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赤い悪魔と呼ばれる竜殺し  作者: ビーグル犬のぽん太
赤い悪魔と竜の巫女
21/55

竜王の城へ

 ロンディーヌに入ったのが、十一月十四日の夜。


 十五日は一日、準備にかかった。銀行で現金を引き出し、剣の研ぎを大急ぎでしてもらい、食料を買いこみ、イングリッドの装備を整える。そして休みもしっかりと取らないといけないので、夜はちゃんと寝た。


 ずっと気が張っていたことで自覚がなかったようだけど、とても疲れていたとわかったのはベッドに入った時だった。


 イングリッドがいるという安心感もあって、俺は落ちるように眠っていたのである。


 翌日の午前七時に、俺たちはロンディーヌを出た。


 カペラ湖の対岸方向に、竜王の城跡地はある。


 俺は、現世での兄が部隊を率いてそこにいたことをイングリッドに伝えたが、彼女は心配はいらないと答えた。


「竜の巫女の血に反応する扉が、倉庫を守っている。ゴート人たちが入ろうと思っても、入ることはできない」


 なるほど。


 彼女は続ける。


「もともと、城の宝物庫に保管する話もあったが、竜の巫女でないと入ることができない空間のほうがいいだろうとなった。竜王の城には、その部屋があったかならな」

「竜王の城……レヒトというかバルボーザは竜ではないとプロキオンに教えられたけど、その城に本当に住んでいたのか?」


 俺の問いに、彼女は頷く。


「今回は竜殺しが目的だから、説明がいるな」


 イングリッドはそう言うと、歩きながら話してくれた。


「バルボーザ……は、エルフの始祖なんだ――」


 !


「――こういうとエルフの先祖のようだけど、少し違って、彼は完全なる個体だった……竜と同じく、単体で存在することが可能な個体だったんだ……つまり、食事の必要がない。では、どうして彼からわたしたちが生まれたかというと、彼は自分に似せた人形を作って、動植物の世話をさせ始めた……すると人形を愛おしく感じるようになったのだな? 魂を入れた。自我が芽生えた人形たちは、エルフとなる」

「神の器と、エルフたちが呼ばれる理由もそれがあるのか」


 俺の感想に、彼女は頷く。


「そうだろうと思う。話を戻す。バルボーザのしたことをみて、面白そうだと思った存在がいた。それが、エルミラだ。黄金の鱗に覆われた最強の竜だが、彼はバルボーザとは真逆の性格でありながら、同じことをしてしまった……結果、自分の支配下から逃れようとし始めた人形へ怒り、全てを壊してしまおうと思った……この人形が、人間だ」


 ここで、サリウドが口を挟む。


「俺の先祖も人形?」

「そうだが、正確には違う。エルフ以外の種族は、人形と当時の地上に存在した人類というか、魔族が交わって。ドワーフもオークも人狼もホビットも……人類と呼ばれる種族は皆、人形が始まりだが、ケンタウルスは違う。だから彼らは、わたし達と同列に見られるのを嫌がると言われている……魔族も違う。彼らは竜の時代から世界に存在して、竜に仕えていた当時の人類……と言えばわかりやすいか?」

「……大昔は、魔族が栄えていたんだな」

「古代ラーグ時代とは、そういう時代から人類の時代への転換期だった。バルボーザは、母親であるテンペストにエルミラの暴虐を放置できないと相談した」

「待てまて」


 サリウドが口を挟んだ。


「テンペストは竜なのに、エルフの始祖を産んだのか?」


 イングリッドは頷く。


「そうだが、竜はふたつの姿を持つ。本来の巨大な姿と、普段の生活をする時の姿だ……世界に存在する神々の彫像は我々に近いだろ? 神々の姿はこうだと語られ残っているのは、生活用の姿だ。ただ、バルボーザは竜の姿をもたない不思議な竜だった」


 彼女の話は続いた。


「バルボーザが復活すると、どうしてエルミラが復活するのか……これはバルボーザが冥界にエルミラを封じているからだ。そのバルボーザを地上に復活させると、冥界でエルミラを封印している彼の力が失われ、エルミラが蘇る。金色の竜が蘇るとどうなるか……彼は冥界に存在する死者の魂を使って、現世へと通じる復活を果たし、地上の人形たる我々を破壊しつくすだろう。我々を見限っているからな」




