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2日目の①.脅威の転生者5,000人弱

 目が覚めた。


「知らない天井だ」


 お約束を済ませたところで意識もすっきりしてきた。

 熟睡していたようだけど、時計がないのでどれだけ寝ていたのかはわからない。


 謎の光で照らされた倉庫内にて、寝起きの固い身体をほぐす。

 何回も、結構な重量を運んだわりに筋肉痛の類はない。


 昨日一日を振り返り情報爆発の整理をするが、すべて鮮明に思い出せる。


 過ぎ去りし栄光の10代の頃だって、ここまで頭も身体も優秀ではなかった。

 これが能力値(ステ)補正の効果だろうか。


 サラダと鶏照焼きサンドイッチ、ハーブティで食事を済ませ、バッグにブドウを詰め込んで倉庫を出たら、空が白み始めた頃合いだった。

 深呼吸、朝の匂い。

 まばらではあるけど動いている人はいるし、買取窓口もやっているようだ。


 イチゴを買取に出した窓口で、昨日の人はいないのか尋ねたところ、持ち回りで不在とのこと。

 同じ商会の者です、勉強しまっせと鼻息荒いおっさんに押し負けてブドウ箱をカウンター上に積み重ねる。


「一粒失礼……ふむん、甘味は充分ですが酸味も少々。生食によし、ワインによし。これなら幾らでも買い取りまっせ」

「言ったな」

「言いました」


 笑顔とは、本来攻撃的な云々。

 箱の数、イチゴよりちょっと多かったのよね。全部押し付けてやる。


 箱から出して計量し、その場で簡易的に仕分けもしているらしい。


「お得意様に卸すもの、店先に出すもの、醸造所に持ち込むもの。特に前2つは順次流さなあきまへん」

「こんな突然の仕入れでも捌けるって、すごいなあ」

「あたしら商人は、冒険者の皆様のように戦う力(加護)は授かっちゃおりませんが、皆様の生活を支える大事な生業なりわいだと、そう自負しておりまっせ」


 役割分担の話だなと返せば頷き一つ。


 鐘の音が響いてきた。


「朝の鐘でおます。間もなく冒険者ギルドで訓示とやらのはず。引き換え札出しますんで、どうぞおむかいください」


 違う窓口では無効との注意とともに、目印が刻まれた木札を受け取る。

 冒険者ギルド前に人が集まり始めていた。


「ちゅうもーく!!」

「「「注目せよ! 傾注せよ!」」」


 剣と羽の意匠エンブレムを掲げた建物の前で、お立ち台上のおじさんが声を張り上げる。


「神託の冒険者諸君に告げる!

 私はウルバリア冒険者ギルド、特区支部をあずかるアレクセイ・パーニン士爵である。

 神託の冒険者諸君は当地に招聘されたばかり、かつ大金を手にした者もおるが、気分を浮つかせず心身を戒めて欲しい。

 また、慣習に従わない諸君のために、自重を強いられている方々がおられることも念頭におくように。貴きには敬意を払う、人としての当たり前を厳に求める」


 釘刺しのつもりかな。

 広場がざわつくが、自身、士爵を名乗るおじさんは意に介せずに続ける。


「概算で5,000人弱もの冒険者を抱えることになった特区、そして王都では、食糧の手当が急務となっている。

 よって引き続き食糧の買取を行い、さらには武具類、特に拡張バッグを募集している。是非に供出してほしい。以上」


 おじさんが台から下りれば、昨日と同様、三々五々、グループになっての雑談だったり倉庫列に並んだり。


「自重しろ、貴族は偉いんだ、俺たち5,000人、飯問題、持ち込み品出せよ、特に狙ってるのは拡張バッグなんだよおらぁ」

「まとめ乙」


 準備していたとはいえ、急な人口増加で食糧問題はわかる。都市の抱える宿命みたいなもんだ。

 それはそれとして昨日に比べ、兵士の数、配置場所が増えている?


「例の、貴族様ともめたってのが引き金じゃね?」

「何が『自重を強いられている』だ。被害者面かよ」

「あっちはそういう感覚なのでしょう。転生し当地にきた以上、ある程度は飲み込んで付き合っていくしかないのでしょうが」


 いやいやいやと、大げさな身振りで腰の短刀をアピールする盗賊(シーフ)さん。


「ヤバイ獲物持ちこんどる数千人の武装集団やで? 貴族云々抜きでも警戒するやろ」

「警戒はしていたけれど、想定より多かったから、急いで増員したのかもしれませんゾ」


 冒険者ギルド発表では転生者5,000人弱。

 昨日の日本野鳥の会じゃない人の推定では、3,000~5,000人。

 主催者(神)発表が欲しいところだが、両サイドで似たような数字が出てるなら、そのくらいなんだろう。


「強さの目安がわからないからなんとも言えないが、下はLv1でも上のほうならそれこそLv99だっているんじゃねーの?」

「HAHAHA」


 支援僧侶(プリ)でLv99あったところで直接戦力としては、ねえ?

