12日目の②.プリンセスコロネット
昨日のお洒落カフェのお隣に、お洒落な麺もの屋があったので、そこでルピスとシオとの3人で昼食をとる。
「相席、よろしいでござるか?」
「あ……って軒猿?」
ござる忍者、どういうわけかストーカーモードではなく、姿を見せている。
とりあえず、ルピスとシオにも紹介し、テーブルを囲んだ。
「ランドさんの遊び相手で、はなさんととうごさんをうちに回した人であってます?」
「LLO職に忍者はなかったですよね? アサシン服にしてはちょっと違う?」
こいつ、服を自己改造してるんだよ。
そういうところには手を抜かないし、地味に多芸なやつなんだよ。
「いずれのご質問にも、いかにも。下手な人品よりは、某の手の者で埋めるがよいかと思ったのでござる」
「それで正解だったとは思うけど、事前に一報がほしかった」
「ですね。まあ、いきなりだったから、ランドさんの仏頂面というアレなものは見れましたが」
「ロマンがどうとか、意外におこちゃまなんだなぁって思いましたねえ」
ルピスどん、シオはん、死体蹴りは楽しいか?
……楽しいよね。人間だものね。みつを。
「申し訳ない。某もクランマスターとして、斡旋封じに雑草衆から急ぎ昇格者の選別と手続き、主力メンバも護衛や内偵などで出払っており。手が回らぬのでござる」
誠意を見せるために、ルピスとシオの前で顔出ししたのかな。
せっかくのなので、気になっていたことを。
「ところで、なんで僕につきまとったんだ?」
まるで電波を送受信しているかのように同類を見つけることに定評のあるこいつ、僕もまた変な電波でも出していたのだろうか。だったらやだなぁ。
「……転生2日目、昼」
「ん?」
「おにぎり、おいしゅうございました」
深々と一礼。
きかっけはそれとして、スキルの練習と隠密プレイの一環として、手隙の時に張り付いてみたという程度のストーカーだったらしい。
けど、割と僕の方でもノリがいいので「ござるwww」心がビンビンで?
「結局、類友なんじゃないですかねえ」
「でもルピスさんって、それこそランドさんの第一の類友なのでは?」
「……なんてこった。私にもござるの血が!?」
「にんにんwww」
ルピスござる説を引きずったままの昼のルーティンでは、掲示板エリアでいつもの腕組みポーズをする【アークエンジェル】のジルゲームスさんに遭遇した。
「よお、『プリンセスティアラ』に金貨35枚とはずいぶん張ったな」
「それだけの、価値は……アルッ」
「ざわっ……ざわっ……」
口で擬音まで言い出しちゃったよルピスどん。
怪しい手ぶりまで添えて。
そんなにござる認定がショックだったのかなあ。
絶対に前世で忍者手帳、持ってそうなんだけどなあ。夏休みに鉛筆使って棒手裏剣投げ練習した経験ありそうなんだけどなあ。
「付与不明と言いながら突っ張ってく姿に、なんかヤヴァイものかと心配になったが、あの後すぐそっちの女が見せびらかしてたからなあ。お前もつらいところなんだなと」
「ルピスです。名前、覚えました? アレの読みを変えただけだろってジルゲームスさん」
「お、おう」
Gilgamesで金髪逆毛。
某有名ゲームの登場人物マンマやもんね。
でも、キャラメイクでゲームなどから着想を得たりインスパイアしたり、もっというとパクったりって割とある。
元の自分自身や身近な人を原型にしているのも大派閥。僕はここ所属。
お腹をすっきりさせるなどのコンプレックス解消、ポジティブだろぉ。
性癖全ブッコミ派は、まあ、うん、そうね。クリエイティブですね。一からのオリジナルなんてなかなかできることじゃあないよ。
「ちなみに私はシオです。よろしいですか、ジルゲームスさん」
「わかったわかった。ただこう、男同士の会話ってあるじゃん、そこは配慮しろって」
【アークエンジェル】は自称大手だけあって、冒険者ギルドからの斡旋は無かったそうだ。
クランルームを複数確保するため、ペーパー・カンパニーならぬペーパー・クランで人・物枠を融通し合っているくらいだとか。
空きがなければ押し込みようがないのは道理。
「もともと人数多いからなあ、ウチは。押し込みの前から、入れてくれってヤツらの面接もしてたし」
「『寄らば大樹の陰』でしょうかねえ」
ルピスとシオには市場偵察と雑貨調達をお願いし、僕はジルっちと連れ立ってオークション会場へ。
肩に腕を回して、傍目にはいかにも親し気なポーズなんですけど、顔が笑ってないんですけど。
「……で、ヤヴァイものだったのか?」
