6日目の①.頭装備という識別子
「私、淫乱なのかなあ」
「覚えたてはおサルさんとは言いますしが」
「ウッキー」
夜ごと二人と身体を重ね合う。エロい生活しちゃってる。
今朝は気配で目が覚めたら、シオがマイせがれ、にぎにぎなされていたのには驚きましたことよ。
ルピスも「朝勃ちという、男の生理現象で」なんて解説しているし。
「だって、ギンギンの朝勃ちなんて若いうちだけじゃないですか」
「年々衰えるからねえ……ってそうじゃなくて!」
「昔はこんなのついてたんだなあ」
「こんなのが入っちゃうんですよねえ」
ところを食卓に移しての朝食時にも、赤裸々なトークが止まらない。
なんだろうなあ、あまりにもあけすけな女子トーク、ただし一人は元男……に混ざるって、いたたまれない気持ちになりませんか?
「割と真面目な話、意識が身体に引っ張られていると思います。ランドさんに抱かれるのに拒否感がなくなってきてます」
「気持ちいいですもんね」
「それはある」
「あるんだ」
真顔で頷くルピス。
「ねえランドぉ、知ってるぅ? 女の子の方が、深く、長~く気持ちがいいよ?」
僕は一体何を聞かされているのか。
「つまり、雌堕ちですね」
「……偽マジチン、おそるべし」
「異世界転生おじさん、TS美少女受肉したらスーパー名器装備だった件」
「やばいですね」
「やばいですよ」
「うう~ん。この熟年夫婦のような安心感」
付き合い自体は長いからねえ。
いい加減に今日の予定はと水を向けると、結局、情報チェックと倉庫整理でしょうと返される。
シオはどっちと一緒に行くと聞くと、午前午後で分けたいと逆提案。
「聞くところ、ランドさんの倉庫のほうがヤヴァイそうですけど、昨日で思い知りました。私、力ないです」
「私たちもStr補正のおかげだし、背負い袋満載は、そりゃあ女の子には無理だよ」
なので容量としてはバックパックの約半分、肩掛け鞄をルピスより貸与され、それがシオの運搬力となる。
僕からは、小物入れをお金などの手周り品を入れる用に渡してある。
スリ被害の話があるので、職服のポケットだといまいち信用できない。
冗談じゃなくて、盗人スキルにあるのよ、【すり】。
前世の山手線で財布を抜かれたのにまったく気がつかなかった僕のように、ただの熟練スリ師にさえ対応できないというのに、いわんやスキルだよ。
匿名の情報源より、拡張バッグ内はスキルが効かないみたいだと聞いたので、現金や貴重品はサイドポーチにしまうように徹底です。よろしいですね、ザボンさん、ドリアンさん。
「ん? ああ、本当の果物名で言われるとかえってわからないですね」
「ネタはひねり過ぎもよくないよね。まあ、シオちゃんは午前中はランドさんと、午後は私と組んでもらおうか。そうなると、私の方は、今日で倉庫整理終わるかも」
「裏山」
「裏山鹿狼(陸奥国信夫の地侍。???~1590)」
架空偉人でもないシリーズはともかく、そういうことでそれぞれに別れ、まずは朝礼前の一仕事。
関西弁風の商人さんは今日も元気です。
朝の鐘を聞いて冒険者ギルド前に集まり、お顔から精彩が欠けてきているような支部長アレクセイ殿のお話を傾聴。
「冒険者ギルドでの講習は、特に順番などはないので、適宜受講するように。
そして、以前も警告したが、犯罪は処罰される。攻撃スキルを街中で使うのは当然に禁止だ。他のスキルも自重しろ」
いつもの、と聞き流すところだが今日のアレクセイ殿は一味違った。
ふっと、肩から力を抜いて微妙に声音が変わる。
「さすがに神託の冒険者と言うべきなのか、いきなりスキルを使えてしまう者もいるようだが、冒険者にとってのスキルとは、神様からの加護によって威力・効果が激増している特技のことをいう。安易な使用は単に危険なだけでなく、神様の御力を損なうことにもつながる。
