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赤い悪魔と呼ばれる竜殺し  作者: ビーグル犬のぽん太
赤い悪魔と滅びの竜
41/55

もうひとつの戦い……

 一月十五日。


 昼前にボルツァーノへ入った俺たちは、組合建物跡地で俺たちを待っていたレオと合流した。彼は俺たちのために物資と人手を集めてくれようと努力してくれたが、市街地の状況をみれば無理な話であったと問わずとも理解できる。


 人々がいた街は、瓦礫の山と化し、その下にはおびただしい死が隠れているものと推測できる。


 レオはそれでも、少ないながら食料を調達してくれていた。


「飲食店だったらしい店の跡地に地下庫がありまして、そこに大丈夫そうなものがあったので」


 塩漬け豚肉、じゃがいも、ほうれん草、ブロッコリーなどなどを革袋につめ、井戸で汲んだ水を沸騰させ、冷ましてから水筒へと注いでいく。そして鍛冶屋跡地で研ぎ石をさがし、自分達で手入れをした俺たちは、ガカの町へと向かう。


 荷物持ちはレオが担当してくれることになった。


 俺は断ったが、ハビエルが彼に命じ、彼も応じたので依頼することにしている。


 レイミアがガカへの道中、周囲の視線を散らしながら口を開いた。


「多くの……邪気を感じます。おそらく……竜によって殺された者たちは、その毒気にやられて屍鬼グールになっているのかもしれません」

「イングリッド、そういうことはあるのか?」


 俺の問いに、俺の隣で馬を走らせる彼女は曖昧な返事をした。


「さぁ……ベナトナシュはそういう能力はなかったと思う」

「強くなったという可能性は?」


 最後尾のハビエルが問い、イングリッドは首を傾げた。


「竜は完成された個体だから……成長はしない。成長とは、我々のように未完成のものがするものだから……いや、もしかしたら」

「もしかしたら?」


 イングリッドは、前方に見えてきたガカの廃墟を睨みつつ言う。


「成長ではなく、進化をしたのかもしれない……」


 成長ではなく、進化……。


 それは、生物が環境を生き抜くために、より優れたものへ変化するものであるなら、ベナトナシュはどのような変化をしたのだろう?


 レイミアが鋭い声を発する。


「いけない! 周囲は邪気だらけです。わたしたちを認識して、接近しています」

「……エリオット、竜の命の欠片ティアドロップを持っているな?」


 イングリッドの問いに、俺は意図を理解した。


「なるほどね……あいつはこれに反応してるな?」

「どういうことです?」


 ハビエルの問いに、俺は懐から赤い宝石を取り出し、レイミアとハビエルに見せる。


「これは、竜の命の欠片ティアドロップ……聖石レリックともいう。いろんな疑問質問はまたにしてくれ。とにかく、この石は一対でふたつ存在するが、ひとつはカルロ兄さんが奪っていった」

「……エリオット様、存知です。竜王の城跡地へ、私も同行しましたので」


 ハビエルも、行ったのか?


「俺がカルロ兄さんと対峙した時、お前はいたか?」

「私は……ヴァイオレッタ様の護衛としてロマーナからその場所へと行き、その宝石を回収し撤収しています。その際、私の腹心が宝石に取り込まれたので、カルロ様の判断でその者を残して去りました……」


 俺は、自分の推理が正しかったというのに喜べない。


「どうして残した? お前たちなら、あの程度は倒せたじゃないのか?」

「カルロ様は、じきにあの化け物が封印を突破して地上に出るだろうと……それそのものが、イシュクロン王国に混乱を齎すだろうということで……お許しください、イングリッド様」

「気にするな、その時は敵で、今は仲間なんだ、わたしたちは……」


 彼女は笑みを浮かべてそう言ったが、一度、言葉をとめると表情を厳しいものにして続ける。


「……だけど、明日はどうかな? 密命を受けているのなら、さっさとはいたほうが楽だぞ? わたしもエリオットも、お前のことを好きだ」


 彼女の言で、最後尾のハビエルは苦笑する。


「いえ、密命は本当にありませんが……悩みはあります。それは、レオもでしょう。私たちはいつかどこかで、エリオット様と敵対するかも……いえ、する確率が高いです。だから、苦しいんですよ」

