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冒険をしない冒険者 ~TS相方とはじめる剣と魔法の異世界生活  作者: 凡鳥工房


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13日目の②.プリンセス・サークレット

 転生から13日目、昼の、小一時間だけのオークション。


 持ち込まれた品は、出品者曰く【プリンセス・サークレット】。


 LLO時代に『サークレット』は見かけたことはある。

 金ベースの冠で、頭上に載せる硬質なものではなく、鎖でつながれた主要装飾部が額にかかる。


 しかしこれは銀色。

 付与不明、強化不明。基本概要の記されたタグは紛失したという。

 金貨15枚でスタートの、落札希望額は金貨30枚以上。

 出品理由は、『プリンセスティアラ』および『プリンセスコロネット』の結果を見て、現金が必要なので、と。


「あんたが落としてくれてもいいんだぜ」

「そんなお金ないよ……」


 ん、なんだその落胆顔は。


 正確にはお金はあるけど、さすがに使いすぎた。

 すでにプリンセス装備2点の落札という悪目立ちもしていることだし、しばらくは、あるいは今後ずっと、おとなしくしていたい。


 さて、LLOでプリンセスと名のつく装備はいくつかある。

 以前ルピスとシオにプレゼントした『夏のプリンセス』(※スパイダーシルク製・白のワンピース)や、ここ数日の出品物など。


 しかし僕は、【プリンセス・サークレット】なる装備を知らない。

 見たことがないではなく、データとして知らない。

 じっくり眺めると、まるで銀粉をのりに混ぜて塗ったかのような質感……これ、筆の跡だよなあ。


「あー! おさわり禁止だ!」


 下地はなんだと目立たないところを引っかこうとしたら、慌てた出品者に止められた。


 ま、こういう時のための主催でありケツモチだ。

 クラン【春夏冬あきない】、人の悪意をなめとったかですのう。

 打ち合わせと称して出品者を残し、ちょいと離れてショウ・バイニンにご注進。


「へえ、やはりランドさんも知らんですか」

「そっちでも引っかかったなら、なんで通してんのさ」

「いやいや、おもたより早かったですなあ。昨日一昨日の流れに乗ろうとしたんかいな。ほなら釣りだし成功いうことなんですが。

 ……おい、アクエンの連絡員呼んどき」


 声を掛けられたクラン員が走っていく。

 てぇとなんですか、こいつが偽物だと知ったうえで僕に回したと?


「そう怒らんといてな。確かにウチでも知らんちゅうことになりましたが、それはウチん中だけの話やねん。予断のない第三者の目ぇ通すんは必要なことでっしゃろ?」

「……チッ」


 タグ紛失は今後出てくるだろうし、タグ偽装もありうる。

 だからタグ情報はあてにしない方針で、LLO時代の装備品データベースの作成と担当の目利きを並行で進めているという。


「それに、知らんいうのも結局、個々人の記憶なんですわ。

 データ上の、絵としての『サークレット』に似てはいるし、名前の間違いかっちゅうても色が銀だし、偽物断定するにも根拠がないんや」


 だから、と。


「今回は、その辺の事情をまるっと伏せてオクって貰えまへんか?」

「はい?」

「うちらは偽物だと、ほぼほぼ確信しとる。でも、種明かしは最後でええんです。

 単独犯でないならサクラくらい仕込んどるでしょ。そいつらコミであぶりだしたいんですわ。まるっとひっくるめて警告にするっちゅうことですわ」

「そう、うまくいくとでも?」

「サクラの確保はアクエンさんに、出品者はうちの方で丁重に『保護』しますさかい、何がどうなろうとランドはんには迷惑かからんようにしますよって」


 以後、こういうのは真偽不明として出品時のチェックで弾く、仮に善意の第三者が落札しても、【春夏冬あきない】で責任を持って対処すると説得されているうちに、クラン員がショウ・バイニンにそっと耳打ちをした。

