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赤い悪魔と呼ばれる竜殺し  作者: ビーグル犬のぽん太
赤い悪魔と竜の巫女
22/55

竜の命の欠片

 通路の奥には扉があり、開かれていた。


 イングリッドが、うんざりとした顔になる。


「エリオットの推測が正確だったか」

「では、アイリーン殿下の子供が、ゴート人に協力しているんだな?」

「女の子だった……彼女はゴート人でもあるから、協力という意味は少し違うだろう? 彼女はイシュクロンでは忌まわしい子供として、母親から引き剥がされた……処刑が決まっていたから、わたしが逃がしたんだ……ゴートに」


 イングリッドの告白に、俺は責めも慰めもせず、ただ彼女の肩を抱いた。


 俺は、きっとその時に自分もいたら、賛成していたと思う。


「イングリッド、俺もきっと同じことをしただろう」

「……エリオット、行こう」


 彼女は歩き出し、倉庫――いくつもの部屋で仕切られた空間へと入った。


 血の匂いが濃くなる。


 まだ……いるのか?


 自我を失ったのであれば、ここに残っている可能性もあるが……。


 竜の命の欠片ティアドロップはふたつ。


 俺とイングリッドのものだ。


 倉庫の中には、宝珠や槍、長剣などが保管されていて、どれも魔法が付与されている逸品ばかりだが、戦いで撒き散らされた血液と内臓で全て汚れていた。


 転がる死体を数えると、通路にいた奴もいれて七人……あの時、兄さんの部下たちはもっと多かった。


「撤退したのか……」


 サリウドも同じことを考えていたらしく、彼の言葉に頷きを返したところで、その部屋の前を通過した。


 サリウドが足を止める。


「ここ、中に誰かいる」


 俺は、閉じられた扉を見た。


 イングリッドが、扉を睨む。


「なるほど……化け物を、ここに閉じ込めて撤退したな?」


 彼女の読みが正しいか否か……扉を塞いでいるのは物体ではなく、魔法である。


 内側から、コツン、コツン、と一定の音が聞こえてきた。


 解除の魔法を、俺は使えない。戦いに特化して勉強してきたせいで、このあたりは不勉強だった。


 イングリッドが、腰に手をあてる。


「魔法で壊してやろうか……」


 俺たちの様子を見て、サリウドが苦笑する。


「あんたら、戦闘に特化しすぎなんだよ。開けるから、化け物は頼むぞ」


 天才か!?


 サリウド! 頼りになる。


 俺たちは、化け物を倒しておかないといけない。


 竜の命の欠片ティアドロップを使って、化け物になったのであれば、それを倒すと石は回収できる。そして、ここに転がる死体たちを片付けておかないと、死体に誘われる邪な者たちが集まってくる。


 サリウドが言う。


「俺は魔法の才能はあれど、魔力はとても弱くてね……こういう地味なほうを鍛えたんだ」


 彼が指先を光らせて、それで扉に触れた。


 扉が光る。


 サリウドは、即座に俺たちの背後へと隠れた。


 狼の顔で隠れられると笑える……。


「おい、荷物をもってやってんだろ!」

「わるい、わるい」

「エリオット、来るぞ」


 イングリッドの言葉で、俺は戦いへと集中する。


 この空間は、横と奥行きの辺が十メートルほど、高さは四メートルほどの立方体が四つ、正方形を作るように並ぶ倉庫だ。通路は右上の部屋にあり、俺たちは右下の部屋に立っている。鍵で閉じられていた部屋は、左下の倉庫だった。


 扉の光が消えた時、少しずつ扉が内側から開かれることで、内部にたまっていた悪臭が外へと漏れ出てくる。


 腐った魚みたいだ……。


 サリウドが鼻を押さえて、通路の方向へと後退した。


 現れたのは、蛇の頭部をもち、蜥蜴の身体に人の手が生えて武器を持つ化け物だった。リザードマンに似ているが、大きさはこちらのほうが倍ほどもある。さきほど、室内から聞こえていた音は、この化け物が右手にもつ槍を壁にぶつけていたのだろう。


 俺が前、イングリッドがやや左斜め後ろに立った。


 俺が左手をうしろに差し出すと、彼女が右手でちょんと触れてくる。


 これが、二人の合図だ。


「行くぞ」


 俺は剣を抜き放ちながら、前に加速した。




-Elliott-




 蛇頭が口から毒液を吐きだす。


 俺は横に跳んで躱し、床を蹴って跳躍すると、奴の左方向から接近しながら火炎弾フレイムを放った。爆炎を浴びても悲鳴をあげない化け物は、槍を振り回して俺を薙ぎ倒そうと迫ってきた。


