11日目の②.バカの定義
今朝の朝礼こと冒険者ギルド訓示には、中3日を経て支部長アレクセイ・パーニン士爵殿が登壇なされた。
目の下クマクマは相変わらずだけど、肌の色つやが多少は戻っている、ような気がする。
「武具や素材の売却によって得た金銭が、嵩張り重いという相談であるが、高額貨幣への両替を勧めている。
本来であれば、冒険者ギルドで行える両替は支払時のみだが、特例により当面の間は窓口で両替を行えるようになった。ぜひ、利用されたい」
武具の一時預かり業務の開始と両替の案内以外、特筆すべきことはなかったけれど、無事のお姿を見れただけでもよしとしよう。
いつもの雑談メンバとは、アレクセイ子爵殿の無事を寿ぐ挨拶から。
そして同居人の斡旋についての愚痴。
「俺たちにも男が2人押し込まれただろ。どうせなら、出会いのチャンスにしてくれたらよかったのに」
「冒険者ギルドは婚活相談所ではないですから……」
いつもの三馬鹿をするっと流して各自の状況報告会。
「私たちのところは男女ペアの、カップルさんでしたので、互いに非干渉というスタンスで」
「うち、3人のところにダブルスコアの6人なんですけど」
「うわぁ……何考えてんだ運営」
「あー、ルピスさんたち2階でしたもんね。定員からすればまだまだ押し込みたいところでしょうけど……」
「2階って定員24人だっけ? 半分でも12人だしねえ」
保証金という足切り基準もあるけれど、一定の良識というか、話の通じる人を厳選しているっぽいという意見もでた。
僕らのところも、自称とはいえ一応は知り合いか、縁のある人を紹介してきたわけだし。
「婚活は冗談にしても、ホスト・クランとの適合性は考えているっぽい」
「どこまで信用できる話かは眉唾なんですが、転生、現地風に言えば出現からここまでの素行で『問題アリ』と判断された連中は弾かれてるそうです」
「そりゃね。ギルドだってあからさまな火種は除いてくるだろさ」
「ただどうしても、言葉は悪いけど2線級なんだにぃ。Lvはあっても、ね」
「タートダッシュきめたランドさんたちに乗っかった私たちが言うべきではないですが、ルーム情報出た後の二匹目のドジョウもとれなかった人たちですからねえ」
機を見るに敏かどうかや、人間力とか、職業博打ちなみの勘とか、あるいは人の縁なり運なり。
そんなの、キャラとしてのLvだけ見てもわからない。
クランルーム確保に関しては、結局のところ僕は運がよかっただけとも言える。
しかし、頭たちのTS事情のような、足を引っ張るマイナス要因もないのに行動が遅れたのであれば、意識の問題に帰着せざるを得ない。
高い低い系ではなく危機意識や感度。
部屋への装備等の運び込みに付き合わざるを得ないことはみんな同じ。
「せっかくギルド講習受け始めたところだったんじゃがいも」
「一時預かり業務はじめたってんだし、そっちに預けりゃいいのに」
「あれは物置の確保できていない人にとって、今をしのぐ救済策として無難オブ無難ってだけデス」
一人当たりの預かり量に制限があり、引き渡し時に預かり料を徴収すること、期限を切って引き取りがない場合は没収とすることなど。
方向性としては無難としか言えない。
「預け時じゃなく引き渡し時に料金徴収とか、期間切って没収とか、罠臭くも感じるんだがなあ」
「いうて、駅前ロッカーだって保管期限はあるんやで」
そりゃあのギルドが、損を被るなんてマネはすまいよ。悪い意味で信頼できる。
預かり量の制限は、葛籠というか行李というか長持というか、そういうハコ単位で管理するために必然として設定されてしまうのもの。
「このハコに入る限り」ってことだ。
貸しロッカーならぬ貸しコンテナ(極小)預かり倉庫業とでも考えればいい。
「どれだけのスペースを用意しているか気になります。すぐに埋まってしまうようでは本末転倒ですし」
「でも、まとまったスペースがあるなら宿舎にしちゃうんじゃないの?」
「宿舎にしてしまえば1人分でも、倉庫として使うなら10人分20人分の荷物を積めるわけで、優先順位は後者かなあ」
「改築改装を考えても後者だにぃ。寝床は、あと数日は神様倉庫が使えるし、その後はまあ野宿でも……」