 ニタリと、細い目をさらに細くして笑いやがった。


「整いましてございます。あとはランドさん次第でおま」

「高値をあおらず、傍観者モードでの司会に徹するぞ」

「ああ、まあ、しゃあないですなあ。ともあれ、たのんまっせ」


 実のところ、捏造品、模造品、偽造品は、僕の想定ではまだかわいい範疇に入る。

 このへんは本来、出品審査で弾けるはずだからだ。

 審査を通したなら【春夏冬あきない】の責任だし。


 厄介なのが、モノは本物、出品者も事情を知らない代理人か何かで悪意がない、そして僕らオク運営サイドとしても手落ちはなかったと言い張れる、盗品や詐取あるいは搾取された品だった場合。

 後になって発覚しても、知らないし、関係ないですとしか言えない、後味の悪いことになる。


 また、盗品ははっきり犯罪がらみと認識できるが、ペラ回しで生きている詐欺師というのは本当にやっかいで、騙された相手自身がそいつをかばうことすら珍しくない。

 前世日本では、100万円200万円程度の被害だと、訴える手間と取り返せる見込みの問題で、諦めて泣き寝入りするのが賢い選択だと、被害者自身が納得してしまうこともあった。


 なんのこっちゃと言えるのは、関わりがないから。

 ていうか、額面を小さくすれば、例えば高校時代になんだかんだ言いくるめられてジュース代踏み倒されたとか、誰それに告白するつもりだけどデート資金をカンパしてくれないかと言って集めたその金でお馬さんに投票してきたとか。

 同窓会で武勇伝として自慢されたが、僕も騙された一人なんだがな! クソが。


 あいつ死なないかなと思いつつ、自分が手を汚す気にもなれない、そんなヤツというのは実在する。

 しかも、経験を積んで証拠を残さない立ち回りも完備されるともうお手上げ。

 被害者のつもりが協力者にされ、加害者になってましたも常套手段。


 だって、勝手に名前使われて云々言ったって、ハンコなりカードなり預けたのはあなたでしょ?

 仮に、仮に勝手に使われたとしても、あなたが認めていたわけだから、あなたの責任でしょ?

 書類は揃ってますよ?

 どこにもその詐欺師とやらの名前はありませんよ?

 というか、その人を詐欺師ってことにして責任押し付けて逃げる気でいません?

 卑怯ですね。人間の屑ですか。

 で、他にも何かやってるんじゃないですか?

