5日目の①.そういうふうに、思われていた
5日目の朝を迎えた。
昨晩、仲良し運動の後そのまま寝てしまったシオがシャワーから出てくるまでに時間がかかった。
何か問題でもあったか、体調でも悪いのかと聞くと、そうじゃないと言う。
「体調的にはオッケーです。私、セックスいやじゃないみたいです」
「ステ補正つきの偽マジチンめ」
「いい加減マジチンから離れて。連戦連発なんて無理だし、やっぱりアレは薬物の影響だって」
時間がかかった理由は、髪の水切りに手間取ったからだそうだ。
僕はざんぎり頭で、ルピスは肩口にちょっとかかるくらいだが、シオは垂らせば腰下までのロングロング。
今はもう髪型だって自由にできるのだが、例のツインテールに纏めている。
「テール系は引っ張って一度まとめるから、テール部以外に乱れが出にくいんですよ」
「「へぇ~」」
魔道具でドライヤーか、せめて扇風機的なものはないかなあと話が飛んで、そもそもタオルがないのが悪いと急降下。
「タオル織がない! そうでなくとも布製品が高い!」
「パンツも、ブラというか乳帯も、布巾も。全部いいお値段。こんな布切れ1枚でも大銅貨!」
ぼったくられてるかどうかは保留。
「糸紡ぎと織りが手作業のうちはどうしてもね」
サブカル方面で数ある、ヨーロッパ中世風といいつつどうみても近世な異世界に転生しての知識チートものでも、機械化を踏まえてはじめて安くできるものの代表例みたいな感じだし。
誰かの計算では、Tシャツ1枚が50万円くらいになるとか。
「知識・技術チートはよ、はよ!」
「自動紡績や織機の構造憶えていて、かつ製作できる職人と動力の確保と原材料の仕入れを行い、製品を売りさばけるならどうぞ」
「……既存生産者の恨みつらみを引き受けながら、ですね。できる人に任せましょう」
そして紡績と製織で材料布ができても、次は裁断・縫製というボトルネックが立ち塞がる。
僕らはこの世界の人間の神様の招待を受けた、いわゆる神託の冒険者だけれど、知識・技術チートで世の中を変えようとする人が出てもそれはそれで応援したい。
より良くより楽に暮らせるようにしてくれる人は大歓迎です。
僕らは、その果実さえ甘受できれば幸せなので。
食後のハーブティをきめながら今日の予定のすり合わせ。
僕は食品処分を進めたい。
ルピスとシオは昨日に引き続き、朝礼まで部屋で片付け等。
「着替え確保したんですし、ランドさんのも洗っちゃいますから」
「よろしうに」
「でも、どこに干します? 色気も何もないですが、下着もありますし」
「ベランダに出したくないから、部屋干しするしかないでしょうね」
朝礼後の午前中は、ルピスがTS者限定の相談会に顔出し。
シオは僕を手伝いたいアピール。
僕らと違って資産・資金なし、切り札も切ってしまったで不安もあるのか。ここにいていいという理由、役割が欲しいのかも。
「じゃあ今日は、シオは僕を手伝ってもらうということで」
「がんばりマッス」
「私は顔出しだけのつもりですし、お昼に掲示板のあたりで合流しましょう」
「じゃあそういうことで。今日も1日張り切っていきましょう」
「「おー!」」
冒険者ギルド前の朝礼では、アレクセイ士爵殿の目のクマが成長している様子が確認できた。
「クランルームだが、予想以上のペースで部屋が埋まっているので注意されたい。
神託で保証された14日間は、諸君らの倉庫も寝床として使えるだろうが、娼館も宿として利用できるようにした」
娼館なんてあったんだ。
いや、冒険者には必須の施設として準備していたのかな。
「なお、欲しいのは倉庫から出した荷物の置き場だという相談を多数受けている。
何種類もの武具を持ち込んだ者もいるようだな。