 直後、奴の身体が出て来た倉庫の方向へと吹っ飛ぶ。


 イングリッドの風守護シルフェで、奴は強制的に後ろへと後退させられたが、反撃に魔法を放ってきた。


 風刃波ベントスを、一瞬で発動させた化け物は、それを魔封盾スクトゥムで防いだ俺たちへと突進してくる。


 俺の剣が、奴の槍を弾く。


 蛇頭の首が、少し後ろにふられた。


 毒液を吐く前触れであると察知し、俺たちは左右に跳んでそれぞれに魔法を放つ。


 俺の雷撃トニトルスと、イングリッドの氷槍バラスが、奴の身体を右と左から貫き、黒い血液が噴き出た。それでも声を出さない化け物が、槍を投げる。


 俺が剣で弾くと、槍は意思をもったように空中に舞い上がり、再度、俺へと向かってくる。


 奴はイングリッドへと突進していた。


 彼女は化け物の爪を、剣で弾き後退しながら風刃波ベントス二発で撃退すると、踏み込みながらの一閃で蛇頭の左脚を膝のあたりで切断した。


 均衡を失った化け物だったが、跳躍しながら火炎弾フレイムを連発し、着地した時には脚は元通りに生えそろっている。


 俺は奴の槍を弾いていたが、らちがあかないと思い、わざと攻撃を寸前まで躱さず、直前で身をよじって逃げることで、槍が床に突き刺さった。それを掴み、化け物へと突進する。


 蛇頭の元に戻ろうとする槍の勢いを借りて加速した俺は、化け物が魔法を放ったとわかるもかまわず突っ込んだ。


 相棒が、絶対に守ってくれる!


 俺へと放たれた奴の魔法は、イングリッドの防御魔法ディフェンシォで無効化された。それで俺は無防備な蛇頭へと接近し、斬撃をくらわす。


 蛇頭の首を切断し、さらに一閃した剣によって奴は肩から胸に及ぶ傷を受けた。


 転がった頭部は、イングリッドの剣が突き刺し、脳を破壊している。


 前世の初見時に比べて、各段に楽に倒せている自覚があった。イングリッドがいるのは大きいが、それ以上に俺自身の強さが、現時点ですでに前世を超えているとわかる……。


 雑魚相手だとよくわからないことも、強敵相手だとわかるものだ。


 ただ、そのせいで不安もある。


 兄さん……カルロ兄さんと対峙した時、この化け物よりも圧を感じた。


 あの人は……すでに人ならざる者になっているのではないか?


「エリオット、どうした?」


 イングリッドに声をかけられ、思考を止めた俺は笑顔を返す。


「いや、なんでもな――」


 衝撃で言葉を止めた。


 槍が……俺の腹部に刺さっている。


「エリオット!」


 イングリッドが驚き、槍の柄を掴んで膝をついた俺を抱きしめる。


「化け物を……」


 俺の訴えに、彼女はかぶりをふる。


「もう死んでる! 槍だけが動いた」


 くそ! 油断した!


 激痛で脂汗を流し、呼吸困難で苦しい。


 あいつら、しぶとかったっけ……くそ!


 イングリッドが、俺の腹に手を当てながら口を開く。


「合図をしたら槍を抜け……治癒を同時にする」

「わかった……」


 彼女の特殊な能力……治癒。


 地上でただ一人かもしれないその力が、俺の腹部を優しく温め、癒し始めた。


「抜け」

 俺は、槍を抜く。


 傷口からあふれ出した血液で、イングリッドの服が汚れた。


 彼女は意に介さず、傷口に手の平を当て、必死に治癒をしてくれる。


 イングリッドの額に、大粒の汗が浮かび、流れ落ちていく。


 異変を察知したサリウドがやって来て、周囲の警戒をしてくれた。


 イングリッドが、必死な表情ながらも優しい目で俺を見た。

 

「エリオット……頑張って……ちゃんと無事に立てたらチューしてやるから」


 それは是非、そうしてほしい。


 身体が熱く、痛い……


 ここで俺は、意識を失った。




-Elliott-




 目覚めると、地上だった。


 サリウドが運んでくれたらしい。


 イングリッドの口づけを頬にうけて立ちあがった。


「回収できた竜の命の欠片ティアドロップはひとつだ」


 彼女の手の平には、赤い球体がある。


「この石ころ、どうしても必要か?」


 俺の問いに、彼女はうなずく。


「竜を相手にする時、わたしたちがテンペストからこれをもらった者たちだと示すことで、無駄な戦いを回避できるかもしれない。全て倒して進むなど、不可能な種族だぞ?」


 たしかに……。


 サリウドから、水を受け取り飲みながら、どこに行けばいいかを考えるも、ゴート共和国しかないだろうと思う。


「ゴート共和国に帰還しているだろう」

「敵国だぞ? 危険だろ」

「……だが、やらないといけない。だけど……」


 だけど、その前に片付けておくべき問題がある!


「その前に、裏切り者を片付けておかないといけない」


 俺はイングリッドを見た。


「イングリッド、都に行こう。お前なら城に堂々と入ることができる。摂政をこらしめてやらないといけない」


 獅子身中の虫を、倒しておくのだ。

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