表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い悪魔と呼ばれる竜殺し  作者: ビーグル犬のぽん太
赤い悪魔と滅びの竜
39/55

しつこい敵は嫌われるぞ……

 俺が発動した明けの明星ルキフェルによって、ベナトナシュは人でいうなれば胸から下を失ったような死骸となって、頭から地面へと突っ込むように倒れる。


 頭を残した理由……。


「サリウドを……連れて帰りたいんだ」


 俺の言葉に、イングリッドが頷く。


 ハビエルが顔をしかめながら竜を眺めて、それから周囲を見渡した。


「瓦礫……死体……北方大陸のほうで復活したという竜はこれよりもひどいので?」

「ベナトナシュは俺たちで倒せた。だけど、その竜は倒せるかどうか……」

「……カルロ様は、竜を操ることができると仰ってましたが……本当にできるのでしょうか?」


 俺はハビエルに背を向けて、竜のでかい頭へと近づく。


 そういう難しい話は、後からにしたいと思った。


 イングリッドが目をはらしたまま、腕で頬の涙をぬぐって俺の隣に並ぶ。


 ベナトナシュの目は白く濁り、巨大な口は蜥蜴というよりも狼に似ているかもしれない。その牙に身体を貫かれたサリウドは、目を開けたまま動いていない。


 俺は竜の口を開けるのは不可能だと諦め、サリウドの頭部に手で触れる。


「亡骸を傷つけるのもどうかと思う……頭の毛をもらおうか?」


 イングリッドに問うと、彼女は頷き、膝をついてサリウドの頭部を両手で触れた。そして、優しく温めるように魔法を発動させた彼女によって、サリウドの頭部だけが氷から解放される。濡れた毛に触れると、冷たくて、硬くて、俺は瞼を閉じた。


 彼女が優しい声で言う。


「森の命に誓って、サリウドの一部を故郷に運ぶ」


 俺が彼女に短剣を貸した時、背後が賑やかになった。肩越しに見れば、ハビエルが俺をちらちらと見ながら、騎兵の集団へと手を振っている。


「竜を倒したところだ! まだ近づくな!」


 近づいてくる集団は彼の制止を無視した。


 ゴート共和国の騎兵小隊……ったく、お前らはロマーナで暴動相手に働いてろよ。


 隊長らしき男が言う。


「ハビエル卿、彼らは?」

「傭兵だ。我が国のために竜を退治してくれた」

「二人で? 馬鹿な……ロマーナの軍が壊滅した相手ですよ?」

「だが、事実だ。竜は死んでいる」

「お前ら! ……エルフ!?」


 サリウドの毛を切ったイングリッドが立った。そして、俺は彼女を守るように歩き、彼らから彼女を隠す。


「ハビエルの仲間だ。竜を倒したので去るところだ」


 俺の言葉に、隊長はかぶりをふった。


「エルフを黙って行かせるわけにはいかない。そもそも、傭兵がどうしてタダ働きをする? 誰の依頼だ?」

「あれは鉱山に出た竜の仲間だ。あちらを倒したが、仲間がまた出て来たから対処しただけに過ぎない」


 俺が隊長に事情を説明していると、背後のイングリッドが鋭い声を出す。


「エリオット! エリオット!」

「どうした?」


 振り返ると、竜の眼が俺たちを見ていた。


 は?


 頭だけで? 


「伏せろ!」


 俺は叫び、後ろに跳んだ。


 氷の礫を周囲に放つようにして氷漬けから脱出した竜の頭部が、サリウドの亡骸を吐き出して地面をのたうちまわる。そうしながら竜の頭部は形状を変えていき、妙齢の女性となった……。


 おい! どうやったら死んでくれる!?


 兵士たちは驚きのあまり動きことができず、ハビエルが素早く俺の隣に立つと、兵士たちに言う。


「さっさと逃げて、応援を呼んでこい」


 隊長が声もなく、こくこくと頷いて振り返る。しかし、彼は竜が放った光線に貫かれて宙に跳んだ。


 イングリッドが防御魔法ディフェンシォを発動させる。


「ΑΔΨΕΣΕ、ΔΛΞΓΩΣ」


 頭から生まれた女は、理解不能な言語を喋った。


「イングリッドわかるか?」

「わからん……」


 美しいが気が強そうな女……竜は足元にあったサリウドの亡骸を蹴飛ばす!


