マフラーと私
歪で硬い温かさより、優しく穏やかな温かさを人間好むものだ。
(…駄目だ、こんなマフラー渡せるわけがない。)
そう溜息をついて、私は今しがた仕上がったそれを袋へと押し込んだ。硬かったり柔らかかったり、実に気まぐれでふらふらした、まるで私みたいなマフラーを。
教室の中にはもうちらほらとしか人はいなくて、喧騒は分散され窓の向こうから僅かばかり聞こえるのみ。チャイムと共に散った喧騒を視線だけで追いかけて、私はまた溜息をついた。溜息すら今この場所では響く気がする。
(ああ、いつの間にか皆帰っちゃった。)
窓に映る室内があまりに伽藍堂としていたので、私も帰ろうかと振り返る。振り返って、そこに彼が立っていた。「ほら、帰るよ。」何を思っているのかはあまり解らない表情だったけれど、一番近いとしたら呆れだったのかもしれない。自分達以外いなくなってしまった教室で、なかなか席を立とうとしなかった私に彼は手を差し出した。
うん、とうなづいて私はその手を取ろうとしたのだけれど、彼のそれはあまりにも自然な動作でもって私の手を擦り抜ける。擦り抜けて、ごくごく当たり前の様にそれは歪なマフラーを掴み上げるものだから、
「あ、」
「…君ってさ、ホント不器用だよね。」
彼が零した言葉に、そんなことは言われなくとも分かっているのだけれど言葉を返さずにはいられなかった。「悪かったわね、下手くそで。」
むくれた私をみて、そこでようやく彼が笑う。
「そういう意味じゃないのに、」
苦笑いを西日に照らされながら、それもまた当たり前の様に、彼はマフラーを首に巻き付けた。
名無し・人物特徴を描かないのが割りと好きです。
読み手様の中では、一体どんな人物が映っているのでしょうか?