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赤い悪魔と呼ばれる竜殺し  作者: ビーグル犬のぽん太
赤い悪魔と滅びの竜
35/55

ゾルダーリ邸

 ボルツァーノからロマーナへと帰還した俺たちは、ハビエルの案内でゾルダーリ邸に入った。前回と違って堂々と正面玄関から仲へと入った時、父親が待っていた。


 その顔を見て、動揺するも表情には出さなかった。


 老いた父を前に、四年という年月の価値が自分と父では違うのだと理解する。


 たったの四年だと思っていた俺は、四年も過ぎていたと感じているだろう父親に無言で一礼した。


 アレサンドロ・ゾルダーリは、無言で頷くと俺の後ろに立つイングリッドとサリウドを見て口を開く。


「アレサンドロ・ゾルダーリだ。彼の父親だ」


 イングリッドが一礼し名乗り、サリウドもそれにならった。


 応接室に通されて、家族ではなく客としてこの家に入ったのだと実感する。飛び出しておきながら、違和を感じる自分に苦笑した。


「どうした?」


 イングリッドに尋ねられ、なんでもないと答えたところで、応接室にカルロ兄さんが入った。そして、親父の隣に腰掛けると、俺たちは円卓を囲むように並ぶ。


「エリオットの兄、カルロだ」


 カルロ兄さんの名乗りに、イングリッド、サリウドの順で応じた。そうしてから運ばれてきた酒と軽食を前に、親父が俺に問う。


「過ぎたことはどうしようもない。今さらだが、お前がゾルダーリに還る気があるなら、全てを無かったことにする手はずは済んでいる。それともまだ、赤い悪魔ディアブゥロッソを続けたいか?」

「ゾルダーリ家に還る気はない。それよりも大事なことがある」

「イシュクロンを我が共和国から助けることがか?」

「いえ、テンペスト討伐……いや、バルボーザ復活阻止です」


 俺はカルロ兄さんを正面から見つめ、発言を続ける。


「兄さん、兄さんは竜王を復活させたいのか? あの城の跡地……あの時、兄さんと一緒にいた奴らと同じ服装をした人たちが地下で死んでいた。化け物もいた……イングリッド、見せてやってくれ」


 俺の言葉で、イングリッドが竜の命の欠片ティアドロップを二人に見せる。


 咄嗟に手を伸ばしたカルロ兄さんは、イングリッドに手首を掴まれてハっと動きを止めた。


 俺は、四年ぶりに父を呼ぶ。


「父上、兄さんたちが何を考えているのか……ご存知でしょうからあえて言いますが、竜は我々がどうこうできる相手じゃありません」


 カルロ兄さんが笑う。


「どうこうしようと言うのではない。俺たち――」

「黙れ」


 親父の短い命令に、カルロ兄さんは口を半開きにしたまま発言を中断した。


「エリオット、竜のことはどうでもいい。我が家に戻る気はあるか?」

「どうでもよくはありませんよ」


 俺の言に、親父はかぶりを振る。


「いざとなったら軍団を遣わして倒せばいいのだ」

「そんなもので倒せないから、イシュクロンはアロセル教団と協働で――」

「降臨させて息の根を止める……ガルディアンとカルロがそれをする。お前は竜の相手をしなくていい」


 俺は瞬きをした。


 隣のイングリッドを見ると、彼女は悲し気に微笑み、俯く。


「降臨させて、討つ?」


 俺の問いに、親父は頷く。


「うむ。エルフの犠牲で済む。おっと……気を悪くしないでくれ」


 親父がイングリッドに声をかけるも、彼女は無言だった。


 親父は、酒を杯に注ぎながら口を開く。


「何が言いたいかと言うと……竜のことでお前が何かをする必要はないということだ。それよりも、ゾルダーリ家に戻ってくれ」


 俺は断ることを決めているが、わざと悩むフリをする。


 断ったら、すぐに出ていかないといけなくなるし、最悪、戦いだ。


 しばらくは情報収集をしたい。


 それに、親父は嘘をついている。


 親父とカルロ兄さんの会話は、今の話とは全く内容が違うものと推測できるからだ。竜を倒すため? とっさについた嘘だろ? 


