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冒険をしない冒険者 ~TS相方とはじめる剣と魔法の異世界生活  作者: 凡鳥工房


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4日目の①.シオのクラン登録

挿絵(By みてみん)

LLOバード(女)、モデルはシオ

 転生から4日目。


 激動の3日間を経てもまだ、落ち着いた状況には至らない。


「やるべきはシオちゃんのクラン登録で2か所巡りですね」


 朝礼の後に情報共有から冒険者ギルド、昼の戻りにあわせてクラン会館で手続きの流れ。

 朝礼までは、僕は倉庫整理に出るけれど、ルピスとシオはルームに残って生活必需品のリスト化。


「正直、股に異物感があってあまり動きたくないです」

「「すいません」」


 軽くにらんでくるルピスだったが、僕だけでなく原因をつくったシオもひれ伏している。

 しょんぼりしたシオの頭をなでるために伸ばした手が、同じように伸びていたルピスの手と触れ合って、お互いに身を震わせる。


「……息、ピッタリなんですね」

「長い付き合いですから」

「最高の相方なもんで」


 ルピスとシオに向き合って頭を下げる。


「責任は感じておりますし、いまさらですが、これからもよろしくお願いします」

「……うん、こちらこそよろしくお願いします」

「よろしくお願いします!」


 慣れてきたもので、朝の鐘の鳴る頃には転生者たちが冒険者ギルド前に集まった。

 号令もなしに自発的に集まってくるとか、それでいて微妙な距離感を保って立ち位置を確保するとか、『神託の冒険者(あいつら)』なんなんだとヒソヒソ声が兵士さんたちから聞こえてくるが、それが日本人ですからとしか答えようがない。


 初日に比べれば明らかに目減りしているけど、仮に半分でも2,000人超。結構な人の圧だと思う。


 変わらぬ態度で壇上に立つアレクセイ士爵殿の胆力は、さすがにギルドの支部長を任されるだけはある。が、すこし目の下にクマがあるような?


 事前準備していたとはいえ数千人の『神託の冒険者』を、『冒険者』というくくりで管理下に入れなければならないんだ。

 いわゆる報告・連絡・相談(ホウレンソウ)だけでも激務なんだろう。偉い人は大変だなあ。


 今朝は、犯罪は裁く、処分者もでていると強い口調。

 軽犯罪に収まらない傷害や強盗事件が、冒険者ギルドが把握しているだけでも複数発生したようだ。


 冒険者ギルドに警察権があるともとれる点が気になるが、むしろ各組織がそれぞれ自衛権を行使していてもおかしくないのが中世クオリティ。


 続いてクラン登録とクランルームに関する案内。今更?

