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赤い悪魔と呼ばれる竜殺し  作者: ビーグル犬のぽん太
赤い悪魔と滅びの竜
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そういえば、風呂が好きだったんだ……

 これまで、こいつらが地底をうろうろとしていたのだと思うとうんざりすると同時に、鉱山で働く奴らはよく無事でいられたよなと感心する。


 牛頭魔人ミノタウルスを倒してから、地上に向かうまでに何度も化け物たちと遭遇し、そのたびに戦いを強いられている? 挑んでいるからだ。


 愚痴ると、イングリッドが苦笑した。


「竜の魂を持っているから、寄ってくるんだ。たとえばエリオットたち人間が……そうだな、それこそ神が近くに降臨したと知れば、これはどうしても会いたいと思ってそこに行くだろう? でも、神を邪悪な存在が拉致してどこかに連れて行こうとしている……エリオットならすぐに剣を抜くだろうな」

「俺をあいつらと一緒にするな」


 イングリッドが笑い、チーズの塊を齧りながら前方へと氷槍バラスを放つ。


 俺たちへと接近していた魔手インデが、悲鳴をあげて倒れた。


「……ガリアンヌに捧げます。智神への供物ベルベディーン


 レイミアが神聖魔法を発動させ、魔手インデの群れがバタバタと倒れる。それはまるで魂を抜かれたように、という形容がふさわしい光景で、改めて彼女の優秀さを知ることになった。


 洞窟から、鉱山へと風景が変化してきたところで、前方には化け物たちが現れなくなったが、後ろから不気味な唸り声が俺たちを追いかけてきている。


「エリオット様、坑道を爆破して塞ぎますか?」


 ハビエルの問いに、逡巡する。


 塞ぐのはいいが、竜の魂を元の位置に戻す必要が出た場合はどうする? 破壊して本当に正解か? 


 最後尾のハビエルが、追っ手が放った風刃波ベントス防御魔法ディフェンシォで防ぎ続けていて、そこにイングリッドが加勢する。彼がいてくれて助かるわ、本当に……イングリッドと俺が前に集中できていたからなぁ。


 あと、レイミアの神聖魔法……雑魚なら戦うまでもなく倒してしまうほどの強さで、さすが代表の代理を務めるだけのことはあるなと頼もしい。


 坑道に出ても、化け物たちは追ってくるが、通路は狭く、俺たちに有利だ。でかいやつらは進めなくなり、途中でつっかえて後ろでギャーギャーと騒ぎ始めていた。


 馬鹿どもめ……。


 距離を離す。


 どれくらいの時間が経過したのか……歩き、戦い、走り、戦い……途中で少し休んで……いちいちズボンをおろす暇がないから歩きながら小便して……風呂……風呂に入りたい……? 痛い! イタタ!


「エリオット?」


 後ろのレイミアが、俺が止まったものだから顔を覗きこんでくる。


「イングリッド! エリオットが!」

「頭痛持ちだ。気にするな!」


 最後尾で、ハビエルを手伝っていたイングリッドの返答だったが、レイミアは俺の頭を優しく撫でながら神言ヴァイスを唱える。


「その苦しみが和らぎますように……」


 何と言っているのか、俺にはわからなかったが、痛みが薄れた。


 同時に、記憶を取り戻す。


 風呂……こんなにも風呂に入りたいと願ったことがこれまでなかった……だから、忘れていた?


 俺は、風呂が大好きだった。それは、毎日のように風呂に入ることが当たり前の暮らしをどこかでしていたからだ……その俺にとって、現在の俺が生きる環境は、ばっちぃ……。


 風呂……風呂に入りたい!


「ハビエル」


 俺が後ろに声をかけると、最後尾を守る必要がなくなった二人が俺とレイミアの場所までやって来るところだった。


「どうしました?」

「屋敷、今は無人だよな?」

「……一個小隊が私たちの支援目的で残っているはずです。建物が無事であればですが……マズかったですか?」

「いや、頼みがあるんだ」

「なんでしょう?」

「これが終わったら、屋敷の風呂! 入らせてくれ!」


 ハビエルが笑う。


「エリオット様……若様はゾルダーリ家の男子であられるので――」

「勘当されてる」

「……表向き、そうしないとお館様がまずい立場になりましたからね……風呂の件、承知しました」


 ここで、安全圏で俺たちを待っていたレオの姿が見える。


 彼は着替え、食事、水を用意してくれていた。


 鉱山の男たちが、労働中に坑道内部で休む空間を使わせてもらう。


 俺は、濡れて気持ち悪い下着とズボンを脱いで新しい下着をはく。隣ではイングリッドも同じく着替えをおこなっていたが、レイミアはもじもじとしていた……。


 だよね。


 わかるよ。


「着替えないのか?」


 イングリッドの問いに、赤面してうつむくレイミア。


 堂々と、スッポンポンになっているイングリッドは、ハビエルとレオが背を見せてくれていることを示して続ける。


「ノロノロしていたら、着替えられなくてオシッコで濡れた下着のままで歩くことになる。それとも、大きいの出たか?」

「出てません! ああ! もう!」


 勢いよく鎖帷子を脱いだレイミアが、ポンポンと服を脱ぎ始めた。


 俺は背を向けたまま、自分の防具を装備する。


「レイミア、下の毛は剃ったほうがいいぞ」

「な! ここで声に出して言うことですか!?」

「こういう時に濡れて不衛生になる。剃ってあげよう」

「後で! 今はいらないです!」


 二人の会話のせいで、緊張がとけてしまった……。




 -Elliott-




 坑道から外に出ると、夜になっていた。


 美しい星空を見上げ、次に地上を見ると真っ暗であることに悲しみを覚える。


 ガカの村には、もう人々の暮らしはないのだ。


 ロマーナはどうなっているのだろうか?


