10日目の②.委細面談にて
オークションを終え、ルピスたちとの合流待ちをしているところに、冒険者ギルドの才女さんと腕まくりおじさんが現れた。
「クラン【ファーレンリ】様、ご紹介したい相手がおりますので、冒険者ギルド会館まで御足労をお願いいたします」
「あい。ルピスとシオと合流予定だから、すこし後で行くよ」
「でしたらば、私どももお待ちしてよろしいでしょうか」
否はない。
逃がさないための張り付きかもしれないが、熱意と取れば好印象に変わる。
というか、才女さんたち頑張っていると思う。
昨晩、クランルームを訪ねてきた件もそうだけど、失敗しても原因を潰して再提案してくるし、副支部長あたりの偉い人まで話を通しているようだし。
オークションについてこれはどういう仕組みで、何を扱っているのか、どうして僕が司会なのなど、他愛ないながらも慎重に探りを入れてきている質問も、単なる職務熱心とも違うようで。
「価値観、相場の解離、ですか」
実用品の武具類なんは当地の相場に収斂していくと思う。
でも発端から現在まで取り扱っている趣味品系の頭装備は、ご当地でははした金査定ってのがあってね。
「僕らが持ち込んだ品のレアリティや思い入れ、そういうものを反映したうえで、買取に出すより僕ら相手の方が高いなら、そりゃ僕らに売るよね」
「むぅ……」
実のところ、これまでの落札者には高値掴みさせている可能性はつきまとう。
僕が念頭に置いているのはLLO時代の、それも自分のいた鯖の相場。
そこにLLO時代に存在しなかったスキルの付与であったり、リアル化したことで生じた価値、あるいは減じた価値であったりを勘案しつつ、出品者のためにできるだけ高値落札になるよう煽っているにすぎない。
けれど、そういうものだと説明したうえでの競りなのだから、後から文句をつけられても知らない。
当地での入手難易度や付与スキルの評価なんかがわかってくれば、自ずと僕らの相場観も動くはず。上か下かはともかくも。
「交流が進んで判断材料が増えれば、自然とこの競りはなくなっていくというわけですね」
「入手しやすい品に関してはそうなると予想しているよ。というか、そうなってくれないと困る」
「ふむん……」
高額品はむしろ競りにかけてこそだからねえ。
【春夏冬】の考えるオークションの方向性って、僕ら由来のレアものを動かす権利を、僕ら自身で握りましょってことだもん。
逆にこっちからも質問。
「背負い袋型の拡張バッグ、騎士団の査定だと金貨5枚だそうだけど、実際それが妥当かどうか判断つかないから、こういう僕らの中だけでの取引になっているというのもあるんだ」
「金貨5枚ですか。騎士団の買取ですとそのようなものかもしれませんが……。いつでも誰でも買えるようなものでもございませんし……うーん」
「あっしが現役のころにゃあ、高ランク冒険者の象徴みたいなモンでやしたなあ」
「ちなみに僕らの間で取引が成立したのは金貨30枚のあたり」
「金貨30枚ですか。……相対取引ですとそのあたりでもおかしくありませんが、うーん、バックパックですしねえ……うーん」
「……低レベル低ランクのモンが持ち歩くのは、危ないかもしれやせんなぁ」
当地にもモノはほどほどにある。ただし、入手難易度は☆4くらいと想定。
そして、低ランク冒険者が持っていると、それこそ『殺してでも奪い取る』事案が発生しかねない程度に、レアで高額換金が狙える実用品と。
後で掲示板にメモ貼っとこ。
ほどなく、ルピスとシオも合流したので場を冒険者ギルド会館に。
昨日よりもさらに広くなった部屋に、装飾付きのソファーとローテーブル。なんと、お茶も出されたよ!
