14日目の①.愛とはいったい
転生14日目の朝。
神様倉庫の存在期間は14日間。今日のどの時点でなのかはわからないけれど、とにかく今日で倉庫は消滅する。
そういう大事な日なのだが、リビングではなぜか強気なシオと恐縮気味なTSシスターズ、間に入る元老夫婦という構図になっていた。
僕とルピスは、壁の花モード。
「そのぉ、俺たちがお邪魔虫なのは自覚したから、もうちょっとこう、手心というか」
「せめて、声は控えめにできないものでしょうか……」
「確かに昨晩は、ちょっとハメを外しちゃったかなって思いました。でも反省はしない」
頭と姫のおずおずとした物言いを切り捨てるシオ。
ある種の凛々しさすら感じてしまいます。
「まあまあ、わたしたちって、新婚家庭にわりこんだようなものですし、多少のことはね」
「そうじゃな。むしろわしらも負けぬように励むべきか?」
「あなた! それとこれとは話が別です」
お酒はほどほどにね。
緊張をほぐし、気が大きくなるのはいいけれど、中三日あけのシオ嬢はなかなかに手ごわい相手でごわした。
「シオちゃんだけのせいにしようとしている気配」
「寝込みを襲われた側ではあるが反省はする」
そんなやり取りしつつ、でも壁の花モードは継続な僕ら。
だって、センシティブな内容に割り込むってキツイよ。
しかも、自分が関わっているだけに、どうしてもシオ寄りの立場を取らざるを得なくなるし。
でもそれは、いろいろ思うところはあるものの、仮にも間借りを認めた家主としてはあかんよなあという判断も。
「ねえ、Dex補正ってそんなにすごいの?」
「やはり、マジチンなのだ……」
食いつき気味な狐子と内股気味にもじもじしているエルフ娘。
頭と姫の騎士娘組はこう、参ったなって感じが先にある。
10年前にサービス終了しているゲームのプレイヤーなので、転生時点の前世年齢は絶対に10代後半以上になる。
ましてボリューム層はおっさんおばさん化している年齢なので、頭たちは中身の年齢相応の精神性なのかもしれない。
じゃあ狐子たちはといえば、今の見た目的には順当とはいえても、中身はよくわからない。
シオが20代だったように、若い世代だったのかもしれず、はたまた元老夫婦のようにお年を召されていたのかもしれず。
「ねえランドっち。ルピスっちとの関係、最初は事故だって聞いたけど、その後も続けられるのってどうして?」
「あ、それはわたくしも気になりますわ」
くそっ。
やっぱり飛び火したよ。
隣でルピスが天井を仰いでいるが、それは僕が昨日通った道だ。
「元男とわかってても抱けるって、なんつうか、すごいよな」
「何を言うんですか、ルピスさんは元々お隣に住んでいた美少女の幼馴染設定で過去を書き換え中なんですよ、事実を掘り返さないでください」
ただの煽りや囃し立てなら無視もできるが、性問題が彼女たちにとって重要な関心ごとなのも理解できるわけで。
しかたないので至極まじめに回答してやったのに、なんだそれみたいな顔されましてもねえ。
「存在しないはずの過去の記憶って、無理があると思うんですけどねえ」
「いやいや、はじめは嘘だとわかって言っていたことも、100回も言い続けると本当のことだと思い込んでしまうって、実験結果も出てますから」
自分自身に信じ込ませることで……という部分に限れば『予言の自己成就』とプロセスが似ているらしい。
かたや過去方向の洗脳、かたや未来に向けたポジティブマインドの作成と、方向性は違うけどさ。
「現実は現実。過去は変えられないんじゃないか、あたしはそう考えるのだ」
「僕の中でそういうことになっていれば大丈夫。つじつまが合わないことなんて、普通の記憶でもよくあるよくある」
またも語尾がブレているエルフ娘さんには頑張って心の中でエールを送るだけにして、これはネガティブではなくポイジティブなのだと解説。
「過去は変えられなくとも、未来は変えられる。そう、10年ぶりに再会した元幼馴染系美少女と幸せに暮らしましたエンドという未来に」
「だめだこいつ、すっかりマインドセットきめてやがる」
「本当のところは? おばあちゃん、聞いちゃうわよ? 聞くだけだけど」
はなさん、あなたまで……
