14日目の②.さよなら、神様倉庫
ニタニタしながら抱えてきた丸太を放り投げ、ニマニマされながら査定引き換え木札を差し出され。
関西弁風商人のおいちゃんとは、最後まで笑顔の応酬が絶えない実に良い関係でありました。
「いうて、まだしばらくはここに窓口カウンターおいとくんですけどね」
「そりゃありがたい」
広場での臨時買取窓口は順次縮小、撤去されていく予定だというが、明日いきなりきれいさっぱりということではないそうだ。
僕らとしても、さらなる精査で処分を進めるべきモノを抱えているので、買取窓口があるのはありがたい。
「私は店にも顔出さなあきまへんので、いないときはあいつ等でたのんます」
「どもー、まだしばらくよろしくー」
買取窓口一つ、おいちゃんだけでまわせるはずもなく、荷運び専門や明らかな丁稚以外にも、何人かは責任者クラスとも顔なじみ。
挨拶すればあっちからも挨拶が返ってくる。
「特区内、広場の南西から一本入ったとこですけど、店舗だけは確保できましたんで、ゆくゆくはそちらによろしゅう」
「倉庫は?」
「徴発されて、返ってくる見込みがたちまへんわ!」
忍者から買った地図には空白が目立ったが、実際に何もない空地だそうだ。
建設中だった建物は、構造的に特殊なものおよび利権や力関係で手が出せないもの以外、冒険者ギルドが徴発し、武具類の一時預かり場所か仮設寄宿舎に転用している。
商人さんの倉庫も、そんな物置か寄宿舎へ転用されたんだろう。
いずれ、時間が解決する問題ではあるはずだが、僕ら、神託の冒険者として出現した転生者は多すぎたんだとさ。
本来はクラン会館に入居しているクランための1階各部屋も、一時収容所として使われているくらい。
「買取だけでなく、今度は売る方でもよろしゅうしてほしいですわぁ。フフフフフ」
「何かと入用だから、頼りたいなあ。モノがあれば。ホホホホホ」
笑顔とは(ry
シオの、またやってますねぇと言いたげな視線に目を合わせず、冒険者ギルド外壁、神様倉庫への扉群の前に向かう。
ルピスとの合流待ちはもちろんだが、合流後にシオを預けた後、今一度、倉庫内へ。
空っぽだ。
よくもまあ、貯めこんだ。そして持ち出した。
感動か、喉の奥、胸の上に高揚感が宿っている。
誰に聞かれることもないこの場所で、雄叫びを上げた。
そして、静かに神様に感謝した。
まあそんな、人に見せる必要のない姿はともかく。
最後の最後まで持ち出しをする狐子に付き合い、人が減ったのをいいことに、何度も出入りさせて僕らのショルダーバッグにも目いっぱいに詰め込ませる。
「たすかったよ~。ボクだと持てないからどうしようかと」
「大丈夫、私もぎゅうぎゅうにされるとあやしいですから」
Lv2のバードがLv48のハンターを慰めています。
プリ―ストである僕やルピスがシェルパになれるのは、つくづくStr補正の効果なんだよなあ。
「ステータス見れないし、ゲームみたいにLvあがれば振れるのかな。振れるなら絶対にStrに振るよ、ボクは」
「動き回る体力的にVitも欲しいって、【しろへび堂薬局】のスワティ嬢が」
「Vitもかぁ!」
そしてもちろん、職や型に応じたDexなりAgiなりも必須なわけで。
「Lvが上がっても、ゲームみたいにわかりやすくは強くならない、というのが一番困りますわね」
「でもありそうな話なんですよねえ。だってリアルですし」
「そんなー」
ステ補正は神様の加護としてLvに応じて強化されそうだけど、どの能力値に何点のように自由に振れるとまでは期待していない。
あれは、LLOからのコンバート時だけの特典だったのかもしれないってこと、忘れちゃいけないと思うんだ。
それに、補正上は同じ極値のはずの僕とルピスのVitだけれど、疲労度という観点ではどうも僕の方が疲れにくいっぽい。
あくまで補正、上乗せ効果ということなのだろう。
であれば、素を鍛えることが第一なわけで。
「いーやーだー。ボクはゴリラマッチョになりたいわけじゃないんだー」
「それは……そうかも。女の子ではありたいです」
「悩ましいところですわねえ」
へたに実例があるから、Lvさえ上がれば的な発想に転んでしまうのかもなあ。
倉庫とクランルームを何往復かして、重荷から解き放たれた狐子とそれを追いかけた姫と別れると、僕ら3人、ようやくゆったりとした気分で広場をまわれるようになった。
「といっても、結局いつものコースなんですよね」
「僕は、はじめて雑貨屋さんに入りました。興味深かったけど、別に要らないなってなったのが残念でした、まる」
「ランタンに桶だの布巾だのは買いましたし、私物関係も充実させたいところなんですが」
食器や調理器具は荷ほどきして発掘すれば出てくるし、自炊はまだ無理なので食材みてもしょうがないし、毛布やシーツの類は品切れだし。
私物で不要不急品となると、シオは自前のお金じゃないので我慢しているのかと問えば、日本基準で目が慣れているせいで食指がそそられないのだとか。