「気になったのは、問題発生時の補償。結構な持ち出しにならない?」
「いえ、成立時に紹介した者から保証金込みの紹介料として金貨1枚相当を徴収することになっております。
それに、そもそも問題を起こさないような方をご紹介いたしますので、補償支払いが生じるのは相当なレアケースであると想定いたしております」
才女さん、にっこりなされている。きっと、決め台詞のつもりだったのだろう。
スルーするのもかわいそうなので、日本人として鍛え上げられた営業スマイルを返しておく。
しかし、保証金込みの紹介料ですか。
冒険者ギルド、ぜんっぜん責任を負う気ないですね。
それに、『最大で』金貨10枚までだしね。
どうせ支払いの段になってもあれこれケチをつけるだろうと思うのは、僕の心が汚れすぎか?
強烈にランクアップや市民権の購入を勧めてきたこととあわせて、通貨不足での現金回収説に信憑性でてきたなあ。
「ちなみに、その紹介料兼保証金を払えない人はどうなります?」
「えーと、ランド様、ルピス様には昨日のこともございますので内情を漏らしますが、ここだけの話ということでお願いいたします」
紹介者候補は、クラン設立からのクランルームを希望した者を優先的にリストアップしているとか。
なので、それくらいの資金はあることが大前提。
もちろん、今回の紹介料云々の徴収や、問題発生時の補償について該当者の『無限責任』であることを説明済みとか。
「払いは有限、徴収は無限。ずいぶんとステキなビジネススタイルですこと」
「ま、ギルドなんちゃそんなモンですがな」
「ん、んんッ!」
珍しく才女さんの方が腕まくりおじさんを嗜めている。
「私ども冒険者ギルドは、既存クランに対し文無しの無宿者を押し付けようという意図はございません。そういう者たちには貸付金や寄宿舎を案内する方針です。
ただ、建前上はクラン員候補の紹介ですが、実態として当座をしのぎぐ寝所・物置の確保を目的としていることはいまさら隠しようもありません」
「受け入れを拒否すると?」
「私が困ります」
「情以外で」
若いお嬢さんが目を潤ませるってのは、野郎相手なら効果的だとは思いますよ?
でもね、僕の両脇に若いお嬢さんの天敵がいるでしょ。
泣き落としは逆効果だって。
「拒否事由次第で、冒険者ギルドからなんらかのペナルティがあるかと……」
具体的なペナルティ内容は知らないっぽい。まだ決まっていないのかもしれない。
ただ、冒険者を管理する組織として、指揮命令権への反抗には何かしらのアクションを取らざるをえなくなるのはわかる。
「名目上とはいえ責任とメリットという筋は通され、ペナルティもあり、か」
「名目だけなんですよね~」
「まあ、それが大事なわけで。後はもう、どんな人か次第ですかねぇ」
才女さんと頷きを交わして、腕まくりおじさんが部屋を出る。
「厳選いたしました紹介相手は2組。片方は男女の2人組、片方は女ばかり4人組となっております。
2人組のほうがランド様のお知り合い、4人組のほうがルピス様のお知り合い、そう申しております」
思わず、ルピスと顔を見合わせてしまった。
シオの何気ない追撃が降ってくる。
「お二人は、それなりに有名でしたもんね」
「なんといってもLv90台ですものね! お知り合いがたくさんで選別に困るかと、私それが心配で」
「そうかな……そうかも……」
なぜか意気投合したシオと才女さんに、感情の抜けきった呟きを返すルピス。
塔臨時の縁に縋ったシオのように、向こうが知っている、のレベルなら、それなりにいてもおかしくない……
いささか居心地が悪くなった冒険者ギルドの個室で、すっかり温くなったお茶をすする。
僕やルピスの知り合い?
