俺もそう祈ってる!
最高だぁ……。
温泉……いい!
身体を洗うだけじゃなくて、たっぷりのお湯につかるってのがいいんだ! それをこの世界の奴らはわかってない! かなり損してるぞ! この点だけは、ゴート共和国を認める!
そして、温泉を出てからの冷たいお水が最高なんだよなぁ……。
ミューレゲイトの集落から少し離れた森の中。
岩場にこの温泉がある。
森の中に湯が沸いていて、それだけでは熱いからと、近くの小川から水をひき、湯と水が合流する溜まり場を温泉にしたミューレゲイトは天才だ!
身体を隅々まで石鹸であらい、温泉に腰までつかるとまさに楽園だ!
岩影から、声が聞こえてきた。
イングリッド、レイミア、他の連中も身体を洗いにやってきたみたいだ。
「エリオット、いるのかぁ?」
イングリッドだ。
「おう、先に入ってる」
「お前は本当にお風呂が好きだなぁ! 一緒に入るぞ」
「おお! 最高だぞ!」
顔を湯で洗い、空を見上げると見事な夕焼けだ!
風呂入りながらの景色は、どんなものでも風情があると思う!
イングリッドの声が聞こえる。
「レイミア、来い。温泉だぞ」
「初めてです!」
「身体をちゃんと洗ってから入れよ」
「あ! あんたらが入るなら、後にしようか」
オーモンドの声だ。
「気にするな。皆で入ろう」
イングリッドはこういうの気にしない……旅に慣れているからだとわかるが複雑だ。
「わたしが気にします!」
レイミアの抗議で、申し訳ないが船長たちは後になった。
「レイミア、身体を洗ったらこっちに座れ」
イングリッドとレイミアの会話を背に考え事をする。
ミューレゲイトに言われた、竜化に関してだ。
「レイミア、もっとちゃんと洗え。ちゃんと石鹸をつけて、広げて――」
「ちょ! いちいち言わないでください」
神使は、つまり俺のように竜から竜の命の欠片を受け取った転生者ってことになるよな。
「レイミア、下の毛を剃ってあげよう。旅にそれは不潔だ」
「自分でします!」
「したことないんだろ? 教えてあげよう」
「ちょっと!」
「慣れてないと、大事なところを切っちゃうかもしれないぞ」
「……お願いします」
つまり、教皇猊下ももともとは竜騎士だった? それが、才能があっても愛されずに? そういえば、これまで会った神使は個体差がすごかった……問答無用で襲いかかってきた奴もいれば、教皇猊下のように人間社会で長きにわたって権力の座にいすわろうとする奴もいて……だけど、どれも共通しているのはきっと、召喚者の願いをきかないといけないことだったはず……。
「お前、着痩せするタイプなんだな? おっぱい、垂れないように背筋と胸筋をちゃんと――」
「言わないでください! ちゃんと稽古してます!」
「いいことだ。まず石鹸をよく泡立ててな……」
「はい」
「できたら、それをたっぷりと塗るんだ。あわあわをすくって、毛を包むよう――」
「だから大きな声で言わないでくださいよ! エリオットがいるんです!」
……俺がたとえば、神使になったとして、奴らの階位でいうとどれになるんだろうか?
「ちゃんと足を広げて剃刀を当てないと駄目だ。切れないじゃないか」
「そんなにじっと見なくてもいいじゃないですか?」
「見てないと教えられないからな……そう、ゆっくりだぞ」
「はい……こうですか?」
「そうそう。上手だ」
「脇の処理をするよりも難しいですね」
「そうなんだ。でも、脇も股間も毛の処理をしておかないと長旅の時、不衛生になるからな」
「なるほど」
「それに、排泄する余裕ない状況の時、そのまんましないといけない場合もある。毛あるなしで、病気になるかならないか、とっても重要なんだぞ」
才能のレベルで、神使になった際の階位に影響があるのか? それはつまり、教皇猊下のようなこともできるほどに?
