11日目の③.プリンセスティアラ
オークションは、仕切りが【春夏冬】、ケツ持ちが【アークエンジェル】と明確になったことで、運営の段取りや手続きを整備中。
あわせて舞台も地味にグレードアップ。
ただの露天舞台だが、衝立で観客とは目線を切った控室的なエリアとか舞台袖とか、裏方用の設備がちょぼちょぼ追加されている。
僕も、そして観客も慣れてきたので順当に進行したが、最後に爆弾が残っていた。
「すまんけんど、飛び込みもう一品だけ頼みますわ。どでかくおもろい目玉になりそうなんや」
「えー」
ソイヤソイヤと背を押され、出品者と顔をあわせる。
神様倉庫でアクセサリを載せていたトレイに、宝石をちりばめられた銀色の、超高級ヘアバンドこと、ティアラが載せられていた。
許可を得てタグを確認すると、【プリンセスティアラ】。
強化値は+10で付与は【邪悪感知】。
【プリンセスティアラ】については知識としては知っているが、LLO時代にはチラ見しただけで触れたことがない、いわゆる出回らない品だ。
ルピスの『白い丸帽子』と同じくランダム宝箱のみの産出。排出率は察しろ。
付与の【邪悪感知】についてはまったくの未知。
名前的にテーブルトークRPG系ならお馴染みのあのへんかなという感触はあるが、コンピュータRPGでは扱いにくいスキルだからLLOに存在しなかったのも納得ではある。
プレイヤーのビルドを踏まえてシナリオ調整あるいは作成もできるTRPGでなら、シナリオフックだったり、ペラ回しのための材料提供だったり、はたまた感知系の汎用性を生かして戦闘シーンでも活躍したりと、取っておいて損はない技能だと思う。
該当のゲームシステム、設計にもよるけれど。
ただし、今回の【邪悪感知】が、そういうお馴染みの効果を持つものなのかどうかは不明。
LLO時代のネガティブな思い出がついてまわるため処分したいという意向。
どんなネガティブなのかは口をつぐまれた。なお出品者の性別は男である。
ものがものなので、付与スキルについては【?】がいいんじゃない、自分は顔出し名前出しともNGなど条件をつけられる。
「白羽根(※『白翼天使のHB』のこと)が金貨15枚なら、倍の30Gはいってほしいな」
30Gといえば、転生者同士での拡張バッグの取引が成立した額。
Zolt経由日本円換算でおよそ8,3000万円。
……単なる宝飾品としての価値でも高いか安いかわからない。
どこそこ王室の……的な歴史的価値はないし。
あえて言えば、拡張バッグの当地相場はもっと低いかもしれず、スキルの内容次第という条件付きでこのティアラのほうが価値がありそう。
「そうは言ってもね、宝箱開けていれば出るモノではあったから唯一無二というわけでもないし、ほどほどの値になれば充分だよ」
「やるだけやってみます」
「うん、お願いする」
さらに幾つか確認してから舞台上に。
終わりのアナウンスもなく、そこそこの時間を待たされたうえで、僕がトレイを捧げ持つようにして現れたことで観客にざわめきが広がった。
「本日最後の出品となります。
ただいま皆様にご覧いただいておりますのは、【プリンセスティアラ】です。
実のところ、触れるのはおろか、実物を間近に見るのも初めてです。こういうモノを手に入れられるのが本物の廃人なんだって、僕は所詮は逸般人どまりだったなって、ハッキリわかります」
お前も充分に廃人だろとヤジが飛ぶが、わかってない。
やりこみの差じゃないんだよ。姿勢の差なんだよ。人を辞められるかどうかという一点で、明確な差があるんだよ。だから廃人じゃなくて廃神なんて表記までされるんだよ。
「そのへん踏まえても廃人に見えるんだが……」
「モノホンと比べられると、惨めになるんだよ! わかれよ!!」
「ハードルたけぇなオイ」
ヤジは無視して、出品者の許可は得ているので、そっとトレイから取り出して頭の上に載せる。
だって、確かめたいじゃない!