「ガチで欲しいと思いました、まる」
「そうか」
自称大手でも知らない情報があるのはわかるが、アクエンクラスで『プリンセスティアラ』持ちがいないとも考えにくいんだけどなあ。
「詳細を伏せてつり上げるだけの空入札なら制裁ものだが、最高値で落としているんじゃ文句はつけられん。ただ、内容についてはあまりしゃべるなよ」
「それって警告?」
「俺としては忠告のつもりだが、そうとられても仕方はないし、事実、警告かもしれない」
怖いな~。
情報戦始まっちゃってるよ、これ。
他にもあるんだろうな。
ああいう、ちょっと公にしたくない効果のスキルが付与された装備。
でもって今日の最後です。
【春夏冬】のショウ・バイニンがニヤニヤしていたので、嫌な予感はしてました。
【プリンセスコロネット】。
付与は【真偽看破】、当然の強化値+10。神様タグ付き。
見た目は小さな宝冠。
頭上センターに据えるより、すこし斜めにオフセットするのがお洒落さん。
当然ながら現物見るのは初めてですし、付与スキルもLLO時代にはなかったものです。ハハッ。
「昨日の見てたよー。これ、余ってるから現金化しとこうと思ってね。金貨30枚超えればいいから」
……廃人様だよ。
いるんだよ。そりゃいるよね。
含有率1%だとしても50人弱は転生している計算になるもん。
「ああ、君らの誰かが買ってくれるんなら、出品取り下げでもいいかな」
「そらあきまへんがな。もう、こそっと噂流してもうたんや。いまさら出品ありませんなんて、ワテらがいらん疑われてまいますねん」
ショウ・バイニンめ、仕事早すぎだ。
「内々の取引も、時には必要だと思うんだけどねえ」
「そうやけど。噂流す前ならアリやけど! ルールは守てますいう外面イメージも大切ですねん」
「わかるわかるwww」
いやだなー。この場にいたくないなー。
諸条件の詰めでは、スキルは伏せたほうが面白いんじゃない?
盛り上げるためにわざとやったんじゃないのと逆に聞かれてしまった。
昨日の『プリンセスティアラ』と同様、市場に出回らない系のレアである。
ましてこの世界に持ち込まれたモノとなると、数えられるくらいだろうな。
そんな特殊品、所有者が口をつぐんでいる付与スキル効果をおおっぴらにするのは正しいのか?
インサイダーと言われようと、抱え落ちすべき情報かもしれない。
けれど、公にすることで牽制効果も発生するわけで、情報公開が必ずしも悪いこととも言えず。
僕自身、情報は基本的には公開してほしい派だし。
さりとても、昨日すでに付与不明と言いつつ司会者落札なんてフォロー不可能なやらかしをしているわけでもあり。
言い訳言い訳。
ばっちり自覚のうえで下手な相手に渡せるかと競りましたことよ。
オークションは最高額で落した者が正義なんじゃい。
舞台上では場をつないでいた芸人が大詰めを迎えていた。
「こんなん、なんぼあってもいいからね~」
「もうええわ!」
「「ありがとございましたー」」
胸中に葛藤渦巻く状態のまま舞台に。
昨日と同様、トレイを捧げ持つようにして僕が現れたことで、観客に期待のこもったざわめきが広がった。
ショウ・バイニンによって、噂、広まってるんでしょうねえ。
また高額品か、プリンセスか、なんて囁きが聞こえる。
「本日最後の出品となります。
ただいま皆様にご覧いただいておりますのは、【プリンセスコロネット】です。
昨日の【プリンセスティアラ】に続き、またしてもプリンセス装備の登場です」
トレイを捧げ持ったまま舞台上をゆっくり練り歩いて、観客たちにじっくりみさせる。
「出品者曰く、昨日のティアラみたいに付与は伏せたほうが面白いんじゃないとのことでしたが、あれは別に決まりでもなんでもなくて、そういうものかなってやっちゃっただけで……え、絶対に伏せろ!?」
舞台袖で、出品者とショウ・バイニンが何故か握手をしている。
ああ、ルピスが持ったままの『プリンセスティアラ』(【邪悪感知】付与)があれば。
絶対にあのへん黒いぞ、真っ黒だぞ!
「付与なんてどうでもいい! その銘とカタチが好きなんだー!!」
「どうでもよくはないと思うんだけどなあ……」
セルフ戴冠して見せたところでとっととはじめろと叫んだのは、昨日、最後まで争った、青髪の鍛冶師つよ・そうな嬢。
……あるぇ?
【真偽看破】、まったく反応しない。
昨日のツッパリは、BSの【武具鑑定】で付与スキル見抜いたうえでの競りじゃなかったの?
本気でお姫様装備好きなだけなの?
