7日目の②.君の工夫次第で無限大の可能性
クラン【アークエンジェル】のジルゲームスさんに連行された先には、空のリンゴ箱を集めた舞台。
掲示板エリアとバザー会場をにらむ、昨日僕が声を張り上げた場所じゃんか!
「これは……」
ルピスが、舞台と僕とを交互に見て言いよどむ。
おうち帰りたい。
「お、やっときたな。はよ、司会はよ」
「違うし!」
そんな職に就いた覚えはありません。
昨日のは、あくまでも……ん、なんですか、これは。
袋を渡され、中を見るように促される。……白い、布?
腕を肩に回されて少し身をかがめる。野郎同士のヒソヒソ話状態だ。
「タダ働きしろとは言ってない。ソイツは俺の持ち出しになるが、謝礼だ。オークション、軌道に乗るまで付き合え」
「なしてジルっちが自腹切るん?」
「俺は【アークエンジェル】を率いる男だぞ。つまりは転生者、いや、この世界全体に責任を持つ身だ。その俺が必要だと認めたからだ」
それだけの気概であって、誇大妄想や夜郎自大とは言えないか。
大手を率いる者には僕とは違う視点があるのだろう。
「そもそもが、お前の始めた物語なんだからな!」
「だから、それ言いたいだけやろが!」
「出品者ぁ、整列!」
有無を言わさぬ勢いで僕の苦情ははねのけられ、号令に応じて手に手に、ある程度以上の値が期待できそうな装備を抱えた者たちが素早く集まる。
見れば、舞台の前にもじわじわと人が集まり始めている。
「ああ、もうっ! 小一時間だけだからな」
一品目を受け取り、名称・付与効果、強化度合い、スタート価格、希望落札額なんかを確認する。
舞台上にあがり、大きく首をめぐらして全体を視野に入れる。
「あー、オークションですが、喉の限界につき小一時間だけの登壇です。ていうか、やりたい人がやってくれよぉ」
軽い笑いを確認。掴みはまあこんなもんでしょう。
出品者から受け取った品を装着。見せつけるようにくるっとターン。
「本日一品目、アイテム名は【風のターバン】。
それっぽい名前のわりに、付与無し強化無しと、見た目だけの装備に思えるかもしれませ。もちろん、このように目立つため、他人とは違う自分を演出する見た目装備としても使えます。が……」
ため。
頭から取り外してくるくると弄んで見せる。
「ゲームと違ってリアルなわけで、これ、ばらして素材にできますよね。となると、布がとれるわけで。
ここまで言えば、勘のいい方はお気づきかもしれません。そう、この世界、布がお高いです!」
どよめきが広がる。うん、楽しくなってきた。
何事も楽しんだ者が勝ち。イヤイヤやるよりも、楽しくやってやろうじゃないか。
「ターバン1個ほどけば、どのくらいの布がとれるのか……この場で試すのは? ああ、ダメですか。まあ、そうですよね。元に戻せない可能性ありますもんね」
悩まし気な顔で腕を組む舞台袖の出品者から目を外し、再び聴衆をぐるりと見渡す。
「只今ご覧いただいておりますのは【風のターバン】、【風のターバン】です。付与無し強化無し、なんと、本日只今のみ4個セット、4個セットでご出品です。
今、この場限り、最高値で決着。ニコニコの現金払いのみの受け付けです! スタートは大銅貨4枚から」
なお出品者の希望落札額は「突っ張れるだけお願いします」だとさ。
突っ張っているのは誰のどこの皮なのか。
「大銅貨36!」
「おおっと、いきなりジャンプアップっうううう???」
って、ルピスどん、なに気合いれて入札してはるん?
「40!」「41」「44」「45」「45」「46!」
ガチだ。ガチで競り合ってるよルピスどん。
LLO時代の相場は80KZolt程度だったから、1個当たり大銅貨で10枚を最低ラインとみていたが、いきなり超えてきた。
えーと大銅貨は24枚で銀貨1枚換算だよな。
「すいませーん、引き渡し時に数えるの手間なので、両替済みの銀貨+大銅貨でお願いしまーす」
「銀2と大銅6」「2S+8C」「2S+10C!」
「あの……これで実はばらせませんでしたってなったら、僕が刺されそうなので、もしもの時でも大銅貨10枚は払うんで、1個、ばらしてみていいですか?」
舞台袖、全身を使った大きな〇サイン。
さーて、ゴミを掴むことになるか、予想通り布に分解できるのか。
あってよかったDEX補正のおかげで、ほどなく【風のターバン】はカタチを保持するための心材と、一枚の綿布に姿を変えた。
シオを呼んで、綿布の端を持ってもらう。移動時に足を踏み鳴らす自前効果音で、ダダダダーン!