 各ギルドで行っている講習への参加の呼びかけときて、締めはいつもの。


「拡張バッグの供出は、国への貢献である」


 当然、聞き流す。


 国家サービスに見合う責務を返す意志はあるが、それはそれってヤツなのだ。


 徴発する、と言わないだけ自重しているんだろうか。

 もちろん、もしそういうことをするのなら、僕らが黙って従う保証もない。


「私からは以上だが、今朝は諸君らの有志から連絡があるという」


 アレクセイ士爵殿と入れ替わり、壇上にスキンヘッドで彫りの深いおじさま顔が立つ。

 着ているものは修道士(モンク)服。

 どこが修道士やねんとツッコミどころ満載の、ド派手なスタイリッシュパーカーがLLOのモンク服。


「おはよーございます。クラン【NPO法人バザール会】です。

 えー、私どもはこの度、職服の交換会(バザー)を企画しました。

 と言いますのも、この職服、互いの目星を付けるのにわりと役に立っています。しかし、着っぱなしというわけにもいきません。臭ってきます」


 自分の服の襟元をつまんで嗅いで見せると、オーバーなリアクションで顔をそむけた。

 ……うん、そうだね。汗と垢の匂いが染みついてきているよね。


「着替え用の2着目、3着目、欲しいじゃありませんか。

 もちろん、保有する他職の服に着替えるという手はあります。ありますが、設定していない職だと誤解されても困るわけで、そういう職服同士を交換しませんかという企画です。

 掲示板エリアの隣に、天幕、運動会で見るようなタープテントですね、それを張ってもらい、バザー会場にする予定です。

 どうか皆さま、奮ってご参加ください」


 こういう仕切りをしてくれる人は正直ありがたい。


「プリ服の、替えが欲しいよ、切実に」

「私、残ってたのこの子だけなので着たきり雀なんですよ」

「女バードは1着あるから、あとであげますね」


 いつものメンツにシオを紹介しつつ、朝礼後の情報交換こと雑談タイム。


「朝礼でも言ってたが、俺の知人も置き引き被害にあった。皆も気をつけてくれ」

「LLOに限らず、ネットゲーム(ネトゲ)に時間を割ける人の中には、ロクでもない連中もいるみたいだから」


 シオの件もあり、いよいよ追い詰められた人が出たのかもと想像する。

 同時に、悪いヤツは一定数いるものという統計上の現実も頭をよぎる。


 互いに注意を呼びかけ合ってから、昨日の課題の共有。

 ランクDだと年に金貨3枚相当の実績ノルマが求められ、達成できないとランクダウンだという。


 金貨3枚、仮想通貨単位Zolt経由日本円換算でおよそ825~900万円。

 結構な年収(ノルマ)だな、ランクD。それでもまだ中堅なのか。


「おそらくだけど、上に行けば行くほどインフレ気味に数字が膨らむんじゃまいかん」

「階級社会は物価がリニアにつながりませんからね」


 クラン設立には発起人たる団長マスターがランクD以上である必要があったけど、そのマスターがランクダウンした場合について。


「クランについては、一定期間の猶予があるそうです。が、そもそも、クランマスターが『ランクD程度』を維持できないようでは話にならないという感じでした」

「最終手段として、抜け道、つまり金で功績を買う手法もあるみたいですが、怪我等の一時的問題で、貯蓄を崩してランクを維持するためなら、と」

「カネカネカネ。異世界でも世知辛いお」


 いつもだと、ここで倉庫待ちの列に並ぶのだけど、今日はシオの登録のために冒険者ギルドに向かう。

 建物に入って目を慣らしていたら、才女さんがダッシュで寄ってきた。


「クランの増員です。手続きお願いします」

「承ります。では、こちらへ」


 傷を見せつけおじさんもあらわれて、案内された今日の個室の椅子はクッション効いてるじゃあないですか。

 こころなし、調度品も良いものを置いてあるような。


「冒険者証をお預かりします……」


 前回は硬直したけど、今回はむしろほっこりしている?


「神託の冒険者とはいえ、ランド様、ルピス様のようなお方が群れをなして現れたというわけではないのですね」

「ランドさんたちは、廃じ……ハイクラスですからね!」

「ですよねぇ!」


 シオよ、いま廃人といいかけただろ。

 僕らは決して廃人ではないぞ。アレはなんていうか、文字通りに人を辞めている連中だ。

 ていうか、塔臨時に参加していたなら、おぬしだってハイレベル界の住人だったやろが。


「ところで、ランド様、ルピス様にはその格に見合ったランクへ昇格していただきたいというのが、当ギルドの意向なのですが……」

「でもお高いんでしょう?」

「それは……そうなんですが……」


 でも、とくじけない才女さん。

 ランクBになれば、市民権を購入する権利が得られるとか、いっそお二人ならランクAでも不足はないとか。


「ランクAともなれば一代士爵叙勲の推薦・斡旋も承れますし、文字通りの最高峰の冒険者として王国に、すべての民に認められる存在として……」

「でもお高いんでしょう?」

「それは……そうなんですが……」


 保険のおばちゃんモードに入っている才女さんには悪いけど、市民権にしても一代士爵にしてもメリットがみえないので保留。


 いわゆる功績を金で買うにしろ、ただ昇格するだけでは済まず、年間ノルマも跳ね上がるんだろ、どうせ。

 なおも食い下がろうとする才女さんを、傷を見せつけおじさんが止めた。


「お嬢、そのあたりで」

「ん、んん。……失礼いたしました。ランド様、ルピス様。本日もご用命ありがとうございます。またのご利用をお待ちいたしております」

「あざっしたー」


 だからおじさん、なぜにチンピラ風なのさ。


 ともあれ、シオのクランおよびPT登録はすんだので冒険者ギルドをあとにする。

 朝礼の警告もあるし単独行動は避けたいところだけど、それぞれ倉庫整理もしないといけない。


「カギ問題もあるし、シオはルピスと一緒で?」

「私と一緒がいいでしょうね。小物や雑貨の買い足しもありますし、本物の女の子の感性に期待します」

「ご期待に沿えるようがんばりマッス」


 いつもの関西弁風窓口商人さんに「今日は遅かったわね。新居でお忙しいのかしら」なんて女言葉でからかわたので、返事代わりに果物箱を積み上げてやる。


「次持ってくるまでに査定しといてくださいね~」

「おいおい、ちゃんと見てないとこっちゃ悪いことしでかすかもやでえ」

「したら縁切り。はらァ覗けるなら買取1回分くらい損切したるわい」

「言わはりますなあ。あーもう、交換木札だけはお持ちやす」


 買取処分の何が困るって、待ち時間が長いのよ。


 査定で時間を食い、お金の受け渡しも、いちいち目の前で数えて計る。

 いや、大事なことなんだけど。


 都合、1セットに30分から小1時間。

 回数をこなせないと倉庫からモノが減らない悪循環、なんとかしたかったの。


 倉庫と往復してひたすらカウンターに叩きつけていく。

 すごい、みるみる在庫が減っていく。もう何も怖くない。


 査定?

 1回当たりのおおよその額さえ知っていれば、そこから大きく外れない限り問題ない。銀貨数枚程度の損得よりも、今は時間が大事。


 昼の鐘を背にこれまでにない充足感を得ていたら、恨み節が聞こえてきた。


「昼前に一日分の仕事した気分ですわ」

「よっ、働き者の大商人!」

「かーっ、嫌味は受け取らんとはイヤなお人やわ」


 支払いをまとめた分、小銭が集約され受け取る貨幣の枚数が減ったことも嬉しいスピードアップ要因。

 最後の分だけ木札で受け取り、午後もよろしく~と最高の笑顔を投げつけてやって、クラン会館に急いだ。


 ルピスとシオはクラン会館1階の共有ラウンジで誰かと話していたが、僕の姿を確認して席を立った。

 事務室に寄り、シオの登録を依頼する。


「あい~。早速の増員ですね、ちょっとだけお待ちください~」


 手の空いている人が対応してくれるものだと思ったが、僕らの手続きをした人が向こうで手を上げていた。


 冒険者ギルドの才女さんもそうだったけど、スタッフ個々人で対応をする相手が決まっているのか?

 事務室内の長椅子で待ちながらそんなことを話したり、ラウンジで話していた新しいご近所さんについて聞いたり。


「お待たせしました~」


 クラン会館での登録は、各戸ごとの入居者名簿に名前他を記入し、冒険者証を確認するだけ。手数料と心付けを添えて。


「シオさんですね、よろしく~」

「お忙しそうですね」

「昨日の午後から人が来てますねえ。この分だと、案外早く、部屋が埋まっちゃいそうです~」


 さっくり手続きを済ませ、ではではと去って行った。





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