未知のスキルですぜ、旦那ぁ。
こいつぁ是非とも検証せねばなるまい(使命感)。
……うわぁ。
【邪悪感知】という付与スキル、効果がガチだ。
黒い靄っとしたものが、視界の中にいくつか立ち上っている。
そりゃねえ、万人に愛されるとは思わないけどさ、どういう悪意なんだ。知らない顔ばかりだぞ。
直接何かで恨まれるような覚えはない……僕に向けられた悪意ではなく、邪悪な傾向が強い人を示している?
方向性ではなく性向を感知しているのか?
いずれにせよ、元TRPGプレイヤーとして言わせてもらえば、この効果はガチだ。使える。使い倒せる。
内心を出さないように、意識して薄い笑顔でゆったりと。
太陽の反射光が観客にばら撒かれるようにゆっくり頭をめぐらす。
「似合います?」
同じ笑いでも、雰囲気で笑うのと楽し気な笑いと、そして嘲笑の違いが仕分けできてしまいますねえ。
「出品者の意向により付与は【?】、強化値は+10の【プリンセスティアラ】。
今、この場限り、最高値で決着。ニコニコの現金払いのみの受け付けです!
金貨1枚からのスタートを希望されましたが、そんな生温いオクじゃあ皆さんも盛り上がらないでしょう。よって司会者として金貨15枚よりのスタートを宣言します!」
どよめき。
これまでの最高落札額は、【白翼天使のHB】の15G。
そこをスタートにしたのだから、それくらいの反応がないとツマラナイ。
「付与効果不明の【プリンセスティアラ】、強化は限界+10。金貨15枚より、奮ってお声上げての入札、お願いいたします!」
だが即座に声があがり、すぐに20Gを突破してさらにどよめき。しかもまだ止まらない。
ご観衆の皆さま、お楽しみいただけているでしょうか。
「なんで司会まで入札してるんだ~!」
「僕が! プリンセスに! なるんだよ!!」
爆笑。司会者入札は過去にも見せてきたしね。
ただ、中には笑っていない人もいる。悪意は感知しないが、真剣さを感じる。
……30Gを超えてぽつりぽつりと脱落し、残るは2人。
僕と青髪の鍛冶師のお嬢さん。
なおも争ったが、銀貨で刻む相手に金貨ベースで突っ張って35G、およそ100MZoltでついに崩れ落ちた。
「うわぁああああああ!!!」
「友情! 努力! 勝利! イヤッフォゥゥゥ!!!」
舞台上で勝利のダンスを舞ってしまったが、ふと冷静になる。
ストレスの反動なのかな、めっちゃ弾けてしまったような。
煽る側の司会がセルフバーニングしてたら世話ないような。
マジな付与効果ではあったけど、マジ泣きする客を蹴落としてまで落札すべきだったのだろうか。
ていうか僕は付与効果知ってて、観客には不明と言いながら突っ張り?
インサイダーの臭いがアカンくね?
いやでも、競ったうえでの最高値だし……
ともあれ決着はついてしまったので、ぐだぐだ考えるのは後回しに、締めの挨拶をして舞台袖に下りる。
出品者に改めてこの値段でいいのか確認したが構わないと。
「だって君、当時かわいいからってはじめた女垢で姫に祭り上げられた、俺にとってはネカマな黒歴史だぞ。それがZolt換算で100Mなら上等。忌まわしき記憶はポイだよ、ポイ」
人には……モノには歴史があるものだ。
なんとも言えない思いを胸に、手にしたティアラを眺めていたらルピスどんたちが踏み込んできた。
シオともども、関係者扱いでフリーパスなんだよな、うちのお姫様たちは。
「友情の臨時タッグ、数々の『朝は早い』努力で積み上げた資金力で勝利を掴んだ人はココですか?」
手にしていたティアラを、貸すだけだよとルピスにかぶせる。
驚きからのニッコリ変化。
だが気づいていないようだが、引き換えに『白い丸帽子』は担保として握らせてもらった。返してほしくば……
「む、ランドさんから(邪悪な)反応が!?」
「ですよねー」
リアルタイムで状態変化を感知か。
