8日目の②.仕分け方針
ルピスとシオを見送って、神様倉庫へ足を向ける。
「軒猿、まだいるか?」
(( ここに ))
こざる忍者、呼びかけるのに名前教えろといったら、「符丁でお願いでござるwww」だとさコノヤロウ。
楽しんだ奴が勝ちってはっきりわかんだね、本当に。
ちなみに『軒猿』は軍神・上杉謙信に仕えた忍者集団の呼称として有名らしいけど、越後上杉に限った呼び名ではないとも。
それはさておき、銀貨を数枚弾く。
「我が家中の者に護衛を付けろ」
(( できるだけ腕利きをはりつけるでござるwww ))
どういうわけか殿様プレイで応じると喜んでくれるので……
殿様とか忍者とか自称が裏社会の者とか、そういうなりきりプレイを楽しんでるだけだろとかは脇に置いて。
安全安心はタダじゃない。
ファッションとはいえ裏社会(?)とのつながりと考えれば、出しておくべき交際費でもあるだろう。帳簿に載せないポケットマネーから。帳簿付けてないけど。
「表向きの業態として、警備会社ってわけにもいかんよなあ、冒険者だと」
(( 自警団ができるとして、我らも参加するかどうか含め、まだまだ手探りでござるよ ))
生首ショックにより雑談が長引いたので、いつもの掲示板チェックなどは飛ばして倉庫経由で関西弁商人のところへ。
「やー、遅くなってすいませ~ん」
「うちは査定時間欲しいところやし、謝られることではないですわ」
「それでも、種類と量で負担をかけてるわけだしねえ」
「いうて、いまさら余所に持ち込まれても困りますねん。あと何日かはわかりまへんけど、あんじょう頼んまっせ!」
コンバート時に、持ち込めるものは基本持ち込むと決めたこと、割と後悔しています。
なぜかというと、各キャラの手持ち現金足りていたので、狩りの成果、いちいち売らずに倉庫に放り込んでいたのよ。
討伐証明品はコンバート時に処分されたけど、素材に分類されたものも多いのです。
昨晩、ルピスとシオも交えた相談の結果、残すものと処分するものの、大まかな方針は決めてある。
単純に言えば、使い道のあるもの、日常的に消費しそうなものは残す。
具体的には『紙』や『墨壺』、素材ではないけど『マッチ』のようなもの、日持ちする食材や調味料、調理器具なんか。
「暖炉用に焚きつけ木材と石炭は残してください」
「キッチンの魔道コンロは火の精霊石だったよね。むしろ精霊石は全部残しか?」
「宝石や鉱物類なんかも、非常時の換金用に残していいのでは。原石や鉱石はともかく」
「宝石!」
LLO内ではただの記号だったが、リアル・ゲンブツとなると目の色が変わる娘が現れ、押さえつけるのに苦労した。
宝石といっても、装飾品として加工されていないとたいした品に見えないんだけどなあ。
「竜関係はどうする?」
「鱗は処分でいいんじゃないですか? 『ドラゴンスケイル』は竜耐性(種族耐性)なくなっちゃってるし、プレートよりは軽いけど防御力は劣るし」
「でも、竜の鱗って、この先手に入りますかね?」
「……」
LLO時代、錬金術師の名に恥じぬ、NPC売り差額で金策系製薬ケミをやっていた関係で貯め込んである物品類も未練で残し。
「例えばポーションの瓶、これってこっちだとおいくらになるんだろう?」
「窓ガラスはありますけど、屋台やお店で見かける容器は木製メイン、たまに陶器っぽいものですね」
「で、それは何本あるんですか?」
「……8,000本くらい、かな?」
「うわぁ」
製薬関係素材や消耗品は、ほぼほぼ上限9,999個近くまで目一杯貯め込んであるんや。しゃーないんや。在庫がないと怖いんは製薬製造のサガやでぇ。
ついでに鍛冶師の製造関係も判断が難しいので保留とした。
ゲームのような素材合成なんかは無いとは思うけど、いざ必要となったときに集められるかどうかわからないので。
これらの品々は、装備の持ち出しが終わったら順次クランルームに運んでもらうことになる。
「小部屋を1つ、素材倉庫にするしかないかあ」
なお、個人的に期待しているのは書物各種で、『世界案内』、『薬草大全』、『調理レシピ』、『歴代王業績記』、『モンスターポケット図解』、『世紀末伝承D』などなど。
落ち着いたら引きこもって読書三昧するんだ。スローライフだよ。
なおこれら書物のコンバート元は、書物に関連しそうなアイテムでした。
「武器本、集めてたんですか……」
「プリ・Wiz・ケミで共有できる属性付きの武器、ではあったから……」
攻撃力低くて、結局使いませんでしたけどね。そもそもが殴り合いに向かない職や型でしたけどね。
はいはい、コレクター気質なんですよ。
武器本以外に盾本も日記帳も発掘文書も集めてましたよ、わかってるって!