「欲しいものあれば出すよと、ルピスさんからも言われていますが、コレっていう物がないんですよねえ」
「そっかー」
僕の場合は、私物は私物でも持ち込んだものの片付けと配置が先だなあ。
「真っ先に欲しいのは寝具類。次いで棚や箪笥、作業机なんかの家具なんですよねえ」
「在りものははけちゃったんだろうし、次の入荷がいつになるか」
「むこうも商売ですから、せっせと集めて運んでいるとは思いますが、そもそも本筋は注文制作だと思うんですよね」
店頭にあるのは見本です。お客様の用途やご予算にあわせて職人を手配いたしますってな感じだろうか。
要望伝えて調達任せる御用聞き、おいちゃんのお店でやってくれるかな。
自称・委託品の山を片付けているバザール会を横目に掲示板エリアに。
【号外】
『勇者君』たてこもり事件・決着!
即決裁判により冒険者身分の剥奪および追放刑が確定。
夕の鐘のころ、市外門より追放とのこと。
「「「へー」」」
そろって気のない感想を漏らしてしまった。
なんでも、身に着けた衣服とナイフの1本だけは所持を許されたうえで、市壁の外へ追い出される刑らしい。
「身分がないが、どういう扱いなのか。冒険者じゃなくなると加護も消えるのか」
「加護の消滅はあり得ますね。冒険者だから、魔物と戦うための力を貸していただいているのかもしれませんし」
「そこからのし上がれば『追放モノ』主人公ですね」
割と冷淡なのは、正直なところ僕らにも余裕はないからだろう。
自業自得なバカの手を取って、自分も破綻させられたのではたまったものではない。
「見に行きます?」
「後味悪いだけだろうからやめとく」
数々の醜聞を残した『勇者君』だが、転生者として生きて特区の外に出た初めての人物という記録保持者の地位まで獲得していった。
ネタばれになるが、その後の彼を見た者はいない。
身分がないというのはね、法の外にいるということでね、つまり、何をしても法的には問題ない存在になってしまうということなんだ。
夕飯を軽く済ませ、持ち帰りできる手軽な料理をいくつか集め、クランルームにて。
全員の倉庫からの持ち出し終了を祝う記念の打上会を開催です。
といっても、昨日の件があるので控えめに。特にシオは控えめに。
「昨日も思ったけど、ハチミツ酒っていうのに甘くないんだよねー」
「そりゃ糖分がアルコールに変換されるわけだから、甘いうちは酒とは呼ばんさ」
「甘いお酒というと、貴腐葡萄のワインなんかいいですよ」
「自家製の梅酒もいいぞ。梅酒だけにウメ~ってな」
頭は酒飲みに慣れているのか無理がないペースとうんちく語りで場を盛り上げ、そしておやじギャグで凍らせる。
「おいしくて、するするはいっちゃうのが困るのよねえ」
「ほんにうまいわ。もう一本、開けちゃだめかのう」
「ペースがはやいですよー。すこし水で薄めましょうね」
姫の飲ませ方がうまい。
水で割るときのステアの手つき、さりげなく横に座ってお代わりを差し出すくしぐさ。あなた……プロですね。
「あー、わかってしまいます? 新宿の、木魚というお店で働いていたことがあるんですよ」
「あれ? でも姫って元男なんだよね……なの」
「ホストクラブにしてはお店の名前がイメージ違うような」
「ええ、いわゆるオカマバーというところで。お勤めしていた間、常に4~5番手でしたけどね」
前世では男と付き合ったこともあるという。でも、コレジャナイ感。
女と付き合って、ちゃんと勃ちもする。でも、彼女の方から「私より女っぽいヤツに抱かれるのに違和感」で破局。
「お尻に挿れられても、全然気持ちよくなくて」
「ちゃんとほぐして慣らしてないとそりゃそうだ……なの」
「ん?」
「女装が好きなだけで、性的な嗜好はノーマルだったのでしょうか。もう、自分でもよくわからないのです」
LLOでは、本物のオカマの風格を打ち出したはずが、どういうわけかプリ姫の盾として直結相手に立ち回ったり頼られたり。
「なんでAgi両手剣でPT前衛はらなきゃならないんですか。調子のいいこと言ってたアサシンはすぐ死ぬし! プリ姫はまともに支援くれないし!」
「あるある! 私のいたクランでもクレクレ姫が我が物顔で!」
「しかもその麻、姫に媚びを売りながらわたくしにも粉かけてこようとしたり!」
「あー、直結といえばアサシン。次点で騎士ですもんね」
「わかります! なんなんでしょうね、アレ」
「アレな人が選びやすい職みたいな?」
「気持ち悪い人、いましたもんねー」
「リアルどこ住みなんて聞かれてもキモイっての…なのじゃ」
かつてネカマ検定10段認定されたルピスどんとマジのオカマさん、ついでにシオやエルフ娘も混じって盛り上がっております。
アサシンという職が直結、いわゆる下半身直結の御用達というわけではないはずなのだが……いや、そういえば僕も女垢で流してた時に「プリさん支援ww」と纏わりついてきたのはアサシンだった!?