「考えさせてくれ。それに、いろいろと疲れた。休みたい」

「わかった。部屋を用意させているが、その前に風呂と食事をとれ」


 ひさしぶりに、手足を伸ばして湯につかるか。




 -Elliott-




 大きな風呂は、ゴート共和国では富の象徴とされるので、ゾルダーリ家の風呂も当然ながら広い。イングリッドがまず入り、俺とサリウドが彼女の後に入った。


「馬鹿デカイな」


 サリウドの感想に、俺も頷く。


 俺は身体を素早く洗い、プールのような浴槽へと入る。手足を伸ばし、段差を利用して座っているとサリウドが手で温度を確かめ、ゆっくりと、足さきから身長に湯へと身体を沈ませるのを見て笑った。


「風呂、苦手なのか?」

「苦手だ。だが、洞窟の中で汚れたしな……お前らと違って俺たちは毛が多いから大変だよ」

「たしかに……」


 サリウドが湯につかると、毛がぶわっと広がって不思議な生き物になった……。


 彼が俺を見て言う。


「なにも言うな」

「……ごめん」

「それはそうと、お前の親父さんの話はどう思う?」

「あれが本当ならまだマシだったけどな」

「……実際、どうして親父さんはお前を戻したのか? お前が掴んでいる情報だけ? 弱いだろ?」


 兄さんたちと母親が違うこと、親父が俺を跡継ぎにしたいこと、このふたつが理由だとしても、ゴート共和国にとって敵になってしまった息子をわざわざ呼び戻すか? という疑問はサリウドと同じく俺にもある。


 俺は湯で身体を温めながら、しばらく考えたが、見当もつかなかった。


 気が付けば、サリウドはさっさとあがっていて、俺は一人だった。


 風呂からあがり、さっぱりとして食堂にいくとでかいステーキを二枚重ねて食べているイングリッドを見つけた。


「おう、お先だ」

「……たくさん用意されていてよかったよ……あ、そういうことか」


 親父や兄さんは、ハーフエルフを囲っているからエルフが大食いであることを知っているんだ!


 そうだ……そのハーフはこの屋敷にいるはずだ。まずは居場所を探そう。


 俺はイングリッドの隣に腰掛け、サラダをボウルから皿へと取る。そして運ばれてきたステーキを食べ、ワインを飲みながら、どうやってアイリーン殿下と魔王アルフレッドの子供に関する情報を得ようかと悩んだ。


 もういちど、屋根裏の潜り込むか。


 それしかない。


 それであれば、俺たちがここで食事をしていると思っている今がいいな。


 俺は席をたち、半分ほど残ったステーキをイングリッドに差し出す。


「いいのか!?」


 目が輝かせながら、すでに手を伸ばして皿をたぐりよせる彼女を見て思わず笑った。


「ちょっと上に用だ」


 俺が天井を指で示すと、イングリッドは頷いたがもう目はステーキに注がれていた……。




 -Elliott-




 親父の書斎の天井裏。


 下で会話をしていた。


 声は、三人。


 親父、カルロ兄さん、ハビエルだ。


「しかしお館様、それでは約束を破ることになります」

「馬鹿者、お前はくだらぬ約束と我が家のどちらが大事かわかっているのか?」


 下は無言となった。


 約束? ハビエルがいう約束とは、俺と交わした事だろう。つまり、イングリッドとサリウドを客人として扱えというものだ。


 親父はそれを反故にすると?


「父上、ハビエルに賛成です。エリオットが屋敷に戻った今を利用したいお気持ちはわかりますが、逆にそれは危険と隣り合わせでもあります。二人を人質に取られたことで、逆にエリオットが攻撃的になれば父上が危ない」


 人質にとろうとしてるのか?


 二人とも、簡単に人質になるとは思えない……いや、イングリッドは美味しいものに吊られてしまう悪癖がある! あいつ、前世の時はそれであっさりと捕まっていたからな……心配だ。


 あのステーキ、俺も食べたが問題なかったから、まだ何かをするという動きには出てないのか……。


 甘いなぁ……俺だったら、応接室で茶を出して、睡眠薬を混ぜておくけどね。


「ともかく、ギュレンシュタインの馬鹿どもが頑なな今、出発ができんだろう? それならばエリオットの血筋を明らかにして愚民どもの愛国心を刺激してやるしかない。次の選挙は来年だ。このままでは勝てん」


 俺の血筋? 前世でもいろいろあったが、現世でも何かにまきこまれている……。


「それであれば、事情を話して堂々とお求めになられたら如何でしょうか? エリオット様は誠実に対応してくる者には聞く耳をもつ方です」


 ハビエル……こればかりは聞けないんだよ。


「父上、逆に、竜退治に同行させるとして、協力を取り付けるのは如何でしょう?」


 カルロ兄さん……それはここで聞いてなければ騙されてた! 聞いておいてよかった……。


「馬鹿者……竜を退治しては困るではないか。エリオットに何かあった場合、お前は責任をとれんだろうが」

「竜を利用するも、退治も同意語ですよ、ここでは……父上、ここはこちらの手の内を見たとエリオットが信じることが大事です。今のままでは信用しないでしょう」


 お前らをこれからも信用しないよ。


 ここで、ハビエルを兵士が呼びに来て、同時にカルロ兄さんも退室した。


 竜を退治するのと利用するのは同じこと?


 どういうことだろう……。


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