ブルータスに刺されたガイウス殿もなされであろう長い長い嘆息が全身から漏れる。
振り仰いだ目に映るのは天井。
世界は狭く、逃げ場はない。
「……前世は前世、今世は今世。女になった相方を愛するのに、前世の男の顔や声がちらつくのはキッツイです」
「難儀なものなのねえ」
「ええまあ、そうなんですよねえ」
沈黙を貫いていたルピスも深く嘆息する。
思案顔の姫や、やっちまったかなという感じの頭、興味はあるけど今はだまっとこな狐子に、どうしてか内股もじもじしっぱなしなエルフ娘。
シオはシオで|Forget me not《私を忘れるな》アピールしているそんな中で、完璧に気配を消しているとうごさん。
「|What is Love?《愛とはいったい》」
「それに答えられたなら、世界の半分は手に入るでしょうよ。でも、羊を数えるよりは効き目あるのかしら」
テツガクとは睡眠導入剤だった!?
今現在の見た目はおおよそ同世代でも、前世の積み重ねはさまざまなところに如実に表れる。
はなさんの、おばあちゃん包容力オーラに癒されたのは、僕だけでは無かったと思う。
だがそれはそれとして。
朝っぱらからする話じゃないよぉ……
いろいろ引きずったまま参加した朝礼では、本日が倉庫最終日であること、貴重な資産を失わせることのないようにと、強く強く要請する声だけが耳に残った。
昨晩のうちに、大量の『ソレ』をギルドご推奨通りに合法投棄したのは、多分【NPO法人バザール会】だろう。
【ご自由にお持ちください】コーナーで異彩を放っていたけど、要らないもんね。
倉庫に入れて消滅させるか、ギルドの指示通りに合法投棄するか。
後者を選んだんだろうなあ。
実は本物のソレなんじゃないかな質感を放つ渦巻き状の『ソレ』の山を前に、困り顔の兵士さんや黄色い腕章の職員さんたちが印象的でした。
そして、いつものメンバーでの雑談では各職ギルドが行うほうの講習が話題に。
「魔術師ギルドのほうで、ようやく実技ということになったんですよ!」
そこでライトノベルわりとアルアルネタの、火魔法を水桶に突っ込んで沸騰させるという技を再現しようとしたらしい。
「やるなよ、絶対やるなよ。フリじゃないぞ。軽い水蒸気爆発だとさ」
「威力控えめ【ファイア・ボルト】でかい?」
「マジですよ。むしろ威力を抑えるにはどうすればいいか聞いたら、贅沢な悩みだと教官にイヤミ言われましたよ」
そりゃまあ、魔物を殺すための力なわけですから、威力マシマシのほうにこそ意識は行くでしょう。
でもそっかあ、火魔法でお風呂計画は破棄するしかないかあ。
シャワーがあるだけマシだけど、湯船にゆったり浸かって全身あっためこそが正義なんだけどなあ。
ともあれ、失敗事例を作ってくれた偉大なる先人に敬礼。
成功は、無数の失敗の末にこそありなのです。
「魔法に限らずスキルは、体得会得してからも、ひたすら訓練や使い慣れで調整していくしかないみたいだろ」
「ゲームみたいにはいかないお」
「熟練度と考えてしまうのはゲーム脳か」
「あー、熟練度っちゃ熟練度だにぃ」
さて、最後の倉庫整理だ。
今日は、シオも僕の方についてもらい、ルームへはルピスと姫、狐子で。残りは自由行動。
ルピスに運んでもらうものはもうほぼないのだけれど、カギを開けないといけないのでそういう配置になっている。
夜通し作業にまわった人たちのおかげで、ほぼ待ち時間なしで入庫できるようになったのを幸い、せっせと持ち出しては買取カウンターに置いていく。
「結局、最終日までもつれこんじゃったよ」
「えらく貯めこんではりましたなあ。で、例の、杭に使えそうな丸太、まだでっしゃろ」
長さ1メートル、直径10センチくらいのヤツ。
一回に運び出せる本数がねえ、そのくせたいした値でもないみたいだし。
「狙ってた? あれは最後の最後だよ」
「間に合いますぅ?」
「間に合ってほしい」
関西弁風のおいちゃんのところで愚痴を零していたら、広場で、冒険者ギルドの建物のほうで大歓声が上がった。
「なんでっしゃろ」
「なんだろね。んじゃま、次のセットいきますわ」
「おきばりなはれ~」
「はい~」
倉庫扉に近づくと、兵士たちの塊が去って行くのが見えた。
包囲網が解かれている。
ということは!