「排泄してから出発すれば大丈夫じゃないんですか?」
「ダンジョンの中に一日、入ることだってある。この前みたいに、鉱山の奥に入って……追いかけ回された時、おしっこをのんびりとできるか?」
「できません……」
「我慢する? それはもう集中が途切れて戦いに支障がでる。汚い話だけど、わたし達は戦士だから、尿意を覚えたらさっさと出してしまうことが大事なんだ……大きいほうはわたしもまだ無理だけど!」
「あはははは!」
気になるんだよ……ったく!
「傭兵、戦士に男ばかりなのは、こういうことも関係している。あいつら、立ったままできるからな! 卑怯だ。でも、そいつらと同じ舞台に立たないといけない。口ばっかりの女になるなよ」
「勉強になります!」
「お前、キレイな色してるな」
「ちょ! そんなこと言います!?」
「もうちょっと、性器の近くまで剃らないと駄目だぞ」
「だから大きな声で!」
はっきり言って、集中できん!
俺は湯からあがり、下の毛を処理しているレイミアと、教えているイングリッドを見て口を開く。
「先にあがる」
「おう!」
「きゃ!」
片手をあげて返事をしたイングリッドと、慌てて身体を隠すレイミアに背を見せて脱衣所へと向かう俺は、背後で二人の会話を聞いた。
「エリオットも、ツルツルにしてただろ?」
「はい……ていうか、すごい」
「なにが?」
「……は! なんでもないです!」
……。
二人の会話のせいで大きくなっちまったんだよ!
-Elliott-
食事、お風呂、睡眠をとらせてもらった翌朝、俺はミューレゲイトから呼ばれて、地図を手渡された。
「これ、北に抜ける道だ。五か国半島に行くには、ギュレンシュタイン皇国領のアメーリアで船に乗る必要があるだろう」
「ありがとう。助かるよ……あんたが魔族と人間の共生を訴えた過去を、俺は神話で知って疑っていたけど、今は信じることができる」
「なに、その前は人を滅ぼそうとしていたんだ。我々はちょっとしたことがきっかけで、変わることができるのさ」
「ああ……」
魔王のくせに、いいこと言いやがる……。
「しかし、安全ではないよ。不死者の王のディランタルがいる隧道を通過しないといけないからね。彼は偏屈だから、見つからないようにしなさい」
……大地のへそは世界最大の迷宮だけど、今回はそこに入ることはなさそうだと思っていた。でも、北に行くには、ディランタルがいる隧道を通らないといけないのか……。
「でも、森を抜ければ北部に行けそうじゃないか? 地図を見ると……実際は違うのか?」
「その森、不死竜が大量にうろついている。ディランタルのペットだ……だから、森の地下……ドワーフたちが掘った大昔の炭鉱跡が今は隧道として使えるんだけど、そこを使わないと人間には無理だ。飛べないだろ?」
はい! 飛べません! 飛ぶのは卑怯だと常々、俺は言っている!
「ドワーフ達の炭鉱ってことは、下の層は居住層で、そこにディランタルが?」
「五層より下で暮らしているが、隧道内を散歩しているからな。わたしの名前を出せば、あるいは交渉できるかもしれないけど保証はできない。偏屈な奴だから……」
竜だけじゃなく、不死の王と戦わないといけない可能性があるなんて……。
いや! 待て。
ミューレゲイトだって、元魔王だ! それがこんなに親切なんだ。ディランタルだって長い年月で性格が変わっているかもしれない!
こんな期待を抱き、出発準備を整えた仲間のもとに合流した俺は、ディランタルの隧道を通ることと、希望的推測をイングリッドに話した。
彼女は呆れたように笑い、こう言う。
「偏屈で有名だ。一〇〇〇年前、世界で大暴れした魔王レイダーの息子が、さらにこじれて不死の王になっている時点でそうとうな変わり者だ。人嫌いで有名だし、エルフも敵だと思っているし……好きなものは猫と犬、兎、竜らしい」
猫……?
そういえば、教皇との連絡係……あれから訪ねてこないな。
あいつが、役立ちそうな気がしたのに。
「赤いの、出られるぞ」
オーモンドの声に、片手をあげて応えた俺は装備を確かめながら歩く。
ともかく、行くしかない。
見送りに出てくれていたオーガ達の先頭で、ミューレゲイトが手を振ってくれていた。
「竜にならないことを祈っているよ! クリムゾンディブロ!」
……ぜひ、お願いします。




