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赤い悪魔と呼ばれる竜殺し  作者: ビーグル犬のぽん太
赤い悪魔と竜の巫女
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剣をつくってもらう

 市街地南西……俺の部屋がある地域の職人街へと入る。馴染みの鍛冶屋はオークの夫婦がやっていて、ドワーフに教わったという技術は確かなものだった。


 子だくさんで、十人のチビたちがいる。


 建物へと入り、帳簿をつけていた主人のリムライに声をかけた。


「おっす。ただいま」

「おお、エリオット、おかえり」


 でかい椅子から立ち上がり、巨体をかがめて挨拶をしてくれた彼の肩をポンポンとして、剣を渡した。


 彼はそれをマジマジと見て、俺に言う。


「そろそろ、もっといい剣、作ったほうがいいぞ」

「そうか? ……けっこう乱暴に使ってしまっているからなぁ」

「いやいや、剣の寿命がというわけじゃない。あんたの力量に見合った剣を手に入れたほうがいいという意味だよ。師匠に相談してみようか? いい剣を作ってくれると思うけど?」

「そうだなぁ……でも、時間がかかるだろ?」

「仕事に行く前に頼んで、帰ってきて受け取ればいいよ」

「なるほど、頭いいな」

「よく言われる」


 二人で笑いあい、彼は帳簿が広げられた卓へと戻り、羊皮紙の一部をちぎって、ペンでさらさらと文字を書いた。


 彼らオークは、見た目は豚に似た頭部を持つ巨体だけど、話してみるといい奴が多い種族だ。そして仲間を大事にするし、無駄な殺生を嫌うが、戦うと決めた時は強い。ただ、男は繁殖に執着する欠点があり、サカってしまうと後先を考えずに交尾しようとする悪癖がある。しかしながら、これを馬鹿にできるほど人間だって理性が働く奴ばかりじゃない。


 傭兵をやっていると、最低な現場を目撃することは少なくないのだ。


 リムライが書いてくれた住所は、市街地北側の湖に近い街区のほうだった。


「ありがとう。行ってみるよ」

「うん、あ……これ、研ぎが終わるまでの替えの剣を渡しておくよ。明日には終えておくよ。昼にはできてると思うから」

「頼む」


 支払いを済ませ、手持ちの現金が少なくなったと思いながら鍛冶屋を出る。そして一度、家に戻って寝台の下に隠してある小箱を引っ張りだした。


 盗まれても困らない程度の現金を、ここにいつもいれてある。いちいち銀行にいくのも面倒だけど、大金を家に置いておくのは心配だ。家の鍵なんて、入ろうと思えば意味がないのだ。だから多くの人々は丈夫な鉄製の金庫を家に置くが、俺は銀行に預ける方法をとっている。というのも、現在の預金利率は戦時中で高いので、預けておくと勝手にお金が増えていくのである。


 銀行はきっと、イシュクロン王国の国債を購入しているに違いない。


 お金はグルグルと回っているよなぁと思いながら部屋を出て、教えられた住所へと徒歩で向かう。


 ロンディーヌはカペラ湖の南側に築かれた都市で、都市の南側は二重の城壁に囲まれている。市街地の規模は大きくないが、コンパクトにまとまっていて便利だ。人口は一万人ほどで、周辺の農場をふくめると二万人規模の都市圏となり、イシュクロン王国でも三番目に大きい。


 だから銀行、各職業組合、王国軍前線司令部などがそろっている。


 現在のロンディーヌ市長は、エルフ七氏族のひとつキュロン族の族長で、イカルディンガレンダリキュロン――イカルディ卿という男性エルフだ。これは四百年前から変わっていない。彼の行政手腕は見事で、あらゆる種族が分け隔てなく生きるという国是のイシュクロン王国において、この都市は、もっともそれを実現できているとも言われていた。


 中央広場の時計台周辺では、多種多様の種族が行き交い、会話をしている。市場が近いからで、公用語のひとつであるラーグ語での呼び込みが賑やかだった。


 俺はゴート人だけど、ゴート語の他、ラーグ語、ヴァスラ語、大和語を使える。これは父から厳しく教え込まれたからで、俺も言語の重要性は理解していたので必死で勉強した。もともと前世の記憶があり、それに随分と助けられたから四つの言語を正確に操ることができている。


