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赤い悪魔と呼ばれる竜殺し  作者: ビーグル犬のぽん太
赤い悪魔と滅びの竜
28/55

鉱山

 ボルツァーノは鉱山都市として知られているが、この都市に鉱山があるのではない。ボルツァールからウマラ山脈へと半日かけて入った場所に、鉄や銅の鉱山があり、鉱山ごとに町が存在している。それらを統治する機構がボルツァーノに集まっているのだ。


 俺たちは十日をかけて移動し、ボルツァーノには一月二日の昼に到着した。


 宿に二人をおいて、俺は一人で傭兵組合に入った。掲示板に竜退治のことが書かれていなかったから、受付の男に尋ねる。


「ロマーナで、鉱山で竜が出たと聞いた。討伐の仕事は入っていません?」


 三十過ぎの男は、うさんくさそうに俺を見る。


「兄ちゃんみたいな自殺願望者を増やしたくないから、掲示板には貼り出していない。俺が知っている腕利きだけに声をかけて、すでに討伐隊は編制されて鉱山に入ったさ。命を大事にしな」

「出発したのはいつだい?」

「二日前だ。今ごろはもう鉱山に入っているだろう」

「どこの鉱山? 鉱山の町にいって、欠員補充を待つよ」

「物好きだな? ガカだ」


 欠員補充とは、依頼を受けた傭兵たちが仕事を遂行する途中で欠員が出た場合、現地で人を集めることをいう。この場合、報酬を受け取る権利を引き継ぐことができるのだ。


 男が笑う。


「だけど、本当にやめとけ。死にたくないだろ?」

「これまで、イシュクロンで多くの仕事を請けてきた。竜が出たって聞いたんで、急いで来たんだ」


 俺はゾルダーリ家に見つけてほしいので、わざと情報を明かす。


 男が訝しんだ。


「イシュクロン? イシュクロンからわざわざ?」

「ああ……もともとゴート人だけど、あっちで傭兵をしててね。戦争だと負けそうなほうにつくのが俺の流儀なんだけど、祖国が危ないのを傍観はできない」

「……ゴート人なのに、イシュクロンで傭兵をしている? 名前を訊いていいか?」

「エリオット・ヴィラールだ」

「おっと……こいつは驚いた……赤い悪魔ディアブゥロッソ様かよ……ゴート人を殺しまくっておいて、今度は人助けか? ありがたいね」

「戦争だ。お互い、死ぬこと覚悟でやってるだろ? それとも、ここの組合はお友達ごっごが好きなのか?」

「嫌味くらい言わせてくれよ。知り合いがイシュクロンとの戦争で何人も死んでるんだ」


 男はそう言うと、俺に受付票を差し出す。


赤い悪魔ディアブゥロッソなら、あいつらも文句は言わないだろ。記入したら後を追いな……それから、あんたがここに現れたことは統治局のほうには伝えておくぞ。用件は竜退治ということで受付したとも……仕事が終わるまでは、国もあんたに手出しはしないだろうが、その後はよろしくやってくれ」

「わかった。ありがとう」


 俺は書類にサインをして、受付票をもってギルドを出た。




 -Elliott-




 ガカ鉱山は、銀が出る。


 だから他の鉱山に比べて、作業員も多く、設備もしっかりとしたものだった。


 俺たちはガガに到着した後、竜退治が終わるまで仕事ができないでいる男たちを訪ねて酒場へと入り、竜の巣の場所や、地下の様子の聞き取りをおこなった。


「南東の奥、第七区画の奥だよ。地下の空洞にぶちあたって、これはえらいもんにぶちあたったと騒いでいたら、その空洞の奥にいたんだ」

「寝ていたんだが、その時に騒いだ奴らがいてな。竜は目覚めが悪いみたいで、一瞬でそいつらを噛み殺した」

「その空洞の奥、竜だけじゃなくて厄介な魔物もいてね。だから撤退したのさ」

「あんたら、討伐隊の第二陣? たった三人で? やめといたほうがいいぜ」


 要点をまとめると、第七区画の奥に竜の巣があり、そこは地下空洞になっている。そしてそこには化け物が出没していて、竜だけではない脅威があるってことだな……。


 彼らに金を払い、方眼紙に地図を描いてもらった。それをサリウドが持ち、食料や水を買いこんで鉱山に入ったのは一月四日の昼前だ。


 鉱山は狭く、ここで戦うなんて無理だなと愚痴っていると、奥にいけばいくほど広くなる。岩壁にかこまれた通路を進み、なだらかな下り坂を歩いていくと、標識があった。これは内部で作業員が迷わないようにというものだ。