「俺もだよ、ハビエル」

「終わりましたか!? 神聖魔法で仕掛けても? 数が多いので先手必勝です」


 俺たちの会話が終わるのを見計らって、レイミアが言った。


「頼む」


 俺が応じると、彼女は馬を両脚の締め付けだけで操ると、両手を優雅に動かして印をきる。そしてその呪文はアロセルのものとは違うことを示した。


 神聖魔法も、神によって違うのだと改めて知ることができる。


「……自らの道を切り開く力と智慧を示し請う。我の道を照らしたまえ! 智神の判定ガリアンヌリヒト!」


 レイミアの身体が光に包まれた直後、その光は周囲へと放射された。


 しかし俺は眩しさを感じない。


 不安も恐怖もなかった。


 それは、イングリッドやハビエル、レオも同じだったようだ。


 神聖魔法が発動された後、俺たちが馬を駆けさせる馬蹄の律動が耳に届く。


 悲鳴や絶叫などない。


 俺は、レイミアの隣に馬をつけて尋ねた。


「どうなった!?」

「終わりました。わたしたちに迫っていた邪気を全て払いましたので安全です」

「……お前、すごいな」


 おもわず声に出すと、彼女は前を眺めながらも顔を赤くして口を開く。


「……で、してください」

「なに?」

「あとで……で、をしてください」

「聞こえないんだ」

「あとで! 頭をなでなでしてください!」

「……わかった」


 なでなでくらいなら、お安い御用だ……イテ!


 イングリッドに、脇腹を小突かれてしまった……。




 -Elliott-




 ガカ鉱山入り口に到着し、俺に頭をなでなでされたレイミアがフンフン! と興奮しやる気をだして神聖魔法を発動させる。


「その加護により闇を払いたまえ。弱くとも立ち向かう我らのために力を授けたまえ……智神の道標グラマティキィーグ


 坑道の中が、俺たちが立つ場所から奥に向かって明るくなっていく。まるで日中の移動とも呼べるほど視界がよくなり、松明を用意しようとしていたレオが目を丸くしていた。


 松明は片手がふさがるんだよね……。


「私が行きましょう。エリオット様、イングリッド様、レイミア様の順にどうぞ……レオは遅れてついてこい」


 ハビエルが斥候として、最初に坑道へと入る。


 狭い通路もしばらく歩けば広くなり、坑道から自然の洞窟へと風景が変化してきた。


 例の、見えない化け物と戦った場所までやって来たところで一度休み、食事をして再度、奥へと進む。


「この先に、ベナトナシュかと思われた奴がいたんだ」


 俺の言葉に、ハビエルが頷き、その空間を注意深く観察する。


「なにもいませんね」

「まぁ、奴は倒したからな」

「待ってください」


 レイミアが最後尾で、俺たちを止めた。


「何かを感じます」

「また屍鬼グールか?」


 イングリッドの問いに、彼女はかぶりをふる。


「いえ、もっと邪悪な……あの……あのあたりから」


 俺は、一体目のベナトナシュが座っていた骸の山をレイミアが示していると理解した。


「ベナトナシュに喰われた人の骸があったんだ」

「しかし、今はありませんね」


 ハビエル……そうなんだよね。だけどあの血の痕は、あそこに大量にあったと示していると思うんだよ……わかってるよ。骸が化け物になったか、何かを呼び寄せたっていう展開だろ? 


 わかったわかった……はぁ。


「イングリッド、あの骸を餌に、化け物がいるらしい」

「……襲われる前に、先手必勝するか」


 彼女はそこで、俺を魔封盾スクトゥムで守った。当然、ハビエルやレイミアもされているものと理解する。


 一瞬で魔法の盾に守られたレイミアが驚いた直後、イングリッドは呪文の詠唱を必要としない技量を発揮した。


凍王降臨アイスキュロスファブレガス


 瞬く間に、空間が絶対零度に支配される。


 俺たちは、姿を迷彩で隠していた化け物が数体、ひそんでいたことを彼らの氷漬けで知ることになった。


「す……すごいです」


 レイミアの感想に、イングリッドが笑う。


「これくらい、余裕なのだ……エリオット」

「なんだ?」

「頭ナデナデしてくれ」


 ……かわいい、と思った。

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