〜イマを守るために〜
自分が思っていたよりも、27歳という年齢はすぐやってきた。
昨日も仕事から帰り、いつも通りのルーティンであるレンタルビデオをみてウトウトしながら、朝の音を聞いて目覚める予定だった。
だが、今日の朝は奇妙だ。なんだかそこには懐かしい空気がある。
まだ目は開かない。そうか、まだ夢なんだ。再度ウトウトしようと思考する気をなくした。
その時、何かがべちゃっと落ちる音とそれを注意しているであろう女性の声が聞こえた。
私はわかっていた。
落ちた“それ”が“中華春雨”であることを。
そして、注意してる声の主が私の母親だということを。
これまでの人生で幾度、戻りたくないと記憶の奥底に封じ込めたか。
物理的に戻れはしないことはわかっている。それが問題ではない。万一過去に戻って何かを変えてしまったら、現在生きているイマが変わるのは必然的だ。好きな小説やドラマなどではそうなる仕組みは自然と考えついた。
だから、イマを変えることにつながるこの瞬間を、記憶の奥底に閉じ込めざるを得なかった。私には。
やっと目が開いた。
見覚えがある天井だが、思っていた視界と違うことに戸惑っていると、ドアの向こうからノックがする。そして、「ごはん食べるけど…」と少女の声が聞こえた。
ドアを開けると、そこには12歳くらいであろう、“私”がいた。
私は一瞬で理解した。この食事を、“まだ家族である4人”でとったあと、母親が離婚の話を切り出すのだ。
もとより、夫婦間は冷め切っていることを幼いころからすぐ近くで感じていた。私は、当然のことのように一言「あっそう。」と言い捨て、その後母と妹と3人で家を出て行く。一度経験したシーンがこれからやってくる。
「ねぇ!聞いてるの!?」
向けられたことのない怖い顔で母が自分に問いかけてた。それを見て、“私”も同じように自分を睨んでいる。
そうか、1番憎い奴の姿でこの瞬間に戻ってきているのだ。父親という姿で。