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冒険をしない冒険者 ~TS相方とはじめる剣と魔法の異世界生活  作者: 凡鳥工房


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10日目の①.人員紹介という建前

 朝食時の議題は、昨夜の才女さんと腕まくりおじさんの訪問について。


「最低限、宿題への回答を用意してきましたねえ」

「冒険者ギルドの責任と、人員受け入れのメリットでしたっけ」

「そう。筋論と実利」


 昼前に破談して、太陽が沈んだ頃にクランルームに訪問だからなあ。

 内部調整にかかる時間を考えると、むしろ意思決定が早いと褒めるべきところだろう。


 なおその背後で、ギルドの指示から数時間もしないうちに、転生者たちによる御所巻き(デモンストレーション)計画が進行していたものとする。


 まず筋論として、突然の無茶な指示に関する謝罪と、斡旋人員が問題を起こした場合には冒険者ギルドとして金銭補填を行うという責任の明確化。


「厳選した人のみを紹介し、彼ら彼女らが問題を起こした場合、1人につき最大金貨10枚までは補填……筋と誠意は見せてきたとも言えるんですが」

「……Zolt換算28M弱って、一級装備1つ持ち逃げされただけで足が出るんだよねえ」

「ほぇ~」


 だがまあ、現地的に金貨10枚というのが大金であることはわかる。これにケチをつけるのは難しい。

 しかも、装備品の価値云々はあくまでLLO時代の相場。どれだけの資産を抱えているかをバラすのもイヤだし。


「余剰人員の押し付けではなく、クラン員候補の斡旋、つまり紹介という建前を押し出されると、メリットと言えなくもない」

「増員したいクランもなくはないでしょうし、ケチのつけづらい名目ですよねえ」


 本当に最低限なんだよなあ。

 交渉担当者として頭を下げた才女さんたちはともかく、冒険者ギルドとしてはカタチの上で譲って見せただけ。

 もともとある責任の一部を明確化しただけだし、クラン員候補の斡旋と言われても、僕らには実利メリットがない。


 なお、これは誰の案なのか尋ねてみたところ、副支部長ホセ・ガルシア士爵殿だそうだ。


 なんとなく納得。

 こう、悪く言えば言葉遊びなのだけれど、実質にはほとんど手を触れずに文書的・政治的に無難な着地点を探るムーブは、行政官僚っぽさのあるホセ士爵殿らしいと感じてしまう。


「無駄にケンカしたいわけでもなく。ここは妥協するしかないですか」

「少なくとも『交渉』はせざるを得ないし、譲歩も見せるべきシーンになった」


 カタチだけであっても譲られたら、こちらも譲るしかない。

 突っぱねるだけだと、本当に妥協点がなくなってしまう。

 ケンカが目的ならとことん突っ張るなりちゃぶ台返しなり無理難題を要求するハルノート方式でいいのだけれど、できれば平和的なデモもやりたくはない。見せ札以上にしたくない。


 そこらは僕ら転生者の抱える弱みだわな。

 交渉では当然に、相手方の弱みを突いてくるわけで恨むべき筋合いでもない。


 では、どこまで譲るのか。


「こちらの譲りすぎになりますが、何人かは、受け入れざるをえないでしょうねえ」

「でも、どんな人が割り当てられるか不安ですよ」

「それなー」


 3人でじっくり落としどころ、妥協点をすり合わせていた関係で、今朝の朝礼前の一仕事はキャンセル。


 朝の鐘の音を合図に広場に繰り出して、いつもの雑談メンバーと挨拶を交わしつつ合流していく。

 朝礼後の集合ではなく、朝礼前から集合になってしまったのは、互いの意思確認と、やはり数に頼る意識だろうか。

 まとまっていると、それだけで妙な安心感がわくものだ。


 ちなみに昨晩の戸別訪問は、あったりなかったり。


 担当者の気持ち次第だったのか?

