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冒険をしない冒険者 ~TS相方とはじめる剣と魔法の異世界生活  作者: 凡鳥工房


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5日目の②.ござると行く黒幕プレイ

 昼の鐘を合図に、お疲れ気味のシオとともに掲示板エリアでルピスを待つ。

 多分このエリアの担当なのだろうタコ口さんを見かけたので、掲示板をもう2~3台増やせないか相談してみる。


「夕方か、明日になるかはわかりませんがやってみます。場所は横並びで?」

「ですね、目的別で人を分散させたいので。あと看板用の板も何枚か」


 わかりましたの言葉と裏腹にイヤそうな顔をしているのだが、もしかしたらこれが地顔なのかもしれない。

 顔、つまりは第一印象のせいで損をしている人なのかも。仕事はこなす人なのに。


「拡張バッグ、金貨25枚(25G)ありましたー」


 自分も関わっていることながら、ガツンガツンと値が上がる【拡張バッグ買取】募集の張り紙を前にため息が漏れる。


 背後から、「そろそろ限界?」と声をかけられ、言葉を濁した。

 声をかけてきたルピスとシオ以外にも聞かれるだろうけど、これも一つの心理戦ってヤツになるのかも?


「このままだと30G行くとは思う。けど、それ以上は厳しいなあ」


 僕の限界は33Gに設定した。


 厳密な比較は無理だけど、日本円で1億円くらいというライン。

 それが高いか安いかはわからない。今だけの狂乱相場なのかもしれないし。


 屋台エリアに向けて移動しながら会話を続ける。何人かは確実に聞き耳を立てている模様。


「その心は?」

「今朝の朝礼で、この国なり騎士団なりは拡張バッグの買取諦めたっぽかったじゃん。査定も5Gという話だし、『欲しいけれど、そこまでは』という感覚なのかと推測すると、確かにと思うところもあり」


 僕がこれまでに買取に出した果物や食肉が、特区外へと荷車で運び出されていくのを目撃している。

 ここから、市街の外でも、荷車や荷馬車があると推測できる。


 さて、僕らの拡張バッグは、見た目の約5倍の容量を詰め込むことができる。

 これは確かにすごいのだけれど、一番大きな背負い袋(バックパック)であっても、荷馬車1台あれば同程度あるいはそれ以上の量を積み込み、運べる。


 逆に言えば、個人で荷馬車1台分の荷を持ち運べるのだが、騎士団や隊商という組織でそれがどの程度の価値かという疑問が出る。


 あれば便利なのは間違いないが、例えば輸送計画に組み込むには属人的すぎて慮外にするしかない。

 僕が兵站担当者ならそうする。せいぜい、所有者がいたらこき使えて嬉しい「おまけ」扱い。

 数が揃い、部隊ごとに配備とか集中運用とかいう話になればまた別なのだが。


「個人運用に限定したすごさだと」

「そう。拡張バッグが生きるのは、それこそ冒険者や行商人のような、個人で荷運びをしなければならないシーン」


 個人で荷馬車1台分の価値をどう見積もるか。

 現状、国として騎士団として認めた価値は5G。


「持ち込めたんだから、この世界にも『存在』するのは確かなんだ」

「それこそ5Gが妥当な値段で、ほどほどに珍しいけれど入手は可能なもの、なのかもしれない」

「むうううーん。ランドさんもルピスさんもよく考えが回りますねえ」


 屋台エリアで、少し奮発して肉らしきものも入った野菜のスープ(1杯粒銅3個)をすすり、細長い硬いパン(1個粒銅4個)をちぎってわけあい。


 そんな食事時に話す内容が金貨何枚まで積むか、だもんなあ。

 僕の根っこは低所得よりの庶民なのに、金銭感覚壊れてそう。


 午後は予定を変更し、シオはルピスと一緒に行動してもらうことにした。

 低レベルゆえにStr補正もほぼない感じのシオに、重量物運搬で負担をかけすぎたことを反省する次第であります。


「シオちゃんにはショルダーバッグのほうがよさそうですね。一応1つは出せますし、ん~、一回、ランドさんの装備をバックパックで運んで、ルームに置き去りにしましょうか」

