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宝くじをコスパ最高に楽しむ方法

作者: あああああ龍之介

「ねぇ、ねぇ、ドリームジャンボ宝くじ買った?」




 ほんの軽い気持ちだった。




 しかし、それがまた彼のトリガーを引くことになるとは。




「宝くじ?そんなものは、ぼくは絶対に買わないよ、なぜなら、コスパ、コストパフォーマンスが最悪だからね。宝くじは寺銭と言われる主催者の取り分が50%もあるんだ。つまり100円買っても戻ってくるのは50円ということだね。競輪、競馬、競艇など他のどの公営ギャンブルより払い戻しの割合が低いんだ。こんなものを買うなんて馬鹿馬鹿しくて・・・宝くじのことをこう呼ぶ人もいるよ。『頭の悪い人たちに課された税金』ってね。大損することを理解できない人だけが、すすんで買うんだからね、さらに言えば・・・」




 始まってしまった。こうやってスイッチが入ると彼の話は止まらない。私は、少し話を遮った。




「ねぇ、その話って長くなる?」




「え・・・うん」




 空になったアイスコーヒーの氷が小さな音を立てた。




「じゃ、パフェ頼んでいい?」




「う・・・うん」




 彼はトリガーが入ると延々と話が続く、多少は我慢できるのだが、毎回、付き合ってはいられない。話に付き合う分、パフェぐらい奢ってもらってもバチはあたるまい。




「すいませーん」




 私は店員さんを呼ぶ、彼は続きを話したくて、うずうずしているようだ。




 私はやってきた店員さんに告げる。




「この『赤きとれたてイチゴと純白の濃厚クリームの素敵なマリアージュパフェ』を一つ」




「はい、イチゴパフェですね、かしこまりました」




 店員さんがそう言って伝票に書き込みながら厨房の方へ去っていく。




 イラっとした。私は店員さんが遠ざかってから言った。




「ねぇ、今の聞いた?、この『赤きとれたてイチゴと純白の濃厚クリームの素敵なマリアージュパフェ』って恥ずかしい名前つけたのはこのお店だよね、だから、私は恥を忍んで、この恥ずかしい名前『赤きとれたてイチゴと純白の濃厚クリームの素敵なマリアージュパフェ』って注文したのに、あの店員さん、イチゴパフェですねって、何なのじゃあ、最初からイチゴパフェってメニューに書いておけばいいじゃない、そう思わない?」




 彼は小さくいった。




「この店のメニューにイチゴを使ったパフェは一つだから、ちゃんと君が注文したパフェがくると思うよ」




 そういう問題じゃないのよ。わかんないかなぁ。彼はそんなことより話の続きをさせてくれという表情だったので、私はそれ以上、その話を続けなかった。




「で、宝くじの話だけど・・・」




「はい、どうぞ」




 私はちょっと呆れてるんですよという空気を出しつつ、彼に話の続きを促した。彼は嬉しそうに話しを続ける。おやつを貰ったうちの犬のようだ。尻尾を勢いよく振っているようにすら思えてくる。




「さらに宝くじには疑問があるんだ、まず、あのスクラッチくじだよ、あのスクラッチの宝くじは、はずれくじの中に当たりくじが混じっているわけだけれど、もし、あの銀色部分を削らずに当たりくじを見分ける方法があれば、当たりくじだけを抜き取ることも不可能ではない。」




「でも、そんなこと、できないようになっているんじゃない?」




「いやでも、実際は強力なライトを当てるとか、もしも、肉眼では見えなくても、何らかの光線を当てて、その透過してきた光をコンピューターなんかで解析なんかすれば、判別できないはずがないんだよ」




「でも、そんなことできないように厳重に管理されてるんじゃんないの?」




「いや、どうかな、製造、輸送、販売の過程の中で、そのようなチャンスがまったくないとは言い切れない、そして人は不正が可能であれば必ず誰かが不正を行う、器に入れた水がどんな小さな穴でも見逃さないようにね」




「そっか」この人はこんなことばかり考えていて人生楽しいのだろうかと疑問に思う。




いや、楽しいのか、今すごく楽しそうだもの。




「お待たせしました」




 店員さんが私の『赤きとれたてイチゴと純白の濃厚クリームの素敵なマリアージュパフェ』を持ってきた。




「伝票失礼します」店員さんが伝票を置いていく、私はそっと彼の方に伝票を追いやる。そこにはカタカナで"イチ"にアルファベットの大文字で"P"で"イチP"と書かれている。もはやイチゴパフェどころか、イチPだ。