 冒険者ギルドの業務に関するあれこれは知らないけれど、やり手営業といるだけ営業の差って、そういうところでつくよね。


 さて、本日も登壇したのは副支部長ホセ・ガルシア士爵殿だった。

 3日連続でアレクセイ殿の姿を拝見していないが、大丈夫なのかと本格的に心配になってくる。

 こころなし、ホセ殿の目の下にもクマクマが出没しているような。


「昨日のクラン代表の呼び出しについて、諸君らの一部に『誤解』が広がっているようなのでこの場で簡単に説明する。

 これはクランマスターに対し適正なランクへの昇格を促すこと、および新規のクラン員候補の斡旋、紹介に関する説明をするための呼び出しであったことを明言しておく」


 誤解、ですかあ。

 まあ、(おおやけ)に手落ちを認めるわけにもいかんのですかねえ。


「また、資金に不足ある者たちには冒険者ギルドとして貸付金制度を適用しており、寄宿舎も急ぎ準備中である。あと数日は神様の用意してくださった個々の倉庫での就寝とあわせ、今を乗り切ってもらいたい。

 さらに、数多くの相談が寄せられている物置不足に関しても、当ギルドで一時預かり業務を行うことを検討中であり、これは今日明日中に裁可が下る見通しとなっている」


 ただし、保管場所に限りがあるため、一人当たりの引き受け量には限度があるとして、極力買取に出すことを推奨しているのはいつも通り。


 難しい選択だけど、現時点で置き場所を確保できていないなら売り払うのも手だろうなあ。

 モノとして存在するなら、高くついても買い戻せる可能性は残る。

 しかし、倉庫で抱え落ち消滅すると、絶対に二度と手に入らなくなる。


 まあ、他人事だから言えるという面は否定できない。

 自分事だったら今頃頭抱えて、どうすれば手元に残せるかしか考えられない状態だったかもしれないわけで。


「新規クラン員候補の斡旋に関して既存クランへの紹介を望む者は、この後すぐにギルド会館受付で手続きを行うこと。各クランマスターは、斡旋相手が確定してから呼び出す予定である。以上」


 ホセ士爵殿が壇上から去ると、人の流れが大きく分かれた。

 一つは冒険者ギルドの建物内に向かう流れ。もう一つは外の、倉庫扉に向かう流れ。そして最後の流れは、合流。

 僕らはそのまま、いつもの雑談へと移った。


「デモは、とりあえず様子見ですね」

「平和的な示威行動でも、暴動ととられる可能性もあるからにぃ。できればやらずに済ませたいのはみんなも同じ?」

「ああ、僕らはただのデモ行進のつもりでも、『松明を持った群衆が押し寄せてきます』にとられちゃう可能性かあ」


 僕らの歴史的にはデモってば、集団の数と暴力を背景にしたストロングな交渉スタイルだけど、コッチ基準だとどうとられるかわからない問題。

 文化的・風習的な齟齬は盲点だったなあ。

 やっぱり衆知・集合知ってのは大切だ。


「しかし、妙に及び腰というか、国とかギルドとか、もっと威圧的に接してくるかと思ったんだが、存外物分かりがいいのな」

「威圧的に出れるほどの権限か武力がないんじゃまいかん?」

「そりゃ、ワチキたちはそれなりの戦力だとは思うが、国一つを相手にできるほどなどとうぬぼれてはおらぬぞ?」


 気になります嬢調査では、僕ら転生者のLv帯は当地でいう中堅どころがボリュームゾーンになっていた。


 まとまって暴れられると結構な被害は出るが、鎮圧は可能と見積もっていても不思議ではない。

 ただし、想定被害が許容できる範囲を超えるから、実力行使をためらうという線もあるか。


 互いに、暴力は見せ札であって最終手段なんだよなあ。

 しかも根本的な問題の解決にならないという、どうしようもないおまけ付きの。


「私たちは、神託の冒険者なんです。単純な戦力としてだけではなく、神様が招いた、つまり、権威的な意味での正当性も無視できないファクターのはずです」

「神様が実在する、認識されている世界。神のご意向を損なうリスクは避けたくない?」


 なるほど。

 御神輿担いだ群衆を邪魔だて妨害するとは、神様の邪魔をするってことだ理論の援用か。

 御神輿といえば日本史上でも強訴(ごうそ)に欠かせない定番アイテムでしたし、僕の地元でも、進路上にいたという理由でパトカーがひっくり返されたこともありましたね、そういえば。


「アテらの言動が神さんの意向っちゅうわけやないけど、アテらを招いた神さんの顔は潰せんわなあ」

「いやー、僕ら転生者の中にも神様の顔潰しちゃってる人、出てませんか?」

「罪人はとっとと処すべし」

「犯罪者はともかく、貧富の差は今後もついてまわるでしょうね。変な形で階層化が進まなければいいのですが」

「今回の件で、明確に分断入ったからな。といって打つ手もないときた」


 資金に関しては、ごく普通に、1垢で2~3キャラを適当なレベルまでやっていたなら、手持ちが困ることは当面ないはず。


 シオという実例があるから、物乞いに落ちる人が出るのはわかる。

 ただし、ばら撒きキャラ消去デリして引退したにもかかわらず、招待に応じて転生した人となるとあまりいないようで、広場の一角もすでに物乞いではなく大道芸エリアになっている。


