表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険をしない冒険者 ~TS相方とはじめる剣と魔法の異世界生活  作者: 凡鳥工房


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/39

6日目の②.ゲリラ的オークション

挿絵(By みてみん)

LLOシーフ(女)、モデルはクラリス(【NPO法人バザール会】所属、銀髪ショート)

 並んで設置されている各種掲示板とバザー会場。

 その両者を視界に収める、つかず離れずの位置に、おいちゃんから貰ってきた空のリンゴ箱をひっくり返してお立ち台にする。


「あーあー、ただいま喉のテスト中」


 幾人か、何かやるのとこちらに意識を向けている。


「さて、本日はお日柄もよく、スタルティアは王都ウルバリア、()だ槌音響く特区におこしの神託の冒険者、転生者の皆さまにご挨拶申し上げます」


 なるべくお腹に力を込めて、喉ではなく、腹から声を押し出すように。


 足の感覚が消えてる。緊張してる。

 でも、はじめてしまった以上は止められない。


「お集りの善男善女の皆様、こちらに取り出しましたのは【レースのシニヨンネット】。【レースのシニヨンネット】。

 髪をお団子に纏めた際の、綺麗に纏めて飾ります、【レースのシニヨンネット】でございます」


 モノを持った片手を掲げて注目アピール。

 大事なことは最低3回繰り返せという、古今の演説セオリーにのっとり、商品名を繰り返す。


 こっちに目か耳を向けている人や、周辺にたむろっていた人が集まってきているのを確認。


「売買掲示板では募集がないようですが、一応はボスレアだった品。特に効果も強化もなし。コレクターの方へお譲りしたく存じます」


 LLO時代の相場で100KZolt前後。ただし、僕のいたサーバでの相場。

 10年も前のことなのに鮮明に思い出せるって、記憶力(Mem)補正さん、すごい!


 えーと、大銅貨が7,200Zoltだから……大銅貨で10枚超えればいいや。


「今、この場限り、最高値で決着。ニコニコの現金払いのみの受け付けです。

 【レースのシニヨンネット】。大銅貨1枚より、奮ってお声上げての入札、お願いいたします!!」


「2」「3」「3」「4」「じゃあ5」……


 集まっていたのがノリのいい連中で助かった。

 最初の声が上がるかどうかがキモだもんね、こういうのは。


 ……あー、サクラ仕込んでおけばよかったのか。

 ルピスとシオではモロバレだから、ストーカー(ござる)あたりに頼んで。って、最初に声を上げたのはアサシン服の男!?