ともあれ以上の厳正な審査に引っかからなかった使い道がないものは処分。
また、使い道自体はあるけれど、自分たちで加工できそうにないものも処分。
「羽毛があったって羽毛布団をつくれるかというと、ねえ」
「矢羽根だって、材料あっても作れませんよ?」
そういうわけで関西弁のおいちゃん。すまないが、不用品の処分につきあってもらうで。
にこりと微笑むと、笑っていない目の笑顔が返ってきた。
頼もしいおいちゃんと戯れ、大体頃合いかと屋台エリアに出向き、3人分の軽食を調達していたところで昼の鐘を聞いた。
腹時計的な時間感覚ができつつある。
クランルームで昼飯をとってから、行けます、大丈夫ですと主張するシオも込みで午後の部へ出撃。
朝はスルーした掲示板チェック。
拡張バッグ、最高値は「金貨30枚+銀貨4枚」のまま。提示金額の順位は多少変動しているっぽいけど、どうやら完全に上げ止まった模様。
売る気のある人も、ここが頭打ちだと判断してくれるかなあ。
売買掲示板では、張り紙の一部がオークション結果を反映した売値・買値に書き換えられていた。
「一度成立した金額が、とりあえずの相場ということになったようだ。誰かが働かないから出品待ち増えている中、金額目安があるならこっちで相対取引ということだろう」
「仕事を属人化するのはおすすめできませんねぇ」
「正論だが、意味はないだろ、それ」
「せやで、『第一人者』っちゅうのは、やはりネームバリューありますねん」
逆毛じゃなくなって久しい金髪騎士のジルゲームスさんとじゃれていたら、細目の男がするっと割り込んできた。
「ども。クラン【春夏冬】のショウ・バイニンいいます。【アークエンジェル】のジルゲームスさんと、【ファーレンリ】のランドさんでよろしゅおまっか?」
「そうだが?」
「名は体を表す?」
「フヒヒヒヒ、そのつもりですけんねん。よろしゅう、お見知りおきを」
またしても怪しい関西弁。
……もしかして、商人風の喋りが関西弁風に認識・翻訳されているのか?
