9日目の③.うさばらし
オークションまで間があったのでバザー会場をのぞいてみると、値札付きの装備が並んでいた。
クラン【春夏冬】が言っていた委託販売らしい。
「難しいですね。特殊効果もほとんどが消えていますから、LLO相場だと高くつきますし」
「店売り品をベースに、強化値と付与効果を幾らに見積もるか」
Dropレアと店売り品、特殊効果のちょっとした違いで10倍100倍の差がついていたのがLLO相場。
コンバートを経て店売り品同等になってしまったブツの価格は、崩壊なんてものじゃない。
「現地の買取値に納得できないからでしょうか」
「実用品については、現地相場が妥当とも考えられるしねえ」
なお銀髪ショートのシーフ娘に、『バニーさんのヘアバンド』のプリーストが受けのBLなら攻めはどの職がいいなんて聞かれてもスルー安定で。
BLじゃなくノーマルカプだけど総受けで、ただしリバありなんて答えているシオを引っ張って掲示板エリアまで移動。
【アークエンジェル】は相変わらず羽もの買いますの声を上げていたが、【狂犬MAX】や【猫猫団】の買取は終了した模様。
掲示板チェック、拡張バッグ買取の最高値だった金貨30枚+銀貨4枚が消えていた。
現在の最高値30G+2S。
「ようやく1個手に入ったが、高値掴みしたのか、手に入ったのが幸運だったのか、わからんなあ」
「現地買取値5Gだしねえ。それが相場だとすると……って、あんたかよ!」
掲示板エリアの主、【アークエンジェル】のジルゲームスさんだ。
転生初日からの関わりのせいか、割と気安い仲である。
「ちなみにモノは?」
「背負い袋。どれも同じ効果だったLLO時代から変わって、一番容量のあるやつだ」
「できれば戦闘時に中身を取り出せる、肩掛け鞄か小物入れが欲しいなあ。売ってくれるかどうかですけど」
運搬量だけならバックパック最強なのだけど、索敵戦闘を想定すると、簡単にパージできない重しでもあるわけで。
ついでに、低レベルだとステ補正も弱い関係で、満載バックパックを持てるか問題もある。
「持ち込めた以上『この世界にもある』はずだが、俺たちの『手に入る』かは別だからな。手放したのは本当に熟慮の末っぽい」
「『こんなんなんぼあっても良いですからね!』」
「ゆーとりますけども~、うちのクランでもね、頭痛い問題がね」
「お、漫談開始ですか」
「「ちがうし!」」
ノリもいいんだよな、ジルっち。
ルピスどんも嗜んでいたが、サブカル界どころかメジャー界でてっぺん取ったコントだし、応用範囲も広い。
観客をあたためるために、オークションの前座に引っ張り出せないだろうか。
「俺は嫌だが、芸人の前座というのはアリだな。【春夏冬】とも詰めておこう」
「ショウ・バイニンさんでしたっけ。話進んでます?」
「その件は、もう少ししたら当人が来るからそのときに。でまあ、頭痛いのはコレだ」
【その他総合ダム板】に、やたら達筆だったり独特の書体を誇るゲバ字だったりが踊っている。
【全国の冒険者よ団結せよ!!】
【冒険者ギルドの横暴を赦すな!】
同居人・相部屋の斡旋に憤る声がぺたぺた。と同時に、持たざる者の怨嗟の声も。
【粉砕! 既得権益層】
【クランルーム解放戦線・襲撃者募集!】
高い金払って契約したクランルームが既得権益になるとはなあ。
いつのまに、世は激動の階級闘争時代に突入してしまったのだろうか。
「本気半分、遊び半分だな。扇動ビラを撒くことそのものが目的になってるだろ、こいつら。第一、そのビラの紙と墨を提供しているのは誰だということだ」
「首根っこ掴んでいるから、いつでもつぶせるぞ宣言ですね、わかります」
(( イベント気分の悪ノリはまだしも、転生者同士でも『差がある』ことを受け入れられるかどうか。未だお客様気分の輩も多いゆえ ))
当たり前に潜んでいる忍者はともかく、転生者サイドにとって当初より最大問題だった物置の確保、物乞い出現により衆知となった資産格差、混入している迷惑者・犯罪者の存在……問題は次から次へと出てくるもので。
「デモの件、話は回ってきているが、落としどころが見えんのが困る」
「それなー」
「最悪、国家転覆まで行っちゃいますかねえ?」
無邪気に尋ねるシオは、わかっているのかいないのか。
「さすがに俺たち側にそこまでの戦力はないと思うが、例え勝っても既存体制を壊してしまうデメリットがなあ」