 ところが資産に関しては、実は入念なコンバートをしなかった人は結構多いらしい。


 武具やアクセサリ(アクセ)はいったんすべての強化値や付与効果がはがされ、権利としてプールされたわけだけど、再強化や付与をせずに権利消失させたケース。

 僕が初日に売り払ったパイクやランスのように、+10まで強化し属性も付与してあるとプレミア値がつくが、そのへん適当に流しちゃってると、単なる店売り品同等かプチレアで終わり。


 もちろん、強化や付与がなくてもご当地基準の順当な値はつくはずだから、武器の2~3本も売れば当座のお金には困らないはずだけど、こんなはずじゃなかったと嘆きの声が聞かれるという。


「まあ、そういうのは売り払ってもダメージ少ないはずだが」

「自業自得のやらかしですからねえ。むしろ現状では一番身軽(ライト)な層かもしれませんね」


 表計算ソフトでリスト作りながらあれこれ検討して厳選した僕やルピスみたいなのが、一番身動きが取れない(ヘビーなやりこみ)層ですか、わかります。自覚してますよ。


 そんなわけで、今回の斡旋、それなりに妥協はせざるを得ないという結論に達して解散し、それぞれのルーティンへ。


 僕らの場合は午前中は関西弁商人に物を投げる仕事と、ルピス&シオ組によるクランルームへの持ち込み。

 昼にチェックした掲示板からは、闘争系の煽り(アジ)ビラは姿を消し、平穏が戻ったかのように見えた。

 朝にできなかった家事や細々買出しに行ったルピスとシオを見送れば、オークション司会という仕事が待っている。


 さっそく運営に関与しだした【春夏冬(あきない)】のメンバーによって出品者が並べられていたが、司会の権限ってことで順番弄り。


「昨日の最高値の銀貨4枚(4S)か、それとも銀貨3枚(3S)(+)大銅貨18枚(18C)で3個落札のアクエンに漢気をみたのか、【黒翼の堕天使のヘアバンド(HB)】、本日6人からの出品です」


 出品者を舞台上に招き、付与ありなしおよび強化を自己申告してもらう。

 付与【フライ】の効果は実演してもらえば一発だし、神様の付けてくださった初期タグで強化値ともども確認はする。


「以上、全員付与ありで。強化値はばらつきました。高い順に並び変え、お願いします」


 その間にざーっと観衆もチェック。

 アクエンのジルゲームスさんの所在確認は当然として、手を挙げてくれそうな人や、反対に興味なさそうなのに何故かこの場にいる人なんかに注意を払っておく。


「今、この場限り、最高値で決着。ニコニコの現金払いのみの受け付けです。

 【フライ】が付与の【黒翼の堕天使のHB】、強化値はばらばら。銀貨2枚(2S)より、奮ってお声上げての入札、お願いいたします!」


 入札中に基本性能の説明。

 【黒翼の堕天使のHB】はほどほどに出回った、見た目装備として人気で云々。LLOでの相場だと250KZoltあたりだったけど、この世界にきて【フライ】という付加価値がついたことなど、昨日の繰り返しになるが今回初めて参加の観客さんにもわかりやすく落ちがないように。


 ……


「頑張った! 頑張ったぞアクエン! 一番上は銀貨3枚(3S)(+)大銅貨16枚(16C)、以下強化値によってちょいちょい下げるという小技を見せつつ、6個全部の落札です!」


 両腕を天に突き出すガッツポーズ、通称コロンビアポーズを決めるジルゲームスさん。

 最後まで競っていた人も、苦笑いで見守っている。


「見たか! これがリベンジだ!!」


 勢いよく叫び、観衆もわいているけれど、昨日今日落札の黒翼全部合わせても金貨にすれば2枚ちょい。

 金貨15枚で持っていかれた【白翼天使のHB】と比較してしまうと、その、まあ、気持ちの問題だから。


 小一時間のオークションを終え、痛んだ喉に『しろへびドリンク(いつもの)』をキめて一息ついていたところに、才女さんと腕まくりおじさんが現れた。





「コロンビアポーズ」は「パネルクイズ アタック25」2006年10月1日放送回で、クイズに正解し優勝をきめた際のポーズが元ネタといわれる。

その時の解答が「コロンビア」だったかららしい。

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