「今日は財布も連れてきた!」
「やっほー、【しろへび堂薬局】のスワティでーす☆」
スワティ嬢の頭には金貨15枚で御落札の『白翼天使のHB』が飾られている。
「本気じゃぁねーか……」
「ああでも、いきなり連れてこられたから、今つよちゃんに貸せるのはあんまりないよ?」
スワティ嬢、一瞬だけ真っ赤に見えた。つまり、嘘?
いや待て、どの部分が嘘なんだよ……。いきなりすぎて見落としてたわ。
とにかく出品者とオク運営責任者が付与伏せろって指示したんだもん。
僕の責任じゃないもん。
僕の責任は、出品者様のために最高の落札額を演出すること。
「……いいでしょう。僕も本気ってヤツでお応えいたしましょう。
付与は【?】、強化値は+10の【プリンセスコロネット】。今、この場限り、最高値で決着。ニコニコの現金払いのみの受け付けです」
LLO相場は、あってないようなものなのよね。市場に出ないから。
いつもの口上のあと一拍ためと、そして自分自身へのKIAIを込めまして。
「観客の皆様も応援よろしくお願いいたします。奮ってお声上げての入札、お願いいたします。
【プリンセスコロネット】、金貨20枚よりスタートです!」
「おまっ、いきなり20Gとかふざけんなコノヤロー!!」
……初っ端だけの入札が数人で、ぽつりぽつりと脱落し、残るは三人の激しい競り合い。うち二人は僕とルピス。
「ていうか、おりてくださいルピスどん。身内で争って値をつり上げて、なんの得があるんですか」
「出品者のお得? そして誰がおりますか! ランドさんがおりるべきです。だって私なら本物のプリンセス!」
おかしいな。
『白い丸帽子』ならともかく、プリンセス系に興味があったとは聞いたこともないんだが。
【真偽看破】効果で、微妙に赤く見える瞬間があるのが判断に困る。
……付与効果、か。
昨日、『プリンセスティアラ』戴冠で体感させちゃったもんな。
今日も付与を伏せているから、僕がおりないことからヤヴァイ品だと認知して落札を狙っている?
なら僕はおりようかなあ……
「お前司会だろう、今日はボクに譲れよぉ」
「男には譲れない戦いがあるんだよぉ」
「また女か!? 女だろ!!」
「男とか女とかどーでもえーわい」
「とにかく譲れぇ」
「譲ったら八百長疑惑爆誕やろが」
「じゃあ私がおります」
「「あんたがおりるんかい!」」
ルピスどんの突然の撤退宣言に、つよ嬢と声を合わせてツッコンでしまう。
「いやー、これでも手持ちのギリッギリまで競ったんですけどねえ」
赤くならない。つまり本当。
だって、この場ですぐにニコニコ一括現金払いじゃないですか、と。
引き渡し時に足りなくて、空入札でルール破りになったら、どんなペナルティがあるんだと。
「うんまあ、ちょっとココでは言えない系のペナルティを準備中だって、【春夏冬】のショウさんが」
言ってないけど、そういうことにしといてと舞台袖に目配せ。OKサインあり。
空入札はバレなきゃOKではあるけれど、落札後に払えませんをノーペナで見逃すわけにはいかないもんね。
でまあ、ルピスどんに梯子を外されたカタチになった僕とつよ嬢だが、奇しくも金貨35枚、昨日の『プリンセスティアラ』落札額に達したところで、またしても崩れ落ちた。
「ちっくしょおおおおおお!!!!」
「資力! 財力! 大勝利!! イヤッフォゥゥゥ!!!」
……本気の貸し借りコミの財力なら僕のボロ負けだったろうけど、スワティ嬢が本気じゃなかったようで。
己が力ではなく、お友達の財布をあてにした時点でウヌの負けだったのだ、ってところでひとつ。
「スワちゃんみたいに、看板と宣伝になると思ったのに……」
「いや、充分に宣伝にはなったと思います。良くも悪くも」
コンバート時にできた付与は、モノによって違う。
耳系装備だと【聞き耳】【聞き分け】【聴超音波】のような、関連性か何かの傾向はあるみたい。
では、プリンセスと名のつく装備は。
昨日の『プリンセスティアラ』が【邪悪感知】。
今日の『プリンセスコロネット』が【真偽看破】。
これらがもし、プリンセスが身につけなければならない技能なのだとすると、考えさせられるものがある。
締めを済ませて下りた舞台袖では、シオが何かを期待する目でこちらを見ていた。
……しゃーないなー。
「貸すだけだから! 貸すだけだから!!」
「ウェーイ♪」
夜のリビングでは、世界で一番お姫様なシオ嬢に、同居人たちが何コイツという顔で僕を見てくるが、気にしたら負けだと思う。
2日で金貨70枚の浪費?
だから何。
計算上、まだ3,500枚以上残っているはずだもん。困ってないもん。
だって、「プレゼントは全員に同じもの」ってアラブの大富豪が……
プレゼントじゃないけど!




