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赤い悪魔と呼ばれる竜殺し  作者: ビーグル犬のぽん太
赤い悪魔と滅びの竜
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記憶を取り戻す

 ゴート共和国を襲った竜は、滅びの竜ベナトナシュであると内外に発表された。


 そして、それを倒したのは俺であるとも……これは、ゾルダーリ家の売名に利用された自覚はあるが、捕まって牢獄送りになるよりはマシだと思い親父やカルロ兄さんに協力したのだ。


 ロマーナはまだまだ復興できない。


 瓦礫をどかせば死体が出てくるという有り様で、軍が作業をしているがあまりにも被害が甚大すぎて簡単にはいかない。


 俺にとってゴート共和国は生まれ育った国ではあるが、前世の記憶持ちなので複雑な感情がある。それでも悲惨な光景を前に心を痛めるのは、人として当たり前のことだと思った。


 ロマーナは市街地の半分以上が竜によって破壊され、周辺の宿場町にも被害がある。経済的損失は天文学的な数字となるが、それ以上に失われた命の多さは前代未聞といえた。


 判明しているだけで、十万人以上が行方不明なのだ。


 元老院議員にも多数、欠員が出ている。さらに、筆頭執政官のブロワノフ・ゲーリングと軍部の最高責任者であるムヒアリム・ベーグルスマン元帥の安否不明とあって、師団単位が個々に復興作業にあたることで混乱はしばらく続きそうな気配だ。


 そんな中、ロマーナを離れた俺はガリアンヌ神殿にレイミアを送り、大神官のロゼッタ・カミュと会った。


 ……。


 少女が、大神官?


 応接間で待っていた俺たちの前に、その少女が現れた時の感想だ……。


「よくお越しくださいました。ディアブゥロッソ……いえ、クリムゾンディブロとお呼びしたほうがいい?」

「お好きなように……ゴート語で呼ばれるのは慣れていませんが」

「ロゼッタ・カミュです。貴女がフォーディ族の?」

「イングリーンウッディザハフォーディ……イングリッドと呼んでくれ」

「ようこそ、イングリッド。レイミアは貴方たちのお供をさせてもらうことでよい経験を積むことができました」


 彼女はそこで頭上をあおぎ、なにかを囁くと俺をまっすぐに見る。


「エリオット……その名を持つ二人目の竜騎士ドレイグ

「……あんた、俺を知ってるのか?」


 思わず身構えたが、少女は微笑みを絶やさずに頷くと、俺たちに着席を促し、自ら先に腰掛けた。


 長方形の卓を挟み、俺とイングリッドの正面に座るロゼッタは、神官兵が飲み物を用意する間、一言も発しない。


 温かいコーヒーが用意されて、俺はひさしぶりの香りに頬をほころばせた。


 ロゼッタがここで、口を開く。


「ガリアンヌから聞いています。わたしの役目は、この世界でエリオットの記憶を呼び起こすこと」


 なかなか……痛いことを言う女の子だと苦笑しつつも、それが本当ならありがたいと思う。


「智慧の神の声が聞こえると?」


 イングリッドの問いに、ロゼッタは真面目な顔で頷くと、口を開いた。


「ええ。わたしはもともと……カナダのトロントにいました。エリオット……貴方なら、わかるわよね?」


 は? なんだ……痛い!


 頭痛が……。


 それも、過去一の強烈なやつが!


 カップを落としてコーヒーをぶちまけても、それを詫びる余裕などない俺は頭を抱えて苦しむことしかできない。痛みはすさまじく、内側から外へと脳みそが飛び出すんではないかと思うくらいの激痛と、絶えず空気を求める肺のおかげで声も出せない!


「エリオット、レヒトの呪いで苦しいのね? わたしと違って、貴方はこの世界を二度目……そんな魂、他にはないわ」

「おい! エリオットに何をした? やめろ」

「イングリッド、貴方もわかっているはず……彼がただの戦士ではないことを……彼の魂が、ただ転生をして現れたものではないことを」

「だけど……思いだせないように呪われていることを、思い出させる必要があるのか!?」

「ガリアンヌは言っている。エリオットが竜騎士ドレイグにならなければ、神格の竜は倒せないと」

「竜を? ガリアンヌも竜だろう!? 竜が竜を倒せと言うのか!?」

「竜の法を破った者は滅せられる必要がある。だけどガリアンヌは刑の執行官ではない。執行官であるべき者が今回、竜の法を破っているの……それを罰するのは、そのものの命の欠片を継ぐ存在……資格あるもの……エリオットしかいないの」

「だけど! こんなに苦しんで! エリオット! エリオット!」

「エリオット、思い出して。貴方なら思い出せる」

「やめてくれ……エリオットが死んじゃう!」

「大丈夫、これは必要なことなの」

「やめてく――」


 うわぁあああああああああああ!




 -Elliott-




「宮部課長、どうしました?」

「え?」


 え?


 あれ?


 俺は……居眠りしてたんか!?


 なさけない!


 会議室では、退席しようと書類やノートパソコンを片付ける社員たちがごそごそと動いている。


 俺は隣の花山君へ誤魔化すような笑みを返して、「なんでもない。考え事していただけ」と答えて、自分のノートパソコンを抱えて立った。


 なんだ?


 あれ?


 違和感がある。


 会議室を出て、オフィスへと戻ると働く社員たちの中に、目立つその子が立っていた。


 フロアの真ん中……皆が電話をしたり、パソコンに向かうなか、その子は俺をじっと見つめて立っている。


 おそろしく美形の女の子。


 赤い髪の、赤い目……どこかで会ったような……思い出せない……その子は裸で、隠すそぶりもなく、俺を見ていた。


 誰も、彼女を見ていない。


 なんだ?