ゆえに、各職ギルドで個々のスキルについてその特質や効果の説明、教授を受け、訓練場等での実技を経るまでは、控えろと言っている。
もちろん、いかなるスキルも、使うべき場面に限り使うべきものであり、安易な使用は厳に慎まれたい。以上」
説得というのは、説得される側が理解や納得、そして共感を覚えることで成立する。
そのためのテクニックとして、状況・背景を説明し、考えさせることで自ら納得させるという手法があったはずだ。
頭ごなしにダメって言われても反発しますよね。じゃけん、なぜダメなのか説明しましょうね、という叱り方のメソッドと根っこは一緒。
「ああ言われれば、そうかーとしか言えなくなるなあ」
「実際、危ないのは事実なんだろうし、そこに神様まで持ち出されると、あえて試すのも……ってなりますね」
「【ライト】も【キュア・ポイズン】も無害なのでセーフ」
「大丈夫? バレてない?」
「これが自爆ネタですか?」
メンツが固定化著しい雑談メンバーによる、定例の朝礼解釈や新情報・ノウハウの共有でも、実は……的なスキル事情がポロリ。
「さすがに攻撃スキルは自重したお。けど、異世界だお? 転生だお? 新しい力だお?」
「使って慣れないとあかんなぁってのもあるにぃ。ただ、最初だけでもちゃんとした師範か何かについて学ばないと変なクセがつきそうだにぃ」
「こっそりやるくらいなら、各職ギルドに出向いて教えを受けてから堂々と、が正道なんでしょうね」
冒険者ギルドの講習に加え、各職ギルドでも。学ぶことがたくさんです。
ただ、倉庫が。倉庫がね……
「冒険者ギルド講習はかなり混んでる。大部屋に適当に集まっただけの人数でぎゅうぎゅうだ」
「時計がないから、集まりを見ながら1日に数回開講ってアバウト運用じゃないのか、あれ」
「実質の講義時間は1時間程度だと思いました。『慣習』という講義の話なので、他がどうかは鋭意調査継続です」
「常識的に考えて、ここでの常識を知るために必要だとは思っただろ」
全部で12回。
講師の都合か講座によってはやっていない日もあるとか、人や回によって内容がちょっと違うっぽいとか。
「そういえば昨日、乞食に覆面魔術師が大銅貨投げつけて『これで飯を食え! ギルド講習を受けろ』って喜捨(?)していったと噂を聞きました」
「あ、私も聞きました。腰ぎんちゃくアサシンを引き連れた覆面Wizが、悪代官ムーブなのにお金渡して説教していったって」
……。
「覆面のWizが、乞食に……ふぅ~ん」
ルピスどんが横目で僕を見ているような気がしますが、きっと気のせいでしょう。
(( 汝の左手に知られるなかれ、でござる ))
また潜んでるし。もうやだ、この忍者。
「乞食の真似すれば金もらえるなら、ワチキもやってみるかな」
「それが、『芸がなってない!』って指導も入ったとか。わけわかんないって顔してるヤツに、地面に叩きつけてわざと割れ目をつくったお椀突きつけたり、髪の毛くしゃくしゃにしたり……」
「確かにそこまで気合入れて乞食されちゃあ、小銭くらい喜捨してしまいそうだゾ」
逆に、そこまでしてくれないと『本気』を感じないのでございます。
無償の施しはしたくないのです。僕はそこまできれいな人間じゃありません。芸に対価を出すのです。
「本当に困っている人のセーフティ・ネット、なんですかね。LLOからの資産引継ぎ、人によって天地の差みたいですし」
「えげつない話になれば、借金はめ込みで奴隷化なんて噂もあるでのう」
「人の闇は深い」
約5,000人の転生者、中にはそういう悪事方面に才能のある人もいるだろう。
被害者をかわいそうだとは思うが、直接の関わりがなければ無視できる。僕の人間性はそんなもの。