「じゃあ、手周り用のサイドポーチを貸与にして、バックパックは返却扱いで」

「はいっ!」


 シオに渡すバックパックには比較的軽めな、頭装備、帽子類をほどほどに詰めて。サイドポーチには買い物に困らない程度のお金を。


 ルピス自身も装備類や処分しない素材・食材を詰め込んだフルアーマード・シェルパ状態で倉庫より出現し、シオと一緒にクランルームへ向かって行った。


 ……並べて見てしまうと、改めてStr補正の凄みを感じる。

 素の筋力であの大荷物なら、どんな猛女になることか。足音効果音は、ドムンッって感じの質量感で。


 さて、楽しい楽しい建材押し売りロード・第1章。

 午前中にサンプルを見せていたおかげか、査定用の移し替え容器やブツを広げるための台が新たに用意されていた。

 1回目の査定結果を本を読みながら待つ。


「優雅なことでんなぁ。わたしらは査定で休む間もないんですがねえ」


 最初くらいは見守るさ。1回当たりの取引額目安を知るためにも。


「痛むモノじゃないし、重さを量るくらいじゃないの?」

「一応、質も見ておりますよって。昼の休みに果物シフト解除して、建材の目利きできるモン呼んだんやけど、人数が集まらへんのや」


 一年で特区なんて出丸造るくらいだから、職人はいるはずだけど雇ってないのかな。


「職人は現場に出とりますやん。特区だってまだまだ建設途中なんでっせ」

「そこに僕が建材持ち込みかあ。こいつは期待できそうかなあ?」

「ああしもた。ったく抜け目のないことで」

「いやいや、目の前の大商人ほどではありまへんで」

「なんのこっちゃいな」


 笑顔とは本来以下略。


 おいちゃんとの会話は楽しいのが困る。

 斜め読みで知りたいことはざっくり把握したとはいえ、本に集中できへんやん。下手な関西弁もうつるし、かなわなんぁ。


 数回分を押し付けて査定待ちの時間を作ったので、Wiz服に着替えて倉庫を出る。

 広場の外周をぐるりと回り、いい感じの人気(ひとけ)のない薄暗い細い路地に入る。


 意識を集中してWizスキル【魔力感知(センス・マジック)】を使ってみれば、ビンゴでしょうか。

 すぐ間近にうっすらと魔力を感じる。


 【センス・マジック】、意外と便利かも。今後も折りを見て練習しておこう。


「確かに、広場周辺に物乞いらしき人たちをみかけたな」

(( サクラもおるでよ ))

「やっぱりてめぇの仕込みか!」


 昨日「いっそ乞食芸でも見せてくれれば」と漏らした後、僕以外に聞こえなかった声、呼応するように出現した乞食に作為を感じた。

 状況より、隠密か気配が薄くなる系の効果のスキル、暗殺者(アサシン)盗人(シーフ)とあたりをつけ、さっきスキルブックを斜め読みしたんだよ!


(( いやいや、実際よいアイデアだと思ったのでござる ))

「で、僕はどうすればいいんだ。全員に銅貨の数枚でも恵めばいいのか?」

(( もう一声。大銅貨を12枚。それで食いつなぐ間にギルドの講習を受けろ、と一言添えて ))


 掲示板に散見する【カンパ求む】に、シオという例もあったし、本当に困っている人もいるんだろう。


 ただ、無条件に施しをするのはイヤだ。

 加えて相手に対する優越感、驕りを感じてしまうのも怖い。


 しかし、苦しい側にとってみれば、助けをくれるかどうかだけが問題だもんなあ。


 それに、自分の言葉を守るのは自分しかいない。

 ああそうさ。芸には対価を払おうじゃないか。


 ポーチから 【気配遮断】付与の『黒子頭巾』を取り出し装着。

 嗜みとして、顔は隠さないとね。


「影に潜みし者よ、物乞いなる者共のところへ案内あないせい」

(( うはwww おkでござるwww ))


 片膝付きで姿を現したのは予想通り暗殺者(アサシン)服だったのだけど、こいつがやりたいのは忍者プレイだろ。ござるだし。

 銀貨をはじく。


「アイデアと、実行の手間は別であろう。サクラには喜捨をれてやるが、お前には別に報酬をやる」

かたじけないでござる」


 黒幕……悪代官(?)プレイもなかなか楽しいじゃん!