ステージ上に広がった幅40~50センチ、長さ2メートル半程度の一枚の綿布、おしゃれなしま模様が風をはらんではためいた。
「3Sぅ!」「3S+6Cだッ」
分解中に止まっていた競りが動き出したところに、シオが呟いた。
「あ、わりとふかふかしてますね。タオルに欲しいかも」
「4S!」「4S+2C」「4S+6C」……
ルピスどん、目が怖いっす。
僕を睨んでも、出品者のために最高額を目指すのが司会なんです。勘弁してください。
小一時間後、腰のサイドポーチから『しろへびドリンク』のハイポーションを取り出しぐいっときめる。
まさかハイポを、喉を癒し潤いを得るために使うようになろうとは、LLO時代には想像もしなかった。
「あああああ、負けたあああああ」
「価値の見極めで下りたんでしょう?」
「そうなんですけど、そうなんですけど!」
布は高い。では、幾らが妥当?
ルピスの中の限界まで攻めて、それで競り負けたのなら仕方ないじゃない。
そこで加熱して、相場を超えた高値で買い取る羽目になって後悔するのがオークションの怖さなわけでありまして。
「ターバンシリーズは作成品だから、あるにはあると思うんだよな」
「でももう、持ってる人は自分でバラして使いますよ。今日の情報出回れば」
「ふかふかで、タオルによさそうでしたもんねえ。欲しかったなあ」
僕は持ってない。
余った素材で作ったことはあるけど、露店で売った。この分だとルピスも持ってない。
余計な仕事を差し込まれたが、本来の予定に立ち戻り、倉庫整理に復帰する。
ルピスとシオには午前に引き続き、装備などをクランルームに運んでもらうことにした。
「盾がね、嵩張るし重いんだ」
「金属鎧よりマシなんだなあ」
「「HAHAHA」」
おかげさまで装備の持ち出しには目途が付いた。
改めて吟味すれば、やっぱりこれ要らないとなる品もあるだろうけど、このまま倉庫に置いておくと消えてしまう。
クランルームという置き場所を確保できたこと、ルピスとシオという仲間を頼れること、本当に良かった。
夕の鐘を仕事上がりの合図にし、いつもの経路で掲示板チェック。
「【ターバン、ばらしてタオルにするのが吉】って、もう情報出回ってるじゃないですかー」
「情報共有のための掲示板でもあるからな」
やはりいるんだジルゲームスさん。
いつもの腕組みポーズで仁王立ち。発起人でもあるし、掲示板エリアの主として認識されてそう。
「うちの女どもも色めき立っておったが、隠すわけにもいくまい。オークションは、すでに公開情報なのだ」
「それは……そうなんですが……」
情報アドバンテージは武器にもなるけれど、下手に隠蔽して、それでまわりまわって自分も必要な情報を得られないなんてことになったら困る。
「攻略情報とか生活の知恵とか、基本、フルオープンであって欲しいなあ」
「それは……そうかな?」
そもそもLLO時代、多くの先人たちの人柱の上に僕らは立っていた。
だから今、生活や生死に直結するような有益な情報を秘匿するというのは違う気がする。
「俺としては、装備をばらして転用という発想にな、ここはリアルなんだと、改めて認識させられたわ」
「他にも使えそうな装備や素材、ありそうですよね」
「『君の工夫次第で無限大の可能性』。ふ、ゲームなら『またか』なキャッチフレーズだな」
拡張バッグの最高値は金貨30枚と銀貨4枚。僕は28G+6Sでホールドのまま。
現在、下は26G。僕は上から8番目。
そろそろおりるかなー、でもまだ下もいるー的微妙なポジション。
「【TS者限定の仲間募集】、元男か元女かで別々に出てますね」
「分裂したって話でしたもんね」
現在は女体の元男、現在は男体になってる元女。
TSという事情は同じでも、元来男女では求めるものが違うのだから、それぞれでとなったのはやむなきことかと。
「事が事だけに、性同一性障害に悩む人は当然でるだろうし、難しい問題だね」
「うちのクランにもいる。周りとしちゃ、話聞いて受け入れるしかないんだがな」