 サブ職の魔術師(Wiz)

 検証していない力をあてにするわけないじゃないですか。


「ワテら転生者側で、自分らの戦力把握してないのがな」

「Lv分布に職分布……私、気になります」


 検証者魂にビビっと来るものがあったのか、気になります嬢は掲示板そばの書き物台でなにかササっと書き上げた。

 しかし、伝言などで目いっぱいの掲示板にご新規さんの割り込む余地はない……と思いきやおもむろに支柱にペタペタ。アナーキーだなあ。


【求む冒険者。至難の旅(ry(以下略) Lvと職の分布サンプル収集です】


 僕らは、ネタを挟まずにはいられない病気か何かにかかっているのだろうか。

 南極探検隊の求人広告をもじった仲間募集など、何万目にしたか知れないよ。


 ちょうどいいところにいたので、タコ口のスタッフさんに掲示板と机の増設をお願いしておく。

 彼の嫌そうな顔も慣れれば味に見えてくる。頼んだ仕事はしてくれる、優秀な人なのだ。


 相方からの返事はまだない。

 落ち着くんだ、まだ2日目だ。慌てるような時間じゃない。

 他、ざっと目を通し、さっきのサンプル収集の『Lv80以上』に印をつけて、混み始めたので場所をあける。


 残りの午前中、倉庫から窓口へ、ひたすら運ぶ。

 窓口の人とは互いに笑みと目つきが深くなる。


 イチゴは倒したが、奴は果物(フルーツ)四天王の中では最弱。

 今はブドウ君を相手にしているが、プラム、オレンジ、リンゴ、レモン……四天王どころじゃないな。


「大商いの予感がしまっせ」

「大商いに、なればいいんだけどねえ」

「「ハッハッハ」」


 なお『心付け』は返された。

 こんな小銭より、ガッポガッポ稼がせてくださいとの言葉を添えて。


 ご期待に沿えるかどうか不明だよと返し、カウンター脇に積まれた木箱を幾つかわけてもらう。

 バッグ内の仕切りや小物入れ、そしてゴミ箱として確保。


 それにしても、やはりステ補正が効いているのだろう。

 元の僕が貧弱(低Str)すぎるのは脇においても、ブドウ出すのに邪魔だったリンゴ箱、苦もなく持ち上げられちゃうし。


 昼の鐘とともに掲示板前に立ち寄ると、ありました!

 相方のルピスより了解のサイン。


「よかった」


 僕と違って、元の世界に戻るのもアリだったはず。

 もしかしたら巻き込んでしまったのだろうか。


 だとしても、なんだろう。心がものすごく軽くなったのは事実だ。

 やはり、異世界に独りはイヤだったんだな。いくら他の転生者がいても、相方の代わりはいない。


 ……女体化(TS)しているはず、というそこはかとない不安要素は、出たとこ勝負。


 軽くなった心と足取りで倉庫に戻り、昼飯を持ち出す。

 タコ口のスタッフさんの働きで掲示板そばに用意された机に、料理を所狭しと並べていく。


「鮮度を失った『新鮮野菜サラダ』ありまーす」

「これ、食っていいの?」

「どーぞー。今日だけ、今だけの処分配布! 早い者勝ちだけど譲りあいの気持ちを忘れずにー」


 LLOにおける課金ではないゲーム内作成料理は持ち込み可(非推奨)だった。

 ただし、腐る。当然だね。

 なお、ゲーム内ではAgiだのStrだのの一時的な増強(ドープ)効果があったけど、その効果は失われている。ついでに鮮度も。


「それをくれ、たのむ」

「ころしてでもうばいとる」

「あ、俺もちょっとだけど持ち込んだの取ってくる」

「パーリィ会場はここですか」

「スタッフさんもどうぞ?」

「あ、はい!?」


 いろいろお手間をおかけしているタコ口さんの手に『ワニのピリ辛煮込み』のお椀鉢をのせて、自分も『白うさぎの串焼き』をほおばりながら、空いたスキマに『甘口カルビ』や『お肉たっぷり春巻き』の補充、空き容器を回収。

 ……言うべきではないが、昨日の屋台の串焼きとは別物だよ。


 冷えてない『ひやしそうめん』と『おにぎり3こセット(塩・味噌・焼き醤油)』が大人気。

 『鶏の照り焼きサンド』に『クリームたっぷりフルーツサンド』も順調にはけている。

 乾きかけている『フルーツ盛りあわせ』やしなびた『新鮮野菜サラダ』は、まあ、うん。


「あのー、もしかしてランドさん?」

「はーい、ランドです。……ってことは?」

「ルピスです」


 背にはバックパック、腰にサイドポーチ、そしてショルダーバッグ2個をX字にたすき掛けしたフル装備シェルパモードの美少女プリさんだ。

 Str補正は偉大なり。


「朝、すれ違ってましたねえ」

「え、そうなの?」


 互いに見た目がね。

 僕自身、人当たりのよさそうな、整った顔立ちになっている、はず。

 なにより醜く出っ張っていたお腹がすっきりの腹筋割れですよ、ハハハ。転生(おにゅうぼでぃ)万歳。


「とりあえず、お昼まだでしたら『灼熱のカレー』をどうぞ」

「やあこれは、どうもどうも」


 バックパックとショルダーバッグをおろして、かつきちんとベルトに腕や足を絡めたままのルピスにスペシャルな一品をご提供。


 数がないため、今夜と明日の自分用に取っておいたカレー様。

 辛みとうま味に額に汗しながら、微妙な気恥ずかしさも交えて合流を寿ぐ。


「会えて、ほっとしたある」

「私もですよー」






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