 いかんなあ。ござるのこと言えんわ。

 RPGというジャンルが成立するくらいに、なりきり(ロール・プレイ)は楽しい。真理だわ。


 ……そんなこんなもありました。

 関西弁商人さんがギブアップしたので夕方の鐘の前に切り上げ、掲示板エリアに。


 さっそく1台、新しく用意されていた掲示板の封印を解く。

 看板用の板にでっかく【アイテム売買】と記して側柱に添え、元の掲示板から自分の張り紙をはがして、書き直した拡張バッグ募集をアイテム売買板にペタリ。


「なるほど」

「専用掲示板か」


 掲示板界隈の常連さんが、同様に張り紙をはがしてきて、僕の隣に張り付けた。

 拡張バッグ、現在の最高値は26G+4Sか。刻み目が小さくなってきているな。


 【ください】【譲ります】に【メンバー募集】系、【情報】共有のための告示系を分けられれば、無国籍感漂う初代掲示板も多少は落ち着くはず。

 無国籍感自体は嫌いじゃないけど、情報リテラシーとして、アクセスを整理しておきたいのでございます。


 クランルームでの夕食時には、ルピスの参加した『TS者限定・相談会』の報告、というか愚痴を聞かされた。


 男から女だけでなく、女から男へのパターンもあり、それぞれに抱える悩みは別物ということで、相談会も身体上の性別に分裂は確定。

 ルピスは女体化組なわけだけど、以降の会合に積極的に関わる気はないという。


「でも、どうしてこうなったなんて愚痴、何度も何度も聞かされたって気が滅入るだけですって」

「まあ、愚痴は言うだけで気持ちが楽になるものだし」

「それは認めますが、付き合う義理もありません」


 具体的な相談であっても答えようがないことばかりだと。

 例えば、元男が男仲間に友人として混ざるつもりなのに、なんか、そういう目で見られている。どうしよう。


「見た目が女ってだけで意識はするもんだしなあ」

「男女がいればカップリングは、婦女子の嗜みですしねえ」

「そうかもしれませんけど、難しいものですよ、実際」


 本当に相談したかったこと、生理のこととか髪や肌の手入れとか下着とか。

 元男に聞いたってどうしようもなく、女性にしかわからないことは、もう全部シオちゃんに頼りますからと吐き出すルピス。


「性生活とか、どうすりゃいいのよ、本当に」

「そのへんは私も手探りなので、一緒に頑張りましょう」


 愚痴は聞くべきだが深刻になりすぎてもいかんと、持ち込んだ装備の確認にシーンを移す。


 【フライ】を付与した『黒翼の堕天使のヘアバンド』をルピスに被せ、どんな感じか尋ねると身体がふわりと浮かび上がった。


「お、おお、おおおおお!!?」

「効果時間切れ、備えて、足元注意!」


 ドスン。

 ……着地は、4点ですかねえ。10点満点で。


 堕天使HBを返してくれないルピスがふよふよと漂う中、僕も『トナカイの赤い鼻』をつけて赤く光らせてみたらシオに大笑いされたが、記憶に残るフレーバーテキストを信じるなら、これって実は赤外線サーチライト。

 【インフラビジョン】付与の装備と組み合わせるのが吉だと、転生前のルピスとはそういう結論に至っている。


アクセサリ(アクセ)は、2つまでっぽいですね。3つは、どのアクセのスキルも使えなくなりました」


 検証のために外していた『身代わりの指輪』を左手にはめ直すルピス。

 右手には詠唱加速、体内魔力の集積補助効果のある『流星の指輪』をそのまま残すようだ。


「目立たないモノは身に着けておくのもアリか」

「デメリットもないですし、細かいものはまた探すのも面倒で」

「ああ……」


 なくさないように気を払わないといけないし、初期状態でついてたタグを外すと、強化値や付与効果なんかがわからなくなるし。


 まあもう寝ましょうと移動すれば、殺伐としたマイルームである。


 木箱に突っ込まれた状態で乱立する、怪しく輝く銀髑髏の杖やらむき出しの刃物やら。さらには立てるとバランスが危ない感じなので、そのまま床にごろごろ転がしたポールアクスなどなど。


 装備類、持ち込むだけでなく、目録インベントリや収納具も整備しないと、「使える」状態には程遠いなあ。






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