私とて冒険者の一員である。武具が商売道具だという意見もわかるが、不要不急の品は買い取りに出し、身に着けて持ち運べる程度に留めて欲しい。
また、まだ日数に余裕はあるが、神様がお運びくださった貴重な資源を消滅させてしまうくらいなら、倉庫入り口前に捨ておくこともやむを得ないと考える次第である」
このへんはなあ。
抱え落ちするくらいなら引き取らせろというのも、俯瞰視点ではわかるはなしではある。あるが、ねえ。
現地サイドの言動から透けてくる現地冒険者の姿は、住所不定の旅人イメージ。
けど僕らにしてみれば、実際に魔物相手に戦ってみないことには、どの武具が必要かわからないというのも抱え込みの原因の1つだと思う。
「加えて、順次講座へ参加してもらいたい。
結局のところ、これらのすり合わせが進まないことには、魔物との戦い以前の問題として諸君らを特区の外に出すことができない」
参加、したいです。
でも、倉庫が、倉庫が……
「最後に、諸君らの中に物乞いをする者がいる。
当面の間、禁止も取り締まりもしないが、あまり良いことではない。
だが現に、食にも事欠くようであれば、ギルドにて生活一時金の貸付を行う。むろん、神託の冒険者諸君が義をもって同輩を援助することを妨げるものではない。
諸君らが、一日も早く冒険者として活躍する日を期待している。以上」
朝礼後の井戸端会議では部屋不足が一番の焦点になった。
「5,000人って、中世ヨーロッパ基準なら、大都市と言えるくらいの人口だからにぃ」
「クラン会館、概算ですが押し込んでも3,000人くらいが収容限界なんですよね。実際には各クラン、そこまでメンバーを増やさないでしょうし」
「1LDKに6人も住めるわけないお」
「『住む』のではなく『宿舎』とみれば?」
「ランド大明神様の情報に感謝。出遅れてたら今頃大慌てでしたよ」
(( ちくわ大明神 ))
……空耳空耳。
ただ、クラン会館はクランという集団向けの物件だし出費も大きい。
もともとの仲間で集まるとか、新たに仲間を集めるとか、そういう集団化のあてがないなら宿でも借りることになるんだろうか。
その宿も部屋が足りないから娼館を援用すると?
「ちなみに娼館ってどこ?」
「北西方向、冒険者ギルドの裏手を行ったところにあるが、行くのか?」
性癖暴露アニキがなんだこの勇者はという顔で僕を見てくるが、勘違いはやめて欲しい。
特に、娼館の場所を知っているあなたにだけはそういう目で見て欲しくない。
「いや、宿の話の絡みで。病気も怖いし」
「そこは、足りていると言うべきところなのでは」
なんでかシオに足をけられる。痛いんですけど。
「ランド君には正妻ルピスさんがいるのに、シオちゃんまで!?」
「正妻かあ。そっかぁ、そうなっちゃうかぁ」
「お二人はそういう関係だとは思っていましたが、やっぱりそうだったんですね。私気になってました」
「「「MOGERO」」」
男と女が一緒に、それも気安い距離感でいれば、そういう関係を疑われるのはわかる。
だが、言わないけれど言わせてほしい。ルピスは元男なのだ。おっさんだったのだ。先日の暴走がなければ、そういう関係にならずにずるずると歳をとっていったかもしれない、そういう相手だったのだ。
「そういえば今日は拡張バッグのこと言わなかったよね?」
「諦めたんじゃね? 値段が全然釣り合ってないもん」
「後はあれか、装備他、抱え落ちするくらいならよこせっての」
「本当なら、問答無用で徴発したいのかもだけど、本人以外は倉庫に入れませんからね」
角度を変えて、もしかしたら今が一番高値なのかもという意見。
魔物狩り後に不要とわかった装備を処分しようとしても、そのときは似たようなモノが大量に売りに出されるだろうし、時機を逸しているというわけだ。
「言うてなあ、じゃあ手放せるかというと無理だろ」