 どういう……こと?


「エリオット」


 名前を呼ばれて、その子へと近づく。


 途中、部下の木村君が俺に話しかけてきた。


「課長、ジンバブエの鉱山で事故らしくて……部長が捜してますよ」

「あ? ああ……すぐに行くよ」

「エリオット」


 なんだよ!


 忙しいんだ……ったく。


 俺は、変態女へと近づきながら周囲の社員たちに言う。


「おい、この子は誰だ? いつからここにいる?」

「わたしは、ずっとここにいるよ」


 頭おかしいな、こいつ。


 俺はその子の前にたち、上着を脱いで羽織らせた。


 女性社員に、警備室へ連れて行ってもらおう。


「エリオット、約束したよね?」

「約束? メールで送ってもらえる? 口約束はしないんで」

「お前は、わたしと約束をしたよ」

「テンペスト、あとにしてくれよ。仕事中なんだ」


 そうだ、この子はテンペストだ。


「わたしは、どんどんとおかしくなっているんだ。お願いだ……早く会いに来て」

「おかしくなっている? どういう――」


 バツン! とモニターの電源を落としたように視界が真っ暗となり、俺は真っ暗な空間にポツンと立つ。


 なんだ?


 停電?


 て……ん?


 クラクションの音? バイクのエンジン音……。


 視力が回復したように、パっとその光景が目に入る。


 この街並み……流れる風景はロンドンか……バス? そうだ。帰宅してたんだっけ。


 前の座席から、身を乗り出すように振り向いたのはテンペストだった。


「エリオット」

「また、お前か……悪竜になったら倒すって約束なら、ちゃんと守るから安心してくれ」

「本当か?」

「ああ……明日、フライトなんだ。ブルキナファソに出張……うんざりだよ。それが終わったらちゃんと五か国半島ファイブペニンシュラに行くから」

「……それだと、遅いよ」

「遅い?」

「わたしは……わたしは早くお前に倒してもらわないと……もう限界だ……またたくさんの人を殺めてしまうかもしれない」

「無茶言うなよ……忙しいんだ」

「エリオット、わたしの竜騎士ドレイグ! わたしを見て! わたしを見てよ!」

「テンペスト、暴れるな」


 ちょっと、誰か手を貸して……痛い! 無茶苦茶に殴りかかってきて……他の乗客ども、ど無視かよ!


「落ち着け、テンペスト、落ち着いて」

「うえーん!」


 本気泣き!


 困った……。


「わかった。わかったよ……でも、出張、誰に……リチャードに頼むか。スーツを奢らされるかな……」


 バツン! と暗闇になった。


 なんだ?


 俺はどうなっている?


「エリオット」


 声だけが聞こえる。


「テンペスト、わかってる。お前に会いに行く」

「その声、やはり好きだな。よいよい、お前もいろいろあるのだろ? 人間」

「テンペスト……」

「ガリアンヌの巫女が、繋げてくれたようだ。ひさしぶりだ。元気だったか?」

「ぼちぼち……そちらは、悪竜になったと噂で聞いたけど」

「正確には、悪竜になりかけている。肉体がな……わたしの制止をふりきって出て行ってしまった」

「……ベナトナシュと同じか」

「あの子に会ったのか?」

「ああ、倒した」

「そうか……お前に倒されたのであれば幸せだっただろう」

「幸せ……なのか?」

「バルボーザに選ばれた魂だからな……わたしたちはお前のような魂はとても好きだよ。だから、わたしもお前を好きだ。お前になら、倒されたいと思うから」

「……肉体と魂は、別々の存在なのか?」

「お前たちの世界で語られる神話は、ある意味で正しい。竜と神……いうなれば、魂は神、肉体は竜だ」

「……だから、同一」

「そうだ。ガリアンヌは珍しく肉体を持たない竜だ。魂も形を持たない。しかし、宿主を介して世界に影響を与えることができるが、宿る相手には条件がある。それは、この世界の者でありながら、違う世界の者であること……わたしたちの命の欠片を扱える資格と、その条件は同じなのだ」

「だから、ロゼッタは俺と同じ地球から連れてこられた?」

「思いだしたか? エリオット」

「……俺は、日本人で、宮部優という名前で……会社勤めをしていた。あの日、バスに乗ってて……」

「あの日、お前はバルボーザに見つけられた。我が子は、この世界がわたしたちのせいでおかしくなる未来を見ていた……だから、お前という魂を連れてきた」

「どうして、俺?」

「それはわからない。偶然かもしれない。そうではないかもしれない。もしかすると、わたしと同じ理由かもしれない」

「どういう? 理由?」

「前にも言ったろ? わたしたちは、好きか嫌いかで決める。バルボーザも、お前が好きなのかも……その魂の色が……発する音が……温かみが……好きなのかもしれない」

「……テンペスト、少し時間をくれ。移動に時間がかかるんだ」

「待ってるよ、人間……エリオット……わたしの竜騎士ドレイグ


 バツン! と、視力が戻った。


「エリオット!」


 イングリッドが俺に抱きつく。


 俺は、彼女を抱きしめた時、ベッドで寝ていたと気付いた。


 ロゼッタが、ベッドの横で俺を見ている。


「ロゼッタ……思い出した」

「そう? よかった。ガリアンヌも喜んでいるわ」

「あんたの本名は? 俺は、ユウ・ミヤベ」

「ゾーイ・レイ・キャンベル」


 二人で微笑みあう。


 イングリッドが、俺たちを見て唇をとがらせると、俺の頬をつねった。


 痛い!

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