表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い悪魔と呼ばれる竜殺し  作者: ビーグル犬のぽん太
赤い悪魔と滅びの竜
40/55

ガリアンヌ神殿

 智慧の神ガリアンヌは、主神アロセルとは双子だそうだ。


 つまり、神と竜は同じであるわけで、アロセル……金竜エルミラの双子か、あるいはそれに近い存在がガリアンヌであるなら、どの竜になるのだろう?


 イングリッドも知らないと言った。


「ガリアンヌはこれまでずっと表に出たことがないんだ……どんな姿をしているのかをわたしたちは知らない。ただ、彼……雄だと言われているが、彼が定めた法を竜たちは守っているというのは事実らしい」

「法?」

「そうだ。そして、金竜エルミラに匹敵する竜だから、他の竜たちもそれに従っている」


 ガリアンヌ神殿へと到着した俺たちは、表参道の奥に見える表門へと歩いている。参道の左右には宿や鍛冶、厩舎、飲食店などが軒を連ねていて、多くの信徒で賑わっている。


 アロセル教団のように組織化されていないにも関わらず、こうして賑わっているのは知らなかった。


 だから改めて、この国にガリアンヌを祀る神殿の総本山……本社ほんやしろと呼ばれるこの神殿があると知って苦笑を禁じえない。ロマーナの近くにあるのに、この国で暮らしていた時は全くの無関心だったのだから。


 いや、正確には明けの明星ルキフェルに出てくる神様くらいの認識でしかなかった。


 ただ、共和国では商神ゴルゴズのほうが人気が高く、主神アロセル商神ゴルゴズがいわば二大勢力なので無理もないかもしれない。


 歩きながら、俺はガリアンヌが定めたという法に関してをイングリッドに尋ねた。


「どんな法なんだ?」

「わからない。竜だけが知っている……」


 ここでハビエルが口を挟んだ。


「その法に従うってことは、人間を食べるなということは定めていないようですね」


 お前、いいことに気付いた。


「そうだな……あくまでも竜にとって重要なことに関してを定めてあるのだと思う」


 イングリッドが頷き、表門の脇に設営されている兵の詰所を指さした。


「あそこだな?」

「ああ。俺が話そう」


 それにしても、参拝客が多い……いや、こんな時だからこそ、神にすがっているのかもしれない。


 神殿の兵……神官兵たちも本格的に武装していて物々しい雰囲気だ。


 普通の参拝客なら、このまま中へと進めるが、俺たちは武器を預けるわけにはいかない。


「失礼、エリオットと申します。実は……」


 俺が名乗った途端、神官兵が笑みを見せた。


「エリオット様、用件は窺っております。ゾルダーリ家の方が中でお待ちです。神殿事務室へお進みください」


 すばらしい対応。


 俺は、これまで話がわからない奴らを相手に事情の説明をする機会が多かったせいで、このように丁寧な物腰で接してもらうとそれだけで感動できるようになっている!


 石板が敷き詰められた歩道を進み、正面の大神殿の右手にある二階建ての建物へと入ったところで、お使いをしてくれたハビエルの部下が長椅子に座っているのを見つける。


 彼が俺たちに気付いた。


「エリオット様、こちらです」


 ……ゾルダーリ家の息子だから、そう扱われるのは当然なのかもしれない。


 でも、彼らは俺と戦えと命じられると、どうするんだろう?


 いや、戦うだろうな。


 ハビエルの部下だから……プロだもの。


 部下が事務室の扉を叩き、「到着されました」と伝えると、中から神官兵が……女が現れた。


 すごい美人……黒髪で黒い目、彫刻のように整った顔立ちは緊張を強いられる。イングリッドの美しさは花や陽だまりといえるけど、彼女のそれは澄んだ泉のようで、他者を寄せ付けない雰囲気があった。俺よりも年上だろうけど……この人が責任者?


「レイミア・ライカーンと申します。ガリアンヌに命じられ、戦乙女ヴァルキリーとして敵と戦う役目を仰せつかっております。カミュ様の代理として、貴方たちの手伝いをいたしましょう」


 カミュ様?


「大神官です」


 部下の男が小声で教えてくれた。


 天才か!?


「エリオット、彼はハビエル、彼女がイングリッドだ」


 それから俺は、ハビエルの部下を見た。


「えっと……」

「レオです」

「君はどうする?」


 彼はハビエルをちらりと見て、頷きを返されると口を開く。


「私はこのままボルツァーノへと向かい、食料などを準備してお待ちすることにします」

「頼む」

「はい。あと荷物を運ぶ後方支援の人を集めておきます……集まればいいのですが」


 レオはそのまま、俺たちに一礼をして離れていく。


 彼は天才だ。間違いない!