そういえば、関西弁風の商人さん、押さえていたはずの物件の引き渡しが怪しいと言ってたなあ。
そういった倉庫なんかを徴発して流用、実にありそう。
「両替は、僕らにもメリットのある話ですが、いよいよ通貨不足説濃厚になってきましたね」
「金貨がいくらあっても粒銅の代わりにはならんからにぃ」
「金貨を使うような層は証文取引もしてそうですけど、庶民の取引・買い物は、ニコニコの現金払いでないと成立しないでしょうからね」
屋台では、金貨・銀貨はもちろん、時には大銅貨も拒否される。
そんなもん渡されても釣りがない、計算に難儀するから困るというわけで。
大銅貨は銅貨12枚分で、銅貨1枚は粒銅6個に相当し……10進法に慣れてる僕らにとっても、とっさの計算は面倒だわ。
普段使いされ、量がないと決済に目詰まりを起こす、身近な経済が止まるのは銅貨不足からという説を楽しそうに推しているけど、実際に目詰まり起こされると僕らにも影響出るんやで。どうせ悪い方向で。
「この後すぐ、両替行ってくるお!」
「実際、小銭じゃらじゃら困るんじゃあ」
獲得金銭の値が経験点になるルールのあるTRPGで、捻くれたゲームマスターが財宝全部銅貨にしやがった騒動を持ち出すまでもなく、少額貨幣ばかりあっても困るのは事実だ。
適宜、それぞれの貨幣を適切な数量にしておくべきだろう。
ああ、そういえば。
「拡張バッグ、現地査定だと金貨5枚で、僕らの間だと金貨30枚で取引成立だったじゃん。現地の感覚だと、どっちもあり得るかな~だって」
「買値と売値が違うのはわかりますが、結構な幅がありますね?」
「意外に安いのかお?」
金貨の時点で大金のハズなので、だいぶ感覚がおかしくなってきた気もする。
「高ランク冒険者の象徴、かつ、誰でも常に買えるようなものではない……」
「今後、現地品を手に入れられる可能性があるかもは大きいにゃ」
低Lv冒険者が持っていると、『狩られる』危険性についても。
「カモがネギしょってる状態なわけかあ」
「Lv80以上でクエスト作成だったから、低Lvといってもそうはいないはずなんだけどね」
キャラ固有アイテムだったので、転生後も持っているなら最低でもLv80キャラがいた証拠。
コンバートで1/8でも最低Lv10はある計算。
「あ、でも。さらし首にされた人の強盗品に拡張バッグもあったそうですよ」
「それどうなったの?」
「すぐに被害者が訴え出て元持ち主と確定できたなら返却、でなければお上が没収」
「自力救済、かあ」
「無法ではないんですけどねえ、自分の権利は自分で守れというだけで」
倉庫待ちの列もだいぶはけたので解散。
僕らはいつものチェックと、拡張バッグについて注意喚起等のメモを貼るために掲示板エリアを経由してから、運び出しロードへ。
「ねえ、散々受け取っておいていまさらだけど、銅貨足りてる? キツイなら両替ってことで銅貨わたすけど」
「かーっ、お得意様からのご相談なら無碍にするわけにも参りませんなあ、困ったなあ、あまりおおっぴらに言わんといてください……という建前で承ります」
関西弁風商人さん、急に真顔になられてもビビるって。
「うちは両替商免状もっておまへんからな。公に、大々的にやらかしたら首が飛びますわ。ま、免状業務としての両替やないから、手数料も頂きませんのでご安心を」
言いながらも、さっさとよこせよこせの手招き。
さすがだよ、おいちゃん。商人ってのはこうでなきゃ。
でまあ、本日何回目かの倉庫なのですが、兵士たちが大勢、扉群を取り囲むように配置されているのはなんなんでしょう。
倉庫待ちの列自体はあるようなので最後尾についてみたが、僕らの前後でも「なんだろう?」と首をひねるばかり。
じわじわと流れる倉庫待ちの列中に僕らを認めたTS4人組が、荷物を詰めた拡張バッグや、あるいは弓なり剣なりをそのまま抱えたり背負ったりした状態で近寄ってきた。
「ただでさえ混んでるのに、頭痛いな。俺たちラウンジで待ってるから、よろしく」
「いったい何事が起きてるんです?」
「ああ、例の『勇者君』がたてこもったんだとさ」
現地人ともめごとを起こし、捕まっていたはずの『勇者君』。
彼にはこれが現実だと認知できていなかったのか、都合の良いゲーム世界と勘違いしたのではと考察されている。
