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extra episode.あきんどう

 ボウト・アグリ商会は、王都ウルバリアで三大商会の一角を占める。


 ゆえに、冒険者を招くという神託から始まった一連の事業についても参加を要請される側であり、現時点ではさまざまに持ち出しを強制された側でもある。

 新造した特区での商売が軌道に乗らなければ大きな痛手を負うことだろう。


 その大商会では、夜も更けたというのにランプを惜しみなく灯し、報告会が行われていた。

 特区で買取窓口を任せた男が満面の笑みで胸を張る。


「ご覧ください、この瑞々(みずみず)しく大ぶりなイチゴを。もちろん味も保証いたします」


 サンプルとして商会長の前にも皿に盛られている。

 一粒つまんで食せば、信じられない甘味と芳醇な香りが舌を喜ばせる。


「持ち込んだモノの価値もわからんようで、安く仕入れることができました。

 査定もほとんど見ていないうえに、買取額を並べても、数えもせずに腰のバッグにツッコム次第」


 つまりはカモを買い叩いたとの報告に商会長の眉が寄った。


 買い叩くことそのものは問題ない。

 安く仕入れて高く売る。商売の鉄則であり、適価を判断できない方が悪いのだ。


「お前が間違っているわけではあらへん。あらへんのやが気になることがある。もしその売り手が明日もくるようなら、対応を私に任せてもらう」

「もちろんかまいませんが、大旦那様がわざわざ出張るほどのことですかい?」


 商会長としての地位には、それに伴う立場もある。

 小商いの現場に出るヒマがあるなら、重要顧客のご機嫌取りや商会全体をにらんだ運営指示、数年先、数十年先を見越した打ち手など、優先的にやらねばならないことは幾らでも湧いてくるだろう。


 特区ゆえに視察も兼ねて、などの言い訳を重ねなければ、身動きの取れない我が身に思わず自嘲が漏れる。


「『糞土のごとく』カネを扱ういうのはな、興味がないということなんや。

 つまりな、そんなハシタなんぞどうでもいいとな。

 確かにモノの価値を知らんバカかもしれん。ならば心置きなく儲けさせていただけばよろし」


 苦労を知らないボンボンにありがちなタイプだが、えてしてそういうボンボンの周囲にはまっとうな管財人が配置されているものでもある。

 さもなくば、いくら富貴を誇ろうが一代で没落してしまうだろう。


 神託の冒険者として招聘され、優秀なスタッフと切り離されたバカなら、ムシれるだけムシればよい。


 だが、もし。


「もし、これだけの品を持ち込みながら、カネに興味がないのが本当なら、どんだけのモン貯めこんどるかわからへんで。

 それこそ、お前の今日の儲けがハシタに見えるような大商いになるやもしれへん」


 怖いのはこちらだ。


 恐ろしいことに、富貴を究めると、カネに意味がない領域に行きついてしまうという。


 いや、カネはカネで大事なのだが、いくらカネを積もうが意味のないモノやコトに興味関心が移っていくのだという。

 いわばカネなどはあって当然なので、勢い、関心も薄くなる。

 商会長自身、若干ではあるが身に覚えがある。


「気分次第でどこいってもうかもわからへん。

 こういう手合いは、誠意でつなぎとめるしかないんや」


 なので明日は自分が現場に出て見極めねばならない。


「人の目利き。こいつはお前にはまだ、任せられへんのや」






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