 俺たちは、ひたすら歩く。ただし、警戒しながらなので距離はそう歩いていない。それでも、集中しっぱなしなので疲労はあった。


 鉱山として使われているので、壁には篝火がかけられていて視界には困らない。


 いくつもの分岐点を通過し、第七区画の方向へと伸びる最後の通路を選んだところで、サリウドが口を開いた。


「四時間、歩いた。休もう」


 俺は靴を脱ぎ、靴下を替えた。初心者は武器や防具に金を使って、靴下や下着の替えを軽んじるけど、生死を分けるのは案外、こういう地味なものだったりする。


 靴も、履きなれたものを二足、用意している。下着だって、清潔なものをたっぷりと準備し、こういう仕事に挑むのだ。たとえば、地下の空洞が水浸しの場合、着替えがないと詰む。そして、何かしらの動物の死骸や糞で汚れたままうろうろとすると病気になるから、そういう動物が出る区域には入らないなど、地味だけど大事だ。ここは鉱山なので、幸い蝙蝠は出ないが、空洞の区域に入るとまた環境は変わってくるだろう。


 蛭、ムカデ、蛇……会いたくないのは魔物や化け物だけじゃない。


 イングリッドも靴下をかえて、水で顔を洗った。


「空気に粉塵が……ぺっぺっ!」


 彼女が嘆いて唾と砂を吐きだす。


「しかたない。鉱山で働く男たちが肺を悪くするのはこれだろうな」


 俺も顔を水で洗い、口内を濯いだ。


 サリウドが砂時計をひっくり返す。


「そろそろ行こう」


 こういう管理を任せられる人材は、俺とイングリッドにとってかなり貴重だ!


 二人とも、戦いに特化しすぎてて他のことは……。


 移動を再開してしばらく経つ頃、最後尾のサリウドが声をかけてきた。


「前から、悲鳴……このままの速度だと、五分ほどで到着する」


 通路は大人ひとりが歩くのがやっとだ。


 ここで戦闘なんて勘弁してもらいたいね!


 だけど、先に進んで理解した。


 空洞になっていたのだ。


 到着した……。


 狭い通路の先が、途端に広くなっているのには驚かされた。第一陣が落としていった松明が、あちこちに散乱していて空洞はうっすらと照らされていた。


 しかし、人はいないな……奥に行ったのか?


 幅も高さも、記憶にあるテンペストの神殿に近い。


 ここに竜が?


 悲鳴をあげた人は?


 俺が進もうとした時、サリウドが俺の肩を掴んだ。


「待て。危ない」

「なに?」

「いるぞ……」


 俺は、その場で剣をかまえる。


 地面に転がる松明の炎が揺れた。それは、闇から逃れるように歪曲することで、俺に敵の存在を知らせる。


「擬態か……」


 俺の言葉に、サリウドが小声で応じる。


「風景に溶け込んでいる……光を屈折させているのか、はたまた俺たちの目では認識できないのか……ただ、臭い、呼吸音は聞こえる」

「どこに攻撃すればいい?」

「何体かいる……奴らの呼吸音しか聞こえないから、人はいない。広範囲を攻撃するか?」


 俺は頷き、イングリッドに尋ねた。


「火炎の魔法で一帯を焼く。飛び出してくる敵がいたらやってくれ」

「まかせろ」


 イングリッドが、右手で俺の左手にちょいと触れた。


 俺は魔法発動へと意識を集中する。


 魔法の威力、範囲、継続時間は、もって生まれた魔力と経験、集中力に左右されるが、俺は今の自分にできる最大の発動準備をおこない、炎姫歌華ヴァルガデローザを放った。


 空洞の地面に、幾本もの赤い線が走る。


 それは炎だ。


 高速で這う炎の蛇が大量に湧き出たような光景に、空洞にいるはずの見えない敵が奇声を発した。それは複数箇所からほぼ同時におこなわれ、直後には絶叫となる。


 地面を走った炎の蛇が、一呼吸で空洞の天井まで届こうかという炎の壁となり、また周囲へと火炎を放射しながらうねり、空間を焼いた。奇声と絶叫と炎の渦が空間を満たし、黒煙が中心点に集まるように吸収され、再び周囲へと火炎の衝撃波が広がる。落ちていた松明も、第一陣の死体も、見えない化け物も、分け隔てなく焼き尽くし吹き飛ばした魔法が終わった時、空洞の中は静寂と闇に包まれた。


 イングリッドが笑う。


「ははは……はははは、エリオット、魔法つおくなったなぁ」


 彼女はそう言うとつま先立ちをして、俺の頭をナデナデしてくれた……。

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― 新着の感想 ―
[一言] >エリオット、魔法つおくなったなぁ ……これは誤字なのか、それともイングリッドが可愛いのか、わからない……
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