-Elliott-




 十一月十八日の夜、竜王の城跡地に到着したが、俺たちは付近の森で休みをとり、朝を待って跡地に入った。


 森に浸食されている城の主塔へと、イングリッドは迷わず進む。


 たしか、この城の主だった設備は地下だとアイリーン殿下も言っていた。


 イングリッドは、樹木が建物内部まで根を張り、蔦が絡む空間へと進むと、奥へと通じる通路を前に、通路を塞ぐように伸びていたはずの枝や根を排除して進んだ先客たちに言及する。


「エリオットの兄上は、どこから竜の命の欠片ティアドロップのことを?」

「おそらくシン・ヴァレンタインだ」

「シン? ヴァレンタインということは摂政か?」


 そうか、彼女は寝ていたから知らない。


「そうだ。シンという男が今の摂政だ。彼は共和国と通じている。王国の王位を狙っているんだ」


 イングリッドを先頭に、俺、サリウドが続く。


 地下へと続く階段を、彼女は迷わず進んだ。すると、彼女に反応して地下の天井が光を灯し始める。


「これは、テンペストの神殿と同じか?」


 俺の問いに、イングリッドは頷く。


「そうだ。エルフに反応するんだ……わたしたちの血に」


 階段を降りていくと、大きな広間に出て、そこからさらにいくつもの通路が伸びていた。


 彼女はひとつの通路を進む。


 幅は三メートルほどで、並ぶと窮屈だが歩くには問題がなかった。


「匂うな」


 サリウドが言い、俺たちに注意する。


「奥から、血の匂いだ」


 ……兄さんたち、まだいるのか? そして、何かがあったのか?


「人が倒れている」


 イングリッドの声。


 俺は彼女の腕をつかみ、先頭に立った。


 まっすぐに伸びる通路の先で、壁に背を預けて倒れている男がいる。その装備は、あの時の男たちだとわかった。


 慎重に近づく。


 男の様子が、はっきりとわかる距離になった。


 左腕を失い右脚もない。腹部の傷はひどく、内臓がこぼれていた。しかし、床を汚す血の痕で、彼は奥からここまで懸命に逃げてきたのだとわかる。


 サリウドが口を開く。


「こいつぁ……奥でやったんだな、殺し合いを」

「だが、何を相手に? イングリッド、ここには化け物は出るのか? 魔族とか?」

「地下十層より下なら出るかもしれない……ただ、このあたりはどうだろう? 熊でも冬眠のためにもぐってきたのか?」


 彼女の意見が、もっとも確率が高いように思われたが、熊は死体を放置しないだろう。


「……竜の命の欠片ティアドロップ、取られたんじゃないか?」


 俺の危惧は、ある情報からもしかしたらという程度のものだが、この死体を見た時に、考えついてしまったのである。


 アイリーン殿下には、ゴート人との間に子供がいた。


 アイリーン殿下は、竜の巫女だ。


 二人の子供は、人間とエルフの血を流している。そのエルフの血は、アイリーン殿下の血を継いでいるから、七氏族の血、とも呼べる。


 アイリーン殿下は、子供と引き離されていた。


 その子供はきっと、ハーフエルフなので寿命が長い。


 二百年、三百年なら生きているだろう。


 そのハーフエルフが、兄さんたちと行動を共にしていた場合、倉庫に入ることができるのではないか。


 そして、竜の命の欠片ティアドロップを持ち、資格ないままに力を使い、化け物になったのではないか……?


 聖石レリックあるいは竜の命の欠片ティアドロップは、条件を満たさない者が使うと、使用者を化け物にしてしまう。いや、その使用者の欲望であるとか、性質を強く反映した肉体と思考へ存在を変化させてしまうのだ……。


 この死体は、化け物になった者によって殺されたのではないか?


 俺が意見を述べた時、イングリッドは動揺を見せた。


「どうした?」


 俺が、ふらついた彼女を抱き留める。


 彼女は、深呼吸をして、口を開いた。


「二人の子供……なら、可能だ……急ごう」

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