11日目の①.新同居人
横になってくつろいでいたら、またぎながら屁をこかれるという夢を見た。
結婚したら本性が出たとは父の金言であったが、まさかあれが僕の将来の姿か。
たいした親孝行もできなかった報いだとすれば、甘受するしかないのだろうか。
ともあれ変な夢をみたのはストレスのせいだ。
安心して眠れないというのは心身に悪い。
服を着たまま寝たことも、大震災の頃を思い出させる。
いやむしろ、この数日はルピスとシオに甘えて気を緩めすぎていたのかもしれない。
未知の世界に転生って、これくらいの緊張感でいるのが本来の当たり前だったのかも。
キッチンで顔を洗って歯を磨き、あくびをかみ殺して戻ったリビングには元老夫婦という男女がくつろいでいた。
ござる忍者の関係者ということで同居を受け入れた、とうごさんとはなさん。
それぞれ符丁はススキとタンポポだが、そっちで呼ぶとなりきりモードに入るから封印。……どうでもいいことだが、封印という言葉にはこう、ロマンがあると思いませんか?
「おはようございます」
「おはよう。ダイニングに積んであった箱の中のハーブティとやら、いただいておるよ」
「ごちそうになっています」
「あい、そいつはご自由にどうぞ」
寝起きの一杯は身体を動かすための潤滑油、だったかな。
僕も大量に在庫しているハーブティをすすっていると、ルピスとシオがシャワー室の方から冴えない顔でやってきた。
「タオル、乾いてない」
「昨日、予備も全部だしちゃったから?」
「ごめんなさいね、私物は自前で用意しないといけませんねえ」
「ですね。洗濯の件も、干場の問題もあるし、各自で洗濯屋さんを利用してもらうのがいいかな」
たらい桶に水と灰をいれ、洗い物を突っ込んで上からふみふみが、この数日のルピスとシオの洗濯トレンドだった。
柱間に縄を張ったダイニングに部屋干しをして、夕方の帰宅後にとりこみというルーティンが、同居人の登場で維持できなくなりそうだと。
ただし、毎日洗いたいのは下着やタオルくらいなので、各自シャワーのついでに洗って自室に干すこともできなくはない。
職服のほうは、数日単位で洗濯屋さんへGOなどとシオとはなさんが話をすすめている間に、僕とルピスも今日の役割分担を。
「今日は僕が倉庫と部屋を往復する?」
「んー、そこまで気にしないでも大丈夫じゃないでしょうか。現に昨日は何も起きなかったし、今あえて事を起こすほどのバカじゃないでしょう」
新同居人と相対せざるを得ないクランルームへの運搬だが、倉庫から広場経由クラン会館までには、常に人の目がある。
そういう意味で一番危険なのはクランルーム内ということになるが、じゃあ僕と2人、あるいはシオも込みで3人でいたとして、実力行使に対抗できますかとなるわけだ。
……意外にできそうな気もする。ただし、殺してしまう方向で。
僕のサブ職の魔術師、攻撃スキルの試し打ちしていないから威力がわからんのよねえ。
おまけに、いくら正当防衛主張したところで、街中での攻撃的スキルの使用禁止に引っかかってしまうだろうし。
なら、サブ職に聖戦士のっけているルピスに任せるのが無難かもしれない。
LLO時代は回復量特化僧侶に献身のクルセと別々のキャラだったが、もし、いいとこどりに成功しているならば、絶対に転ばないという強い意志を体現する性能になるわけで。
そんな事を考えていると、もう一組の新たな同居人、元男のTS娘4人が割り当て部屋から出てきた。
一応4人の代表ということになっている頭は、外見年齢は20歳前後の赤毛さん。
同様の年齢設定らしい姫は、今朝もまた縦ロールを整えている。逆毛を維持できなくなった逆毛騎士の例もある。あの縦ロールの維持には地味に手間がかかっていそう。