 吐いてすっきりしちゃいましょうよ。


 ……幸いにして、冤罪とも言い切れない冤罪を追及されたのは僕ではなかったが、まー、ロクでもないヤツと手口について貴重な教訓を得られましたことよ。


「出品者によりますと、こちらは【プリンセス・サークレット】。付与および強化は不明とのことで、オークション運営としても一切が確認ができませんでした。

 希望により入札開始額は金貨15枚(15G)より。今、この場限り、最高値で決着。ニコニコの現金払いのみの受け付けです」


 会場には【しろへび堂薬局】の鍛冶師(BS)、つよ・そうな嬢の青髪も見えていた。


 ただし、コールに参加せずに、じーっと壇上を、【プリンセス・サークレット】を睨んでいる。

 BSには鑑定系の技能(スキル)あるもんね。


「司会者ぁ、今日は入札しないのかぁ!?」

「プリンセス装備、連続で2個落札した僕に、お金が残ってると思うのか?」


 なんでしょうねえ、なーんで僕も入札すること前提なんでしょうねえ。

 そうだよなー的な反応の方が普通だと思うよ。なんせ2日で金貨70枚も飛ばしてるんだから。


 ほぼほぼ義務的に、現状最高値をリピート・アナウンスだけしながら、これ見よがしに自前の『プリンセスティアラ』を装着する。

 意識集中、【邪悪感知(センス・イービル)】を……うわぁ。


 なおもぽつぽつと競りを続ける入札者たち全員の様子がおかしいこと、および舞台袖のOKサインを確認。

 あれ? 盛り上がらないね? という観客の反応を無視して、やや強引にコールを確認し打ち切り。


 最高値は金貨24枚と銀貨6枚。

 連日の金貨35枚落札で麻痺しかけているかもしれないが、考えるまでもなく大金だ。


 クラン会館で一番広い2階部屋の賃料が年間金貨6枚。多分、現地基準で考えてもむっちゃくちゃお高い物件。

 金貨24枚とはそれを4年間借りられる額。


 ランクBの権利として強く強くお勧めされた市民権とやらの購入に金貨20枚。

 それは現地冒険者にとって「アガリ」、成功者のシンボルでもある。


 LLO時代のおよそ70MZoltからコンバートされた額。

 時給350KZolt出せる狩場に篭って200時間ですね。Lv96からの追い込みにピッタリの精神修養道場かな。


「『ニコニコの現金払いのみの受け付けです』と申し上げています」


 落札したにもかかわらず払えないと言い出したので、約定違反として拘束。


 いやー、【アークエンジェル】の皆さんはいつの間に落札者の背後を取っていたんでしょう。不思議ダナー。

 最高値がそんなことになったので、次点、次次点と回すも同様。


「ども、オークション運営のクラン【春夏冬あきない】、ショウ・バイニンです。

 今日の本件、こちら側の不備をつかれたっちゅうのはありますけんど、約定違反はあきまへんわ。

 観客、ご参加のみなさんにはケッタイナもん見せてもうて、えろすまへんでしたなあ。明日・明後日は休みですけんど、またよろしゅう、お願いいたします~」


 結局この日のオークションは、観客たちに戸惑いを残して終了した。



 ☆



 なんとも後味の悪い話だが、その後の顛末も記しておこう。


 まず、落札額を吊り上げるためだけの空入札をしたサクラたちと、本来の持ち主じゃないんだ代理人なんだと言い出した出品者に対し、クラン【春夏冬あきない】と【アークエンジェル】の「その筋の専門家」が追及を行い、いろいろ発覚した。

 そして、現地サイドでも本件は詐欺事件と認められ、裁判まで行われる大事になった。


 冒険者同士のトラブル、加害者(被告人たち)確保ずみということもあり、裁判は冒険者ギルド特区支部長の名の下に行われた。

 被告人たちにも弁護人を出席させる権利はあったものの、現地サイドが縁もゆかりもない者たちの弁護など引き受けるはずもなく、オークション運営からのアナウンスやさまざまな噂が流れたため転生者サイドからも誰も手を上げず、指名された「黒幕」は雲隠れで不在と、一見、一方的な弾劾裁判になってしまった。


 僕ら被害者側(原告団)の自衛により、金品の詐取に失敗したという判定。

 つまり、未遂ではなく明らかな既遂なので罪状は確定。


 次に量刑では、被害者に市民権持ちを含むこと、および詐欺成功時の想定被害額が重要視された。

 どうも詐欺という手段よりも、相互の立場や被害規模|(金額)が量刑の決め手になったようだ。


 どういうことかというと、これが商人同士の場合は「(まがい物に)騙されるほうが悪い」ので基本的に裁判にならず、詐欺が成立せず罪にならないという。もちろん、報復がないとは言っていない。

