉仏……男だ。胸はおそらく入れ物をして膨らませている? シャツの上に上着は人から奪ったものだろうか……ゆったりとしたスカートは脹脛まであり、靴はヒールが高いブーツだ。


 彼? は美しい笑みを見せてしゃがむと、猫や犬たちにまとわりつかれて声をあげて笑う。そして俺たちを見上げるように眺めると、口を開いた。


「僕は何もしないから、通過するならどうぞ」

「……本当にディランタル?」


 信じられないという顔のイングリッドが尋ねると、彼は頷く。


「うん、そうだよ」

「魔王の?」


 レイミアの問いに、彼は照れたように頬を指でかいた。


「う……ん。一応……だけど、長生きしてるうちに、ていうか死ねないんだけど、僕よりも強い魔族が死んでいって、残ったのが僕だから魔王になってるだけさ……今も序列は一番下だよ」


 現在、魔王と呼ばれている存在は三体。


 東方大陸のローデシア自治区で魔族をまとめるガルガンティア。


 居場所はわからないが、存在していると言われるエーデルワイズ。


 そして、目の前のディランタル……。


 魔王が、大きな犬に顔を舐められて、慈しむ目で犬を見ている……。


 と……とにかく、通らせてくれるってんだから、さっさと通ろう!


「邪魔をして申し訳ない。すぐに行くから」


 俺がそう言うと、彼は口笛を吹いた。すると、犬や猫たちが、俺たちに道を譲ってくれる……。


 平和だ。


 この上ない平和な魔王だ……魔族の中でも最上位級の強さで、他の魔族を支配できるほどの力をもつ個体を魔王と呼ぶけど、彼もそうに違いないが争いを好むわけではないようだ。


 よかった。


 基本的に、魔族は好戦的だからな……ま、これも種族によるってことなんだろうな。


 犬や猫が道を譲ってくれたといっても、彼らは気まぐれでフラフラとまた近づいてくるから、蹴らないように気をつけて……。


「キャン!」

「あ、悪い!」


 後方で、船員が犬の尻尾を踏んだみたいだ。


「気をつけろ」


 俺が叱ると、その船員は足元で脅える犬と俺を交互に見て謝る。 


「すみません! ごめんよ?」


 船員が、犬を撫でようとした時だった。


 彼の身体が……一瞬で細切れにされたのだ!


 生命の残滓が飛び散りばらまかれ、壁面、天井、犬や猫たちを汚した。鳴き声をあげて逃げ出した動物たちと、呆気にとられて動けない船員たちは皆、死んだ船員の肉片と血を浴びて汚れている……。


「下等生物が……犬様の尻尾を踏んで泣かせやがって……」


 魔……魔王様の様子がおかしい……。


 ディランタルは長い髪を掴むと、黒髪がするりと……カツラか! あ……目が窪み、素顔が露わに……髑髏だ。


「こっちが親切にしてやってりゃいい気になりやがって! 家畜以下の分際で犬様を鳴かせた罪は死刑だ……お前らも同罪だ!」

「待て! 待て! 俺たちは戦いたいわけじゃない!」

「エリオット! コバシがやられた!」


 オーモンドがようやく状況を理解し叫んだ直後、イングリッドが俺達全員を防御魔法ディフェンシォで守った。半瞬後、ディランタルが放った突風が俺たちを襲うも、魔法は魔法で相殺される。


「エルフ! こいつらの味方をするか!?」

「もともとわたしはこいつらの味方だ!」


 イングリッドが叫び、レイミアが船員たちに叫ぶ。


「早く先に!」

「すまない!」

「行かせるか!」


 ディランタルは突如、その手に弓矢を持つと、俺たちへと魔法を放つと同時に矢を射った。


美神抱擁ヴィラズブレス!」


 奴が魔法の名前を声にするほどの高度な魔法は、古代魔法でさらに竜族御用達の危険なものだった! それでも俺は、イングリッドが守ってくれると信じて奴へと走る。射られた矢は俺をすり抜け、船員の悲鳴を生んだが今は根を断つほうが被害を抑えられると信じた。


 空間が淀み、俺たちは呼吸ができなくなる! しかし、イングリッドの防御魔法が完成し、再びディランタルの魔法は相殺される。


次元遮断ベルベットヴェルム


 イングリッドが高度な防御魔法を発動させた直後、レイミアが祈りを完成させる。


「――邪の者を滅す……智神の恩恵ブレス


 ディランタルは魔法を防がれ、舌打ちをしながら次の魔法発動と矢を撃つ予備動作に入る。それは本当にひと呼吸もない一瞬のことだが、レイミアの補助バフを受けた俺には十分だ。


 護る者サリウドを抜き放つと同時に一閃する!