狐子はぐっと若くなって中学生からギリ高校生かくらいの外見。銀髪じゃなくて灰色というところにこだわりを感じる。
エルフ耳は高校生くらいに見えるが、その胸はつつましやかである。成長性の問題ではなく、そういうふうにキャラメイクしてきたのだから、本人の趣味だろう。
なお、サービス開始初期に配布されたキャンペーン報酬のエルフ耳だが、引退者から貰ったものだそうでLLO歴は浅いらしい。
もちろん僕は持っていない。うらやましい。
彼ら……彼女たちに限らず、転生者は全員、外見と中身が別物なので見た目に騙されないようにしないといけない。
「やー、久々にぐっすり眠れたあ」
「シャワーですっきり、熟睡ですっきり。すっきりとすっきりでダブってしまったな」
爽やかな顔でリビングに顔を出した4人に対する理不尽な思いが胸にわくのです。
こちとら上から屁の夢で目覚めだぞ。
……じゃなくて、家主がストレス抱えてる脇で爽やか熟睡とはいい根性してますよ。キレてませんよ。まだ。このくらいじゃあキレませんって。HAHAHA
「おはようございます、皆さま。本日も倉庫からの持ち出しにご協力いただけるのですよね?」
「今日はもう11日目だから、余裕ないな……です」
エルフ耳の娘はどうもアイデンティティが不安定。
もとからそういう設定だと言いながら絶対に地だろうな男口調の赤毛騎士娘や、絶対になりきりの金髪姫騎士、意外と素のママなんじゃないかの狐っ娘という濃いメンツに囲まれて、自分なりの個性を作ろうとしているところらしいので、生温く見守るしかない。
「頭と姫は鎧みたいな嵩張るもの多そうだもんね」
「狐子だって弓と短剣のスイッチ予定なんだろ、獲物多いんじゃないのか?」
「おれ……わた…わっち……わらわはうまくすれば今日中に終わるのじゃ!」
キャラがブレブレって、見守るほうもきついな。
食事の用意がないので、早速身支度を整え全員でクランルームを出る。
カギと信用の問題上、僕らも含め誰も残らない。
帰宅タイミングはしょうがないけれど、盗難などを疑われるようなスキをつくらないためにそういうことにした。
洗濯や、タオルはじめ身の回りの私物に関することなどを話しながらクラン会館を出て、倉庫前やクラン会館のラウンジ、あるいはルーム前など待ち合わせの場所を再確認。
「カギ持ちがいないとどうしようもないからな」
「ランドっちかルピスっちにくっついてればいいんでしょ。悩むこともないよ」
そう言いながらも、すぐに朝何食べるかで分裂したんですけどね。
狐子はけっこうな自由人な気がする。でありながらもエルフ娘を引っ張っていくなど、気にはかけているのか。
「同じハンター同士だからですかねえ」
「そういうのはありますわね。LLO時代にどういうビルドをしていたのかなど、同職の頭さんとは話がしやすいのですわ」
「まあ、型は違うがな。俺はありがちなStr>Vit、いわゆるV槍だったし、姫はAgi両手剣だし」
「ほう、両手剣騎士ですか。じゃあ聖剣使い?」
あ、ルピスどんが食いついた。
ルピスどん、ソリストぞろいの男垢筆頭がAgi両手剣騎士だったんだよなあ。
「まさか! 基本は過剰属性バスタードソードで、火力が別にいればカッツバルゲルで【受け流し】連打ですわよ」
「両手剣騎士のくせにパーティですと……。あなたとは相容れない世界に生きているようですね」
「いやでも、A>V=S両手剣って結構肉壁性能良かったよ?」
「ランドさんの女垢はソロもPTもできる変態ぞろいでしょうがぁ」
「AV騎士娘って、字面がひどいなおい」
うん。中身男だなあってよくわかる赤毛騎士娘こと頭発言でありました。
ちなみに僕の女垢は別に変態ぞろいじゃない。