「あとは当人がどう折り合いつけるかですか」
ルピスは、折り合いをつけられているのだろうか。
なし崩しで夜の相手もしてくれているけれど、本心ではイヤイヤだったらどうしよう。真っ赤に染まった顔を隠そうとするのがすごく可愛いいんだが。
僕はもう、前世は前世、今世は今世と割り切った。
むしろ、男の諸事情を理解できる女って最高じゃね、くらいの勢いで。
なお、過去の記憶の捏造は着々と進行中。
そしてこの件で、いくら補正があろうと、記憶の上書きや封印はできることがわかってしまった。
やはり記憶は、記録ほどには信用できるものじゃない。
「こっちは【Lv・職不問、まったり、互助会です】」
「うぅ、頭が」
「ああ、ランドさんのトラウマですね」
LLOで、勧誘されて初めて入ったクランがそういうところだったのだ。
2週間くらいだったかな。マスターと取り巻きが、飽きた、別ゲー移住するって解散。
「で、次もまったり系の、実質何もしないクランだったと?」
「いんや、姫がいた」
この場合の姫とは、物や経験値を貢がれることを当然と思う、奴隷を侍らす特権階級、まさに姫。
プレイの一種として楽しむ人もいれば、勘違いしちゃったケースもある。
おっさんになれば、貢ぐ側の思惑もわかるところもあるんだけどね。
祭り上げて楽しむ、姫育成プレイなんて闇の深い世界もあったようだし。
「実際に、はじめたての低レベルだと、Lv不問でないと入れないし知識もないし」
「俺のところのようなガチ勢は、紹介でもないと受け付けないわなあ」
「まあ、そういうわけで『まったり』は、僕にとって地雷ワードなんよ」
「ほぇ~」
人には歴史ありなのです、シオさん。
クランに頼れないと悟ってから臨時にドはまりして、2キャラ目3キャラ目、PC2台あるんだしと女垢にも手を出したころにルピスと出会い。
一緒になって臨時募集し、いつしかハイレベル帯へと至ったのです。
夕食後に場所をリビングに移し今後の相談。
【光球】とランタンという光源を手に入れ、夜の時間が少々伸びている。
「装備品は、明日には終わると思う」
「ベッドの周りまで迫ってますし、もう置き場所がありませんよ。使っていない、私の部屋に置きますか?」
「一緒に寝といて、いまさらシオちゃんどうこう言いませんが、個人資産ですからねえ」
「残す素材もあるし、小さいほうの部屋もらっていい?」
「悩みどころですよね。個別にカギつけられるなら、むしろ装備も小部屋に移すべきか」
移すにしても、棚やタンスなんかの収納家具を調達してからにしたい。
まだまだ足りないところばかりなのだ。
「さて、だいぶ整理も進み助かっております。ルピスとシオには感謝の気持ちとしてこちらの品をお受け取り頂きたく」
「ほほう、いい心がけですね」
オークション司会の謝礼にジルっちから貰ったものと元々の手持ちをあわせ、2着のワンピースを差し出した。
「全員に同じものを贈るのさ。それがコツだ」とは何かのテレビ番組で見かけたアラブの大富豪の台詞。
奥様12人もいて、どうやって仲を維持されるので、という質問への返答だった。
「うわっ、シルクですか、このワンピース!」
「ルピスさんはお持ちかもしれませんが……」
「いえいえ、全部売っちゃいましたし、仮に持っていても、『こんなんなんぼあっても良いですからね!』」
「ありがとうございます~♪」
『夏のプリンセス』。
イベント作成防具で、装備すると全身の見た目が変わる。防具としては、使わない。
「……シルクスパイダーハンターの朝は早い」
「鯖から人が最も減る午前4時、彼らは森へと足を踏み入れる」
「せっせと作って売りましたねえ」
イベント中、『麦わら帽子』とセットで露店に置くと、よく売れたのです。1セットで500KZoltになりました。
「その他のドロップと併せて、時給1Mいってるかもってねえ」
「あの頃は、稼ぎを上位装備につぎ込むマラソンでした」
「ほぇ~」
なお、せっかくなのでと着替えてくれたワンピースでしたが、すぐに脱がすことになるのでした。まる。