ただ、いくら『神に選ばれた勇者』であっても、せいぜいツボを割ったり家屋に侵入してタンスを漁るくらいじゃないのかなあ。
スキルぶっぱして市壁を壊そうとしたり、現地人に見境なく絡んだり、女性を、ほら、なんだ……そういうのって、『勇者』の振舞いじゃないと思います。
その彼に被害を受けた現地人への弁済のためとして、勾留を一時解かれ倉庫へのアクセスを認められたそうだ。
「それでたてこもりって……本当にバカですね」
「後3日しか存在しないところにこもってどうする気なんだろう」
「何も考えてないんじゃない?」
人は理性で動くイキモノではない。
わかり切った正解ではなく、常識的にありえない行動をとることもママある。
教育の問題ではない。
教育によって減らせるのは、単なる知識不足からくる行動。
知識はあり、考える頭もあり、常識も持ち、それでもなお、ここぞという最悪のタイミングで最悪の手をうつ輩というものは存在する。
「バカというのはバカをやるからバカなんだ」
誰かの吐き捨てに、近場にいた全員、大きなため息をついてしまった。
兵士さんたち、積極的に僕らの邪魔をするわけじゃないけど、包囲網を敷いている関係で、確実に人の流れに悪影響は出ている。
つまり、ただでさえ混み合っている倉庫の出入りが、ますます混み合い、時間も取られることになってしまった。
昼食は普段の屋台飯と違い、いつぞや奢ってもらったお洒落カフェで具だくさんのパニーニを注文。
お値段もお洒落要素らしく、別行動に入ったTS4人組を除き、僕らと元老夫婦とあわせ5人分で大銅貨が消えたのは実にお洒落で、根が低所得層な僕の感性には厳しいがこれもお洒落な必要経費と念じる。
「できうれば、今日明日中に運び出してしまいたいですねえ」
「入庫待ちにルピス殿待ち、ついでにバカの出現で待ち時間が思ったより多くて気が焦るのじゃな」
運び出しの合間には私物も買い揃えないといけないわけで、同居人たちは忙しさが先に立つようだ。
フォローをお願いしてある元老夫婦組にも自由時間は必要なので、適当にやってねと伝えておく。
「では食後の散策など。ご馳走でござった」
「ごちそうさまでした。また適当なところで合流いたしますねえ」
広場の雑踏に消えていく元老夫婦を見送り、しばし、食後の余韻を楽しむ。
「気にしすぎて気疲れしてるのが無駄なのかなあ」
「とはいえ、警戒しないわけにもいきませんし」
「はなさんたちもアルベルさんたちも、悪い感じはないんですけど、無条件に信用するのはやっぱり無理ですよぉ」
新同居人たちには僕のオークション明けまで倉庫持ち出しはしないと伝え、その間に生活雑貨の調達を勧めてあるそうで、3人で大道芸エリアも経由しいつものチェック行脚。
歌に踊りにジャグリング、大道芸の充実と引き換えに、物乞いは本格派の物乞い芸人しか残っていないっぽい。
それぞれにおひねりを投げておいた。
バザー会場は、もはや委託品販売所と呼ぶ方が相応しくなりつつあり、世の無常か、売れる売れないもクッキリしている。
と同時に、売ります買いますの声は消えた。
売るほうは委託品として陳列してもらえば自由に動けるし、買うほうもモノがあるならまずそっちを見るし、無用なコミュニケーションを避けられる。
ほら、あるじゃん。
目が合ってしまったから、特に必要ないけど1品だけ買うみたいなの。
声掛けちゃったから、ちょっと高めだけど仕方ないみたいなの。
それに、MMORPGのプレイヤーのみんながみんなコミュニケーション好きってわけでもない。
僕なんか本質的にはボッチで、身内以外との関わりは極力避けたい気質だし。
人との関わりって、それだけで疲れる、エネルギーを消費する行為だからね。
売買掲示板もまた、変化している。
参考として、例えば黒翼HBのようなオークションにかかった品がリスト化され、落札額が併記されている。
「オクは高値掴みの可能性が高いんだけどなあ」
「あくまで参考でしょう。ほら、こっち、オク値の……2割引きくらいで売りに出て、買いますの返答ついてますよ」
「参考値があるから、比較して安く感じるのがイイのかな」
どんどん状況が移り変わる、これが過渡期の特徴なのだろう。