リアル知人がLLOやっていたのは知ってる。でもLLO内で関わりはなかったから、ランドが僕だと結びつけるのは不可能なはず。
ルピスは……リアル知人かつ結びつけ可能そうな人、いそうですねえ。
ノックとともに部屋の戸が小さく開かれ、歩み寄った才女さんが何事か確認。
「まずランド様のお知り合いという2人組を案内いたします。
ルピス様のお知り合いのほうは現在、受講中のため、そちらが終わり次第の案内となります。
お手数お時間をおかけしますが、なにとぞよろしくお願いいたします」
才女さんの口上の後、室内に入ってきたのは男女のペア。
外見はどちらも中肉中背の黒目黒髪の若者で、気持ちかわいい系にふった洋風モデルっぽい、ありていにいえばLLOでの標準キャラにちょっと手を入れた感じ。
リアル知り合いという線はないはずだし、LLO内で接点があったとしても、今の外見じゃわからんのよね。
こちらと目が合ったと思ったら、片膝つき。
察した。
「我らお初にお目通り願いまするは、【草】に縁ある【雑草衆】が一。符丁ススキと、」
「同じく符丁タンポポと申す夫婦者でございます」
ルピスどんとシオ嬢の、ついでに才女さんたちの、なにこれ視線が突き刺さる。
てかルピスどん、これ見よがしなため息まで!?
「ランドさん、また変な遊びをしてますね?」
「変じゃないよ、ロマンだよ」
「変とは、ロマンとは、宇宙とはいったい……」
その答えに2ほど足りないシオはまあいいよ。
でもルピスどん、君だって元男、殿と忍者プレイのロマンは理解できるはずではないか?
「……ロマンだよね?」
「ええまあ、少々なりきりがきついかなーと思うときもありますけど、そういう設定での遊びですから、目くじら立てることもないでしょうと」
「おまえはそういうことを言うから、わししか相手がおらなんだのだと70年」
「別に不満もない70年でしたねえ」
「あの、のろけならまた場を改めて……70年!?」
妙な空気が自称ススキとタンポポな男女ペアにも飛び火してしまったので慌てて鎮火にのりだすが、ちょっと待って、今なんて言った?
「ジジババですなあ。元、ですが。まさか異世界に転生するなどとは思いもよらなんでしたなあ」
「本当にねえ」
LLOプレイヤーの層は広く、深い。
鯖が違うので直接遭遇したことはないが、『じいちゃんと孫のほのぼのプレイ日記』(※ほのぼのとは言っていない)なんかは愛読してました。ラスト・エピソード、葬儀場に集ったプレイヤーたちとばあちゃんのやりとりには泣きました。
いや、それは今どうでもいいんですけど。
「【草】の所属ではないんですね?」
「えー、ごほん。……我ら【草】に名を連ねる大身に非ず。【雑草】の一と思し召しあれ」
【草】は忍者のクラン。元老人というご夫婦(?)は、関連クランか子クランのメンバーという位置づけか。
「なりきりですかあ」
「こういうのは、本気でやるのが楽しいのだそうですよ。年甲斐もなくねぇ」
「今は若いだろ。おまえもわしもナウなヤングじゃろうが」
そんな死語なのにやたら有名なフレーズを持ち出してる時点で終わってます。
さすがに符丁で呼び合うわけにもいかないので、冒険者証を確認させていただいた。
「えっと、では『とうご』さんと『はな』さん。私たちのクランルームへの間借りを認める、ということでいいんですよね、ランドさん?」
「そういうことで、お願いいたします」
ござるの関係者なら赤の他人よりはマシだし、Lvは23と26だけど、表向きの、僕らのそばにいても問題ない護衛役ってことかもしれないし。
何かあったらござるのせいだし。ござるのせいだし。大事なことなので二回心に刻んでおく。
「……その、えーと、ご成約おめでとうございます? でいいんですよね?」
「頑張って!」
元老夫婦の濃いキャラにあてられて混乱気味の才女さんをシオが励ますという、何がなんだかわからない状況を救ったのは、いつの間にかまた部屋からいなくなっていた腕まくりおじさんだった。
「あの、お嬢、準備できやしたけど……」
「ん、んんッ」
老夫婦、すっと僕らの背後にポジション。この動き、やっぱりござる関係者。
冒険者証で確認したけれど、とうごさん(符丁はススキ)はサブ職にシーフ、はなさん(符丁はタンポポ)はサブ職にアサシンがセットされている。
ござる、特定方向へのなりきりスキー見つけるのうまいよなぁ……
違法薬物の使用者と売人のように、見ればわかる的な電波でも受信しあっているんだろうか。
つまり忍者とはニュータイプ……生命……宇宙……そして万物……