 まぁ、いいや。




 私は『赤きとれたてイチゴと純白の濃厚クリームの素敵なマリアージュパフェ』に取り掛かる。




 あっ、そうだ。思い付きで言ってみる。




「ゲームよ。これからこの店を出るまで、一人称は"拙者"、語尾は"ござる"にしましょう」




「えっ?」彼は戸惑いの表情を見せた。




「ゲームよ、ゲーム。負けた方が今日の夕ご飯おごりね」




「え??」




「よーい、ドンでござる~」




 ずっとしゃべっている彼の負けは決まったようなもの、私はこの『赤きとれたてイチゴと純白の濃厚クリームの素敵なマリアージュパフェ』を堪能していればいい。私の勝ちは決まったようなもの。




「ええっと、スクラッチ宝くじの話は終わったから、そうそう、その普通の宝くじも、ぼ・・・拙者は怪しいと睨んでいるでござるよ。ジャンボ宝くじなんかは矢を撃って、それを回転盤に当てて当選番号を決めるという方式を取っているんでござるが、あの矢と、あの回転盤は本当にランダムなのかということでござるよ。今や、敵のミサイルに自軍のミサイルを当てて迎撃するということが可能な時代でござるよ、自分で回している回転版に、自分のタイミングで打ち出す弓矢を撃って自分の狙ったところに当てられないと考える方がおかしいのでござるよ、何しろ、ラスベガスなどのカジノにはルーレットで狙ったところにボールを落とせるディーラーがいるんでござるから」




 ほほう、一瞬怪しかったけれど、なんとか拙者、ござるゲームは続いている。私は自分はしゃべることなく、身振りで、彼の話の続きを促した。しかし、このパフェ、クリームが絶品。




「もしも、100%当てられないとしても、回転盤の10種類の数字のうちの例えば1.2.3の3つを確実に狙い撃ちできるというだけで、残りの7割を捨てられるのだから、払い戻しが掛け金の50%でも、恐らくプラスに持っていける。当たり番号を知っていて宝くじを買えるならこれほど割のいい投資はないということでござるよ、もしかしたら我々が買わされている宝くじはすでに当たり番号を抜かれた、はずれくじの山なのかも知れないでござるよ」




「確かに宝くじで一等当たったって人に会ったこと無いでござるなぁ」




 私はパフェのスプーン舐め舐め答えた。




「もしかしたら100%指定した番号を選ぶことはできないのかもしれないけれど、その辺も、抜かりなくて、多少ズレても良いように、前後賞とか一等組違い賞とかも用意されているんじゃないだろうかと思うでござるよ。回転盤も本当にランダムを目指すなら、数字をバラバラに並べるべきなのに0から順番に右回りに並んでいるのも拙者は怪しいと睨んでいるでござる」




 なんだよ、宝くじ詳しいじゃない。実は宝くじ大好きなんじゃないの?パフェの底に最後のひと口が残っている。そういえば私、ダイエットしてたんだった。あーあ食べちゃったよ。神様、お願いします。最後のひと口は我慢しますから、カロリーと脂肪は最後のひと口を食べた人につけておいて下さい。




「はい、あーん」




 私は最後のひと口をスプーンですくうと彼の口に差し出した。




「ええ、あっ、俺?いいの?」




 彼は戸惑いながらもクリームの最後のひとすくいを口にする。




 どうぞ、私の分のカロリーと脂肪もどうぞ。そして夕飯ごちそうさまです。




「はい、康介の負け~」




「あ、ああ」彼は自分が今、自分のことを拙者と言わずに俺と言ったことに気づいたようだ。拙者deゴザルゲームは終了。




 別に彼が、拙者、ゴザルとしゃべってもオタクキャラに見えてくるわけでもないんだなぁ、まぁ、もともとオタクっぽいけど。




「じゃーん、ここに5億円当たる予定のドリームジャンボ宝くじがあります」




 私はバッグの中からドリームジャンボ宝くじを取り出した。昨日、お父さんが買ってきた分から一枚だけ譲ってもらったのだ。300円きっちり払ったので、当たった時はお父さんに四の五の言わせません。




「で、5億どう使おうか?」




 彼は言った。「水族館の無い、ふるさと、群馬に水族館を作ってそこの館長になる」と。5億で足りる?




 私は大きな家を買って10匹ぐらい猫を飼うと言った。




 私たちは喫茶店を出て、公園を散策したり、ベンチで休んだりしがら、5億円の使い道について話をした。気がついたら辺りは真っ暗で、お腹ペコペコだった。




 私たちは300円の宝くじで、3時間も楽しんだ。コスパ最悪の宝くじをコスパ最高に楽しんだ夜だった。


おわり

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