 レオによれば、俺たちは丸一日、鉱山に入っていたらしい。


 ハビエルの部下たちが、ガカの村跡地にやって来ていて、エリーンもいた。人数は三人で、分隊規模で俺たちのために新しい馬、装備を運んで来てくれたところだ。


 新品の剣の中から、一本を選ぶ。いちいち研ぐ時間が惜しいし、もともと俺の剣じゃない。


 レオは、彼女らと交代して離れていく。


「交代で休憩を取らないとぶっ倒れますからね」


 ハビエルが言い、彼が三人に細かな指示を出すのを聞きながら、盾を選んだ。


 剣二本は竜相手には向かない。


 長剣一本と片手剣、円形の盾を選ぶ。


「いつでも風呂に入ることができるように準備しておいてくれ」


 ハビエルの指示が聞こえる。


 やった!


 屋敷、無事なんだな。


 準備を終え、俺は彼らに尋ねた。


「ロマーナの様子はどうだ?」


 エリーンが肩をすくめる。


「ひどいもんです。各地に派遣されていた軍が集結して対応していますが……竜一匹にいいようにやられています」

「被害は?」

「把握できていませんよ……」


 それもそうか……。


 分隊の男性兵士が、俺に尋ねる。


「エリオット様は……ゾルダーリ家にお戻りになられないのです?」

「……国や家のことが大事なのはわかるけど、俺はそれよりも大事な目的があるんだ。待たせている人がいる……いや、竜がいる」

「竜?」

「ああ、いろいろとあってね……そうだ、ハビエル。ベナトナシュはどうだ?」


 俺は、彼から緑玉を受け取る。拳におさまる大きさの石は、あの時のように話しかけてこない。


「静かなものです。私は嫌われているのかと思いましたよ」


 ハビエルの冗談に笑ったところで、イングリッドとレイミアも装備を新調し終えた。


「急ぎましょう。時間がたてばそれだけ人が死にます」


 エリーンが言い、俺たちは馬に乗った。




 -Elliott-




 ロマーナ……。


 中央大陸最大の都市で、過去において世界で最も栄えたこともある。人口も百万人を超える規模だったそこが、遠目にも明らかに異常事態であるとわかった。


 幾本もの黒煙が空へとあがり、炎はあちこちで街を焼いている。


 市街地の外に近いゾルダーリ家の屋敷や周囲の住宅は破壊を免れていたが、多くの家屋は軍に接収されていた。


 道路を馬で駆け抜けようとすると、何度も軍の部隊に止められる。


「ここから先は危険だ! 戻れ!」


 制する兵士への対応は、ハビエルがしてくれた。


「ゾルダーリ家の者だ! 竜退治に関する密命を受けている!」

「! お通りください!」


 こういうやり取りを三度、繰り返してようやく中心地へと入ったが、華やかだった街並みも、巨大だった建造物も、全てが破壊され、炎に焼かれていた。そして、それを齎した化け物が、ボルツ宮跡地に佇んでいた。


 眠っているように動かない。


 俺たちは馬を降りて、俺とイングリッドを前衛にボルツ宮へと向かう。竜がでかいから近いと勘違いしてしまいそうだ……徒歩だと一時間ほどかかるだろう。


 体調……いいわけがない。疲労と軽傷で状態は悪いが、万全の時に戦えるなんてことのほうが珍しいと諦めた。それに、不調である時でも勝たないと本当に強いとはいえない。


 問題は……俺よりもレイミアだ。たしかに能力と才能は間違いないけど、これだけの連戦は初めてだろう。休憩や食事を途中でとっているとはいえ、ずっと動きっぱなしと言えるし、馬を乗り替えながらの強行軍だ。


「レイミア、神聖魔法、あとどれくらい使える?」

「正直に話しますと……あと二回……大きいのであればあと二回です。だましだましやってたんですが……さすがにこれだけぶっ続けなのは初めてで」

「いや、初めてでこれだけできるのはすごいと思う」


 褒めると、彼女は照れたように俯く。


「イングリッド、お前はどうだ? 体調は?」

「疲れているけど、なんとか……ハビエルは?」

「私も大きな魔法は厳しいですね……なんとか、魂が身体を制御してくれることを祈りますよ」


 俺は懐から石を取り出す。


「おい、身体に近いぞ」

『……おかしい。もしかして、わたしの身体を傷つけた者がいたのではありませんか?』


 ……俺たちだ。


「俺たちだ。二度、倒した」

『……わたしの身体は、滅ぶとさらに強力になって復活する呪いをかけています』

「呪いを解除すればいいのか?」

『解除しようとする者を殺す呪いもかけています』

「……ご丁寧なことで」

『まさか、二度も倒されるとは思っていなかったのですが……大きいと制御に苦労します。ここからでは思念を送っても反応がありません』

「もっと近づけばいいか?」

『近づいてください。あと、弱らせてほしい。殺しては駄目です。殺すとまたさらに強力な肉体となって復活します』


 勘弁してよ……簡単にいうけどさ、弱らせるの大変よ?


 皆にも、竜の言葉は頭の中に聞こえてきたらしく、げんなりとした三人の顔があった……。


 しかたない。


 やりますか……。

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― 新着の感想 ―
[一言] こりゃげんなりするわ。 しかしなかなか良い組み合わせの呪いだなー。 魂が敵じゃなくてよかったよ。
[一言] おお、入浴欲求の呪いが復活したか 前前世から引きずってるよねぇ
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