 絶対にぶっ殺す!


 それは、球を蹴るような動作で、見た目からは信じられない強さであると飛ばされたサリウドが俺たちに迫ることで理解できた。


 彼を受け止めた時、ハビエルが亡骸を屈み込んで躱しながら前へと滑り出る。同時に放っていた彼の一閃が、急接近していた竜の胴に入った!


 ハビエルが前に出て、俺たちはサリウドの亡骸を地面へと置く。イングリッドが風刃波ベントスを放ってハビエルを掩護した。


「早く逃げろ!」


 茫然としている兵士たちに叫ぶと、彼らは弾かれたように動きだした。


 ハビエルが竜の攻勢に押され始め、後退を始めたところで俺が前に出る。


 斬撃をくらわして接近し、女の顔面に肘打ちをいれたが、顔色ひとつ変えず膝蹴りをみまってきたので、身体をよじって躱した。そこに女の裏拳が迫り、俺は左腕をたたむようにして受け止めるも、衝撃で吹っ飛ばされて地面を転がる。


 馬鹿力!


 てか! 死ねよ! しつけぇよ! しつこい女はきらわれるぞ!


 奴が接近しようとした直後、イングリッドの雷帝矢アルトゥラがベナトナシュに直撃し、奴は黒焦げになって吹っ飛ぶと地面に倒れた。


 ……本当にもう死んでくれ。


 面倒だ……不死身みたいに復活するのは……。


 ……動いてる。


 ハビエルが光の矢を幾本も竜に撃ちこむことで動きを止め、イングリッドが火炎弾フレイムをぶっ放した。


 彼女が放つ火炎弾フレイムを見たのはひさしぶりだ……苦手と言っていたが、燃やして消炭にしてやるほうがいいと思ったのだろう。


 さすがのベナトナシュも、再生が追いつかず塵となっていく。


 ようやく……ようやくかよ。


 ベナトナシュの身体だったものが、はらはらと風に流されて散った後、俺はその場でへたり込んだ。


 イングリッドはサリウドの骸へとよろよろと近づくと、労わるように彼の顔を撫でる。


「エリオット様、人がまた大勢、こちらへ」


 ハビエルの声で、その方向を見るとロマーナの方角から大勢の人々がこちらへと向かってきている。


 皆……走っている。


 走っている?


 暴動から逃げてるんか?


 疲れた身体に鞭をうって立った俺は、十人ぐらいの逃げてくる集団の後ろに、さらに大勢の人がこちらへと走ってくるのを見て言葉を失う。


 立ち上がったイングリッドが、空を眺めて溜息をつくと、サリウドの亡骸を運ぼうとする。ハビエルが彼女を手伝い、二人はロマーナから離れるように歩き始めた。


「エリオット、殿しんがりを頼む」


 イングリッドの頼みに、俺はロマーナの方向を眺めたまま頷く。


 限界が近い……これ以上は戦えない。


 ロマーナの方向……逃げてくる人々は竜に追われていたのだ。


 最初に倒した奴、そして今、消炭にしてやった奴よりもデカいのが、ロマーナ上空で咆哮をあげた。




 -Elliott-




「ベナトナシュは三体いるのか?」


 俺の問いに、イングリッドは頭を抱えた。


「いるわけがない。だけど……どうして三体も? ベナトナシュを倒したと思ったら、それは別の竜だったということか? でも特徴が似ていて……」


 彼女はそこで言葉を止めて、ハビエルが掘った穴へと降りる。


「エリオット、降ろしてくれ」

「わかった」


 ロマーナから東へと逃げた俺たちは、名前も知らない森の中へと入り、サリウドを埋葬することにした。


 サリウドを穴へと降し、寝かせたところでイングリッドが祈る。


「来世でも会えますように……バルボーザの導きがわたしたちを繋げますように」


 俺とハビエルで土をかけ、穴を埋めた。


 俺たちが乗っていた馬たちは、訓練されたいい馬だけあって、俺たちが移動を始めるとついてきてくれた。そのおかげでサリウドを運ぶのが楽だったのである。彼らは少し離れたところで戦いを見守っていたようで、俺たちが移動を始めるとどこからともなく現れてくれていたのだ。