 被害規模に関しては、日本でも江戸時代のいわゆる「10両盗めば死罪」があるので、まあ、そんなもんかなと。


 本件の想定被害額は、先に落札された『プリンセスティアラ』および『プリンセスコロネット』を参考に、金貨35枚と定められた。

 これにより、彼らの死刑は確定した。


 また同時に、上記想定被害額を、被害者が自力で回収する権利が認められた。

 実際には金品での損をしていないのに被害額の回収・補填というのも変な感じだが、「防がなければやられていたこと、報復の意味でも『被害の回復』は当然」なのだそうだ。

 自力救済原則のなかでの、この程度まではやっていいよのお墨付きと感じた。


 クラン【アークエンジェル】と【春夏冬(あきない)】の実行部隊が加害者たちの資産を押収。

 裁判機関となった冒険者ギルドの、つまり現地サイドの査定総額では金貨35枚を上回ったが、そのくらいは慰謝料・手間賃の範疇だとか。

 というか、本当に被害を受けていた場合、被害額を上回らないと、いろいろな持ち出し過多で被害者の損になるのね。

 そりゃ「取り分」認めないと割に合わないわ。


 問題の黒幕は「有志」が拘束、クラン会館前に転がしておいてくれた。

 自称、草たちによる草の根ネットワークによって娼館を根城にしている模様とは聞いていたけど、具体的な「有志」が誰なのかは知らない。

 僕は銀貨を数枚弾いただけです。


 裁判自体は結審していたので、首班だし主犯だねと判断された黒幕も罪状・量刑は確定している。

 欠席裁判になったのは、出席しなかったのが悪い。

 代理出品者およびサクラたちの拘束から裁判まで、期間はあったのに逃げて潜伏だもん、いまさら言い訳なんか聞くかという話だ。


 一応、量刑には差が付けられている。

 代理人やサクラという協力者は斬首、黒幕は市門外での絞首および放置。


 どちらにせよ死刑なのだが、斬首のほうが絞首より罪状が軽い扱いなのだ。

 「縄目にかかる恥知らず」、そういう文化らしい。

 全員最後まで「指示されただけ」だの「この程度で!」だの、「なんで俺が」などと騒ぎ立てていたという。


 ここは日本とは違うんだと、僕ら転生者に改めて知らしめてくれた。

 ゆえにこの一件は、首謀者の名をとって『スカイ・ショック』あるいは『汚れた空(ダーティ・スカイ)事件』とも称されるが、『サードインパクト』呼びもそれなりに。

 初日のワイロ騒動、8日目のさらし首に続く、3番目の衝撃的出来事、異世界リアリティ・ショックというわけだ。


 なお、押収した資産からの被害補填および慰謝料の分配金(品)の権利は僕にもあり、くだんの【プリンセス・サークレット】(評価額=0)と拡張バッグ(肩掛け鞄(ショルダーバッグ)型、評価額=金貨5枚)を選択し、受け取った。

 前者は、本件を忘れないようにの意志で嫌な記念品として、後者は完全に実用品として。


 鍛冶師(BS)のつよ嬢の【武具鑑定】によると、【プリンセス・サークレット】には【偽物魂(フェイク・ソウル)】なる謎スキルが生えていた。オークション時には無かったはずだという。


 付与とは、神様からの祝福だというのが現地での認識だ。

 いわば「いわく」のついてしまった品に、いかなる理由でスキルが付与されたのかは、神のみぞ知るというやつである。


 まあ、このあたりは後の話。



 ☆



 この時点では、ただただロクでもないことに巻き込まれイヤな思いをした程度の感覚でした。


 人間に関する統計上、5%はクズだという。

 5,000人の5%となると250人もいることになるが、別に、関わりがなければ僕の方からどうということはない。


 むしろ、日本を捨て縁を捨て転生を選んだくらいだ。

 僕も含めどこかイカレた連中なのだから、5%ですむかなくらいの認識。

 それに、クズやイカレの具合や方向性もある。

 性癖暴露アニキだって相当なイカレだけれど害はない……多分……だし、僕は元男を含む複数の女性と関係を持つクズだし。


「人の悪意を甘く見ていた」

「善人が、悪意ある者にペロリされちゃうのはアルアル話だけれど、自分や周囲が関わると、ほんっと、笑えないねえ」

「ワイドショー眺めるのとは全然違う気分ですね」


 日の暮れたリビングで、各自の一日の報告会を開きながらの『リンゴ漬けハチミツ酒』がすすむすすむ。


「頭領からは裏どりを進めるとの事でございました」

「ランドっちも大変だったねえ。カモとして狙われてたってことでしょ?」

「偽物で大金をせしめようとは、結局人は人なのですね」


 お、同居のみんなもいける口ですか?

 いいよー、封切ったものは飲んじゃっていいよー。もう一本開けちゃおー!






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