「捕まった?」
「捕まった!」
「「イェーイ!!」」
なんと、例の『勇者君』が腹を空かせてのこのこ出てきたらしい。
捕縛連行される間、周囲に「同じ転生者仲間だろう」とか「神に選ばれた男なんだぞ」とか喚いていたらしいが、知るかバカ。
捕縛を祝って見ず知らずの人とハイタッチしてしまうくらいに、君は恨みを買っているんだよ。
兵士たちの包囲網という圧迫、出庫時人相確認がないだけでどえりゃー気分が軽いでほんま。
「やるでぇシオ、ラストスパートや!」
「お、おう!?」
手加減なし、本気のピストン輸送にシオが音を上げたあたりで午前の部は終了。
ルピスと、ついでに姫と狐子とも合流してお昼へ。
お洒落カフェの隣のお洒落パスタ屋のさらに隣からシチューらしき香りが漂ってきていたので、ついふらふらと誘い込まれてしまう。
しかし、改めて考えると広場の南というのは、日当たり的には立地が悪い。
広場の北面という一番いい場所を冒険者ギルドが占めているのも変な話だ。
「特区ゆえにですわ。わたくしたち神託の冒険者のために急ぎ造られたものですから、まず、冒険者ギルドありきで縄張り合戦が行われたと聞きましたわ」
「旧市のほうの元々の冒険者ギルドは、外門のそばらしいよー」
そうそう、そっちの方がそれっぽい。
暴力商売な外様とやり取りするなら、できるだけ街の外か、街の中でも外れの方にしたいよね。
「ええまあ、武装した冒険者を街の奥まで入れたくないという本音はあるようですわね」
「でも、気分的なものを抜けば、門を入ってすぐならそのほうが便利でしょうね、特に大物を持ち帰ったときなどは」
「そこはこの特区でも、外門のそばに引き換え所(?)を設ける予定だってさ」
「討伐証明、鼻だの耳だの血なまぐさいシロモノを取り扱うのは、別屋か裏口ということですわ」
そして表のカウンターには綺麗どころを。
人のやることなど何処でもかわりばえしません。
ナチュラルに支払は僕に請求されたけど、シオの分だけ持って後は割り勘などというわけにもいかず、大銅貨が銅貨に崩れていく。
「ごちそうさまですわ」
「ごっちー、おいしかったよー」
オークションは休みなのだが、いざ解放されると、これでいいのかと思ってしまうのはワーカホリックの症例なのか。
腹ごなしにいつものコースをたどり、バザー会場改め委託品販売所に積まれた武具の山にぎょっとする。
「新規受付は停止ですってば!」
「そこをなんとか」
「なんともならないですってば!」
【NPO法人バザール会】の、架空キャラのカップリングを嗜む銀髪ショートのシーフ嬢が悲鳴を上げていた。
「おい、事情はわかるが諦めろ。見てわかるだろ、バザール会だって持ち切れん」
ついに、エリア主のジルゲームスさんまで出張ってくる。
なるほど、委託品販売の名目で、バザール会に一時預かりを押し付けているのか。
そりゃあ面倒見切れないわ。
「あの手この手を考えますねえ」
「純粋に、考え出した最初の数人はすごいと思う。でも、無理なものは無理だよねえ」