倉庫に向かう道すがら、女クルセ服はないかとバザーを覗くルピスに付き合い、あったので速攻で女シーフ服と交換。
さらに、もしサブ職にプリを選ぶ場合に備え、シオに各職のスキルブックを確保させていた。
その足で掲示板エリアもチェック。
昨日、新たに生まれた【アイテム売買】だけでなく、さらに増えた掲示板も既存掲示板も、【探し人、メンバー募集】【知識共有・提供】【あげます・ください】【その他総合ダム板】に再編されていた。
「仕事早いなおい」
「ある程度勝手に張り替えた。強権をふるわねばならん時もあるということだ」
掲示板界隈に出没率の高いジルゲームスさん。逆毛じゃなくなったヤンキー系金髪騎士のジルゲームスさん。
ちなみに拡張バッグ、最高値は金貨28枚に銀貨4枚となってます。
「おりても、いいんだぜ?」
「28G+6S」
「こまけぇ!」
倉庫整理はいつもの感じ。謎の関西弁が感染って困るわぁ。
お昼はクランルームでとり、午後はシオがルピスのヘルプに移るので、3人でいつものコースで倉庫まで。
バザー会場に【ご自由にお持ちください】コーナーが増設されて、ほぼほぼ、いわゆるネタ装備や明らかな不用品が置かれていた。あ、ネタではないリボンが売れた(タダだけど)。
「タダだしもらっておく……最悪部屋の飾り……むうう」
物がないゆえに物を欲して悩むシオとは逆に、僕とルピスはリアル化したことで「いらねー」になった趣味品・ネタ品の処分場を見つけた目をしていたはずだ。
「あとで捨てに……ご提供にこないと」
「『ソレ』ですね、わかります」
渦巻き状の『ソレ』は、素材不明な質感もあり、ぶっちゃけ倉庫に残して消滅させるか検討するレベル。
ぬいぐるみ系だったなら、ちょっとアレなクッションにでも転用できたのだが、もしかしたら本当にアレなソレはあかんって。
「『チューリップ』各色と『草』も出すかな」
「『草生えるwWw』出来なくなりますよ?」
「リアルでやったらリアルファイト不可避じゃね?」
「ネタをやっていいのは身内だけですねえ」
バザー会場と掲示板エリアをつなぐ領域に、声を上げる人たちが並んでいた。
「【アークエンジェル】。羽系。応相談でーす」
「【狂犬MAX】、犬耳集めてまーす。付与あり・強化は応相談でよろしくー」
「【猫猫団】、猫耳系なんでもにゃん♪」
【猫猫団】あざとい。さすがネコミミ装備、あざとい!
さておき、やはり付近にいた【アークエンジェル】のジルゲームスさんに話を聞くと、いずれはクランで制服も考えているが、手っ取り早く仲間を識別する手段として頭装備に目を付けたとのこと。
「いや、発端は【猫猫団】なんだがな。いいアイデアは便乗してこそだろう」
「なるほどなあ」
言われて探してみれば、【アイテム売買】と【あげます・ください】の掲示板にも、頭装備の趣味品やレア品、コレクターアイテム、ガチの実用品からネタ装備まで多種多様な名前が並んでいる。
これまでは職服が識別子だったが、より細かな、仲間を示すサインとしての需要があるのか。
「確かにこのへんは、お持ちくださいとは言えないわなあ」
「でも、この値段で手放せるかと言われると……」
仮想通貨単位Zoltを手に入れたことで、LLO時代の相場との比較参照が成立してしまうのです。
金貨1枚2,764,800Zoltに銀貨1枚172,800Zolt。暗算するときは丸めた頭1桁か2桁での概算で。
「値段はつくし手放してもいい、レアだけど、コレクターアイテム、付与や強化無し……」
自分では使わないモノを、ルピスたちへのプレゼント用にするかと、いくつかサイドポーチに入れたまま。
「これ、売れそうなら売ってきていい?」
「いいですけど、買取募集はないようですが?」