 さりげなく親指を立てている。……いい仕事だ、忍者ござる


 しかしステ補正すごいな。誰が幾らの入札か、聞き分けられてる。

 すっかり観客モードになっていたシオを手招きして、ツインテールの片方をくるっと巻いてスポッとかぶせ。


「とまあ、このような感じでございます【レースのシニヨンネット】、現在の最高値は大銅貨7、大銅貨7!」

「10!」「12!」

「あ、もちろん女の子は付属しませんよ?」


 どっと笑い。


「13」「24!」


 どよめきが起こった。

 大銅貨24枚が銀貨1枚だったはず。Zolt換算で172,800。希望落札額の倍近くになっている。


「あの~、LLOではプチレアというだけで、特別な効果もなし、強化もしていませんので、本当にそんな値段でいいんですか?」

「いや、中世レベルだとレースは結構な値段するはずだ。それに、実装例見せられちゃ、可愛いじゃないかこんちくしょう」


 シオちゃん、いい笑顔でウインクしてますわ。

 いくら中世でもレースの小物が17万円もしないと思うんだが、物価や相場がわからないんだよなあ。こればかりは凡例を通して学習するしかないし。


「えっと、じゃあ、大銅貨24で、それ以上いませんね。いませんよね?」

「そこはそれ以上いるかって聞くところだろー」


 ヤジに笑いが広がる。うん、いい雰囲気だ。


「いないったらいませんね! はい、いません。

 【レースのシニヨンネット】大銅貨24枚で落札です。引き渡しますのでこちらにどうぞー」


 昨日、いわゆる物乞いへの喜捨行脚時に思ったことがある。


 わりといい頭装備してるのになんで乞食の真似してるのさって。

 そしたら、買取では趣味品は扱ってないか、はした金で査定されたという。

 掲示板経由での売買は成立まで時間も手間もかかるし、売れるかどうかもわからないから仕方ないじゃんと。


 そして今日、「買いますの」呼びかけがいたんだ。

 ならば「売ります」で声をあげるのもありだろう。


 とにかく1回、趣味品を現金化する、やりかた、筋道を成立させたぞ。

 今は現金がなくとも、趣味品を売ればなんとかなる人は、自分で声をあげろ。もちろん別の方法でもいい。

 結構な資産を持ってるやつに銭を喜捨する気にはなれん。


 ……特殊な効果を持たず強化もしていない品なら、現地査定額が妥当な気もするが、そこはもう今だけの僕ら転生者だけの相場でもいいじゃん。


 【レースのシニヨンネット】落札者と握手を交わし、引き換えに得た大銅貨をシオに握らせたところに、脇からもっさもさの羽飾りが差し出された。


「ルピスさん?」

「強化も効果も無し、大銅貨1枚から、まあ、いくらでもいいですよ」


 にこにこなされている。

 いくらでもいい、任せるって、ソレ一番きついヤツ。

 えー、LLO相場で120KZolt前後。なので、えーと、大銅貨で15枚くらい目安?


 もっさもさの羽飾りを被って再びリンゴ箱の上に。


「次なるは【酋長の羽飾り】、【酋長の羽飾り】です!

 クエスト作成品でしたねえ。材料集めにモッキングバード(木琴鳥)を乱獲したものです。特徴はとにかくこの見た目。ハデです。ド派手としか言いようがありません。まさに酋長!」


 くるっと一回転。風の抵抗感が首にくるぜえ。


「ときに【アークエンジェル】さん、羽もの買取してましたけど、これはどう?」

「いや、さすがにソレは……違うと思う。ウチは天使系羽もの限定、だと思う」


 キラーパスをはさんで定型文句。


「今、この場限り、最高値で決着。ニコニコの現金払いのみの受け付けです。

 【酋長の羽飾り】。強化も効果もなし。コレクターか……傾奇者の貴方に! 大銅貨1枚より、奮ってお声上げての入札、お願いいたします!!」


「2」「2」「2」「2」「2」「3」「4」「5」「5」「5」「5」……


 二度目ともなれば観客も慣れてくる。

 我こそが、と声を上げてくれる人も増えてくる。


 あやしい踊りめいた適当ダンスっぽいもので羽飾りをゆっさゆっささせていたが、13枚を越えたところで3人残り。

 さらに、作成の苦労話なんかをしている間に目標の15枚をこえ、1人脱落の一騎打ち状態。


「大銅貨20枚、大銅貨20枚。越える人はいませんね。【酋長の羽飾り】大銅貨20枚で落札です!」


 お立ち台を下りて落札者と握手していたら、次コレと差し出された。


「【バニーさんのヘアバンド(HB)】、【聞き耳】付与、強化はなしだって。【聞き耳】はつけてみて確認した。スタートは銀1だけど、できれば銀3以上が希望」

「あの、続けないとダメっすか?」

「お願いされちゃったんだって」


 銀貨3枚って、えーと、510KZolt。LLO相場だとちょっと厳しいなあ。


 舞台袖、というほど大したものではないけれど、お立ち台のすこし脇で、観客と向き合うような位置で出品者と思しきアサシン服の青年が頭を下げていた。

 うさ耳アサシンか……いや、お願い「された」?

 不自然にルピスのそばにいる女プリ。こっちが本来の持ち主うさか?


 ヤケクソだ。【バニーさんのHB】を装備してお立ち台にのぼる。


 注目を集めているのを自覚しながら、目を閉じて意識を集中する。

 あれ、なんで口上しないの、といったざわめきの向こう側。目を開けて確認。


「……えっと、【NPO法人バザール会】の銀髪ショートの方、シーフ服の」


 観客が僕の目線の先を探る。いきなり呼ばれたことに、職服バザー会場でいぶかし気に首をかしげている銀髪ショートさん。


「はい、そこのあなたうさ。『うさ耳男プリ×ネコ耳騎士娘』ってなんのことでうさ。……いや、答えなくてもいいうさよ」


 大爆笑である。勝った。第三部完!


「はい、というわけで、【聞き耳】が付与された【バニーさんのHB】うさ。付与効果の確認は今のでいいうさね? 強化はなしだそうでうさ」


 笑い顔の多い観客の中に、顔を引き締める者たちが点在している。

 【聞き耳】付与の効果を実演されて、これは使えるのかどうか考えている、といったところであればいいなあ。


「出品者の落札希望額は銀貨3枚以上うさが、スタートは銀貨1枚から、刻みは大銅貨以上うさ」


 あえて希望額を晒してしまおう。

 LLO時代の相場よりは高いけれど、この世界で【聞き耳】という特殊効果を得た品がどこまで評価されるものか。個人的にも興味がある。


「今、この場限り、最高値で決着。ニコニコの現金払いのみの受け付けうさ!