「どうなるかわからないから、できる限りの事態を想定した装備を手元に残しておきたいんですよねえ」
「もし、国というレベルで強引な徴発・接収をしてくるようなら、俺たちはどうするべきなんだろうな」
「『上に施策あれば下に対策あり』。秘匿隠蔽が鉄板だけど、そのためにも拡張バッグなんだお」
散会後、TS者の集い・相談会に顔を出すためクラン会館の大会議室に向かうルピスと別れ、シオを手伝いとして食料品叩きつけロード・最終章を開演する。
そのために、シオには背負い袋型の拡張バッグを1つ貸与することにした。
ぶっちゃけねー、持ち逃げはまだ怖いけど、でもほんと、これで持ち逃げされたらそれまでよ。
拡張バッグは、おおよそ見た目の5倍の容量であり、内容物の重量も1/5くらいに軽減される。
つまり、結局のところ見た目同様の重さはある。
ぎっちぎちに詰め込んだバッグを、試しにシオに渡してみたが持ち上がらなかった。
「ふ、ふんがー」
「あー、大丈夫。多分そうだろうと思ってたから」
Str補正が効いていなければ僕も無理です。
なので、半分くらいに手加減したバッグをわたす。それでもかなりきつそうだが、倉庫から買取窓口まで運べればいい。
シオが手伝ったという実感を、役に立っているという感触を求めているのなら、安易に『おもてなし』するのは逆効果だろう。
「こちらが一緒にクラン立ち上げたというご婦人でっか?」
「いえ、新人です。カバン持ちでベンキョウ中です」
「ほほ~う」
なんだよう。言いたいことがあるなら言えよう。
増やす気はなかったんだよう。男の言い訳は見苦しいっていうけど、ほとんど事故だったんだよう。
「より多くの者に庇護をもたらすのも、優れたる者の責務でっせ。ウェッヒッヒッ」
「甲斐性は大事ですよね~」
「で、ございます。まあ、増やしても大変なのが愛人っちゅうもんですが」
なるほど、そういう文化なのね。
ナチュラルに男尊女卑っぽい気配はあるし、金持ちは愛人囲って養うのも男の責務だと。
甲斐性見せるのも大変なんだと荷を下ろし、査定の間に倉庫へ戻る。
本人しか入れない仕様上、庫内作業がボトルネックになるが、シオの運搬分も含め都合8回の往復で、急いで処分するべき食品類は倉庫から姿を消した。
「足の速いモンは出しきったと思う」
「さよですかあ。いやぁ、えろう稼がせてもらいましたな!」
おつかれさーんと握手を交わす。気分はなんていうか、戦友?
ブツの売り買いの関係で、しかも見た目だけならあちらはいいお歳なのだけれど、僕ら神託の冒険者は見た目で侮ると痛い目を見ると、現地人側でも情報共有が進んでいるそうで。
そらなあ、僕やルピスはおっさんだったし、LLOのメイン層は僕らの前後の世代のはずだし、中には社会経験豊富な人、豊富すぎる人だっているだろう。
さらに、侮られたと感じるセンサーが敏感な我ら元日本人、黙って消える妖精モードで済ます人ばかりじゃない。
反抗の気質が、戦闘民族の血がうずいてしまう人もいるかもしれないじゃあないですか。
まあ僕は支援プリなので、直接戦力にはなりませんけど。
「それでね、こういった素材はどこで取り扱うか、よければ紹介して欲しいんだけど」
食品が終われば素材が待っている。
本当に、なんで「残せるものは残す」なんて決意しちゃったんでしょうね、僕は。
サンプルとして持ってきた『きれいな砂』『砕けた岩』『泥の塊』『粘土』『貝殻』『火山灰』を並べると、関西弁商人の笑みが凄みを増した。
「建材やないですか! で、どんだけあるんでっか」
「そりゃまあ、たくさん?」
「かーっ! 全部や、全部持ってきなはれ!」
「毎度っ」
笑顔とは本来攻撃云々。
いやー、まだまだいい取引ができそうですねぇ。