 レイミアが俺たちを眺めて口を開く。


「詳細を知りたい。詳しくは聞いていないのよ」

「俺から話そう……」


 ここで、背後のイングリッドからその音が聞こえた。


 ぐぅきゅるるるるぅうううううう……。


 肩越しに彼女を見ると、申し訳ないという顔を見せてうつむく……。


 俺はレイミアに尋ねる。


「……食事できるところはあるか?」

「わたしたちが使う食堂でもいいでしょうか?」

「ああ、ありがとう」


 俺たちは、食堂に向かった。




 -Elliott-



 白身魚の揚げ物、兎肉のシチュー、燻製豚肉を焼いたもの、黒パン、根菜を湯通ししたサラダを前に、食事をしながら事情を説明したところで、レイミアは大きく頷いた。


「理解しました。貴方たちはベナトナシュという人を喰う竜の本体……魂がその洞穴の奥にあると考え、そこに向かうのですね?」

「そうだ」

「今、地上で暴れている竜は肉体が操られているだけの状態なのですか?」


 俺はわからないのでイングリッドを見るも、彼女はフォークとスプーンを忙しく動かすことに必死だ……それでも、俺の視線をうけて何かを喋った。


「ふぁっふぉ! ぶぃぶぶぐむむむ……もぐもぐ」


 食べてからでいいから……。


 ハビエルが口を開く。


「そうだと思いますが、その肉体も本物ではないかもしれません……神格はないとはいえ、古い竜です。配下の者達を操っている可能性もあります」


 レイミアは水を飲むと、切れ長の目で俺を見た。


「このチームの長は貴方でいいでしょうか?」

「……そうだな。俺だ」

「わかりました。では、わたしも貴方の指揮下に入ります。神聖魔法での後方支援を主任務にします」


 ものわかりがよくて助かる。


「助かるよ。地下での戦い……連戦になるので神聖魔法の支援がないと無理なんだ」

「ええ、承知しています。本来であれば、神官兵の部隊でお供したほうがいいのですが、信徒たちがここに逃げ込んでいるので、彼らを守るために人数は割けないのです。もともと、戦うためにわたしたちがいるのではないので、人員はもう不足していますし……」

「いや、レイミアが参加してくれるのはとても助かる。カミュ様にお礼を申し上げたいのだけどご多忙なら諦める」

「今は……受け入れなどで慌ただしく……竜退治をした後、改めてご紹介いたします……その、実はわたしたちからもゾルダーリ家の方にお願いがあるのですが?」


 レイミアの言葉で、俺は「ああ」と声をもらしていた。


 なるほど……ガリアンヌ神殿大神官の代理を務めるほどの彼女が、俺たちに協力してくれる理由はそれかと思ったのだ。


 正義だけが理由ではないようだ。


 おそらく、ガリアンヌ神殿への寄付を望まれる?


 俺は相手をがっかりさせてしまう詫びで、先に口を開く。


「すまない。俺はゾルダーリ家でも厄介者で……クリムゾンディブロはご存知で?」

「クリムゾンディブロ……」


 レイミアが途端に、顔を真っ赤にした。


 なんだ?


 彼女はコクコクと頷く……どうした? 先ほどまでのできる女性っぽさは!? 


 レイミアが俯きながら言う。


「クリムゾンディブロ……ああ、最強の戦士と聞いています。一度でいいからお目にかかり……その魔法で焦がしてほしい」


 死んじゃうだろ……。


 ハビエルが、呆れたように俺を見ていた。


 俺は、自分が悪いわけじゃないと唇を尖らせたところで、喰い物を飲み込んだイングリッドが言う。


「エリオットが、そのクリムゾンディブロなのだ」

「……え?」


 レイミアが瞬きを繰り返す。


「クリムゾンディブロはエリオットだという名前だと、共和国では広まっているだろう?」


 イングリッドの問いに、レイミアはコクコクと頷きながら俺を見た。


「は……はははっはははい。でも、でもでもでもでも、まさかそのエリオット様だなんて……ああ! ガリアンヌ!」


 いきなり立ち上がったレイミアは、天を仰ぎながら叫ぶ。


「感謝します! 日々の務めもこの日のためにあったと思えます! ガリアンヌの恩恵に身が震えるほどの喜びを感じるわたしをお許しくださいぃ」


 えらいのが仲間になった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