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赤い悪魔と呼ばれる竜殺し  作者: ビーグル犬のぽん太
赤い悪魔と滅びの竜
34/55

竜退治を終えて

 俺たちへと迫ってきたのは、ゴート共和国軍の騎兵小隊だった。


 ボルツァーノに駐屯している一個連隊のうち、騎兵十騎が斥候としてガカにやって来たのである。


 彼らは、ガカの方向で凄まじい火災が発生したと空を見て察知し、駆けに駆けてやって来たところ、町は灰燼と化し、生きている者も見当たらず、そこに俺たちがポツンと残っているから当然ながら怪しんだ……。


 人、エルフ、人狼の三人組だから。


 スケベな目でイングリッドを見る兵士を睨むと、そいつは舌なめずりをして俺を挑発しやがった……ムカついたが、ここはまず事情を隊長に話すべきだと思い、俺から説明する。


「ガカの鉱山が、竜の巣にぶちあたったのは知ってるだろ? 討伐隊は四人を残して壊滅した。俺たちは第二陣として入り、竜の巣まで行ったが、奴は外に飛び出して町を焼いたんだ」

「鉱山の竜が外に出た? お前らが倒した? 三人で? 馬鹿な!」


 小隊の隊長は俺たちを笑い、兵たちもニヤニヤとする。


「本当のことだ。ボルツァーノのギルドへ人が行ったから、確認してくれ」

「確認はするさ。だが、その前にお前らを取り調べる。竜を倒したくらいに強いなら、むざむざ捕まることはないよなぁ? エルフはとくに念入りに調べてやるからな!」


 兵たちが笑い声をあげた。


 なるほど……捕まることはないよな、確かに。


「エリオット、どうする?」


 イングリッドの問いに、俺は答えるよりも早く、魔法を発動させた。


 一瞬で発動した火炎弾フレイムが、隊長に直撃し、周囲の兵たちが悲鳴をあげて腰を抜かした。


 イングリッドが、「あーあ」と嘆き、サリウドが「戦闘馬鹿が……」と項垂れるも、彼女らの顔は嬉しそうだった。


 俺は逃げ惑う兵たちを氷槍バラスで串刺し、息の根をとめるも、一人だけを生かした。その男は、スケベな目でイングリッドを見ていた奴だ。


 少し回復したのに、魔法を連発したからまた疲れた……こいつらのせいだ。


 俺は、腰を抜かして俺を見上げるスケベの前に立つ。


 スケベが地面を這って逃げようとしたので、後ろから金玉を蹴ってやった。


「ぎゃ! ぐぅうううう!」


 股間をおさえて悶絶する男に馬乗りになったところで、イングリッドに止められる。


「やめとけ。馬を頂いてさっさと離れよう」

「こいつはお前をスケベな目で見ていた奴だ」

「そうか」


 イングリッドは頷くと、脅える男を見下ろして口を開く。


「謝ったら許してやるぞ?」

「悪かった! 俺が悪かった!」

「悪かった、は謝る言葉じゃないぞ?」


 イングリッドの言葉に、男が慌てて言い直す。


「ごめんなさい! ごめんなさい! もうしません!」


 俺はそいつから離れると、サリウドが馬を三頭、すでに頂いて俺たちへと近づいてきていた。


 俺は、よろよろと立ち上がる男に言う。


「鉱山に避難した奴らがいる」


 馬に乗り、ボルツァーノ方向へと馬首を巡らした。ギルドに行って、さっさと金をもらってロマーナに向かいたい。


 サリウドが、俺の隣に並ぶと手を伸ばして、肩を叩いてきた。


「どうした?」

「俺たちのために怒ってくれてありがとう」

「いちいち言うなよ、お犬さん」

「お! お前! この野郎!」


 サリウドが、本気で殴ってきた!


 イングリッドが笑う。


 俺は、馬を駆けさせて逃げた。




 -Elliott-




 ボルツァーノのギルドに入ると、イーサンたちがいた。彼らはガカでの出来事を報告している最中に、俺たちが現れたものだから驚いている。


「師匠! どうしたんですか?」


 イーサンの言葉に、ギルドの男が目を丸くした。


「イーサンの師匠がエルフ?」


 いろいろと説明が面倒だ。


「竜を倒した。金をくれ。現金で」

「あ? ああ……イーサンたちから聞いているから問題ないが、現金で大丈夫なのか?」

「さっさと移動したい。小切手もお断りだ」

「わかった」


 報酬は、一千万リブルを人数でわける! 四人と三人で合計七人で分けることになるが、割り切れないのでイーサンたちに言った。


「ちゃんと分けるから、端数はおまけしろ」

「兄さん、水くさいですよ。いちいち文句つけません。ていうか、師匠や兄さんのおかげですよ!」

「兄さん? イーサンのお兄さんが赤い悪魔?」


 いちいち説明するのが面倒なので、男の疑問は無視して現金を分けた。


 イングリッドが言う。


「イーサン、わたしたちはロマーナに向かう。そこで仕事がある」

「ついていきます」

「駄目だ」


 イングリッドは断りをいれた。


 あれ? と思っていると、彼女は発言を続ける。


「ただし、君たちに頼みたいことがある」


 イーサン、レイハルト、リリーが姿勢を正した。


「エリオットの剣を、取りに行ってもらいたい」


 俺の剣? ……イタタタタタ!


 痛い!


 頭が痛い!