やはりガチだな【邪悪感知】。
倉庫からの持ち出しに復帰すべく移動中、頭に『プリンセスティアラ』を戴いたままのルピスどんが物憂げに周囲を見渡す。
【邪悪感知】、使いまくりんぐですね、わかります。
「いいなぁ、私もプリンセス装備欲しいなあ」
「あげてないよ。貸しただけだよ。……それに、シオが寝間着代わりにしているワンピースも『夏のプリンセス』っていうんですが」
「がーん」
シオ君。君はね、すでにプリンセス装備の持ち主なのだよ。
だから余計な欲を持たないでください。あとルピスどん、そろそろ返して。
「夏限定だなんて。オールシーズンを要求するぅ」
「おぃ!」
だいぶ素直になったというかはっちゃけたというか、シオ嬢はこういう娘なんでしょう。
シオをあやしながら倉庫列に並んでいたら背後から声をかけられた。
「やあ、ランド君。うちのつよちゃんを泣かせてくれたって?」
「え?」
目が死にかけの元ランカー製薬のスワティさん。その頭には白い翼が自己主張している。
宣伝目的での落札後、順調に看板としてシンボル化中のようだ。
そしてスワティ嬢のそばには、先ほどまで金貨を叩きつけ合った青髪のBS娘さんと、オレンジ髪のシーフ娘さん。
スワティ嬢の緑髪といい、この世界の人間全般なのか転生者限定なのか、髪色のバリエーション多いんだよなあ。
「製造BSのつよ・そうなと、素材収集プロのアナ。【しろへび堂薬局】の精鋭だよ」
「やあ、これはどうも。支援プリーストのランドとルピス、小鳥のシオです」
挨拶を交わしつつも、アナ嬢はともかく、つよ嬢の視線はルピスの頭上に固定。
BSには【武具鑑定】ってスキルあったよなあ。
入札の時も睨んでいたし。こりゃあ情報抜かれてるかな。
「……女か」
「はいはいつよちゃん、失礼だからね。すまないねえ、うちのつよちゃん光物が大好きだから」
そういうことにしましょうね、と聞こえた。これは妄想が生んだ幻聴だろうか。それとも、ニュータイプ的な交信だろうか。
スワティ嬢続けて、それにつけても、と。
「バカのせいで余計な手間が増えること!」
「本当にねえ」
『勇者君』たてこもりのせいで動員された兵士さんたちもかわいそうだが、余計な時間をかけさせられている僕らの怒りは静かに広がっている。
目論見の予定数をこなせないまま夕の鐘の時間になってしまう。
TS4人組はまだ運び出したがっていたので、倉庫待ちの列に残して別行動。
僕らは夕方の掲示板チェックのち夕食を済ませて帰宅予定。
掲示板には、【号外】として、オークション最高落札額発生の記事が踊っていた。
壁新聞かよ。そもそもこれが第一号じゃないのかよ!
「定期掲載する気がなければ、常に【号外】と呼べるのでは。ルピスはいぶかしんだ」
「そういうノリかあ。でも、壁新聞はいいアイデアに思える」
「情報の取捨選択も大変ですしね。情報ソムリエとしてまとめ記事発行してくれたら、有料でも需要あるかも」
なお『勇者君』の件は触れられてもいない。
検閲以前の問題で、記者の関心が無い的な?
帰宅後も4人組のために扉を開けはしたのだが、2往復程度で太陽も落ちてすっかり暗くなったので、次にクランルームに入れるのは明日の朝だと告げたところ、がっくりと肩を落とした。
その後はリビングでくつろぐ……というよりグダっとしている。
ほぼ一日中、倉庫とルームの往復の疲労感か、シャワーを浴びて保存食をかじったら動けなくなった模様。
「はいはい、グダるなら寝てしまう。自分たちの部屋に行った行った」
「家主が鬼な件」
「お姫様だっこの権利をあげる」
「いらん、去ね!」
なんだろう。
いろいろ考えて警戒してストレス溜めてるのが馬鹿らしくなるほどくつろいでないか、こいつら。
ちなみにルピスどんがティアラつけっぱなしなのは、同居人の調査のためだと思いたい。