 北側の街区に入り、湖が見えてきた。都市のほうが高い立地なので、湖を見降ろすように歩くことになり、陽光を浴びてきらめく湖面を眺めることができた。


 ロンディーヌの北端には、湖を行き来する船たちのための港があり、倉庫群が見える。そして、湖の中央に浮かぶ島に建つ塔が目に入った。


 竜の塔、と呼ばれる塔は、王国で最も高い建築物だ。ここから北東の方向にうっすらと見える王都ブロブディアフにも、この塔を超える建築物はない。


 俺は、前世であの塔に入ったことがあるような気がしている。だから入りたいのだが、王国管理で許可が出ないと無理だ。こっそりと入ってばれでもすると、イシュクロン王国にいられなくなる可能性もあり、それは避けたかった。


 戦いぶりが認められて、申請すれば許可が出るようにならないかなぁ……っと、あった。


 店という感じの建物ではない……。


 玄関の前に立ち、呼び鈴を鳴らすと、少しして男性ドワーフが出てきた。エルフほどではないにしろ、彼らも長寿だ。現れたドワーフは人間でいうと老境にさしかかろうという外見だから、おそらく四百歳は超えていると思われる。


「リムライの紹介で来ました。エリオット・ヴィラールといいます。剣を作ってもらいたいのですが」

「剣を? ……リムライの奴が寄越すということは、あんたは本当にエリオット・ヴィラールか?」

「……そうです」

「世間で、クリムゾンディブロと呼ばれている男か?」

「……そう、呼ばれています」

「弱そうなのに?」

「……それは、否定のしようがありません」

「……ま、入りぃ。わしはゴディン」


 招き入れられ、中に入るとちょうど冷えた地ビールを楽しんでいたところだったらしく、邪魔をして悪いと謝ると、彼は部屋の奥へと消え、すぐに地ビールの瓶をたくさん抱えて戻ってきた。


「これ、親戚が送ってくれたんだ。うまいぞ? 酒は飲めるか? お嬢」

「お嬢……男なんですが」

「お嬢みたいな見た目だからお嬢でええ。飲め」

「……頂きます」


 俳優や歌手に転職したほうがいいのかな……。


「剣はどんな型だ? いろいろあるが?」

「俺は右利きで、左は盾です。だから片手で扱える剣が欲しいんですけど」

「ちょっと腕を出せ……おお、顔はお嬢だが身体は戦士だな。詫びよう、エリオット」

「……ありがとうございます」

「今、腰のベルトに通してある剣は愛用のものか?」

「いえ、いつも使っているやつはリベライに研ぎを頼んでいて、彼に借りたものです」

「ちょい貸してくれぇ」


 俺は剣をベルトから外し、彼に渡した。


 ゴディンはまじまじと剣を眺めながら言う。


「リベライはいつもお前の剣を研ぐ。つまり、代用品で貸したこいつは、お前にあうだろうと思って貸した剣だ」


 そこまで考えてくれていたとは知らなかった……たしかに、借りた剣でやむなく戦ったことが過去に一度だけあるけど、いつもの剣のように使えた記憶がある。


 ゴディンは、卓上の皿へと盛られたチーズを食べ、地ビールを飲み、満足そうな顔で俺を見た。


「エリオット、引き受けよう。まず、予算を聞こう」

「ありがとうございます。予算……十万シリグを考えています」


 十万シリグは、イシュクロン王国だと中間層の人たちが三カ月を暮らすことができる額だ。前回の戦いで、敵指揮官を倒した特別報酬を、そのまま剣の予算にしようと思った。


「わかった。では、聖鉄ミスリルを取り寄せて、鍛えて……あとはお前と相談しながら仕上げていく……三カ月ほどみてくれるか?」


 いい剣は、時間がかかるものだとわかっている。


「はい。手付金を今は持っていないのですが、後で持ってきます」

「では、口座に送金してくれたらええ」


 彼は立ち上がると、奥の部屋へといき、戻ってきた時には名刺を持っていた。


 名前と住所、口座だけの簡単なものだけど、必要なことは全て記されている。


 名刺を受け取り、上着の内ポケットにしまった。


 お邪魔をして悪かったと立ち上がると、止められる。


「おい、うまい地ビールは人と飲めばもっとうまくなる。付き合ってから帰れ。時間はあるだろ?」

「いいんですか?」

「是非。それに、お前のことを知ったほうが剣の出来がよくなるからな」


 俺は美味しい地ビールと、チーズをご馳走になった。

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