 俺の剣……あー! 思い出した! 魔剣の森の姫君イングリッドだ!


 てか、覚えてろよ、俺……。


 てか、とっとと思い出していろよ……。


 イングリッドは、ギルドの男に銀貨一枚……千リブルを払うと、紙を二枚買って、ペンとインクを借りる。


 ちなみに、リブルとはゴート共和国の通貨単位で、一リブルは十二シリグというのが今の相場だ。銀や金、銅や鉛の含有量が、イシュクロン王国よりも共和国貨幣のほうが多いので価値に開きがある。


 つまり、彼女が払ったお金は高額で、それだけ紙が貴重なのだ。


「兄さんの剣とはどういうことですか?」


 イーサンの問いに、イングリッドは紙に地図を描き、説明文を記して口を開く。


「エリオットが使っていた剣……ちょっと事情があって隠している。細かいことは訊くな。説明が面倒だ」

「はい」

「また使う時が来たらと思って……知り合いに預けたんだ。急いでゴートに来たから、受け取りに行く暇がなかった」


 イングリッドは、もう一枚の紙にさらさらと手紙を書く。


 隣から覗きこみ、彼女が言う知り合いとは誰であるかわかった。


 五か国半島ファイブペニンシュラにあるリズ・バルティア連合王国の王家だ……。


 俺は頭痛に顔をしかめながら、イングリッドに問う。


「リュミドラに預けてたのか?」

「ああ……彼女と夫のエドワード殿にな……お前の葬儀に参列するためにわざわざ来てくれたんだ。形見分けじゃないけど、その時に預けた」

「葬儀に参列? 形見分け?」


 イーサンたちが疑問符を頭上に、大量に浮かべた表情で俺たちを見ている。


「細かいことは訊くな。頼む。イングリッドの使いだと言い、この手紙を渡せば、返してくれるはずだ」

「わかりました……」


 彼らも複雑だけど、俺も複雑だ……。


 俺が知る、リュミドラもエドワードもこの世にはいない。だけど、俺が知らない二人のことをイングリッドから聞き、心が温かくなる。


 あの二人……遠いのに、来てくれていたのか。


 そして、剣を預かってくれている……アブダルの子孫のように、彼らの子孫もまた、俺を助けてくれるのかと思うと、前世の俺の頑張りが、今に繋がっているように感じることができた。


 魂の輪は……途切れていないのだと思えた。




 -Elliott-




 イーサンたちの見送りを受けてロマーナへと向かう俺たちは、街道でようやく、待望のご対面を果たすことになった。


 前方から、騎兵に集団が旅人たちをどかして駆けてくるなと思っていると、懐かしい顔が先頭にあって気付いたのだ。


 俺の剣と魔法の師であるハビエル・マヌカロフだ。


 ハビエルは、五十手前の中年だけど鍛えた体躯は見事で、馬に乗っているだけなのに他を圧倒している。その彼が俺へと笑みを向けた。


「ぼっちゃん、お久しぶりです」

「その呼び方、やめてくれよ」

「強くなりましたね? 自然体なのに隙がない……お仲間で?」


 俺たちは街道のわきに馬を停めて、お互いに馬から降りて向かい合う。


 こちらは三人、あちらは十人。


 俺たちに戦う意思はないが、向こうはどうだろう? 得ている情報のままであってもらいたい。


「紹介する。俺の大事な人でイングリッドだ。彼は親友のサリウド」

「……エリオット様、小さい頃から変わった御方だと思っていましたが……」


 ハビエルは呆れたように俺を見るも、笑みを浮かべてイングリッド、サリウドの順に会釈をする。


「ハビエル・マヌカロフと申します」

「イングリッドだ」


 彼女は照れているようで、俺の足を蹴ってきた……。


 可愛い。


「お館様より、貴方を連れ戻すようにと仰せつかっております。乱暴な真似はしたくありません……馬鹿強くなった貴方に、そちらの姫君もまた恐ろしい腕前だと感じますゆえ……戦いとなるとここを行き交う旅人にも被害がでます。お父上は悪いようには致しませんでしょう。ご同行頂けますか?」


 ハビエルの言を受けて、俺は彼らを観察した。


 ハビエルの部下たちは皆、祈るような目で俺を見ている。


 彼の部下だけあって、俺たちの強さをわかっているから、戦いを望んでいないのだと察することができた。


「俺もハビエルと戦いたくはない。ひとつ、確認したい」


 俺は、ここだから訊けることを聞こうと思った。


「兄さんたち……いや、ガルディアン兄さんは俺を殺したいと思っているはずだけど、お前たちはガルディアン兄さんから密命を受けているわけではないな?」


 俺の問いに、ハビエルは項垂れると、問いを返した。


「ガルディアン様のお気持ちを、ご存知だったのですか?」

「嫌われている側は、嫌われているなとわかるもんだよ」

「私はアレサンドロ様に仕えておりますゆえ、ガルディアン様の部下ではありませぬ。よって、私が命令を受ける相手は、貴方のお父上だけです」

「わかった。信じる。ただし条件がある」

「何でしょう?」

「二人を客人として扱ってくれ……この国の人間が、どれだけの差別主義者であるかと連続して体験したからね……お前らもそうであるなら、問答無用で殺す」


 わざと殺気を放った。


 ハビエルは、その意味を理解し、俺の殺気に反応した部下たちを所作で制すると、一礼する。


「承知しました。私が責任をもって致します」

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