(( こちらもタダでは済まぬことになるでござる ))
「武力衝突中に死ぬのも負けて首斬られるのもイヤだし、仮に勝って焼野原残っても生活できないし」
「出入りのルールや手打ちの基準、さっぱりわからないですからねえ」
「なるべくなら、平和的なデモであっても、やらずにすませたいですわぁ」
と、またしてもするっと紛れ込んでくる細目の男。クラン【春夏冬】のショウ・バイニン。
オークションの件はざっくりの部分で話がついて、継続的に運営するため、【春夏冬】を中心に組織化の予定だという。
【アークエンジェル】は、今後もオークションに関わりはするが、例の自警団に注力したいので引く形。
「利権、だと思いますねん。せやから、うちらで握っとくべきやと思いますん」
現地の、例えば商業ギルドが開催するものに参加というカタチではなく、自分たちで運営を確保しておきたいのだと。
「幸い、いままでんとこ出品者・落札者のほぼすべてが元プレイヤーですんで、開催をコントロールできる目途があるんですわ」
「現地の落札者なんていたっけ?」
「落札後に、流れた品がありますよって。まあ、値段の折り合い次第の買取窓口はありますし、モノが現地の手に渡ることそのものは避けられまへんから」
(( それ、我が手の者にてご容赦を。二重スパイ的任務中でござる ))
僕らが出現してからすでに9日目。
現地サイドも情報収集の手を伸ばしているし、それに絡まる・乗っかる転生者もいる、と。
「うちらの持ち込みん中に特異なアイテムもあるとにらんでますん。ですんで、今後はオークションに現地の人が参加してくるんは確実でっしゃろ」
「狙われるのはそういう品で、そういう品を用意できるのが強みだと」
「今なら、うちらで制度・運営を固められますん」
なるほど、利権だ。
現地サイドの介入前に、既得権にしてしまおうと動いているのね。
「【春夏冬】が運営で、【アークエンジェル】がケツ持ち?」
「大筋では。けどま、独占寡占はあれですけん、他のクランさんにもご協力を仰ぎたいですわ」
僕にも、司会として参加してほしいという。
「ランドはんは、第一人者ですからなあ」
「それじゃ意味違うやろ。僕はただのファーストペンギンでいいっちゅうねん」
「ゆーとりますけども~」
「それはもうええねん!」
一応は3クランの代表者会合を生温く見守っていたルピスによれば、男子中学生か高校生のノリだったという。
……男とは、いくつになっても14歳の心を忘れない生き物なのです。
本日のオークション冒頭、ジルゲームスさんとショウ・バイニンも舞台上に呼び出して、今後はクラン【春夏冬】中心に運営していくことの説明を行う。
「有志の善意におんぶにだっこでは、破綻します。僕の喉のように」
さざなみめいた笑いが広がる。掴みはOKって、笑い事じゃないんだぞ!
「……ということで、出品料なり審査なりいろいろ変わっていくと思いますが、僕は単なる雇われ司会ですので難しいことはわかりません。
運営に関するご意見ご感想はクラン【春夏冬】、クラン【春夏冬】、クラン【春夏冬】まで。クラン【春夏冬】に、清き一票をよろしくお願いいたします」
「あー、クラン【春夏冬】が窓口っちゅうことで、ひとつよろしゅうに」
舞台袖をざっとみて、出品物の確認。順番弄りまーす。
「聞くところによると、【黒翼の堕天使のHB】など、天使系の羽ものを装備してるとクラン【アークエンジェル】、略してアクエンと間違えられる、かもしれないとの噂があるそうです。汚い、大手さすが汚い。自粛ムードを強いるとは」
「いや、知らんし!」
会場に混じったジルっちの抗議の声を聞き流し、舞台袖の待機者を手招き。
舞台上に4人の【黒翼の堕天使のHB】装備者が並ぶ。
「てなわけで、本日出品きました【黒翼の堕天使のHB】は4点ですけど、アクエンさん、どうします?」
「落とすに決まってるだろぉおおおおお」
「じゃあ銀貨1枚からスタートぉ!」
LLO相場250KZolt、なので172KZolt換算の銀貨1枚からはじめさせてもらう。
強化値や付与については、本人証言を倉庫収納時の神様タグで確認。
「すでにスタートしていますが、一応お約束として。
今、この場限り、最高値で決着。ニコニコの現金払いのみの受け付けです!