 【聞き耳】付与の【バニーさんのHB】、強化なし。地味に実用品うさか? 銀貨1枚より、奮ってお声上げての入札、お願いうさ!」


 ……。


 次から次へと出品者が現れ、ルピスとシオが仕切る。僕は観客を弄る。もうね、ノリだけだよね、こういうの。


 小1時間は頑張ったと思う。

 声が枯れたので、勘弁してくださいと。誰か代わってと。


 逃げるように場を離れ、サイドポーチ内の『しろへびドリンク』を飲む。

 過酷な戦場で傷ついた喉が癒されていくのを感じる。こんなことで高級ポーション(ハイポ)を消費するなんて、悔しい! でも、どうせ消費期限きちゃうし……


「拡声器って偉大な発明なんだなあ」

「まさか次から次へと依頼されるとは思わなかった。今はちょっとだけ反省している」

「ファッションショーみたいで楽しかったですよ」


 装着例としてご活躍頂いたシオ嬢からは好評価なのでまあいいか。


 時間を食いこんでしまったが、あとはもう夕方まで関西弁商人との熱い逢瀬を楽しもう。

 建材を投げ銭を投げられる、笑顔の絶えない職場です。


 そんなことを考えていた時代が僕にはありました。

 楽しい建材運搬にいそしんでいたのに、微妙に査定待ち時間ができたかなというタイミングで忍者(ござる)が現れた。


「昨日の噂を聞きつけて、New物乞いがエントリーでござる」

「……昨日のみたいに、スリ(スティール)や強盗に走らなかった、マシな連中なんだろうな?」

「さような者共は、見つけ次第処置しておりますれば」


 つまり、本当に困っているか、噂を聞きつけて小銭貰いの芸を見せてやろうという輩か。

 自分の言葉を守るのは自分。キッツイなあ。


 ……さあ今日もまた、お忍びの覆面Wizが忍者プレイのアサシンを引き連れ、大道芸のチェックなんダヨー。

 やるからには楽しまないと損なんダヨー。下手糞な楽器演奏は評価する方向ダヨー。


 なお、お忍びの薬剤師(ファーマシスト)やお忍びの騎士ペア、お忍びじゃないモンク改めグラディエイターなど、大道芸人への喜捨プレイはじみーに広がっている模様。

 5,000人、1%でも50人。人という字は支え合って成り立っている、ようにみせかけて片方が寄り掛かってるだけじゃんかもしれないけれど、それもまた人の社会の有りようよ。


 夕の鐘を受けて合流待ちしに行った掲示板エリアで、もはや逆毛とは呼べないジルゲームスさんにつかまった。

 【アイテム売買】掲示板に連行され、このへんだぞと示される。


「オークション出品予約って、何これ!?」

「お前の始めた物語(オークション)だろう?」

「おま、それ言いたいだけちゃうんか。やりたきゃがでやればいいじゃん」


 まあ、即決額も記載しているモノはまだいい。掲示板上で売買が成立するから。

 そうじゃなく、ただ予約って、他力本願が過ぎません?

 僕は他人のために滅私奉公する気なんてこれっぽっちもないよ?


「いやぁ、司会というものは技能だぞ。特に、盛り上げて、吊り上げるオークションでは、客弄りだけでなく商品知識も必要だし」

「そりゃね。でも、半分雰囲気みたいなもんじゃん?」

「それがわかるだけこえーっての」


 【空気読み(エア・リーディング)】は日本人の必須技能(スキル)だと思うんですけどねえ。

 ちなみに拡張バッグの最高値は30Gに到達。僕は28G+6Sでホールド中。


 夜の運動会では、『黒いネコミミ』をシオにつけていただいた。

 僕は『バニーさんのHB』。なおルピスは『トラジマの猫耳HB』を持ち出してきた。


 うん、まあ。

 趣味品は持っていないモノも多いけど、持っているモノもそれなりにあるんだな、これが。


「いっそ女騎士服に着替えてきましょうか?」

「【NPO法人バザール会】の銀髪ショートさんを予言者にするの辞めて差し上げろ」

「リバありなのかどうか、それが問題です」

「シオちゃん……」


 とある界隈では掛け算の、前が攻め、後が受けだそうですが、なんのことやら。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