騎士娘以外は完全にソロ仕様でビルドしていたし、騎士娘だってA>V=Sは言われるほどにはネタじゃない、と思う。
ダラダラ狩るのに凄い楽だったので。
これがA=V>Sあるいは極A=Vだと話が別物なので要注意。その型はネタどころかガチだから。
とまあ、バカ話ではあるのだけれど、互いの人となりを探りあっている段階には必要なことでもあり。
ルピスがブツブツ呟いているように、金髪騎士娘こと姫には、Agi両手剣騎士でありながらPTを組んでくれる・参加できる伝手か知り合いがいたことがわかる、といった具合。
あと、現在はサブ職に設定している僧侶で塔に行ったけど安定しなかったとかどうとか。
僕とルピスの塔臨時を知ったうえでのフリっぽいな。
「戦うだけなら壁と火力で済みますが、安定させるならプリ入れて、それぞれの質と量を底上げしないとダメですからねえ」
「火力は基本型のWizと弓系いればなんとかなるけど、前壁だけはV必須だしなあ」
「だがなあ、高レベル狩場でPT前衛はれるV騎士って、そりゃブルジョワじゃんか」
敵を抱えられる前衛・壁。その敵を倒せる火力。
タンクとかダメージディーラーみたいな呼び方もある。
ソロだと一人でその両方を兼ねなければならないが、それぞれに本職化した場合は役割分担による分業、つまりは効率化が進む。
特殊なBOSS狩りではAgiこと避け前衛が輝くシーンもあるが、数を相手にする中規模以上のPT狩りだと敵を抱えきれないので、どうしてもVit系の独壇場になる。
でもって、ステータスがVit系は被弾上等のため、装備で耐える必要があるわけで、頭の嘆く通り、お金が装備に吸い込まれていく果てしないV道が待っている。
Vit系は職によらずみんなそう。
だからソロキャラはお財布に優しいAgi系が多い。トリビア~ン。
支援プリ?
継戦能力を担保するだけの役割ですから。
ただし極論、プリが前衛壁を兼ねた火力とのペアでも狩りはできる。
塔という場所だとさすがにペア狩りはきつかったけど……ルピスのクルセと僕のWizって、プリペアじゃないな。
「『壁1火2支2』は、事故を起こりにくくしたうえでの効率との睨みあい編成の基本だからなあ」
「身内だと、そのあたりが、どうしても……」
「臨時もえぐいときはすごいことになりますよ。まあ、だからこそ常連さんが大切になるわけですが」
臨時PTメンツ個々人の質は本当にピンキリだからねえ。
すごいのにあたると、そりゃもう、言葉を失うくらいにすごいわけですよ。
編成だの役割分担だのは所詮はLLOというゲームでしか通用しない話ではあるけれど、PTメンツの質問題はリアルでも変わらず、いやむしろ重要度を増して輝き続ける難問なわけで。
「頭が痛くなってくるな」
「私としては信用重視ですねえ」
「能力なんて、職や役割に求められる最低限をクリアしていればなんとかなる、なんとかするための編成がPTだしね」
LLO時代の職型にからめての探り合いタイムはとりあえず締め。
そんなこんなの朝食中にも、さりげなく周囲をうかがっている元老夫婦はさすが。
もともと女性のはなさんに、他の同居人の私物調達、それとなく手助けしてほしいとお願いしておく。
「任されました」
「わしにはなんぞ任務はないんかい?」
「とうごさんは、警護警戒継続じゃダメなん?」
「ダメじゃないが、こう、花がないのう」
「……ススキよ、己は隠密のくせに目立つ活躍を求めるとな? お主の花は嫁だけにしておけ」
「ハッ!」
ノリがいいと、楽な面もある。そう思います。
微妙に時間を食ってしまったのでこのまま朝礼に参加するが、あっちはあっちの伝手で情報交換があるという新同居人たちとはいったん別れる。
転生から11日目ともなると、挨拶を交わす相手もほぼ固定化しちゃってる。