「実は今、うちの【春夏冬】、あちらの【NPO法人バザール会】さんのバザーで委託販売提案しとるとこですけんど、オークションいう魅力的な場にも何かお役に立てることないか、いうことなんですねん」
「ジルっち、パス」
「おい!」
「僕のはじめた物語かもしれないけど、続編の製作は貴方でしょう」
僕にはやらねばならぬことがある。そう、倉庫の整理だ。
かような場で時間を……
「ちゅうか、ジルっちには別件があったんだ」
「ほな、うちらはまた後でいうことで、失礼させていただきます~」
ジルっちはいつもの腕組みをして首を軽く傾げた。
「【春夏冬】もショウ・バイニンという名も知らんが、あいつ、多分LLO時代に関わりがある。オークションの件は俺がまとめてやるが、で、別件とはなんだ」
クラン【アークエンジェル】は、自称大手である。疑う理由も特にない。
クランメンバーのシンボルとして導入中の羽モノも、広場でちらほら見かける。もちろん、無関係の人が装備していてもおかしくないものだけど。
「なるほどな。自警団という話が出てきたか」
「自力救済というのは、私たち元日本人にとっては馴染みのないものですし」
「おまわりさんに頼れる、任せられるって、平和なことだったんですねえ」
そういう各種権利を統治者・統治機関に集約しないと、万人の万人に対する闘争が続くからね。
批判もあるし腐敗もあるんだろうけど、日本のおまわりさんは世界レベルで見れば優秀で信頼できるのは間違いないと思う。
「うちでも検討するが、どういう形にするかが問題だな。うちだけでやるのは無理だ。連合・連盟形式にするなら連絡体制、個人参加の有無……詰めるべきことが多いなあ」
「参加者を増やすこと自体が、意識喚起とか周知とかの自警活動にもなりますけどねえ」
「今朝のような害悪の実例を見せられては放置もできん。が、まずはやるべきことをすませないとな」
例によって腕を掴まれ、リンゴ箱の舞台へ連れていかれた。
労働に見合うかどうかはともかく、報酬は受け取ってしまっているし、仕方ないかと小一時間だけ。
その間にルピスとシオは生活周り品の調達と確認に行ってくるという。
「クランルームに備え付けの家具以外にも、いいかげんマットレスの代替品からなにから、いろいろ探さないとですし」
夕の鐘まで順調に時は流れ、装備品の持ち出し無事終了。FOOOO!
8日目にしてようやくここまでたどりついたよ。
ルピスたちによれば、雑貨や家財道具に売り切れが目立ったという。
また、洗濯は、洗濯人組合に頼むのがご当地流だそうだ。
クラン会館でも依頼すれば回収・お届けコースがあるけれど、指定籠を廊下に置いてやりとりというスタイルが不用心で怖いので、利用するなら直接持ち込み・回収だと。
クリーニング店ですね。
「いわゆるコンドームっぽいものも、買えませんでした。残りわずかです」
クラン会館では、廊下の端のダストシュートにシュゥッ!するゴミだが、このゴミの収集・仕分けなんかが低層民の仕事であるらしい。
なので、出どころの怪しいコンドームは絶対ダメ。
半端な再生品の可能性があるから危険なのだと。
「売れてる?」
「そうみたい」
これまで観察したかぎり、大多数の転生者は10代後半から20代前半の肉体が構成されている。
そりゃあ性欲も旺盛でしょう。
相手がいるなら発散するわ。
「ランドさんも、もっとできちゃいます?」
「いえ、ルピスもシオもとても魅力的でエロエロだと思いますが、僕はそこまで強くないみたいです」
「はいはい」
適宜のよいしょはさておいて、何事もほどほどがいいのだと思います。
「妊娠は避けたい。私、元男って意識は残ってますし、心構えができてないです」
「いつかは産みたいけれど、今じゃあないですよね。けど、コンドーム無しで避妊となると、口とか胸とか……後ろとか?」
「後ろは危ないみたいですよ? うんちって毒ですから、生で突っ込んでいい場所じゃないはず。あと、括約筋が切れると悲惨なことになるとか?」
妙な話になってきたので両手を叩いて打ち切り。
「使い切ったら調達できるまでは自重。それでいいね?」
「ですかねー」
「私、我慢できるかなあ」
窓のない小部屋の1つに、天井まで重ねた木箱には、ルピスとシオに運んでもらった比較的軽い素材のハーブ系がぎっちり。
ハーブティはダイニングに、『大学芋』、『グランマのフォーチュンクッキー』などはキッチンに。
食器や調理器具なども順次運び込む予定だけど、当座の食事は外ですますかテイクアウトを継続。
装備の持ち込みが終了したことを記念して、『魅惑のキノコワイン』を一本開けた。
「【解毒】……やっぱりヤバイ酒じゃんか」
「脱法ドラッグぅ、ってヤツですかねえ。この世界でなら合法かもですが」
【解毒】の魔法というか奇跡? 魔力を消費するのは武技も一緒。
ひっくるめて『スキル』。そういうもの。思考停止ですよぉ。
こいつ、何をもって『毒』と判定するのか。
若干残る酩酊感から察するに、アルコールは見逃してもらえたようだ。
おやすみぃ。