【フライ】が付与の【黒翼の堕天使のHB】、強化は……」
じわじわっと競りあがるが、開始値を高めにしたためか、いまいち伸びが弱い。
「【黒翼の堕天使のHB】、LLO時代にも愛されたこの見た目で、さらに【フライ】という付加価値がつきました。もしかしたら僕らが持ち込んだ品限り、ゲンブツ限りかもしれません。
アクエン弄りはアレですけど、別にアクエン以外がつけちゃダメなんて話ではないですし。こんなふうに」
ショルダーバッグから取り出して装着。
【フライ】は短時間の簡易的飛行が可能になる効果。
ただし要訓練。いきなりはうまく扱えないことは、かつてルピスどんが実演してくれた。
「そいつは売らんのかぁ!」
「売らないよ」
ふよふよ浮いてふわふわ舞って見せる。
「僕ぁこれで、水上歩行決めて奇跡認定されるんだ!」
「種がモロバレじゃねーか」
なんやかんや。観客との掛け合いで間をつないでいたがコールが止まったので確認。
「上から銀貨4枚がお1人、次点で銀貨3枚と大銅貨18枚はアクエンでいいのかな?」
【フライ】を実際に見せてから伸びたな~というか、価値を見出したのか。
やはり実演販売は強い。アピール力が違う。
舞台袖で出品者と落札者を引き合わせ、【春夏冬】のショウ・バイニン立ち合いのもと、交換を成立させる。
僕は次の出品者をともない舞台上に戻るが、一気に4人分片付いたので気が楽だ。
「続いては【白翼天使のHB】。こちらも【フライ】が付与ですねぇ」
「ざっけんなこらー!!!!」
アクエンの、逆毛じゃなくなった人の叫ぶ声がしたような気がするが気のせいだろう。
「ぶっちゃけ色違い装備ですが、黒翼に比べると数が少なく出回らず、高い人気を誇りました。
本当に、手放していいの?」
「あ、はい。お金が必要なんです」
「アクエンさん聞いた? お金に困ってるんだって。
今回の肝は希少性。性能は黒翼とかわらない。さあ、アクエンはこの麗しの純白にどこまでの価値を見出すのか、はたまた伏兵登場か。
今、この場限り、最高値で決着。ニコニコの現金払いのみの受け付けです!」
20MZoltを最低目標に、金貨10枚超えを目指すか。
「【フライ】が付与の【白翼天使のHB】、強化は当然+10。奮ってお声上げての入札、お願いいたします。金貨1枚よりスタートゥ!」
「6G」
どよめき。
アクエンのジルゲームスさん、腕組み仁王立ちから決意のジャンプアップ。不敵な笑みを顔面に広げている。
ついさっき、拡張バッグを30Gちょいで購入したって言ってたのに。
さすが自称大手クランのマスター、金持ちさんめ。
「じゃあ7Gで」
「お、おま、司会が入札ってそれありかよ」
「僕だって欲しいものはある!」
「8G、だ」
「8G+4S」
「10Gでドン☆」
「ふくへいさんだー!」
よかった。
僕だけで吊り上げというのは、健全な話ではない。
目標額には到達したので、適当なところで下りさせてもらおう。失敗したら、買うしかないが。
「11G+8S」「12G☆」「……12G+2S」「13G☆」「うがあああああ、13G+6Sだあ」
観客、静寂である。
アクエン以外で競ってるの、僕と元ランカーのスワティ嬢。彼女も金は持ってそうだもんなあ。
「うう~ん、めんどうくさいから15Gでどうかな~♪」
会場のどよめきを肌で感じながら天を仰ぐ。これならいい最後になるだろう。
「下ります」
「ちくしょおおおおおおおお」
「アクエンさん、無理?
……うん、無理なのね。はい、【フライ】が付与の【白翼天使のHB】金貨15枚で落札です。引き渡しは舞台袖でおねがいしまーす。アクエンさんは……残念!」
「白がシンボル【しろへび堂薬局】。そのうち開業するからよろしくね~☆」
スワティさん、あざとい。
ポーズだけじゃなく、宣伝の場にしやがったという意味でもあざとい。
【白翼天使のHB】は彼女の看板になるんだろう。
「まあほら、アクエンさんはクランのシンボルで羽ものってのが発端でしょう? 黒翼で十分じゃん?」
「それは……そうなんだが。こう、クランマスターとして特別感的な?」
「そっかぁ」
個人的に、冒険者ギルドでたまった鬱憤をアクエン弄りで晴らしてしまった感。
ちょっとだけ反省している。
ただ、逆毛に天使系のヘアバンド装備は、その、ねえ。
その後もなんのかんので一日を終えて、クランルームでくつろぎモードに入ろうとしたところに予期せぬ訪問があった。
ドアノッカーの音にいぶかしみながらカギをあけてみれば、冒険者ギルドの才女さんと腕まくりおじさん。
二人そろって深々と頭を下げている。




