2日目の②.いたよ!相方さん
カレーに舌鼓を打つ相方の、肩口までかかるすらりとした髪。
結ったり編んだりで飾ることなく、そのくせ品のあるおかっぱ(?)にこだわりがうかがえます。
「金髪とは違う感じ?」
「小麦色ですね。明度を限界一歩手前まで上げました。ただ、ディスプレイ上とは微妙に色味が違うみたいです」
ほどほどの肉付きに入魂のライン調整。
本当に、よろしい御趣味をしてますわ。
つーか、女プリ服って露出は控えめなくせに身体のラインめっちゃ出るんだよなあ。
LLOデザイナーさんありがとうございます。
「カレー……」
「ないです」
相方との邂逅に割り込もうとした金髪逆毛の騎士、ジルゲームスさんの言いかけを遮る。
「本当に?」
「ないです」
そもそもLLO内で作るのに材料費だけで200,000Zolt超えるし、材料集めるの面倒だし、露店に並べてみたけど全然売れなかったし。
いや、わかるよ。
1時間狩りするのに、この料理を使えば1,000,000Zolt消費するとして、じゃあ、それに見合ったリターンは得られますかという。
無理ですね、はい。
なので、売れ残り在庫を自分用の発奮剤として、ソロ職たちのLv99追い込み時に使った残り。
それを今、相方のルピスと食べきったところなのだ。
美味にて候。ふぅ。
「なあランドよ、カレーに限らず、この料理ってまた作れないか?」
「持ち込めたってことは、少なくとも素材はあるはずだけど、手に入るかは別」
「レシピはどうなってます?」
「料理用レシピがそれっぽいのにコンバートされてたけど、内容未確認」
食い下がるジルゲームスに、ルピスも名残惜しそうな目で器を見ている。もし、誰もいなければ舐めるかもしれない。僕は舐めるね。
残滓の残る器をサイドポーチにそっとしまう。
「最後に、現実の料理スキルに課題」
「お、おう」
心なし、逆毛の元気がない。
だが、どうしようもないじゃない。こちとら元おっさんよ?
自炊はできるけどなるべくやりたくないし、レパートリーも限られている。
いくら丁寧なレシピ集に調理器具や材料が揃ったとしても、いやむしろ揃ったなら、もっと腕に自信ニキかネキにこそ調理していただきたい。
「言いたいことはわかります」
「リアル料理人の獲得。これが新たなミッションか」
ゲームの何がいいって、現実的な確率論で成功と成長が保証されていること。
努力は必ず報われる、成功体験を味わえる。
出来合いのつくられた成功体験が人間力を弱くするという批判は聞き流す方針。
だって、リアルでも『努力は必ず報われる』と仮定して、じゃあ、成功までの試行数を確保できる人、成功まで諦めない強い心の持ち主というのはどれくらいいるのだろうか。
しおれた逆毛を見送りながら、気持ちを新たにする。
人生のやり直し、強くてニューゲームの機会を与えられたんだ。
ほどほどの成功でいいから、成功しそうなことにこそ努力というリソースをブッコミたいじゃない。
「ランド君でいいのかな。ワイン、あるかい?」
逆毛騎士の次はアルケミスト改め薬剤師さんか。
消費期限の心配が少ないモノは出さずにいたが、一応の非常用(?)に少量を腰のサイドポーチに入れてある。
『魅惑のキノコワイン』と引き換えに僕とルピスに渡されたのは半透明な瓶。ポーションかな。
「ありがたい。このワイン、どんな味か気になってたんだ」
「あ、これ『しろへびドリンク』って西口のポーション屋さんですか?」
「今となっては名刺代わりにもならないけど、もらっておいておくれよ」
ポーション類も消費期限があるから、処分推奨の品だった。
「信州諏訪の生まれでね、新しくスワティって名前にしたよ」
「それ違う神様の名前ぇ」
「きゃるる~ん☆」
中の人は僕の一回り以上、上の世代だぞこれ。
そんな推定熟女……もしかしたら男……が、可愛くあざといポーズを決めている。
「その節はお世話になりました」
「いやいや、多分こちらこそ」
ランカー・ケミのつくるポーションは効きがいい。
具体的には店売り品の5割増しの回復量を誇る。さらに、店売りに存在しない軽量な『濃縮ポーション』。
自己回復のできるプリとしても非常用の常備品でござった。
「露店で料理売る、ときどき葉っぱ大量卸しにくるケミさん。レンドだったっけ? ランド、リンド、レンド……わかりやすい名付けだねえ」
「バレテーラ」
「それに、意外とゲーム内料理人少なかったんですよねえ」
料理に関連するパラメータ、DexとLukの極振りなんて製薬ケミか製造BSかに絞られて、素材集めも面倒で。
必然、市場競争に打って出る人は限られたという。
「しかも、お手軽・確実に効果を求めるなら課金料理だし」