 サリウドを乗せていた馬の背に、荷物があったので助かっている。


 俺たちは着替え、たき火をして炎を囲んだ。


 サリウドが用意してくれていた食料を袋から出すと、俺とイングリッドが食べやすいように切り分けられていて……。


「美味しい……美味しいなぁ、エリオット」


 サラミを齧りパンを頬張るイングリッド……。


 泣きながら、食べている。


 ハビエルが俺たちを見て、おずおずと口を開いた。


「ベナトナシュという竜は、例えば倒されると復活するという呪いを自らにかけているのでは?」

「だとすると、倒した場所で復活するはずだ」


 イングリッドの回答に、俺も賛成だ。


 ここで、ハビエルの部下が現れて俺たちに一礼した。


「報告、ロマーナの竜が寝ました。瓦礫の上で今はおとなしくしています」

「……お館様は?」


 ハビエルの問いに、部下の男は俺を気にしつつ答えた。


「は……軽傷を負われましたがなんとかロマーナ脱出は成りました。ローゼンデールに向かっておられます」

「カルロ様は?」

「ご無事です。他、報告がございます。ボルツァーノが壊滅……鉱山は全て休山となりました」


 ハビエルは頭を抱えると、溜息をついた。


 気持ちはわかる。


 どれほどの損失かなど、計算したくもないだろう。


 ……ん?


 ボルツァーノ?


 俺は、ハビエルの部下に尋ねる。


「ボルツァーノは、竜にやられたのか?」

「は? ええ、そうです。例の鉱山から現れたと」


 俺がイングリッドを見た時、彼女も俺を見ていた。


「エリオット……もしかしたら、魂があの巣の奥にあるのかも」

「……教えてくれ」

「テンペストの神殿、覚えているよな?」


 もちろん。


 彼女は白菜に手を伸ばし、玉を抱えるとかぶりついた。


 ……エルフへの憧れを壊すエルフだよなぁ、ホントに。


「しゃくしゃく……竜を封印する際、肉体と魂は分ける。ベナトナシュは神格には及ばない竜だからとわたしは舐めていた……あいつも、魂は別……テンペストの神殿を例にすると、さらに奥だ。あいつは肉体だけが復活している状態……魂をなんとかしなければ、ベナトナシュは何度も現れる」

「肉体だけで、あんなに強いのですか?」


 ハビエルの声には、勘弁してくれという嘆きがたっぷりと含まれていた。


 イングリッドは、残念だがと苦笑し、口を開く。


「竜だからな……魂が離れたところにあって、肉体を遠隔で操っている。エリオット、鉱山に入ろう」

「また、地下へもぐることになるか……ハビエル、親父のところに行くか?」

「いえ、エリオット様について行きます。命じられておりますので」

「荷物持ちがいる、あと、神聖魔法を使える祓魔師か、聖女の知り合いはいるか?」

「残念ながら……ロマーナのアロセル教団支部は頼れないでしょう……ガリアンヌ神殿に頼んでみますか?」


 たしかに、ガリアンヌ神殿ならここから近い。


 宿場町から南へと移動すると、一日ほどの距離にある。


 大きな地下神殿で、そのさらに下には巨大な墳墓があると言われているが一般に公開はされていない。


「決まりだ。少し休んで、ガリアンヌ神殿に向かう」


 俺の言葉に、ハビエルの部下が遠慮がちに言う。


「あの……先に神殿に私が向かい、用件を伝えておきましょうか?」


 !!??


 天才か!?


「頼む」

「承知しました」


 いい奴だ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いいやつだ!
[一言] 白菜をまるっと行くのか流石
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