割合で見れば少数でも、目立つヤツがいると風評が決まってしまうからなあ。
樽一杯のワインに一滴の泥水を入れれば、それは樽一杯の泥水になるってヤツですわ。
「それぞれの過去はさておき、今後の見通しってどうなってる?」
「ん~。俺としてはここ王都で拠点を確保したいな。人の多い、より正確には元プレイヤーの多くいる王都で暮らしたい」
愚痴の吐き出しは必要だけど、そればかりでは奈落に落ちてしまう。
前向きな話題を振ったところ、頭がまず反応を返してくれた。
「王都が人間社会の中心なのは間違いないだろうが、わしゃあ田舎者でなあ。せっかく若返ったんだし、2~3年をハネムーンがてらあちこち見て回りたいのう」
「スケールがチガーウ!」
「あらあら、お若くなられたこと」
「昔はな、ハネムーンなぞできんかったからな。今度こそおまえと世界を旅したっていいじゃろ」
「はいはい」
この夫婦者、時々すごい結界を張られるのが困る。
二人だけの世界を邪魔するわけにもいかないので、サイドを移して。
「価値観の違いは割と重要だからねー。ボクも頭と同じく、転生者の拠点になるここ特区に居座りたいな」
「現地に溶け込む努力は必要でしょうけれど、それはそれとして、心安らぐコミュニティを捨てる理由はありませんものね」
ただし、部屋がない。
仮設の寄宿舎もすぐに埋まってしまう。
時間が解決することとはいえ、だからといっていつまでもクランルームに居座られても困る。
「不安も多いよ。あたしは冒険者としてやっていけるのか。魔物と戦うってどうなのか。この世界で生きていけるのか」
「加えて、法律や警察なんかの立ち位置が、日本とはまるで違うんですよね」
いわゆる中世あるいは近世くらいの感覚らしいが、自力救済が原則にある。
訴えたところで犯人を捕まえてくれるわけでもない。
しかも、身分というものがつきまとう。
もしかしたら、偉ければ無罪なんてこともあるかもしれない。
「モノの値段もちがいますね。布製品がとにかく高い。相対的に革製品は安く見えますが、お金があっても手に入らないモノはどうしようもありません」
「変わるべきは変わらねばならんじゃろうな。現にここは、日本ではないのだ」
とうごさんの言葉が締めになった。
いい時間でもあるので、お開きムードとなり、ぼちぼちとテーブルの上の片付けも進んでいく。
転生してこの地に立ってから14日。神様倉庫の存在期限の日。
一つの区切り、猶予期間の終了。
椅子に深く座り、背を伸ばしてゆっくり息を吐き出す。
この世界の人間の神様、お招き下さりありがとうございます。
はじめは、手の込んだ新ゲームのプロモーションだと思っていました。
いかにサブカルを嗜む身とはいえ、まさかリアルな異世界への転生だったとは予想もできず驚きましたが、同様な選択をした連中が5,000人弱もいたことも驚きでした。
コンプレックスを解消した新しい身体をありがとうございます。
生まれ変わった相方、庇護すべき人、友人などにも恵まれて、きついこともありますがおおむね楽しく過ごせております。
ただ、神託の冒険者という立場をいただきましたが、未だ冒険のぼの字にも至っておりません。その点はなにとぞご容赦を。
でき得れば、この先もあなたの護りのうちにあれますように。
「ランドさん、何してるんですか?」
「……プリーストらしいこと」
感謝とおねだりは祈りの基本。
ルピスの問いに、意識を緩めて目を開ける。
この目に映る光景が、人たちが、僕の今生の目的なんだろう。多分、きっと。
2021/09/28 一区切り。ご縁があればブックマークしておいてください。ではいずれまた。