「だよねえ。私はポーション一本で料理まで手を出す余裕なかったさあ」
スワティ嬢、LLOの突然の終了のあとも、所属クランの縁で別ゲーに転戦していたらしい。
例の招待状も、リアル付き合いの残っていた4人に来たのは確実だけど、じゃあ、何人転生を選んだのか。わからないんだね~と肩をすくめた。
「結局、今生でも純生産を目指すケミあらためファーマシスト。何かの時はまたよろしくぅ」
「こちらこそ。……葉っぱ、いります?」
「欲しい……けど、今は置き場がないのさぁ」
「なんですよねえ」
製薬ランカーだった彼女の倉庫のあふれ具合は僕の比ではないだろう。
この世界で今後どうするにせよ、荷物の置き場所を確保しないと始まらない。けどその前に、生鮮食品だけでも倉庫から出してしまわないと。
「私も、ランドさんほどではないでしょうがMP剤として買いこんでいたり、横流し用素材として確保していたり」
「しばらくはソッチ片付けるの先かあ」
「顔も覚えましたし、昼夕にこのあたりを徘徊とわかっていればなんとかなるでしょう」
「徘徊いうなし」
ルピスと手を振りあって別れ、強者どもが夢の跡、後始末という名の料理容器の回収。
後で捨てるかもしれないけれど、何かに使えるモノは確保しておきたい。……その結果が、今の倉庫ヤヴァイを引き起こしているのだとしても、性格とはそうそう変えられないものなのです。
いつものタコ口のスタッフさんからゴミ捨ての注意をいただいた。
「掲示板の支柱に括りつけた箱は紙専用です!」
「はーい」
江戸時代のような紙リサイクルでもあるのかな。分別しておけば後々楽だもんな。
ルピスの顔も覚えたし、場所を空けるために伝言をはがす。
「回収して、日本語のサンプルにするんだろ」
「ん?」
「現地の人にとって日本語は暗号ですよ」
ああ、なるほど。
神託の冒険者とかいう得体のしれない連中が、読めない文字・言葉を使う。
「こんだけ人数いて大々的に使ってりゃ、秘匿しようがないから邪魔はしないことにしたお」
「せいぜい俺たちのことも理解してくれってな」
「僕たちは異邦人です。この先、現地に溶け込めるか、あるいは溶け込むべきかどうか。なんにしても無駄な喧嘩は避けたいのです」
三人寄れば文殊の知恵とはいうけれど、実際に、違う目線・考え方というのは大事だ。
そうなんだよなあ。
現地の人も、無条件で僕らを信用しているわけではない。
僕らも警戒感は持っているし、譲れないラインというものは個々人それぞれにどこかで表出する。
慣習を理解しない守らないというだけでトラブルの種だろうし、国やらギルドやら、組織の都合で僕らをコントロールしたいと考えるのは自然なこと。
もし、転生者が今の半分だったなら、もし、容易に制圧できると判断されたなら、もし、もし、もし……もひとつおまけに、もし。
勢力同士の思惑云々なんて話が大きすぎて、僕個人の意志でどうにかなる範囲ではないので、心の、思考の棚に上げて保留。
個人として大事なのは、物置の確保なのです。
「というわけで、無事に相方と合流できたのはいいんだけど、互いに住む場所の目途もない」
ブドウ買取の待ち時間、雑談として愚痴を垂れてしまう。
ルピスの存在を確認できたことで気が楽になって、緩んでいるのかもしれない。
「そりゃあ難儀してはりますなあ。順当に宿をお勧めできればよろしゅおましたが、どうも予定より皆さんが多いちゅうて、ウチには紹介枠がありまへんのや」
「じゃあ、飛び込みで探すしかない?」
「それも手やけど、時に、旦那はんの相方さんってご婦人やろか?」
「ああ、うん」
少なくとも身体は。
心というか中身は元おっさん。カラオケでは普通人に擬態するための福〇雅治や〇'zをはじめ、アニソン各種を熱唱される、熱いボイスの持ち主でありました。
「そやったら、いっそクランルームを借りるのがええかもですな」
冒険者ギルドは冒険者を管理する組織である。
冒険者同士がさまざまな要因でまとまり、結成する団体。それが血盟団。
クランを設立すると、クラン会館に部屋を借りられる。
「クラン設立にはランクDが必要ですけんど、そのへんは『神託の冒険者』さんには融通利かすいう話になってたはずですわ」
「設立や部屋を借りる手続きは冒険者ギルドで?」
「ええまあ、あちらさんの管轄ですよって、私ら手が出せまへん」
銀貨をパチン。
「心付けなんて要りません言うたやないですか」
「情報料。情報には価値がある。そうだろう?」
「フフフ、よくご存じで」
倉庫前で網を張り、再びルピスと合流。
ざっくり説明し大きな荷物は置いてきてもらって、二人で冒険者ギルド、剣と羽の意匠を掲げた建物に足を踏み入れた。