 ディランタルは、バックスステップと同時に何か硬いもので俺の斬撃を防いだ。


 見ると、奴には尾が生えている……衣服に隠されていたようだ……スカートをはいていたのは、それを隠すためか……強いくせに、こういう細かい気遣いができる奴は面倒くさい。


 剣をかまえ、お互いに正対するも、奴は予備動作なしで火炎弾フレイムを俺にぶつけてきた!


 イングリッドの魔封盾スクトゥムが俺を守り、俺は前へと踏み込み斬撃を魔王にみまうも、ディランタルは尾で防ぎ、その動きを止めずにしならせると反撃カウンターの一閃をくらわせてきた。


 俺は剣で防いだ直後、俺の横をスっと駆け抜けたイングリッドが、剣で魔王の脇腹を狙う。


 うまい!


 だが、入ったはずの剣は弾かれた。


 イングリッドは内心の動揺を全くみせず、俺の横に後退する。それを助けるために火炎弾フレイムを三発、お返しとばかりにディランタルにぶつけると、奴も魔封盾スクトゥムで俺の攻撃魔法を防いだ。


「エリオット、あいつの身体、硬い」

「……骨だろ? 顔が髑髏になってるからな」

「なるほど……」


 イングリッドは、俺の左斜め後ろに立つと、右手で俺の左手にちょんと触れる。


 俺たちが、戦う時の合図は今も変わらない。


「エリオット、船員たちを守ります!」


 レイミアの声に、俺は無言で応える。いちいち振り返ると、あるいは声をあげたりすると、その一瞬で攻撃されるからだ。


 俺とイングリッドは、ディランタルを前に武器をかまえ、精神を研ぎ澄ませる。


 心拍数は少し高い……少しの緊張がある最高の状態。


 剣を握る手は、剣の重みが指に少しかかるくらいの感触を覚えている……俺は今日、調子がいいみたいだ。


 ん?


 ディランタルの顔が……元に戻った……いや、元に戻っていたのが再び偽装されたというべきか。


 理由は……俺たちと奴の中間……地面にチョコンと座る白い猫だ。


 お前! 天才か!?


 最高のタイミング!


 ズボニールの遣いは、ディランタルを一瞥する。


「他の人間ならいくらでも殺していいけど、こいつは許してあげてほしいんだ」


 猫……の言葉に納得はしていないけど、ここが収まるならそれでいい……。


 ディランタルは溜息をつき、俺と猫を交互に眺めて口を開く。


「君が入れ込んでいるのは珍しいね?」


 知り合い?


「ルキフェルに頼まれてるのさ……連絡役を」

「それだけで?」

「それだけさ……エリオット、このまま北のアメーリアに向かっても、船は出ないよ。言ったでしょ? 西方大陸で、竜と戦うことになるって」


 ……いっぱい質問したいことがあるんだが……。


 そわそわする俺の隣で、イングリッドが口を開いた。


「どういうことだ? 船が出ない理由はなんだ?」

「竜を退治しないと、船は出せないのさ……試しにアメーリアに行けばいい。欠航してるから」

「わかるように説明してほしい」


 猫は、彼女の願いを聞き入れて、前足を舐めながら話してくれる。


「都市国家フェンディの鉱山地下で、眠っていた竜がいたのを人が起こした。その眷属が大陸周辺の海域で自由を得ている。君たちも船を破壊されただろ?」


 ……出発前に言ってくれ!


「だから、先にそちらに向かえと伝えようと思ったら、ディランタルと喧嘩になってるから止めたんだよ」


 猫、ありがとうと言いたいけど、なにか複雑なのは仕方ないだろ?


 ここで、ディランタルが口を開く。


「エーデルワイズ、この喧嘩は彼らが悪い」

「そうだね。それは間違いないよ。この世界でだいたいのことは人が悪いのさ……でも、エリオットだけは許してあげてよ。彼には悪竜退治をしてもらわないといけないんだから」


 エーデルワイズ……という魔王の名前で呼ばれた猫は、そう言うと目を細め、消えるようにいなくなっていた。

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